吾妻鏡入門第卅二巻

嘉禎四年戊戌(1238)六月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　 しょうぐんけ かすがしゃ　 ぎょさん　さるのこくあめふ　　　　しんそう　　およ　　　　らいめいひょうふ
嘉禎四年(1238)六月大五日戊申。天霽。將軍家春日社へ御參。申剋雨降る。深更に及び、雷鳴雹降る。

おんいで　ぎょうれつ
御出の行列

　　ま　　 するがのぜんじ　 ずいへいろっき
　先ず駿河前司の随兵六騎

いちばん　　　ながおのへいないさえもんのじょうかげもち　　どうさぶろうひょえのじょうみつかげ
一番　　長尾平内左衛門尉景茂　　　同三郎兵衛尉光景

　にばん　　　するがのしろうさえもんのじょういえむら　　　　 みうらのじろうありむら
二番　　駿河四郎左衛門尉家村　　　三浦次郎有村

さんばん　　　するがのごろうさえもんのじょうすけむら　　　　どうはちろうさえもんのじょうたねむら
三番　　駿河五郎左衛門尉資村　　　同八郎左衛門尉胤村

　　せんじん　するがのぜんじよしむら
　先陣　駿河前司義村

　　つぎ　　ごしょ　　ずいへいさんじっき
　次に御所の随兵三十騎

いちばん　　　かわちのかみみつむら　　　　　　　　　　　 ちばのはちおるたねとき　　　　　　　　　 かじわらのうえもんのじょうかげとし
一番　　河内守光村　　　　　　　千葉八郎胤時　　　　　梶原右衛門尉景俊

　にばん　　　 しもこうべのうえもんのじょうゆきみつ　　　　 せきのさえもんのじょうまさやす　　　　　 みうらのまたたろうさえもんのじょううじむら
二番　　下河邊右衛門尉行光　　　關左衛門尉政泰　　　　三浦又太郎左衛門尉氏村

さんばん　　　 さどんじろううえもんのじょうもとちか　　　　　さたけのはちろうすけよし　　　　　　　　そうまのじろうさえもんのじょうたねつな
三番　　佐渡次郎右衛門尉基親　　佐竹八郎助義　　　　　相馬次郎左衛門尉胤綱

よんばん　　　うじいえのたろうきんのぶ　　　　　　　　　　　おおそねひょうえのじょうながやす　　　いきのさぶろうさえもんのじょうとききよ
四番　　氏家太郎公信　　　　　　大曾祢兵衛尉長泰　　　壹岐三郎左衛門尉時�C

　ごばん　　　 ちくごのとしょのすけときいえ　　　　　　　　 いとうのさぶろうさえもんのじょうすけつな　うさみのよいちさえもんのじょうすけとき
五番　　筑後圖書助時家　　　　　伊東三郎左衛門尉祐綱　宇佐美与一左衛門尉祐時

ろくばん　　　 とおとうみのじろうさえもんのじょうみつもり　 いずみじろうさえもんのじょうかげうじ　　 かとうのさえもんのじょうゆきかげ
六番　　遠江次郎左衛門尉光盛　　和泉次郎左衛門尉景氏　加藤左衛門尉行景

しちばん　　　 たけだのろくろうのぶなが　　　　　　　　　　 おおいのたろうみつなが　　　　　　　　 おうみのしろうさえもんのじょううじのぶ
七番　　武田六郎信長　　　　　　大井太郎光長　　　　　近江四郎左衛門尉氏信

はちばん　　　わかさのかみやすむら　　　　　　　　　　　　あいだのじょうすけよしかげ　　　　　　　 さわらのひぜんぜんじいえつら
八番　　若狹守泰村　　　　　　　秋田城介義景　　　　　佐原肥前々司家連

　くばん　　　 さがみのろくろうときさだ　　　　　　　　　　　  あしかがのごろうながうじ　　　　　　　　　 かわごえのかもんのすけやすしげ
九番　　相摸六郎時定　　　　　　足利五郎長氏　　　　　河越掃部助泰重

じうばん　　　 ほうじょうのさこんたいふしょうげんつねとき　とおとうみのしきぶのたいふみつとき　　 むつのかもんのすけさねとき
十番　　北條左近大夫將監經時　　遠江式部大夫光時　　　陸奥掃部助實時

　　つぎ　　おんこし　〔おんみす　　あげられ　　　　おんゆぶくろ　　いげ　　　　　ごじゅらくじ　　　　ごと　　〕
　次に御輿〔御簾を上被る。御弓袋差以下、御入洛時の如し〕

　　　　えどのはちろうたろうかげます　　　　　　　　　　　　　　　　　　やまのうちのとうないみちかげ
　　江戸八郎太郎景益　　　　　　　　　山内藤内通景

　　　　しながわのこさぶろうさねさだ〔おのおのあいかわ　　ぎょけん　　も〕　　いけがみのとうひょうえのじょうやすみつ
　　品河小三郎實貞〔各相替り御釼を持つ〕　池上藤兵衛尉康光

　　　　なかざわのじうろうひょうえのじょうなりつな　　　　　　　　　　　　ほんまのじろうさえもんのぶただ
　　中澤十郎兵衛尉成綱　　　　　　　　本間次郎左衛門信忠

　　　　おがわのさぶうろうひょうえのじょうなおゆき　　　　　　　　　　　あぼのじろうさえもんのじょうやすざね
　　小河三郎兵衛尉直行　　　　　　　　阿保次郎左衛門尉泰實

　　　　いのまたのさえもんのじょうのりまさ　　　　　　　　　　　　　　　　　よもだのごろうさえもんのじょうすけつな
　　猪股左衛門尉範政　　　　　　　　　四方田五郎左衛門尉資綱

　　　　ほんじょうしんさえもんのじょうともつぐ　　　　　　　　　　　　　　しゅりのしんさぶろうむねなが
　　本庄新左衛門尉朝次　　　　　　　　修理進三郎宗長

　　　　へいさえもんさぶろうもりとき　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　たちかわのさぶろうひょうえのじょうもとやす
　　平左衛門三郎盛時　　　　　　　　　立河三郎兵衛尉基泰

　　　　えばらのさぶろうさだまさ
　　荏原三郎貞政

　　いじょう　じうごにん　 ひたたれ　 たいけん　おんこし　　さゆう　　なら　　ある
　以上十五人。直垂、帶釼、御輿の左右に列び歩く。

ただ　おのおの　ごにんけちばんせし　　こうてい　にり　　　へ　　　ごと　　　　あいかわ　　たが　　　きゅうそく　　　うんぬん
但し 各　五人結番令め、行程二里を經る毎に、相替り互ひに休息すと云々。

　　つぎ　 すいかん　 つ　　ひとびと
　次に水干を着く人々

いちばん　　　さがみのかみしげとき　　　　　　　　　　　　 むさしのかみともなお
一番　　相摸守重時　　　　　　　武藏守朝直

　　　　　　　　うまごんのかみまさむら　　　　　　　　　　　　 くないしょうゆうやすうじ
　　　　右馬權頭政村　　　　　　宮内少輔泰氏

　にばん　　　えちごのかみときもり　　　　　　　　　　　　　　かいのかみやすひで
二番　　越後守時盛　　　　　　　甲斐守泰秀

　　　　　　　　しもつけのかみやすつな
　　　　下野守泰綱

さんばん　　　げんばのかみもとつな　　　　　　　　　　　　いきのたいふほうがんやすつな
三番　　玄番頭基綱　　　　　　　壹岐大夫判官泰綱

　　　　　　　　ぶぜんおおいのすけちかひで　　　　　　　うつのみやのほうがんよりなり
　　　　豊前大炊助親秀　　　　　宇都宮判官頼業

よんばん　　　ひごのぜんじためすけ　　　　　　　　　　　　えのたいふほうがんよしゆき
四番　　肥後前司爲佐　　　　　　江大夫判官能行

　　　　　　　　でわのほうがんいえひら
　　　　出羽判官家平

　ごばん　　　おおくらしょうゆうかげとも　　　　　　　　　　　いがのさえもんたいふみつしげ
五番　　大藏少輔景朝　　　　　　伊賀左衛門大夫光重

　　　　　　　　ごとうさどのほうがんもとまさ
　　　　後藤佐渡判官基政

いちばん　　　いずみのぜんじまさかげ　　　　　　　　　　　やまとのぜんじすけとき
六番　　和泉前司政景　　　　　　大和前司祐時

　　　　　　　　しなののみんぶたいふゆきやす
　　　　信濃民部大夫行泰

　　こうじん　　さきょうごんのたいふ　　　　　　　　　　　　　しゅりのごんのたいふ
　後陣　左京權大夫　　　　　　　修理權大夫

　　　　いじょうりょうしょ　　　　こうきすうひゃくにんあいなら　うんか　　ごと　　　　こ　　　ほかひとびと　じゅうるい　ある　　　　ぜんろ　　かま　　　　ある　　　　むれ　　な　　　お　　　　 うんぬん
　　已上兩所に、後騎數百人相列び雲霞の如し。此の外人々の從類、或ひは前路に搆へ、或ひは群を成し追うと云々。

現代語嘉禎四年(1238)六月大五日戊申。空は晴です。将軍頼経様は、春日大社へお参りです。午後4時頃雨が降りました。夜中になって雷が鳴って雹が降りました。お出ましの行列は、
　まず駿河前司三浦義村のお供の兵
一番　長尾平内左衛門尉景茂　　　同長尾三郎兵衛尉光景
二番　駿河四郎左衛門尉三浦家村　三浦次郎有村
三番　駿河五郎左衛門尉三浦資村　同八郎左衛門尉三浦胤村
　先払いとして駿河前司三浦義村
　次に将軍の武装儀仗兵
一番　河内守三浦光村　　　　　　千葉八郎胤時　　　　　　　梶原右衛門尉景俊
二番　下河辺右衛門尉行光　　　　関左衛門尉政泰　　　　　　三浦又太郎左衛門尉氏村
三番　佐渡次郎右衛門尉後藤基親　佐竹八郎助義　　　　　　　相馬次郎左衛門尉胤綱
四番　氏家太郎公信　　　　　　　大曽根兵衛尉長泰　　　　　壱岐三郎左衛門尉時清
五番　筑後図書助時家　　　　　　伊東三郎左衛門尉祐綱　　　宇佐美与一左衛門尉祐時
六番　遠江次郎左衛門尉佐原光盛　和泉次郎左衛門尉天野景氏　加藤左衛門尉行景
七番　武田六郎信長　　　　　　　大井太郎光長　　　　　　　近江四郎左衛門尉佐々木氏信
八番　若狭守三浦泰村　　　　　　秋田城介安達義景　　　　　佐原肥前前司家連
九番　相模六郎北条時定　　　　　足利五郎長氏　　　　　　　河越掃部助泰重
十番　北条左近大夫将監経時　　　遠江式部大夫北条光時　　　陸奥掃部助北条実時
　次に将軍の輿〔御簾を上げ、弓袋指し持ち以下は京都へ着いた時と同じ〕
　　江戸八郎太郎景益　山内藤内通景
　　品川小三郎実貞〔それぞれ交代で将軍の太刀を持つ〕　池上藤兵衛尉康光
　　中沢十郎兵衛尉成綱　本間次郎左衛門尉信忠
　　小川三郎兵衛尉直行　阿保次郎左衛門尉泰実
　　猪俣左衛門尉範政　　四方田五郎左衛門尉資綱
　　本庄新左衛門尉朝次　修理進三郎宗長
　　平左衛門三郎盛時　　立川三郎兵衛尉基泰
　　荏原三郎貞政
　以上の十五人は、鎧直垂で太刀を穿き、将軍の輿の左右に並んで歩きます。但し、五人づつ順番を決め、二里を行く毎に後退して休憩するんだそうな。
　次に、水干を着た人達
一番　相模守北条重時　　　武蔵守北条朝直
　　　右馬権頭北条政村　　宮内少輔足利泰氏
二番　越後守北条時盛　　　甲斐守長井泰秀
　　　下野守宇都宮泰綱
三番　玄番頭後藤基綱　　　壱岐大夫判官佐々木泰綱
　　　豊前大炊助大友親秀　宇都宮判官頼業
四番　肥後前司狩野為佐　　大江大夫判官能行
　　　出羽判官中条家平
五番　大蔵少輔遠山景朝　　伊賀左衛門大夫光重
　　　後藤佐渡判官基政
六番　和泉前司天野政景　　大和前司伊東祐時
　　　信濃民部大夫二階堂行泰
　後ろの武士　左京権大夫北条泰時　修理権大夫北条時房
　　以上の二人に続く騎馬隊は雲霞の如く大勢です。この他の人々の家来が、或る者は道の前へ控え、或る者は後ろから追っかけていたそうな

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　にっちゅうらいう　　きょう　　しょうぐんけ かすがしゃ よ　　かえ　　たま
嘉禎四年(1238)六月大六日己酉。日中雷雨。今日、將軍家春日社自り還り御う。

現代語嘉禎四年(1238)六月大六日己酉。日中は雷雨でした。今日、将軍頼経様が春日大社から戻りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ
嘉禎四年(1238)六月大七日庚戌。天霽。

とおとうみのさぶろうときながぬし くろうど　　ぶ　　　 さんだいのあいだ　　　ほい　さむらいごにん　　ぞうしきひとり　〔　にょぼく　〕　わらわひとりこれ　　あいぐ
 遠江三郎時長主�@ 藏人に補す。參内之間、布衣の侍 五人、雜色一人〔如木〕童一人之を相具す。

きょう　すなは　うえもんごんのしょうじょう　にん　　　　うんぬん
今日即ち 右衛門權少尉に任ずと云々。

参考�@時長主は、北条朝時の息子。

現代語嘉禎四年(1238)六月大七日庚戌。空は晴れです。遠江三郎北条時長さんが、蔵人に任命されました。朝廷へのあいさつに、布衣の侍5人。雑用1人〔如木〕、世話役の子供一人をお供に連れて行きました。今日、その場ですぐに右衛門権少尉に任命されましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　きいのくに　ひのくまぐう　えいさく　　こと　　じょうごう　ふ　　 て ぞうひつすべ　のむね　　せんげさる　　　　よっ
嘉禎四年(1238)六月大九日壬子。紀伊國日前宮�@營作の事、成功に付し而造畢可き之旨、宣下被るに依て、

しょうぐんけ あ　　　もうさし　　たま　　ところのひとら　　まか　　　いまに　そ　　　こう　しんぜずのあいだ　しゃしの　うった　　あ
將軍家擧げ申令め給ふ所之人等に任せ、今于其の功を進不之間、社司之訴へ有り。

よっ　　みさい　な　　　 さた　いた　　べ　　 のよし　　おお　　くださる　　　　うんぬん
仍て未濟無く沙汰致す可し之由、仰せ下被ると云々。

参考�@日前宮は、和歌山県和歌山市に鎮座する神社である。一つの境内に日前神宮・國懸神宮の2つの神社があり、総称して日前宮（にちぜんぐう）とも（名草宮とも）呼ばれる。両社とも式内社（名神大）・紀伊国一宮で、旧社格は官幣大社。ウィキペディアから

現代語嘉禎四年(1238)六月大九日壬子。紀伊國日前宮の建設について、朝廷への寄付による官職の付与を募って建設するように、朝廷から命令があったので、将軍頼経様は、推薦した申し出者に任せていたが、未だにその寄付行為をしていないと、神社関係者から訴えてきました。そこで早く納税を済ますように、命令を出されましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 かがのぜんじやすとし　　しょろう ききゅう　　よっ　　　　もんちうじょ しつじ　　じ　　　 もう　　 のあいだ
嘉禎四年(1238)六月大十日癸丑。加賀前司康俊が所勞危急に依て、問注所執事を辞し申す之間、

しそく みんぶのたいふやすもち　もっ　　　　そ　　 かえたるべ　　のむね　　おお　　くださる　　　　うんぬん
子息民部大夫康持を以て、其の替爲可き之旨、仰せ下被ると云々。

現代語嘉禎四年(1238)六月大十日癸丑。加賀前司三善(町野)康俊の病気が危篤になったので、問注所の事務長の辞任を申し出たので、息子の民部大夫三善(町野)康持を、その後任に任ずるよう仰せになられましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 さきのかがのかみ じゅごいのじょう みよしのあそんやすとし そっ　　　　〔とししちじうに〕
嘉禎四年(1238)六月大十四日丁巳。前加賀守 從五位上 三善朝臣康俊 卒す。〔年七十二〕

現代語嘉禎四年(1238)六月大十四日丁巳。前加賀守従五位上三善(町野)康俊さんんが亡くなりました〔年は七十二才です〕。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　  らくちうけいえい　 ため　 つじつじ　 をい　　　かがり　か　　　べ　　　のよしさだ　　らる
嘉禎四年(1238)六月大十九日壬戌。洛中警衛の爲、辻々に於て、篝を懸く可し之由定め被る。

よっ　　そ　　　えきを　　ごけにんら　　　あてもよ　　さる　　　　うんぬん
仍て其の役於御家人等に宛催お被ると云々。

現代語嘉禎四年(1238)六月大十九日壬戌。京都街中を治安維持のため、辻辻にかがり火を焚いている篝屋を置くようにお決めになられました。それなのでその役を御家人に割り当てましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　  ぜんじょうでんか　わかぎみ　〔ふくおうぎみ〕　にんなじ　　　い　　　たま　　　　　うふ　　ごどうしゃ　　　さきがけじうにん
嘉禎四年(1238)六月大廿三日丙寅。禪定殿下の若君〔福王公〕仁和寺に入り御う。右府御同車す。前駈十人。

こうしゃ　げっけいうんきゃくしちはちばか　やから　さむらいじうにんなり　すなは　きょう ごていはつ　のぎ　あ　　　　うんぬん
後車の月卿雲客七八許りの輩。 侍十人也。 即ち今日御剃髪之儀有りと云々。」

いぬのこく　きた　へんしょうぼう
戌剋。北の邊燒亡す。

現代語嘉禎四年(1238)六月大二十三日丙寅。禅定殿下九条道家の息子〔福王君〕が仁和寺に入りました。右大臣良実が同じ牛車に同乗しました。露払いが十人前を行き、後ろの続く牛車の公卿は七・八人です。侍は十人。今日すぐに頭を剃る儀式があったそうな。」
午後8時頃、北の方で火事がありました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　よもすがらあめふ　　　　　きょう　　 つちみかどだいなごん　〔みちかたきょう〕　こう　　　　　 〔とし〕　さけいちょうこれ　とぶら　せし　　たま
嘉禎四年(1238)六月大廿四日丁夘。終夜雨降る。今日、土御門大納言〔通方卿〕�@薨ず。〔年〕左京兆之を訪は令め給ふ。

参考�@土御門通方は、土御門源道親の子。源通方。中院(ﾅｶﾉｲﾝ)通方。

現代語嘉禎四年(1238)六月大二十四日丁卯。一晩中雨降りです。今日、土御門大納言〔通方さん〕が亡くなりました〔年は？〕。泰時さんがお悔みに行きました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　  あめふ　　　しゅうじつやすまず　うしのこく　おおかぜ へきれき こうずい　じんおくおお　はそん
嘉禎四年(1238)六月大廿五日戊辰。雨降る。終日休不。丑刻、大風 霹靂 洪水。人屋多く破損す。

とがのお きよたきがわへん　じゃいで　　　　うんぬん
栂尾 �C瀧河邊に虵出ると云々。

現代語嘉禎四年(1238)六月大二十五日戊辰。雨降りです。一日中止みません。午前2時頃大風に雷に洪水。民家が沢山壊れました。栂ノ尾、清滝川あたりに蛇が出たそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　  そらはれ　　きょう　　せっしょうどの　〔このえかねつね〕　　うじ　いりえんいん　　　さんぬ　よ　　あめこうずい　　よっ　　のゆえなり
嘉禎四年(1238)六月大廿六日己巳。天�ﾘ。今日、攝政殿〔近衛兼經〕宇治入延引す。去る夜の雨洪水に依て之故也。

現代語嘉禎四年(1238)六月大二十六日己巳。空は晴です。今日、摂政殿〔近衛兼経〕は宇治の平等院へ隠居するのを延期しました。昨夜の大雨の洪水によってです。（宇治川を渡れないのか？）

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　  はれ　ばんとう　　らいう　　　　きょう　　にんだいじん　 めしおお　えんいん　　 らいげつこれ　おこなはれ　べ　　　うんぬん
嘉禎四年(1238)六月大廿八日辛未。�ﾘ。晩頭に雷雨。今日、任大臣の召仰せ延引す。來月之を行被る可しと云々。

現代語嘉禎四年(1238)六月大二十八日辛未。晴れです。日暮れに雷雨です。今日、大臣任命の宣告式を延期しました。来月やるそうです。

七月へ

吾妻鏡入門第卅二巻