吾妻鏡入門第卅三巻

延應元年己亥(1239)三月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　きょうと　　さんぬ　つき じういちにち みのこく にちうん　へんあ
延應元年(1239)三月小五日乙亥。天�ﾘ。京都で去る月 十一日 巳尅 日暈の變有り。

みっそうのやから　もうしじょう おなじ　せずのあいだ　りょうど かんもん　　め　　のうえ　　かんおおくらきょう〔ためなが〕　　せいだいげきよりなおら　かんじょう　およ
密奏之輩の 申状 同う不之間、 兩度 勘文を召す之上、菅大藏卿〔爲長〕、�C大外記頼尚等勘状に及ぶ。

　そ　　　じょうら　きょう　とうらい　　　　ごぜん　　をい　　　 もろかずあそんこれ　　よみもう
其の状等今日到來す。御前に於て、師員朝臣之を讀申す。

てんもんどうただなお　よしもと　 すえなおら　　あそんちょううんのよし　 もう　　　　いえうじこううん　のむね　 もう　　　　はるつぐはっこう　ひ　　つらぬ　のよし　 もう　　　　うんぬん
天文道忠尚、良元、季尚等の朝臣重暈之由を申す。家氏交暈之旨を申す。�ﾘ継白虹日を貫く之由を申すと云々。

おおくらきょう　ごかんしょ　ふみ　　ひ　　ろうがい　のことば　　か　　　　　うんすなは　にじなり　　たいりゃくはっこう　むね　　いさいこれ　　かん
 大藏卿、後漢書の文を引き郎凱�@之詞を假り、暈即ち虹也。大略白虹の旨、委細之を勘ず。

　だいげきは　　うんこう　　せんれいほんぶん　かんじん　　 ばか　　なり
大外記者、暈虹の先例本文を勘進する許り也。

現代語延應元年(1239)三月小五日乙亥。空は晴です。京都で先月の十一日の午前十時頃に、太陽にかさがかかると云う変事がありました。取巻きの陰陽師等の言うのがまちまちなので再度上申書を請求したところ、菅原為長大蔵大臣と清原頼尚筆頭書記官が上申書を出しました。その上申書の写しが今日届いたので、将軍頼経様の前で、中原師員が読み上げました。陰陽師の安倍忠尚・良元・安倍季尚達は重なっているかさだと云い、安倍家氏は交差しているかさだと云い、安倍晴継は白い虹が太陽を貫いていると云ってるそうな。大蔵大臣は、後漢書の文を調べて、郎凱の文書を引用して、かさは虹である。おおよそ白い虹である理由を詳しく書いています。筆頭書記官は、かさが虹だとする日本の古い例文を提出しただけです。

解説�@郎凱は、ではなく郎��。後漢の天文学者(星占いの専門家)。惑星などの天体の位置を観測し、計算されて予測された位置からのずれなどに基づいて占いを行う。三統と呼ばれる計算方式。『後漢書』郎��襄楷列傳第二 十下に傳がある。郎��が劉歆の三統暦を用いたことは、『後漢書』の郎��傳の 上奏文の「四事」に自分で「推歩三統」(中華書局『後漢書』p.1061)と書いている。某科学史家の冒言録ＨＰから引用。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　たくみのかみつねなが きょうとよ　 さんちゃく　　 うんぬん
延應元年(1239)三月小十一日辛巳。内匠頭經長 京都自り參着すと云々。

現代語延應元年(1239)三月小十一日辛巳。内匠頭経長さんが京都から着きましたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　してん　やからめし　 よっ　　みなさん
延應元年(1239)三月小十五日乙酉。�ﾘ。司天の輩召に依て皆參ず。

にがつじういちにち　てんぺん　こと　　きょうと　　かんもん　　くだされ　　おのおの　ぞんち　 むね　 もう　　べ　　　のよし おお　　いださる
二月十一日の天變の事、京都の勘文を下被、　各　存知の旨を申す可し之由仰せ出被る。

これのり　 やすさだ　 はるかたら いちどう　ちょううんのよし　 もう
維範、泰貞、�ﾘ賢等一同に重暈之由を申す。

もろかすあそんもう　　　　い　　　　　　　はるつぐあそん　　かんもん　　　 はっこうのむね　　の　　　　もっと　かんしん　　　　ほんぶん　ぶんめいなり　うんぬん
師員朝臣申して云はく。�ﾘ継朝臣の勘文は、白虹之旨を載す。尤も甘心す。本文に分明也と云々。

現代語延應元年(1239)三月小十五日乙酉。晴れです。天文方の連中を呼んだので皆来ました。二月十一日の天の異変ついて、京都での上申書を見せて、それぞれ知っている事を話すよう命じました。惟範・泰貞・晴賢は同様に重なったかさだと云いました。中原師員が云うには、「晴継さんの上申書は白い虹だと書かれています。これが感心しますね。古い例文の通りですよ。」だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　　ろくはら　　　ししゃさんちゃく　　 さんぬ　にがつにじうににち　おきのほうおう　えんとう　　をい　　ほうぎょ　　　　　〔おんとしろくじう〕
延應元年(1239)三月小十七日丁亥。�ﾘ。六波羅の使者參著す。去る二月廿二日、隱岐法皇�@遠嶋に於て崩御す。〔御年六十〕

おな　　　にじうごにち ほうむ　たてまつ　　うんぬん
同じき廿五日 葬り奉ると云々。

参考�@隱岐法皇は、後鳥羽上皇。

現代語延應元年(1239)三月小十七日丁亥。晴れです。六波羅探題からの使いが到着して、先月二月二十二日に、後鳥羽法皇が流罪先の沖ノ島でお亡くなりになりました。御年は六十才です。同月二十五日に葬儀を終わりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうさく　さきのぶしゅう　ひょうじょうしょ　つ　　 たま　　ひょうじょうしゅうらさんしん
延應元年(1239)三月小廿九日己亥。匠作、前武州、評定所に着き給ふ。評定衆等參進す。

はこねやまべっとうこうじつ　と　ちぞうさぶろうほっきょうりょうじつ たいけつ　　と
筥根山別當興實 与 智藏三郎法橋良實　對决を遂ぐ。

これ　　とうさんにがつきょうえ　のとき　　こうじつさじきを　しきしゅう　　ざまえ　　かま
是、當山二月經會之時、興實棧敷於職衆の座前に搆う。

しきしゅうこれ　うっとう　　　　 りょうじつ　もっ　 ちょうほん　 な　　　　　か　　　おおえ　　うちど　　　　のゆえなり
職衆之を欝陶し、良實を以て張本と爲し、彼の大會を打止む之故也。

りょうほう　そ　　とが　 のが　　がた　　　 よっ　　　 こうじつは　はなかわどばし　わた　　べ
兩方其の過を遁れ難きに依て、興實者花河戸橋を亘す可し。

りょうじつは かいろう　にじうんかけん　　ひわだ　　ふ　　　べ　　　のよし　　おお　　つ　　　らる　　　　うんぬん
良實者廻廊二十二ケ間の桧皮を葺く可き之由、仰せ付け被ると云々。

現代語延應元年(1239)三月小二十九日己亥。匠作時房さん・前武州泰時さんが政務を会議する評定所に来ました。会議のメンバーが集まりました。箱根神社筆頭の興実と智蔵三郎良実とが対決しました。その内容は、箱根権現神社の二月の涅槃経の式典に、興実はお経を上げるための座席桟敷を僧兵達の前に設置しました。僧兵達は自分等の前に陣取ったのは嫌がらせだと怒って、良実を代表者としてその式典を腕づくで止めさせたからです。喧嘩両成敗で双方ともにその罰を逃すわけには行かないので、興実は花川戸橋を架けるように、良実は神社の回廊22間の桧皮を葺き替えるように、命じられましたとさ。

四月へ

吾妻鏡入門第卅三巻