吾妻鏡入門第廿八巻

貞永元年壬辰(1232)十月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ ごがん　 な　　　しょうじゃを おおくら　 た　　 らる　　べ　　こと　　きょう　にちじ　　さだ　　あ
貞永元年(1232)十月大二日戊寅。將軍家御願と爲し、精舎於大倉に建て被る可き事、今日日時の定め有り。

ちかもと　 はるかた　はるゆき　しげむね　 のぶかた　やすむねら を　ごぜん　　め　　 いだ　　　 じき　　たず　 おお　 らる
 親職、�ﾘ賢、 �ﾘ幸、重宗、 宣賢、泰宗等於御前に召し出し、直に尋ね仰せ被る。

かつう　はる　あいだ　きちよう　 えら　 もう　　べ　　　　うんぬん
且は春の間の吉曜を擇び申す可きと云々。

おのおのもう　　　　い　　　　　　しゅんきちう　　をい　　は　　いっさいきちじつな　　　じゅうがつふつか　じょうきちたり
　各　申して云はく。春季中に於て者、一切 吉日無し。十月二日は上吉爲。

どう　　た　　　　　こと　　りくしょうじ　 れいのよし　 じょうしょうじ　ほか　これことごと　かれいなり　もっと　これ　 もち　　らる　 べ　　 か　　 うんぬん　 よっ　 ちじょう　　　 うんぬん
堂を立てる事、六勝寺の例之由、成勝寺の外、之 悉く佳例也。尤も之を用い被る可き歟と云々。仍て治定すと云々。

現代語貞永元年(1232)十月大二日戊寅。将軍頼経様(15歳)の願として、お寺を大倉に建てることについて、今日日時を決めました。安陪親職・安陪晴賢・安陪晴幸・安陪重宗・安陪宣賢・安陪泰宗などを目の前に呼び出し、直接お聞きになりました。「春の内の良き日を選んで云いなさい。」との事でした。それぞれが云うには「春の季節内では、一切良い日がありません。十月二日が最上の日です。お堂を建てるのは、京都の六勝寺に習うのが良いので、成勝寺以外は全て良い日の例でした。絶対これに習うべきですよ。」との事です。そこで決定しましたとさ。

解説六勝寺は、白河の地には代々の天皇・上皇・女院たちの御願によって建てられた６つの寺院が並んでいた。法勝寺（白河天皇御願寺）・尊勝寺（堀河天皇御願寺）・最勝寺（鳥羽天皇御願寺）・円勝寺（鳥羽天皇皇后待賢門院御願寺）・成勝寺（崇徳天皇御願寺）・延勝寺（近衛天皇御願寺）と、いずれも「勝」の字がつくため、この６カ寺をあわせて「六勝寺」と呼ばれる。
　法勝寺(ほっしょうじ)は白河天皇御願。承暦元(1077)年落慶供養。
　尊勝寺(そんしょうじ)は堀河天皇御願。康和4(1102)年落慶供養。
　最勝寺(さいしょうじ)は鳥羽天皇御願。元永元(1118)年落慶供養。
　円勝寺(えんしょうじ)は鳥羽天皇中宮待賢門院藤原璋子御願。大治3(1128)年落慶供養。
　成勝寺(じょうしょうじ)は崇徳天皇御願。保延5(1139)年落慶供養。
　延勝寺(えんしょうじ)は近衛天皇御願。久安5(1149)年落慶供養。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　さんぬ　つき にじうはちにち よ　　こんぎょうにいた　　すいせいれんや しゅつげん
貞永元年(1232)十月大五日辛巳。�ﾘ。去る 月　廿八日　自り今曉于至り、彗星連夜 出現す。

こうぼうびはく　 いへど　いぬいかた　さ　　みなみ　み　　　　なが　　しじょう
光芒微薄と雖も、乾方を指し南に見ゆ。長さ四丈。」

きょう　　　みだいどころ　　みどうち　　こと　　そ　　　さた　あ
今日、御臺所が御堂地の事、其の沙汰有り。

 これ　 けんじつ べんのあじゃり の ち　　てん　　らる　　　いへど　　ほんじゅ うれ　　もう　　　　よっ　　これ　　や　　　らる
是、兼日 弁阿闍梨 之地を点じ被ると雖も、本主 愁い申すに依て之を止め被る。

 ほけどうした の ち　　 またもっ　あいかな　さるのあいだ　　 そ　　 ち　　　おおくらかんのんどう　かたわら　もと　らる
法花堂下之地、又以て相叶は不之間、 其の地を 大倉觀音堂の　 傍に求め被る。

おおたわさえもんのじょう　　ぢとうたるべ　　 のあいだ　 ぶしゅうはか　 もう　　せし　 たま
大多和左衛門尉�@地頭爲可き之間、武州計り申さ令め給ふ。

ちかもと　 はるかたしか　 べ　　　のよしごんじょう　　　ただ　　ちそう　　　　こんぞうぼうなん　　くは　　　　い　　　　　　　か　　ところ にしすき　　ちなり　　すこぶ　ふかい　　うんぬん
親職、�ﾘ賢然る可き之由言上す。但し地相は、金藏房難を加へて云はく。彼の所 西透の地也。頗る不快と云々。

ちかもとら そうろん　　およ　　きそん　　　　そ　　　ち　を　だいじじ　かくない　 もうけらる　　　うんぬん
親職等相論に及び弃損し、其の地於大慈寺郭内に儲被ると云々。」

 よ 　　い　　　　みだいどころ　おんかたたが　　 ため　 ひがしごしょ　 わた　 たま
夜に入り、御臺所 御方違への爲、東御所へ渡り御う。

参考�@大多和左衛門尉は、神奈川県横須賀市太田和の地に太田和城址あり。三浦介義明三男大多和三郎義久に始まる。

現代語貞永元年(1232)十月大五日辛巳。晴れです。先月28日から今朝の明け方まで、彗星が毎夜現れました。光の尾は薄いけれど、北西を指して南に見えました。長さは12mです。」

今日、将軍奥さんの竹御所が建てるお堂の土地について、その審議がありました。これはかねて弁阿闍梨の土地を指定しましたが、持ち主が嘆いて訴えたのでやめにしました。頼朝法華堂の下の土地も、同様にだめなので、その土地を大倉観音堂(杉本寺)の脇を選びました。大多和左衛門尉が地頭なので、武州北条泰時さんが考えて話を付けました。安陪親職と安陪晴賢はそれが良い事だと申しあげました。但し、地相については、金蔵坊が反対意見を言うには「その土地は、西側が抜けている土地なので、あまりよくありません。」だとさ。安陪親職達と言い争いになったので、その意見は捨てて、土地は大慈寺内に求める事にしましたとさ。」

夜になって、竹御所は方角変えのため東御所へ移りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　きょう　　 みどうち　　　 だいじじない　　ひ　　　はじ
貞永元年(1232)十月大七日癸未。今日御堂地を大慈寺内に曳き始める。

しなののみんぶたいふにゅうどうぎょうねん　やまとのとうないさえもんのじょうひさよしら これ　　ぶぎょう
信乃民部大夫入道行然、　大和藤内左衛門尉久良等 之を奉行す。

現代語貞永元年(1232)十月大七日壬未。今日、竹御所希望のお堂の地を大慈寺内に縄張りを始めました。信濃民部大夫入道行然二階堂行盛と大和藤内左衛門尉久良が指揮担当です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　さんぬ　よっか　ごじょうい　　〔しゅんじゅうにさい〕　　のよし　　きょうと よ　　　これ　　もうさる　　　　うんぬん
貞永元年(1232)十月大十四日庚寅。�ﾘ。去る四日御讓位�@〔春秋二歳〕之由、京都自り之を申被ると云々。」

 よ 　　い　　　てんぺん　おいのり　　ため　　ごしょ　　をい　　しちだん　　　ほくとごま　　　しぎょうさる　　　　べんのそうじょうていごう　ばんそう　ひき　 これ　さんこう
夜に入り天變の御祈の爲、御所に於て七壇�Aの北斗護摩を始行被る。 弁僧正定豪　伴僧を率ひ之を參行す。

参考�@御讓位は、天皇が位を譲る事。ここでは後堀河天皇から四条天皇へ譲った。院政をするつもりか。
参考�A七壇は、七人の坊主で。

現代語貞永元年(1232)十月大十四日庚寅。晴れです。先日の四日に後堀河天皇から四条天皇へ譲位〔二才へ〕したと、京都から伝えてきましたとさ。」

夜になって、天の異変のお祈りのため、御所で七人の北斗星の護摩焚きを始めました。弁僧正定豪がお供の坊さんを率いてこれを行いました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ふくうけんさくごま　　おな　　　　これ　おこなはれ　　あんじょうじほういんごんじさる　　　　うんぬん
貞永元年(1232)十月大十七日癸巳。不空羂索護摩同じく之を行被る。安祥寺法印勤仕被ると云々。

現代語貞永元年(1232)十月大十七日癸巳。不空羂索觀音の護摩炊きを同様に始めました。安祥寺法印良瑜が勤めましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　しょうぐんけごがん　　ため　みょうねん ごだいそんどう　　た　　　らる　　べ　　　こと　　いま　　そ　　　ち　　　ぎじょうされ
貞永元年(1232)十月大廿二日戊戌。天�ﾘ。將軍家御願の爲、 明年 五大尊堂を立て被る可き事、未だ其の地を議定被ず。

ひとびと　　おお　　　　しょうち　　もと　　らる　　　　もうりくらんどたいふにゅうどうせいあ　りょう　おおくらおくち しか　　べ　　　のよし　　そ　　　さた　あ
人々に仰せて勝地を求め被る。毛利藏人大夫入道西阿�@領の大倉奥地然る可し之由、其の沙汰有り。

きょう　　　おお　　　　よっ　 そうしゅう　 ぶしゅう　ちかもと　　はるかた　ふみもと　 ちんよ　　こんぞうら　　　あいぐ　　かんりん　 たま
今日、仰せに依て相州、武州 親職、�ﾘ賢、文元、珎譽、金藏等を相具し監臨し給ふ。

もうりにゅうどう　　せっつのかみ　するがのぜんじ　　おきのにゅうどう　　ごとうたいふほうがん　　いがのしきぶにゅうどうら　おな　　　 さんしん
毛利入道、接津守、駿河前司、隱岐入道、後藤大夫判官、伊賀式部入道等同じく參進す。

ちけい　　しょうぜつ　ひごろじゅんけん　ほうぼう　　こ　　　　　のよし　おのおの　さだ　　もう　　　　よっ　　こ　　　ち　たるべ　　　のよし　　おも　　め　さる　　　　うんぬん
地形の勝絶、日來巡檢の方々に越ゆる之由、 各 定め申す。仍て此の地爲可き之由、思ひ食被ると云々。

参考�@毛利藏人大夫入道西阿は、毛利季光。大江広元四男。厚木市毛利台。

現代語貞永元年(1232)十月大二十二日戊戌。空は晴です。将軍頼経様(15歳)の願いとして、来年五大明王を祀るお堂を建てる事について、その土地を未だ決定しておりません。人々に命じて良い地を求めました。毛利蔵人大夫入道西阿季光の領地の大倉の奥の土地が丁度良いと、命じました。今日、仰せに従って相州北条時房さん・武州北条泰時さんは、安陪親職・安陪晴賢・安陪文元・助法印珍与・金蔵房などを引き連れて見に行きました。毛利入道季光・摂津守中原師員・駿河前司三浦義村・隱岐入道行西二階堂行村・後藤大夫判官基綱・伊賀式部入道光西光宗等が同様に参りました。景色や味わいが、今迄見て来た所を越えて優れていますなあーと皆決めて報告しました。それでこの地にしようと思われましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　うまのこく いご らいめい　　よ　　 い　　 はなは　あめ
貞永元年(1232)十月大廿九日乙巳。午刻以後雷鳴。夜に入り甚だ雨。

きょう　　ごだいそんどう　 こんりゅうされ　ため　　そ　　けいおう　 みち　 つく　　べ　　　のよし　　そ　　　さた　あ　　　　　うんぬん
今日五大尊堂を建立被ん爲、其の詣往の道を造る可し之由、其の沙汰有りと云々。

現代語貞永元年(1232)十月大二十九日乙巳。昼頃以後に雷が鳴り、夜になって大雨です。今日、五大明王を祀るお堂を建てるために、その道を作るようにと指図がありましたとさ。

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