吾妻鏡入門第廿八巻

寛喜四年壬辰(1232)三月小四月二日改元

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　つるがおかぐう こうれい　 しんじ たる　　よっ　　うまのいってん　 しょうぐんけ ごさんぐう　あ　　　　　　　ほっ
寛喜四年(1232)三月小三日甲申。�ﾘ。鶴岳宮 恒例の神事爲に依て、午一點、將軍家 御參宮有らんと欲す。

しか　　　おんはらへ　おんみょうじ ちさんの ゆえ　 おんいで　 おお　 らる
而るに御秡の陰陽師 遲參之故、御出を仰せ被る。

こ　　あいだ　 きょうと　 ひきゃくとうちゃく　　　さんぬ　つき にじうしちにち ごじょうかい　〔じゅさんみ　　ちうじょうもと　　　ごと　　〕　　　 ききがき　　じさん
此の間、京都の飛脚到着し、去る月 廿七日 御上階〔從三位。中將元の如し〕の聞書を持參す。

よっ　 りょうこくし　まい　　たま　　　　ここ　　もっ　　きょう　　　ごさんぐう　　　はいが　　なぞら　らる　　のよしおお　　あ　　　　　ひなみ　　こと　じょうじょう　さた　　へらる
仍て兩國司參り給ふ。爰に以て今日の御參宮、拝賀に准は被る之由仰せ有り。日次の事、條々沙汰を經被る。

もろかず　すえうじら　もう　　　　 い　　　　　　 
師員、季氏等申して云はく。

はいが　　あなが　　　さいじょうきち　えらばず　　きょう　　　しんじ　　もっ　　せん　　なさる　　　の ひなり　　なに　 はばか　あ　　　や　　 うんぬん
拝賀は強ちに最上吉を選不。今日は神事を以て先と爲被る之日也。何に憚り有り哉と云々。

ここ　　よっ　　ちじょう　をはんぬ　 およ　　じょうこ　 とうじつ よろこび　そう　　　　ちうこ　　　みっかびちう　　 よろ　　　　ひ　　 もち
茲に因て治定し訖。 凡そ上古は當日 慶を奏す。中古は三ケ日中に宜しき日を用うる。

こと　　ひなみ　　えら　　は　　　きんだいの ほうなり
殊に日次を擇ぶ者、近代之法也。

 そ 　　ご　おくるま　　あらた　　せんじつ とうちゃくのけぐるま　　よ　　 られ　　とうざ　　　おんしじ　 やく　　ささせ
其の後御車を改め、先日 到着之毛車�@を寄せ被、當座に御搨の役を差被る。

つしまくろうどなかなおこれ　 けん　　　　ぎょけん　また そ　　じん　 えらばる
對馬藏人仲尚之を献ず。御釼は又其の仁を擇被る。

さき　　えき　　ひと　 あらた　　　しきぶのたいふまさむらあそん　おお　　　　こ　　　ぎしき　　 よっ　　　　 じこく　すいい　　て　　ひつじのにてん　およ　　 せいろうに おんいで
先の役の人を改め、式部大夫政村朝臣に仰す。此の儀式に依て、時剋推移し兮、未二點に及び、西廊于御出。

さきのだいぜんりょうやすさだあそん　〔いかん〕　　　め　　　 ことさら　へんばい　 つと　 べ　　 のむねおお　 らる
 前大膳亮泰貞朝臣 〔衣冠〕を召し、故に反閉を勤む可き之旨仰せ被る。

やすさだ しき　　　　むかんの よし　　これ　　じ　　　もう　　　　いへど　　　もち　　られをはんぬ　さこんのたいふしょうげんすけふさ　もっ　　ろく　〔　ごい　〕　　　　たま
泰貞 頻りに無官之由、之を辞し申すと雖も、用い被 畢。 左近大夫將監佐房 を以て祿〔五衣〕を賜はる。

そ　　 ご おんいで　　そうしゅういげ　　 ぐぶにん せいせいたり　　ぐうじ　　　をい　　ほけきょう　くよう　ごちょうもん
其の後御出。相州已下の供奉人濟々焉。宮寺に於て法花經供養御聽聞。

どうし　　　　とんかくぼうりっしりょうき　なり　　　ぐぶ　　　しょだいぶら　　 もっ　　　　　おんふせら　　　ひかれ　　　　ぶがく　れい　　ごと　　　　ばん　　およ　　かんご
導師は頓覺坊律師良喜也。供奉の諸大夫等を以て、御布施等を曳被る。舞樂例の如し。晩に及び還御す。

参考�@毛車は、糸毛の車。屋根の部分に色染めした糸で覆った車。女性用らしい。

現代語寛喜四年(1232)三月小三日甲申。晴れです。鶴岡八幡宮で恒例の上巳の節句の神事なので、午前十一時過ぎに将軍頼経様はお参りに行こうとしました。ところが、出かけのお祓いをする陰陽師が遅れているので、「待たずに出かけるぞ。」と言い出しました。と、そこへ京都からの伝令が、先月27日の昇給辞令〔従三位、中将はそのまま〕を持ってきました。それなので両国司北条時房さん・北条泰時さんの二人が来ました。それでもって「今日のお参りは、昇進のお礼参りを兼ねてはどうか？」と云われたので、お日和はどうなのかと色々検討しました。中原師員・清原季氏が言うには、「お礼参りに最上の日を選ぶ必要はありません。今日は、元々神事を行う日ですから、何の支障がありましょうか。」との事です。この言葉で決まりました。だいたい大昔はその日にお礼参りをしました。ちょっと昔は三日間の間の良い日にしました。特にお日和を選ぶようになったのは最近のやり方です。

その後、牛車を変えて、先日到着した新車の糸毛の車を車寄(牛車乗り場)によせさせて、その場に居た人に踏み台(榻)の役を云いつけました。対馬蔵人仲尚が榻を差し出しました。太刀持ちもその人を選びました。「先に決まっていた居た人を替えるよ。」と式部大夫北条政村さんに云いました。こんな事をしているうちに時間は過ぎて、午後一時半過ぎになって、ようやく西の廊下に出ました。前大膳亮泰貞さん〔衣冠〕を呼んで、わざわざ出がけのお祓いを勤めるように命じました。泰貞は、昇進のお礼なのに、私は現在官職を持っていないのでふさわしくないと、辞退しましたが、かまわずやらせました。左近大夫将監大江佐房に命じて褒美〔将軍の衣〕を与えました。

その後出発です。時房さん以下お供の人は大勢です。八幡宮で法華経の供養をお聞きになりました。指導僧は頓覚坊律師良喜です。お供の五位の人を使ってお布施を運ばせました。舞楽の奉納は何時もの通りです。晩になって御帰りになりました。

解説時刻の點は、2時間を5等分したのが点。午なら11時〜11：24を一点、11：24〜11：48を二点、11：48〜12：12を三点、12：12〜12：36を四点、12：36〜13：00を五点。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いずのくににしなのしょう　どみんら　ききん　　よっ　　　がし　　 およ　 のあいだ　　い　　　　ず　のうぎょう　はか　　　なげう　　のよし
寛喜四年(1232)三月小九日庚寅。伊豆國仁科庄�@土民等飢饉に依て餓死に及ぶ之間、意なら不農業の計りを拠つ之由、

ぶしゅう　おんかたに うれ　　もう
武州の御方于愁い申す。

よっ　　すいこ　さんじっこく　げぎょうすべ
仍て出擧三十石�Aを下行可し。

も　　　かれら べんさい せずんば　 おんさた　　な　　　ただ　 かえさる　　べ　　　のよし　　また　やたのろくろうひょうえのじょう　　おお　　らる
若し彼等弁償 不者、御沙汰と爲し糺し返被る可き之由、又、矢田六郎兵衛尉に 仰せ被る。

 こ 　　ことすで　　すうど　　およ　　　　うんぬん
此の事已に數度に及ぶと云々。

参考�@仁科庄は、静岡県賀茂郡西伊豆町仁科。
参考�A三十石は、一石が玄米150kg。

現代語寛喜四年(1232)三月小九日庚寅。伊豆国仁科庄(西伊豆町仁科)では、飢饉のため飢え死にする者が出ているので、心ならずも農業を放り出した状態になってると、泰時さんへ嘆きの報告が来ました。そこで、貸出米三十石を貸し与えなさい。もし彼らが返せなかったら、私の負担で返す事にするように、矢田六郎兵衛尉に言いつけました。こういう恩赦は既に何度も行っていますとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　てんぺん　 おいのりら これ　おこなはれ
寛喜四年(1232)三月小十三日甲午。天變の御祈等之を行被る。

現代語寛喜四年(1232)三月小十三日甲午。天の異常がおさまるようお祈りを行いました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　げっしょく　せいげんせず
寛喜四年(1232)三月小十四日乙未。天�ﾘ。月蝕。正現不。

現代語寛喜四年(1232)三月小十四日乙未。空は晴れです。月食ですが、ちゃんと現れませんでした。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ごんのだいそうづかんき にゅうめつ　　だいぐうだいしんゆきより　　まご　　とさのかみみなもとくにもと　こなり
寛喜四年(1232)三月小十五日丙申。權大僧都觀基 入滅す。大宮大進行頼の 孫、土左守源國基が 子也。

さんぬ　じょうきゅうがんねん しょうぐんけ　　ごじそう　　ため げこう　　　 うんぬん
去る 承久元年 將軍家の御持僧の爲下向すと云々。

現代語寛喜四年(1232)三月小十五日丙申。権大僧都観基が亡くなりました。大宮大進行頼の孫で、土佐守源国基の子供です。去る承久年間に将軍頼経様の他からの呪いを祓う役目の僧侶として京都から鎌倉へやって来ましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ごしょ　　 をい　　　　 ろっく　　じょうごう　　くっ　　　　だいはんやきょう　てんどくさる
寛喜四年(1232)三月小十九日庚子。御所に於て、六口の上綱を屈し、大般若經を轉讀被る。

これ　 しょうぐんけ　　ことし　たいちおんやく　 あた　　せし　　のうえ　　 そ　　　 ごきねん　　うんぬん
是、將軍家、今年太一�@御厄に當ら令む之上、其の御祈念と云々。

参考�@太一定分は、厄年。三歳から六歳刻みの厄年。今年は数えの十五歳。太一星のことで、北斗中の一星であり、天帝神として兵乱・禍災・生死などを司るとされる。

現代語寛喜四年(1232)三月小十九日庚子。御所で、六人の位のある坊さんを選んで、大般若経の摺り読みをさせました。これは、将軍頼経様(数えで15歳)が、今年は太一定分の厄年に当たるので、そのお祈りだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　ごしょ　　だいはんひゃきょう けちがん　　　うんぬん
寛喜四年(1232)三月小廿五日丙午。�ﾘ。御所の大般若經　結願すと云々。

現代語寛喜四年(1232)三月小二十五日丙午。晴れです。御所での大般若経の七日の満願だとさ。

四月へ

吾妻鏡入門第廿八巻