吾妻鏡入門第卅一巻 　

嘉禎二年丙申(1236)七月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　しんごしょ　　 かどかど　 たてられ
嘉禎二年(1236)七月小十日乙丑。�ﾘ。新御所の門々を建被る。

きょう　　だいぜんごんのたいふもろかず　　いがのしきぶたいふにゅうどうこうさい　　とうないたいふほうがんさだかずら　ぶぎょう　　な　　　　　ごしょ　　をい
今日、大膳權大夫師員、 伊賀式部大夫入道光西、 藤内大夫判官定員等 奉行と爲し、御所に於て、

しんごしょ　　ごいし　　あいだ　こと　そ　　　さた　あ
新御所御移徙の間の事其の沙汰有り。

また　　おんみょうじら　　 めしあつ　　 ただなお　さだまさ　 やすさだ　 はるかた　のぶとも　 はるしげ　のぶかた　 ひろすけ　くにつぐせいろう　えんに さんしん
又、陰陽師等を召聚む。忠尚、定昌、泰貞、�ﾘ賢、宣友、�ﾘ茂、宣賢、廣資、國継西廊の縁于參進す。

いちのざよ　　　しだい　　たず　 おお　 られ　 い　　　　　　　らいげつよっか　　 しんごしょ　　　ごいし　 たるべ　　　なり　　ま　　あからさま　ぶしゅうていに　にゅうぎょあ
一座自り次第に尋ね仰せ被て云はく。來月四日、新御所の御移徙爲可き也。先ず白地に武州亭于入御有りて、

くだん　ていよ　　　 ごいし　 のじょう　　だいしょうぐん　かた いみはばか　べ　　　　いな　　　　はか　 もう　　べ　　 てへ
件の亭自り御移徙之條、大將軍の方　禁憚る可きや否や、計り申す可し者り。

さだまさ　やすさだ　 はるかた　のぶとも　いげ　もう　　　　い
定昌、泰貞、�ﾘ賢、宣友以下申して云はく。

これ　あからさまの ぎなり　 かたいみ うつ　 べからず　　さら　 はばか　な　　　　かつう　おうそうかた　　とうじ　　ごしょ　よ　　　　おんさた　あ　　べ　　　おんことなりてへ
是、白地之儀也。方禁 移す不可。更に憚り無し。且は王相方は當時の御所自り御沙汰有る可き御事也者り。

おんみょうのすけただなおあそん　　さきのかぞえのすけひろすけ　かんしせずのよし　　もう　　　いへど　　　　すうやからいちどうのうえ　　　　とこう　　 あたはず　 うんぬん
　陰陽助忠尚朝臣、　　前主計助廣資　　甘心不之由を申すと雖も、數輩一同之上は、左右に不能と云々。

これ　　とうじ　　　ごしょ　〔せいせい　　いえ〕　は　　　はんさくのあいだ　 いま　　もんな　　 おりと　た
是、當時の御所〔生西の家〕者、半作之間、未だ門無く織戸立つ。

よっ　　これよ　　　　ごいし　　　ため　 ぎょしゅつあ　のじょう　　　そ　　れいととの　べからず　　ぶしゅう　　おんていよ　　　ぎょしゅつは　　こと　　ごほんい　たり　　うんぬん
仍て是自り御移徙の爲、御出有る之條、其の禮整う不可。武州の御亭自りの御出者、殊に御本意爲と云々。

現代語嘉禎二年(1236)七月小十日乙丑。晴れです。新築御所のあちこちの門を建てました。今日、中原師員・伊賀光宗・藤原定員が担当して御所で、新築御所への引っ越し式について、検討しました。又、陰陽師の連中を呼び集めました。安陪一族の忠尚・定昌・泰貞・晴賢・宣友・晴茂・宣賢・広資・國継が西の廊下の濡れ縁にきました。一番から並んでいる順番にお聞きになられたのは、「来月四日、新築御所への引っ越し式をやりたい。」でした。ます、「臨時に武州泰時さんの屋敷へ入場して、その家から引っ越すのが、万事凶の方角大將軍の方で避けるべきかどうか調べて欲しい。」と云いました。定昌・泰貞・晴賢・宣友たちが云うのには、「これは、臨時の事です。方角を悩むことはありません。なお、遠慮もいりません。一つは王相方(王神と相神とで月毎に禁忌が変わる)は現在の御所からお出かけの際に気をつける事です。」と云いました。陰陽助忠尚さんと前主計助広資は「あまり感心しませんな。」と云ってますけど、他の連中が賛成してるので、まあ良いでしょうだとさ。これは、現在の場所〔小山朝政の家〕は、未完成だし、未だちゃんとした門もなく、織戸なんです。そして、これから引っ越しのお出ましがあるけど、その行列を揃える必要はありません。武州泰時さんの家から出る時が、正式となりますからとの事だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ささきおうみのじろうさえもんのじょうたかのぶ　と　　ひえしゃ　　じんにん　　けんか　　こと　　よっ
嘉禎二年(1236)七月小十七日壬申。佐々木近江二郎左衛門尉高信与日吉社の神人の喧嘩の事に依て、

みこしちょうだい　ちょうほん　め　　 いだされ　　べ　　　のよし　　ぶしゅうしき　　　　もう　　おこなはれ　 いへど
神輿頂戴�@の張本を召し出被る可き之由、武州頻りに申し行被ると雖も、

さんと 　かくしつ　　ほうき　　　　のあいだ　　め　され　べからずのむね　　きょう かさ　　　　おんさた　　　へられ　　　ざすのみや　　 もうさる　　　　 うんぬん
山徒�A確執し蜂起する之間、召被る不可之旨、今日重ねて御沙汰を經被、座主宮�Bに申被ると云々。

たかのぶなら　　　　みこし　　ふせ　　とど　たてまつ　　　　　ほっ　　　　の　ゆうしらは　　　しゅうと　　そしょう　　つ　　　　すなは　るけい　　しょされをはんぬ
高信并びに神輿を防ぎ留め奉らんと欲する之勇士等者、衆徒の訴訟に就き、即ち流刑に處被 訖。

これ　　おっ　ちょうほん　めされれば　 もっぱ　こうこん　いさ　　られ　　ためなり
是、追て張本を召被者、專ら後昆を誡め被ん爲也。

よっ　りょうもん　いげ　　きょうみょう　ちう　　いだ　　　にはか　　むどう　　しゅうえ　 な　　のあいだ　　たと　　どうしゃに へいろうせし　　 いへど
仍て兩門已下の交名を注し出し�C、俄に無道の衆會を成す之間、縱い堂社于閇籠令むと雖も、

じごう　　ざいほうたるべ　　　のよし　　ひょうぎ　 およ
自業の罪報爲可き之由、評議に及ぶ。

じょうげんあ　 ば　　　ふうかん　 くは　　られ　　べ　　のおもむきおお　つか　　さる
情言有れ者�D、諷諌を加へ被る�E可き之 趣 仰せ遣は被る。

かつう　じょうきゅう　きょうがたのやから　しょしゃの べっとう しかん　　いた　　　　　　　 ぶんぶんの ざいか 　いちいちこれ　 のがれず
且は 承久の京方之族、 諸社之別當祠官に至るまで、分々之罪科、一々之を遁不。

しか　　　 さんそうのちょうほんは　　ぼうはい　 こゆ　　　いへど　　　しまい　もっ　　これ　 ゆる　　　　あにゆうじょ　ほどこ　　　あらずや
而るに山僧之張本者、傍輩を超ると雖も、終に以て之を宥す。豈優恕を施すに非哉。

このたび　ちょうほん　をい　　は　かたがた　そ　　とが　　めん　 られがた　 のよし　　 みぎょうしょ　　の　　　らる　　　　うんぬん
今度の張本に於て者、 旁 其の咎を免じ被難き之由、御教書に載せ被ると云々。」

参考�@神輿頂戴は、神輿を京へ担ぎ出し強訴すること。
参考�A山徒は、比叡山の衆徒。武者僧。僧兵。
参考�B座主宮は、尊性法親王。
参考�C交名を注し出しは、名簿を書き出して。
参考�D情言有れ者は、個人的に云う機会があれば。
参考�E諷諌を加へ被るは、諌めてやる。

また　　しなののくにぜんこうじ　　ぢとうしき　　 こと　　 うだいしょうけ　　おんとき　　あわじのぜんじむねまさ　〔おやま〕　もう　　う　　　　　 よっ　　　　これ　　ぶにん　　　いへど
又、信濃國善光寺の地頭職の事、右大將家の御時、淡路前司宗政�F〔小山〕申し請けに依て、之を補任すと雖も、

 そ 　　わずら　あ　　　のよし　　じそう そしょう　　およ　　のあいだ　じょうげんよねん はちがつじういちにち　　これ　　と　　られをはんぬか
其の煩い有る之由、寺僧訴訟に及ぶ之間、承元四年 八月十一日�G、之を止め被 訖。

しか　　　 なお　 むねまさ　 だいかんらちょうぎょうせし　のよし　じゅうそううれ　　もう　　　　つ　　　　　ちょうじせし　　べ　　 のむね　　おお　 くださる　　　　うんぬん
而るに猶、宗政が代官等張行令む之由、住僧愁い申すに就き、停止令む可し之旨、仰せ下被ると云々。

参考�F淡路前司宗政は、長沼五郎宗政で小山政光の子。小山朝政の弟。
参考�G承元四年八月十一日は、第十九巻承元四年(1211)八月十二日条に昨日地頭を止める政所下し文を出したとある。

現代語嘉禎二年(1236)七月小十七日壬申。近江の佐々木次郎左衛門尉高信と日吉神社の下働きとの喧嘩によって、神輿を担ぎだし強訴した主犯を呼び出すように、武州泰時さんは何度も申し入れていますが、比叡山の武者僧が怒って武装蜂起するので、呼び出さないように今日続いて検討をして、比叡山長官の尊性法親王に申し入れましたとさ。高信や神輿の京都入りを塞ごうとした勇士たちは、僧兵の訴えによって、すぐに流罪にさせられました。これは、追って主犯の連中を呼び出さなくては、後の世の人への忠告にするためです。それで延暦寺と日吉神社以下の連中の名を書き出され、勝手に筋違いの集会をして、たとえお堂や社殿に立て籠もらざる事になったとしても、それは自分らが作った罪の報いであると、協議がまとまりました。個人的に云う機会があれば、諫めてやりましょうとの内容を、云いつかわしました。

ひとつは、承久の乱の時、朝廷にみ貸して祈った神社の筆頭や神主職の連中まで、それぞれの罪を一人として逃れられませんでした。それなのに比叡山の僧兵の主犯は、それらの人達を越える悪さでも、とうとうこれを許す事になってしまった。なんで猶予を与える必要があろうか。今度の主犯については、絶対にその罪を許すべきではないと、しっかり命令書に書き残しましたとさ。」

話は違いますが、信濃國善光寺領の地頭職については、頼朝様の時代に淡路前司小山五郎長沼宗政が申し出たので、これを任命しましたけど、地頭が入ると面倒だと寺の坊主どもが訴えて来たので、承元4年(1211)8月11日に地頭を解任しました。それなのに長沼宗政の代官が強行に支配していると、住職らが嘆いて訴えて来たので、止めるように、命令してくれましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　なんとそうどうのあいだ　 ざいきょうにんなら　　きんごくのやから　　いちぞく　もよお　ぐ
嘉禎二年(1236)七月小廿四日己夘。南都騒動之間、在京人并びに近國之輩、一族を催し具し、

けいえい　ちう　　ぬき　　　　べ　　　のむね　　おお　くだされ　　　　さき　　をはんぬ
警衛の忠を抽んず可し之旨、仰せ下被るは先に訖。

いちるい あいしたが　ざる　のよし　きんじつしょけ よ　　　　　そ　　　うった　いできた　　　よっ　　　きょうこうおおばん いげ　　 かく　　ごと　　やく
一類 相從へ不�@之由、近日諸家自り、其の訴へ出來るに依て、向後大番以下の此の如き役は、

はやばや　いちもん　かとく　　あいしたが　べ　　　のむね　　きょう かさ　　　　これ　　さだ　　らる　　　　としょのさえもんのじょうぶぎょうたり
早ゝと一門の家督に相從ふ可き之旨、今日重ねて之を定め被る。圖書左衛門尉奉行爲。」

参考�@一類相從へ不は、惣領制の崩壊。

きょう　　　　ごいし　　　こと　　また　そ　　　さた　あ　　　　　ぶしゅうてい　　にしづま　　　　みっか　　よ　ごいっしゅくあ　　　べ　　　　うんぬん
今日、御移徙の事、亦其の沙汰有り。武州亭の西妻に、三日の夜御一宿有る可しと云々。

現代語嘉禎二年(1236)七月小二十四日己卯。奈良向福寺の騒ぎについては、京都駐在それと近畿地方の連中は、一族を引き連れて警戒態勢の忠義に励むようにとの仰せは、先に云い終ってます。一族を束ねられないとの事が、最近あちこちの一家から訴えが出てきているので、今後は京都警備の大番役を始めとする幕府へのお役目は、さっさと一族の惣領に従うように、今日なおもこれを決められました。図書左衛門尉鎌田信俊が担当します。」

今日、引っ越しについて、またその命令がありました。武州泰時さんの西の対の屋に三日の夜一泊するとのことです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しわしみずりょう　さぬきのくに もとやまのしょう　あだちもくのすけとおちかちぎょう　　ぢとうしき　　　と　　　られ
嘉禎二年(1236)七月小廿五日庚辰。石�C水領の讃岐國 本山庄�@は足立木工助遠親知行の地頭職を止め被、

いちえん　　ぐうじ　　つけられ　　　うんぬん
一圓�Aに宮寺へ付被ると云々。

参考�@本山庄は、香川県三豊市豊中町本山で、本所が岩清水、領家が九条家、地頭が足立氏。
参考�A一圓は、他の介入無に年貢の一切を仕切る。

現代語嘉禎二年(1236)七月小二十五日庚辰。石清水八幡宮の領地の讃岐国本山庄は、足立木工助遠親の地頭職を止め、一切支配を石清水八幡宮寺に寄付しましたとさ。

八月へ

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