吾妻鏡入門第廿九巻

天福元年癸巳(1233)九月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 こんやくもおさ　　　　つきあき　　　　　　ぶしゅう　 おんてい　　をい　　　　わか　　　おんえ あ
天福元年(1233)九月大十三日甲寅。�ﾘ。今夜雲収まり月明らか。武州の御亭に於て、和歌の御會有り。

これ　 みつみつのぎなり　　ちかゆき　 もとつなら そ　　　ざ　　そうら
是、密々之儀也。親行、基綱等其の座に候う。

現代語天福元年(1233)九月大十三日甲寅。晴れです。今夜は雲がなくなり、十三夜の月がはっきり出ています。泰時さんの屋敷で和歌の会がありました。これは、御所へは内緒の事です。源親行・後藤基綱がその会に参加しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 するがのじろうやすむら　　しせつ　　 な　　じょうらく
天福元年(1233)九月大十八日己未。駿河次郎泰村、使節と爲し上洛す。

これ　 そうへきもんいん ごかいようのあいだ　いささ　ごのう の　よし　　 そ　　　きこ　　あ　　　　　よっ　　なり
是、藻壁門院�@御懷孕之間、聊か御惱之由、其の聞へ有るに依て也。

参考�@藻壁門院は、頼経の姉で後堀河天皇の中宮で入内。

現代語天福元年(1233)九月大十八日己未。三浦駿河次郎泰村は幕府の使者として京都へ上ります。これは、将軍頼経様の姉で後堀河天皇の中宮の藻壁門院が妊娠したのですが、少し具合が悪いと伝わってきたからです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　きょうと　 ひきゃくさんちゃく　　　もう　　　　い
天福元年(1233)九月大廿四日乙丑。霽。京都の飛脚參着し、申して云はく。

さんぬ　じうはちにち うのこく　　いん　　ごしょ　　をい　　　そうへきもんいん みこ こうたん　〔しにたい〕　たつのこく にょいんた　 い　　　たま
去る十八日 夘刻、院の御所に於て、藻壁門院皇子降誕〔死躰〕辰刻 女院絶へ入り御う。

つい　 もっ　　これほうぎょ　　　としにじうご　　うんぬん
遂に以て之崩御す。年二十五と云々。

これ　 しょうぐんけ　 おなねぎみなり　　かく　　こと　　よっ　　せいむ　　さんじっかにち さしお　　れるべ　　 のよし　　これ　　さだ　　らる　　　　うんぬん
是、將軍家の御姉公也。此の事に依て政務を三十ケ日 閣か被可き之由、之を定め被ると云々。

現代語天福元年(1233)九月大二十四日乙丑。晴れました。京都からの伝令が到着して云うのには、「先日の18日午前6時頃に、後堀河院の御所で、藻壁門院が皇子を生みました〔死産〕が、女院は気を失い、とうとうお亡くなりになりました。歳は25歳です。」
この人は将軍頼経様の姉です。この喪によって政務を30日間控えるようにと、決められましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いがのうまのすけ　　　にょいん　おんこと　　よっ　　　　しせつ　　な　　じょうらく
天福元年(1233)九月大廿七日戊辰。伊賀右馬助、女院の御事に依て、使節と爲し上洛す。

しか　　　　きょう　とんびょうのあいだ　りょうち　 くは　　　 ため　 はまへん　　とうりゅう　　　うんぬん
而るに今日頓病之間、療治を加へん爲、濱邊に逗留すと云々。

現代語天福元年(1233)九月大二十七日戊辰。伊賀右馬助仲能は、女院の死によって、幕府の使者として京都へ上ります。
しかし、今日体の具合が悪いので、治療のため由比ガ浜のあたりに留まりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　にょいん　 ちういん おんぶつじ　　ようとう　　こと　　 しょごけにん　　　あてらる
天福元年(1233)九月大廿八日己巳。女院の中陰 御佛事の用途�@の事、諸御家人に宛被る。

じうがつとおか　いぜん　　　　きょうと　　しん　　べ　　 のむね　　おお　 くださる　　　 うんぬん
十月十日以前に、京都へ進ず可き之旨、仰せ下被ると云々。

参考�@用途は、費用。

現代語天福元年(1233)九月大二十八日己巳。女院の四十九日の法要の費用負担を、多くの御家人に割り当てました。10月10日以前に京都へ届けるようにと、仰せになりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いがのうまのすけ　きょう　かどで　　　　あんどうのさえもんのじょうみつなり　　ぶしゅう　　おんし　　な　　　　　おな　　　　もっ　じょうらく
天福元年(1233)九月大廿九日庚午。伊賀右馬助今日首途す。 安東左衛門尉光成、 武州の御使と爲し、同じく以て上洛す。

これまた　　にょいんほうぎょ　 こと　　こと　しゅうたんのよし　　せんとうなら　　　 きたしらかわいん　 ごんじょうせし　たま　　のゆえなり
是又、 女院崩御の事、殊に愁歎之由、仙洞并びに北白河院に言上令め給ふ之故也。

現代語天福元年(1233)九月大二十九日庚午。伊賀右馬助仲能は、今日出発しました。安東左衛門尉光成は、泰時さんの代理として同様に京都へ上ります。これもまた、女院の死で、特に嘆き悲しんでいる仙洞後堀河院や北白河院陳子様に悔みの言葉を申し上げるためです。

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