吾妻鏡入門第卅一巻 　

嘉禎二年丙申(1236)正月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　おうばん　〔そうしゅう　　おんさた　〕　　　きょう　おんみず　　あげられず　　ごかんらく　　 よっ　　　 しゅつご　な　　のゆえなり
嘉禎二年(1236)正月小一日己未。�ﾘ。垸飯〔相州の御沙汰〕。今日御簾を上被不。御歡樂�@に依て、出御無き之故也。

ぎょけん　むつのしきぶのたいふまさむら　　おんゆみや　えちごのたろうみつとき　　おんむかばきくつ　さがみのしきぶのたいふともなお
御劔は陸奥式部大夫政村。 御弓矢は越後太郎光時�A。御行騰沓は相摸式部大夫朝直。

　　いちのおんうま　〔くらおき〕　おきのさぶろうさえもんのじょう　　　おなじきごろうさえもんのじょう
　一御馬〔鞍置�B〕隱岐三郎左衛門尉　　同五郎左衛門尉

　　にのおんうま　　　　　　　　　さわらのしんさえもんのじょう　　　　おなじきじうろう
　二御馬　　　　　佐原新左衛門尉　　　同十郎

　　さんのおんうま　　　　　　　　さがみのごろう　　　　　　　　　　　　ほんまのさぶろうさえもんのじょう
　三御馬　　　　　相摸五郎　　　　　　本間三郎左衛門尉

　　よんのおんうま　　　　　　　　はらのうえもんのじょう　　　　　　　　おなじきごろう
　四御馬　　　　　原右衛門尉　　　　　同五郎

　　ごのおんうま　　　　　　　　　さがみのろくろう　　　　　　　　　　　　きらのじろう
　五御馬　　　　　相摸六郎　　　　　　吉良次郎

参考�@御歡樂は、忌言葉で病気を指す。
参考�A越後太郎光時は、名越流北条氏の光時の子で親時の間違いらしい？
参考�B置鞍は、五頭の馬のうちの最初の一頭には鞍を置き、残りは替え馬として鞍を置かない。

現代語嘉禎二年(1236)正月小一日己未。晴れです。将軍(頼経19才)への御馳走のふるまいは、相州北条時房さんの献上です。今日は御簾を上げません。御病気だからお出ましはないからです。刀の献上は陸奥式部大夫北条政村。弓矢は越後太郎名越流北条光時。乗馬袴乗馬沓は相摸式部大夫北条朝直。引き出物の馬は、
　一頭目は鞍置、隠岐三郎左衛門尉二階堂行義　同五郎左衛門尉二階堂行方
　二頭目は　　　佐原新左衛門尉胤家　　　　　同十郎頼連
　三頭目は　　　相模五郎北条時直　　　　　　本間三郎左衛門尉元忠
　四頭目は　　　原右衛門尉　　　　　　　　　同五郎
　五頭目は　　　相模六郎北条時定　　　　　　吉良次郎

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　おうばん　〔ぶしゅう　　おんさた　〕　　　　ぎょけん　　さがみのしきぶのたい　　おんゆみや　するがのじろうやすむら
嘉禎二年(1236)正月小二日庚申。霽。垸飯〔武州の御沙汰〕。御劔は相摸式部大夫。 御弓矢は駿河次郎泰村。

おんむかばきくつ　じょうのたろうよしかげ
御行騰沓は、城太郎義景。

　　いちのおんうま　〔くらおき〕　でわのさぶろうさえもんのじょう　　　 おなじきしろうさえもんのじょう
　一御馬〔鞍置〕出羽三郎左衛門尉　　同四郎左衛門尉

　　にのおんうま　　　　　　　　　しなののじろうさえもんのじょう　　　おなじきさぶろうさえもんのじょう
　二御馬　　　　　信濃次郎左衛門尉　　同三郎左衛門尉

　　さんのおんうま　　　　　　　 いやじろうさえもんのじょう　　　　　 やしゃのさえもんのじょう
　三御馬　　　　　弥次郎左衛門尉　　　夜叉左衛門尉

　　よんのおんうま　　　　　　　 なんじょうしちろうさえもんのじょう　　 おなじきひょうえのじょう
　四御馬　　　　　南條七郎左衛門尉　　同兵衛尉

　　ごのおんうま　　　　　　　　　こうづけのしちろうさえもんのじょう　　おなじきごろう
　五御馬　　　　　上野七郎左衛門尉　　同五郎

現代語嘉禎二年(1236)正月小二日庚申。晴れました。将軍(頼経19才)への御馳走のふるまいは、武州北条泰時さんの献上です。刀の献上は陸奥式部大夫北条朝直。弓矢は駿河次郎三浦泰村。乗馬袴乗馬沓は安達太郎義景。引き出物の馬は、
　一頭目は鞍置、出羽三郎左衛門尉中条　　　　　同四郎左衛門尉中条光宗
　二頭目は　　　信濃次郎新左衛門尉二階堂行泰　同三郎左衛門尉二階堂行綱
　三頭目は　　　弥次郎左衛門尉　　　　　　　　夜叉左衛門尉
　四頭目は　　　南条七郎左衛門尉時貞　　　　　同兵衛尉
　五頭目は　　　上野七六郎左衛門尉結城朝広　　同五郎結城重光

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　おうばん　〔えつしゅう　おんさた　〕　　ぎょけん　むつのしきぶのたいふ　　おんゆみや　おおすがのさえもんのじょう
嘉禎二年(1236)正月小三日辛酉。霽。垸飯〔越州の沙汰〕。御劔は陸奥式部大夫。御弓矢は大須賀左衛門尉。

おんむかばきくつ　　せっつのしろうさえもんのじょう
御行騰沓は、攝津四郎左衛門尉。

　　いちのおんうま　　　　　　　　　おきのしろうさえもんのじょう　　　　　おなじきごろうさえもんのじょう
　一御馬　　　　　　隱岐四郎左衛門尉　　同五郎左衛門尉

　　にのおんうま　　　　　　　　　　 しなののさえもんのじょう　　　　　　　おなじきさぶろうさえもんのじょう
　二御馬　　　　　　信濃左衛門尉　　　　同三郎左衛門尉

　　さんのおんうま　　　　　　　　　 なんじょうしちろうさえもんのじょう　　おなじきたろうひょうのじょう
　三御馬　　　　　　南條七郎左衛門尉　　同太郎兵衛尉

　　よんのおんうま　　　　　　　　　 たいらのさえもんじろう　　　　　　　　おなじきさぶろう
　四御馬　　　　　　平左衛門次郎　　　　同三郎

　　ごのおんうま　　　　　　　　　　　えちごのたろう　　　　　　　　　　　　　えびなのさえもんのじょう
　五御馬　　　　　　越後太郎　　　　　　海老名左衛門尉

現代語嘉禎二年(1236)正月小三日己未。晴れました。将軍(頼経19才)への御馳走のふるまいは、越州北条朝時さんの献上です。刀の献上は陸奥式部大夫北条政村。弓矢は大須賀左衛門尉。乗馬袴乗馬沓は摂津四郎左衛門尉。引き出物の馬は、
　一頭目は　隠岐四郎左衛門尉二階堂行久　同五郎左衛門尉二階堂行方
　二頭目は　信濃左衛門尉二階堂行泰　　　同三郎左衛門尉行綱
　三頭目は　南条七五郎左衛門尉時貞　　　同太郎兵衛尉
　四頭目は　平左衛門次郎　　　　　　　　同三郎
　五頭目は　越後太郎光時　　　　　　　　海老名左衛門尉

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけおんほうそう　ののち　　きょう おんもくよくの　ぎ　あ　　　　ぎょうゆうそうづ　おんゆ　　かじ
嘉禎二年(1236)正月小九日丁夘。將軍家御疱瘡之後、今日御沐浴之儀有り。行勇僧都御湯を加持す。

よしもとあそんおんうまぎょけん　ごい　ら　　 たま
良基朝臣御馬御劔御衣等を賜はる。

また　よ　　い　　 おいのり　　しぎょうさる　　　 ごだんほう　べんのそうじょう〔ていごう〕　ばんそう　 ひき　　これ　 しゅう
又夜に入り御祈を始行被る。五壇法�@、弁僧正〔定豪〕伴僧を率ひ之を修す。

ひゃくにち　たいさんふくんさい　　おんみょうのすけただなおあそん ほうし　　　　てんそうちふ　　　だけんもつのぶかた これ　 つと　　　うんぬん
百日の泰山府君祭�A、 陰陽助　忠尚朝臣 奉仕す。天曹地府�B、大監物宣賢 之を勤むと云々。

参考�@五壇法は、密教の中で五大明王を個別に安置し国家安穏を祈願する修法。
参考�A泰山府君祭は、安倍晴明が創始した祭事で月ごと季節ごとに行う定期のものと、命に関わる出産、病気の安癒を願う臨時のものがあるという。「泰山府君」とは、中国の名山である五岳のひとつ東嶽泰山から名前をとった道教の神である。陰陽道では、冥府の神、人間の生死を司る神として崇拝されていた。延命長寿や消災、死んだ人間を生き帰らすこともできたという。
参考�B天曹地府祭は、陰陽道で、冥官(みょうかん)を祭って戦死者の冥福などを祈る儀式。六道冥官祭。

現代語嘉禎二年(1236)正月小九日丁卯。将軍頼経様が疱瘡を終えて、病の穢れを祓うため沐浴式を行いました。荘厳房退耕行勇がお湯を加持祈祷して清め、医師の丹波良基さんは、病を治した褒美に馬や刀や衣類を与えられました。又、夜になって御祈りを始めました。五大明王を個別に安置して国家安穏を祈願する五壇法を弁僧正定豪がお供の坊さんを伴って修めました。百日連続での泰山府君祭を陰陽助安陪忠尚さんが勤め、六道冥官を祀る天曹地府祭は、大監物安陪宣賢が勤めましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけおんほうそう　　よけ　　　よっ　　　　おんまた　おんひざ　はれもの　〔おうりょうし　　ごう　　〕　にじうよかしょ　い　　せし　　たま
嘉禎二年(1236)正月小十七日乙亥。將軍家御疱瘡の余氣に依て、御股 御膝に腫物〔押領使と号す〕廿余ケ處出で令め給ふ。

きょう 　にょぼういしやまのつぼね　りょうきあそん　　め　　　　 いかよう　 おんことたるべ　　 や　のよしおお　　あ　　 さる　　　　こと　　おんとこあ　　べからず　うんぬん
今日、女房石山局、良基朝臣を召し、何樣の御事爲可き哉之由仰せ合は被る。殊に御事有る不可と云々。

いささ　りょうち　　くは　たてまつ
聊か療治を加へ奉る。

現代語嘉禎二年(1236)正月小十七日乙亥。将軍頼経様は疱瘡の後遺症で、股や膝に腫物〔押領使という〕が20数ヶ所出現しました。今日、女官の石山局が医師の丹波良基さんをよんで、どういう訳かお聞きになりました。「特に心配はいりません。」との事で、多少治療をしていきました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ごふれい　　　よけ　　よっ　　　　おいのり　　ためみょうどうく　　おこなはれ　　くないきょうそうづじょうかいこれ　 しゅう
嘉禎二年(1236)正月小十九日丁丑。御不例の余氣に依て、御祈の爲冥道供を行被る。宮内卿僧都承快之を修す。

またしちだん　えんまてんぐ　あ　　　　 うんぬん
又七壇の炎广天供有りと云々。

現代語嘉禎二年(1236)正月小十九日丁丑。病気の後遺症を心配して、お祈りのため閻魔大王に罪の消滅と長寿を祈願する冥道供を行いました。宮内卿僧都承快が勤めました。また、七人の坊さんでの閻魔様本尊の閻魔天供もありましたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ごしょ　　をい　　　　しちざ　　しょうこんさい　おこなはれ　　　また　　だいぞくせいぐ　　ちんよほういんこれ　　ほうし　　　〔　みつやたるべ　〕
嘉禎二年(1236)正月小廿日戊寅。御所に於て、七座の招魂祭を行被る。又、大属星供、珎譽法印之を奉仕す〔三夜爲可し〕。

現代語嘉禎二年(1236)正月小二十日戊寅。御所で、七人で死者を慰める招魂祭を行いました。又、北斗七星を祀る大属星供養を珍与法印衙「努めます〔三日夜です〕。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぶしゅうごしょ　　　まい　　たま　　　 はいしゅ　 けん　 らる　　　　そうしゅう いげ　　ひとびとさんんかさる
嘉禎二年(1236)正月小廿一日己夘。武州御所へ參り給ひ、盃酒を献ぜ被る。相州以下の人々參加被る。

現代語嘉禎二年(1236)正月小二十一日己卯。武州泰時様が御所へやってこられ、お酒を献上しました。相州時房さん以下が参加しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あしかがさまのかみまた　 おうばんら　 けん　　　　うんぬん
嘉禎二年(1236)正月小廿三日辛巳。足利左馬頭又、垸飯等を献ずと云々。

現代語嘉禎二年(1236)正月小二十三日辛巳。足利左馬頭義氏が又、御馳走のふるまいを献上しました。

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