吾妻鏡入門第卅一巻 　

嘉禎二年丙申(1236)十二月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 きょうと　　 ししゃさんちゃく　　　さんぬ　つき にじうににち　しょうぐんけ みんぶのきょう　にん　 せし　 たま　　　うんぬん
嘉禎二年(1236)十二月小三日丙戌。�ﾘ。京都の使者參着す。去る月 廿二日、將軍家 民部卿�@に任じ令め御うと云々。

参考�@民部卿は、民部省長官だが、勤務するわけではないので、もっぱら名誉職としての名だけなので、「名官」である。

現代語嘉禎二年(1236)十二月小三日丙戌。晴れです。京都朝廷からの使いが来ました。先月の23日に将軍頼経様が民部省長官の民部卿に任命されました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　だいぜんごんのたいふ ぶぎょう　な　　　　おんみょうじら　　　め　　　ごしょ　　をい　　　　さいまつねんし　　ぞうじ　　　にちじこれ　　かん　　もう
嘉禎二年(1236)十二月小六日己丑。霽。大膳權大夫 奉行と爲し、陰陽師等を召し御所に於て、歳末年始の雜事の日時之を勘じ申す。

おんすすはらい　ことそうろんあ　　　　　ふみもとあそんもう　　　　い　　　　　　　しんぞうは　　　さんかねん のうち　　そ　　はばか　あ　　 べ　　　　 うんぬん
 御煤拂 の事相論有り。文元朝臣申して云はく。新造者、三ケ年之内、其の憚り有る可しと云々。

ちかもと　 はるかたら　　あそん い
親職、�ﾘ賢等の朝臣云はく。

せんだつは　さ　　　 ふみ　な　　　いへど　　　みな き　　お　 ところなり　　しんぞう　 いた　　　　は　　 すすな　　 のゆえか　　 すすあ　　　ば はら　 べ　　　か　　うんぬん
先達者指せる文無しと雖も、皆記し置く所也。新造に至りて者、煤無き之故歟。煤有ら者拂う可き歟と云々。

しょせんかく　じょうしょうこな　　　　しからば　　すすはらいな　　　おんさた　よろし　　　べ　　　かのよし　　おお　　いだされ　のあいだ　おのおの　しさい　　もう　　 ざるなり
所詮此の條證據無し。然者、煤拂無きの御沙汰宜かる可き歟之由、仰せ出被る之間、 各　子細を申さ不也。」

 よ　　い　　　　　しょうぐんけ おんうまさんびき　〔みなくら　　お　　　　〕　　 さきん ごじうりょう　　こんぎぬ ひゃくたん を べんのそうじょう　つか　　さる
夜に入り、將軍家御馬三疋〔皆鞍を置く〕、砂金五十兩�@、紺絹 百端 於 弁僧正に遣は被る。

これ みょうぎょう じょうらくすべ　　　　よっ　　なり　　しょうさく　ぶしゅう　いげ　　みなことごと　せんぶつ　つか　 さる　　なり
是　明曉 上洛 可きに依て也。匠作、武州已下、皆 悉く餞物を遣は被る也。

参考�@沙金五十両は、鎌倉時代には金一両は5匁(18.68g)。2014.05.22買い取り価格1g4,407円。一両は、4,407×18.68g＝82,322円。50兩4,116,138円

現代語嘉禎二年(1236)十二月小六日己丑。晴れました。大膳権大夫中原師員が担当して。陰陽師の連中を呼んで、御所で年末年始の行事のお日柄を言上しました。煤払いについて言い争いがありました。
安陪文元さんが言うには、「新築は三年間はそれは差し障りがある。」との事です。
安陪親職さんと晴賢さんが云うには、「先輩たちは正式な文章は残していないけれど、皆メモされいる。新築には煤が溜まっていないからだろう。煤があれば祓うと云う事だろう。」所詮この説にも確証はない。「それならば、煤払いはやらないと判断していいんじゃない。」とおっしゃると誰も異論を云いませんでした。」
夜になって、将軍頼経様は、馬三頭〔全て鞍置き〕・砂金50両、紺色の絹百反を弁僧正定豪に贈らせました。これは、明日の朝京都へ旅立つからです。匠作時房さんや武州泰時さんを始め皆が皆餞別を贈りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　べんのそうじょう じょうらく　　しんごんそうじょう にゅうめつ のかえ　 ため　　とうじ　　ちょうじゃ　ぶ　　　べ　　　　　よっ　　なり
嘉禎二年(1236)十二月小七日庚申。�ﾘ。 弁僧正 上洛す。親嚴僧正 入滅 之替の爲、東寺の長者に補す可きに依て也。

現代語嘉禎二年(1236)十二月小七日庚申。晴れです。弁僧正定豪が京都へ出発です。親厳僧正が亡くなられたので、替りとして東寺の長官に任命されるためなのです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しんたんごのかみやすうじ　りゅうていをごしょ　　すす　　けん　　　　こくし　　 こと　　が　　　もう　　　のよし　　うんぬん
嘉禎二年(1236)十二月小十一日甲午。新丹後守泰氏、龍蹄於御所へ進め献ず。國司の事を賀し申す�@之由と云々。

参考�@國司の事を賀し申すは、国司への推薦にお礼を云う。

現代語嘉禎二年(1236)十二月小十一日甲午。新丹後守足利泰氏は、見事な馬を将軍に献上しました。国司任命の推薦を受けたお礼を言上しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いのこく　　ぶしゅうおんてい　　　ごいし　なり　　ひごろ ごしょ　　きたかた　　しんぞうされ　ところなり
嘉禎二年(1236)十二月小十九日壬寅。亥刻、武州御亭の御移徙也。日來御所の北方に新造被る所也。

 ひわだぶき　　おくなら　　くるまやどり　たてられ　　　　これ　しょうぐんけ　い　　たま　　ため　　うんぬん　　ごけにんら　おな　　　　かおく　　かま
桧皮葺の屋并びに車宿を建被る。是、將軍家入り御う爲と云々。御家人等同じく家屋を搆う。

みなみもん　ひがしわき　びとうのたろう　　おな　　　　にし　 へいさえもんのじょう　 おな　　　にし　〔なら　　〕　　　　おおたのじろう　 みなみ　かど　すわのひょうえにゅうどう
 南門の東脇は 尾藤太郎。同じく西は平左衛門尉。同じく西〔並び〕に大田次郎。南の角は諏方兵衛入道。

きた　　どもん　 ひがしわき　まんねんうまのじょう　　おな　　　にし　あんどうさえもんのじょう　　おな　 なら　　なんじょうさえもんのじょうたくらなり　　うんぬん
北の土門の東脇は万年右馬允。同じく西は安東左衛門尉。同じ並びに南條左衛門尉宅等也と云々。

現代語嘉禎二年(1236)十二月小十九日壬寅。午後10時頃、武州泰時さんの引っ越しです。最近御所の北側に新築していたのです。桧皮葺の建物をと牛車を乗り付ける車宿を建設しました。これは将軍頼経様をお迎えするためなんだとさ。また、部下の人達も同様に家を建てました。南門の東脇は尾藤太郎景氏。同様に西は、平三郎左衛門尉盛綱。同じく西に並んで大田次郎。南角は諏訪兵衛入道盛重。北の土塀の門の東脇は万年右馬允。同様に西側は安東左衛門尉光成。同様に並んで南条左衛門尉時員の家だそうな。

┌────┬────┬北土塀門┬─────┬────┐
│南条時員│安東光成│　　　　│万年右馬允│　某　　│　家人配置想像図
├────┴────┘　　　　└─────┴────┤
│　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
│　　　　　　　　泰時邸　桧皮葺　車宿り　　　　　　│
│　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
├────┬────┐■■■■┌─────┬────┤
│大田次郎│平　盛綱│　　　　│尾藤景氏　│諏訪盛重│
└────┴────┴　南門　┴─────┴────┘

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　よ　　　い　　　　　するがのじろうさいしつ〔ぶしゅうおんいもうと〕そうせい
嘉禎二年(1236)十二月小廿三日丙午。夜に入り、駿河次郎妻室〔武州御妹〕早世す�@。

よっ　　ぶしゅうごきょうぶくのあいだ　へいさえもんのじょう　こまち　　たくにいじゅうせし　　たま　　　　うんぬん
仍て武州御輕服之間、平左衛門尉の小町の宅于移住令め給ふと云々。」

こんや　　たいはく　 しんせい　 おか　　　　〔あいさる　　　　　　にしゃくばかり〕
今夜、太白、辰星を犯す。〔相去ること二尺計〕

現代語嘉禎二年(1236)十二月小二十三日丙午。夜になって、駿河次郎三浦泰村の奥さん〔武州泰時さんの妹〕が早死にしました。それで武州泰時さんは服喪のため、平三郎左衛門尉盛綱の小町の家へ移り住みましたとさ。」
今夜、太白星金星が辰星水星の軌道を犯しました〔60cm程の所です〕。

解説�@駿河次郎妻室〔武州御妹〕早世とあるが、27巻寛喜二年(1230)八月四日条において、「武州の御息女〔駿河次郎が妻室〕逝去す。〔年廿五〕」とあり、翌嘉禎三年の正月二日に軽服のため垸飯を控えているので、娘が死んだ後、妹を嫁にやっている事実があるようだ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 さんぬ　じうはちにち　じもく　　ききがきとうちゃく　　　　ぶしゅう さきょうごんのたいふ　 かねたま　　 もろかず かぞえのかみ　にん
嘉禎二年(1236)十二月小廿六日己酉。去る十八日の除目の聞書到着す。武州 左京權大夫�@を兼給ふ。師員 主計頭に任ず。

また　　やくいんのかみたんばよしもとあそん　しょうしいのじょう　 じょ　　　　わけのきよなしあそん　　ちょうえつ　　　これ　　しょうぐんけごほうそう　のときいじゅつ　 ほどこ　のしょうなり
又、施藥院使�A丹波良基朝臣、正四位上の敍し、和氣�C成朝臣を超越�Bす。是、將軍家御疱瘡之時醫術を施す之賞也。

すなは　こ　おもむき　しっつけ　あ　　　　うんぬん　　　きょう　　　ほうじょういやしろう こさむらいどころ べっとう　　じ　　　もうさる　　　　うんぬん
即ち是の趣、尻付�C有りと云々。」今日、北條弥四郎 小侍所　別當を辞し申被ると云々。

参考�@權大夫は、権は臨時のとか定員外の意味で、もっぱら名誉職で「権官」である。
参考�A施藥院使は、ヤクインノカミと読み、典薬頭以下十医師がいる。光明皇后が始めた。
参考�B超越は、後任者が前任者を越えること。
参考�C尻付は、表向きの理由付け。

現代語嘉禎二年(1236)十二月小二十六日己酉。先日十八日の人事異動の文書が着きました。武州泰時さんは左京権大夫を兼任です。中原師員は主計頭に任命です。又、薬院頭丹波良基さんは。正四位上に任命され和気清成さんを越えました。これは将軍頼経様が疱瘡にかかった時に医術を使って直した褒美です。なんとこの理由が文末に書かれているそうな。」
今日、北条弥四郎経時さんは将軍の身の回りの世話をする小侍所の筆頭を止めたいと云いましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さどのかみもとつなきょうと　よ　　　さんこう　　　　なんとせいひつ　じょうじょう　ことこれ　　もう　　い
嘉禎二年(1236)十二月小廿九日壬子。佐渡守基綱京都自り參向し、南都靜謐の條々の事之を申し入る。

かく　　ことないがい　はか　　　ひとへ　むさしとくごうりゅうえん　　ちう　　よ　　　のよしこれ　　もう
此の事内外の計り、偏に 武藏得業隆圓の忠に依る之由之を申す。

そ　おもむき　　ろくはらするがのかみ　〔 しげとき 〕　　　さんぬ　じういちにち　じょう　の　　　　　　　うんぬん
其の趣、六波羅駿河守〔重時〕の去る十一日の状に載せると云々。

現代語嘉禎二年(1236)十二月小二十九日壬子。佐渡守後藤基綱が京都からやって来て、奈良が落ち着いた数々の事情を報告しました。この他、内部外部共に、武蔵得業隆円の忠義によることを申し上げました。その内容は、六波羅の駿河守重時の先日の十一日の手紙にものせてあったそうです。

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