吾妻鏡入門第卅一巻 　

嘉禎二年丙申(1236)九月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　 ねのこく　 けいこく　　よきせい　　 おか
嘉禎二年(1236)九月大一日乙夘。天�ﾘ。子刻、熒惑、輿鬼星�@を犯す。

参考�@輿鬼星は、鬼宿距星（シータ星）、かに座。参考の【38】

現代語嘉禎二年(1236)九月大一日乙卯。空は晴です。真夜中の0時頃に熒惑星火星が輿鬼星かに座のシータ星の軌道に入りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さんぬ　じょうきゅうさんねんかっせん　あいだ　ほんりょう　たま　　　　べ　　　　　しょう　　　くんこうしょう　もる　　のやから　　こと
嘉禎二年(1236)九月大三日丁巳。去る 承久三年 合戰 の間、本領を給はる可きと稱し、勳功賞に漏る之輩の事、

うれ　　もう　　　　つ　　　　　そ　　　さた　あ
愁ひ申すに就き、其の沙汰有り。

ただ　　とうじ　　　しか　　べ　　　の ち な　　　　　おっ　 おんはから　あ　　　べ　　　のむね　　もうさる　　　　うんぬん
但し當時は然る可き之地無し、追て御計ひ有る可き之旨、申被ると云々。

現代語嘉禎二年(1236)九月大三日丁巳。承久三年(1221)の承久の乱の時、元の領地を貰いたいと云ったので、褒美を後回しにされてしまっていた連中について、嘆き訴えるので、その検討がありました。但し、今現在はそれ相応の土地がないので、おいおい与えるようにしようと、申されました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　きょう　　 おうみにゅうどう　こけ　ひょうじょうしゅう　じ　　　　にはか　もっ　じょうらく　　　これひそか　とんせのくはだ　あ　　　　　うんぬん
嘉禎二年(1236)九月大五日己未。今日、近江入道虚假�@評定衆を辞し、俄に以て上洛す。是潜に遁世之企て有りと云々。

参考�@近江入道虚假は、佐々木信綱。定綱─信綱─高信。

現代語嘉禎二年(1236)九月大五日己未。今日、近江入道虚仮佐々木信綱は、政務評議員を辞職して急に京都へ向かいました。この人は、心底に隠居したい希望があるらしいとの事です・

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いぬのこく　つき けんせい　おか　　　　〔あいさ　　　いっしゃく　　ところ〕
嘉禎二年(1236)九月大七日辛酉。戌刻、月 建星を犯す。〔相去る一尺の所〕

現代語嘉禎二年(1236)九月大七日辛酉。午後八時頃、月が建星の軌道に入りました〔約30cmの所です〕。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　けいこく　　　き　せきしせい　　　にゅうぼん
嘉禎二年(1236)九月大八日壬戌。熒惑�@、鬼�A積尸星�Bに入犯す。

参考�@熒惑星(ケイコクセイ)は、火星。
参考�A鬼は、輿鬼星で鬼宿距星（シータ星）、かに座。
参考�B積尸星は、エプシロン星でプレセペ星団。参考の【39】

現代語嘉禎二年(1236)九月大八日壬戌。火星がかに座シータ星とプレセぺ星団のエプシロン星の軌道に入りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 きょうと　　ししゃさんちゃく　　　　これ きょねん しちがつにじうさんにち　ひえ　　みこし　げらく　のとき
嘉禎二年(1236)九月大九日癸亥。京都の使者參着す。是 去年 七月廿三日、日吉の神輿下洛之時、

ふせ　 とど　たてまつ　　　　 ほっ　　　　の　ぶし　うえもんのじょうとおまさなら　　　　けんかほんにん　おうみじろうさえもんのじょうたかのぶら　　　こと
防ぎ留め奉らんと欲する之武士右衛門尉遠政并びに喧嘩本人の近江次郎左衛門尉高信�@等の事、

せんげ　のうえ　　かんとう　　おんはか　　　 な　　　　 さんもん　 うっとう　 なぐさめ　ため　　るざい　　しょされをはんぬ
宣下之上、關東の御計りと爲し、山門の欝陶を慰ん爲、流罪に處被 訖。

さんと　　ちょうほん　 いた　　　 は　　 また　そ　　み　　　め　　　いだ　　　　こうこん　 いさ　　らる　　べ　　 のむね　　そうもんさる　 のあいだ　　しちしゃ　 みこしぞうたい ののち
山徒の張本に至りて者、又其の身を召し出し、後昆を誡め被る可き之旨、奏聞被る之間、七社の神輿造替之後、

 そ　ちょうほん　　めさる　　　のところ　　さんぬ　つきようか　　しんぞう　　みこしを　ちうどう　　ふりあ　　たてまつ　　うった　もう　　　　よっ
其の張本を召被る之處、去る月八日、新造の神輿於中堂に振上げ奉り、訴へ申すに依て、

おな　　　にじうはちにち　ちょくめん　 りんじ　　 くださる　　 のよし　　これ　　つ　　　もうさる　　　　うんぬん
同じき廿八日、 勅免の綸旨を下被る之由、之を告げ申被ると云々。

参考�@近江次郎左衛門尉高信は、佐々木高信。定綱─信綱─高信。

現代語嘉禎二年(1236)九月大九日癸亥。京都からの使いが来ました。これは、去年の七月二十三日、日吉神社の神輿が京都へ強訴に下ってきた時、これを防いで止めようとした武士の右衛門尉遠政それに喧嘩の本の人である近江次郎左衛門尉佐々木高信については、朝廷からの命令に基づいて鎌倉幕府として、比叡山の怒りをなだめるために、流罪に処分しました。武者僧の張本人については、そいつを呼び寄せて今後を諫めたいと、朝廷に申し出ましたが、日吉七社の神輿を造り替えた後、その張本人を呼び出したところ、先月八日、新品の神輿を根本中堂に振り上げ廻して訴えていたので、同月二十八日に朝廷から許すとの文書を出したので、これを伝えましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　とおとうみのかみ ともときあそん　ひょうじょうしゅう　くは　　　 ののちはじ　　　 しゅっし
嘉禎二年(1236)九月大十日甲子。　遠江守 朝時朝臣�@ 評定衆に加はる之後初めて出仕す。

かく　　こと しょき　　　　 ざるのよし　　ないないなんじゅう　　　うんぬん
此の事庶幾なら不之由、内々難澁すと云々。

参考�@遠江守朝時朝臣は、義時の次男。泰時の弟。名越流北条氏。

現代語嘉禎二年(1236)九月大十日甲子。遠江守名越流北条朝時さんが、政務評議員に任命されて初めて会議に出ました。この事は心から願っていたわけではないと、内々渋っていたんだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　てんぺん　　おいのり　 ため　　しちだん　　 ほくとごま　　　しゅうさる
嘉禎二年(1236)九月大十三日丁夘。天變の御祈の爲、七壇の北斗護摩を修被る。

べんのそうじょう　くどくいんそうじょう　　とばのほういん　いげ　これ　　ほうし　　　　だいぜんごんのたいふ ぶぎょうたり　　うんぬん
弁僧正、 功徳院僧正、鳥羽法印以下之を奉仕す。 大膳權大夫　奉行爲と云々。

現代語嘉禎二年(1236)九月大十三日丁卯。天の異変をお祈りするため、七人での北斗星の護摩炊きを行いました。弁僧正定豪・功徳院僧正快雅・鳥羽法印光賀以下が勤めました。大膳権大夫中原師員が指揮担当です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いのこく　　ふうう　はなは　　　　せいなん　 ほう　　らいでん
嘉禎二年(1236)九月大廿八日壬申。亥刻、風雨甚だし。西南の方で雷電。

現代語嘉禎二年(1236)九月大二十八日壬申。午後十時頃風雨が激しく、西南の方角では雷が鳴りました。

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