吾妻鏡入門第卅三巻

延應元年己亥(1239)八月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ かぜしずか　うまのこく　にとうのおんかた　〔しょうぐんけ　　ごちょう　　　おおみやどの　　ごう　　　　だいなごんさだよしきょう　　まご
延應元年(1239)八月小八日乙巳。天�ﾘ　風靜。午尅、二棟御方〔將軍家の御寵。大宮殿と号す。大納言定能卿が孫。

ちうなごんちかよしきょう　　むすめ〕　おんちゃくたいなり
中納言親能卿の女〕御着帶也。

おんかじ　　おかざきそうじょう　〔しょうげん〕　　おんはらえ　だいぜんごんのだいぶこれのりあそん　みつぎたる　　よっ　　　　ごしょ　　をい　 おこなはれず　うんぬん
御加持は岡崎僧正〔成源〕。御祓は大膳權大夫維範朝臣。　密儀爲に依て、御所に於て行被不と云々。

さんぬ　しがつよ　　　　 ごきとうら　　　おこなはれ　　うんぬん
去る四月自り、御祈等を行被ると云々。

現代語延応元年(1239)八月小八日乙巳。空は晴れて風は静かです。昼頃に二棟御方〔将軍頼経様の妾で大宮殿と言います。大納言定能さんの孫で中納言親能さんの娘です〕が妊娠五か月目に妊婦が腹帯(岩田帯)を初めて着用する、その祝いの儀式です。加持祈祷は岡崎僧正成源。お祓いは大膳権大夫維範さん。正妻に内緒なので、御所では行わないそうな。実は去る四月からお祈りはしているそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　てんぺん　おいのりら　　おこなはれ　　　　ほくとごま　　おおくらきょうほういんりょうしん　しんせいぐ　すけのほういんちんよ
延應元年(1239)八月小十日丁未。天變の御祈等を行被る。北斗護摩は大藏卿法印良信。填星供は助法印珎譽。

おまつり　これのりあそん　　うんぬん
御祭は維範朝臣と云々。

また　　しょうぐんけねんらい　　ごそがん　　よっ　　　　おんじぶつどう　　をい　　　　ひゃくぶ　　こんこうみょうきょう　　くようさる　　　　どうし　 さんみほういんらいけん
又、將軍家年來の御素願に依て、御持佛堂に於て、百部の金光明經�@を供養被る。導師は三位法印頼兼。

だいみょうそうじっく　〔そうごうぼんそうあいまじ〕
題名僧十口〔僧綱凡僧相交る〕。

　ふせとり　　みなしょだいぶ　　もち　　らる　　　 いはゆるなかよし　ちかざね　すけふさ　ちかみつ　ひろときらなり　　ごがんもん　　い
布施取は皆諸大夫を用ひ被る。所謂仲能、親實、佐房、親光、廣時等也。御願文に云はく。

参考�@金光明経は、金光明最勝王経で奈良時代に聖武天皇が鎮護国家の経典として尊ばれた。

　　けだ　　き　　　　　こんこうみょうきょうは　にまんさい ちこく のせいろん　おくせんごう きせい　のしんりなり
　盖し聞く。金光明經者、二万歳治國之正論、億千劫希世之眞理也。

参考劫は、仏語できわめて長い時間。1町四方の石の上に100年に一度天与が舞い降り、袖で石を摺って行く。その石がすり減って亡くなってしまう時間。阿弥陀は5劫もの時間修行をしたそうな。
参考希世は、世に稀な程優れていること。

　　ほう　　おうげ　の　さんとく　　たとし　　　　げつみょうかいごのもん　　て　　　　
　法は應化之三徳に譬へて、月明開悟之門を照らす。

参考應化は、仏や菩薩が衆生を救うために、時機に応じた姿となって現れること。Goo電子辞書から
参考三徳は、智徳・断徳・恩徳。

　　 いのち　しきりきのしゅうぼう　 したが　　　　　はなぞうえきのみち　　かお　　　せんぶしゅう るふ の おし　 なり
　命は色力之衆望に随ひて、花増益之道に薫る。瞻部洲流布之教え也。

参考瞻部洲は、閻浮提（エンブダイ）とも云い、須弥山の南方の海上にあるという島の名。島の中央には閻浮樹(えんぶじゆ)の森林があり、諸仏が出現する島とされた。もとはインドをさしたが、その他の国をもいい、また人間世界・現世をさすようになった。Goo電子辞書から

　　 きえんわがつちにあまね　 さいしょうおんしんら のふみなり　　げんかんぐんせいにこうむ
　機縁我土于遍し、最勝園森羅之文也。 玄感群生于被る。

参考最勝園は、金光明経中に「於是園中，有最勝園，名曰金幢。」とあるが意味がわからない。

　　　 これ　 もっ　　じつご　を　げっし　　おも　　　　　すなは　きんりゅうそんのう　さんぜかんたんのことば　　つた
　是を以て實悟於月氏に憶うとき則ち金龍尊王、三世 讃嘆之詞を傳う。

参考月氏は、中国への仏教伝来についての一説に、哀帝の元寿元年（前2年）に大月氏国王の使者伊存（いそん）が、『浮屠教』と言う経典を景蘆に口伝した、と言うものがあり（『釈老志』）、これが諸説の中でもっとも早いものとなっている。
参考金龍尊王は、金光明経中に「原來過去金龍尊王，即是今之信相菩薩」とある。

　　ほうじょうを　にちいき　たず　　また あけどりみょうしゅ ひゃくぶ　てんどくの　みことのり　ほどこ
　芳積於日域に温ぬ。亦 朱鳥明主 百部の轉讀之 詔を 施す。参考朱鳥明主は、天武天皇。

　 しかしよ　このかた　 くんしんえいご の ちかい　たの　　　しゅうりょさいじのこう　　いた　　まこと　これしょきょうのおうなり
　 爾り 降、 君臣衛護之誓を憑み、州閭齋持之功を致す。寔に是諸經之王也。

　　あにしゅうほうのさい　あらずや　　ふ　　　　おもんみ　　　　でし　いま　　しゅうなんせいしょうのいえ　　しゃ　　　　　 し
　 豈衆寳之最に非哉。伏して惟れば、弟子未だ周南 聖宰之家に謝するを識らず。

　　はからず　 しんぱくひょうけんのふ　 い　　　　　　　いじょうさんりゃくのほう　　　　ようざいのしょう　 は　　　　いへど　　　べんようはちじんのず　　　　なおしょかつのちり　　おも
　圖不も秦白兵權之府に入りて、圯上三略之法に、庸材之性を耻づと雖も、沔陽八陣之圖に、猶諸葛之塵を憶ふ。

参考沔陽は、中国湖北省の県、諸葛亮(孔明)の葬られた定軍山がある。『三国志』諸葛亮伝によれば、諸葛亮は兵法を応用して八陣の図を作成した。

　　たくわ　　ところはぎょうしょうにさくなり　　どうとく　　かぶと　な　　　　 じんぎ　 つるぎ　 な　　　　　つら　　　ところはがんしょうのむれなり　 こふ ひだり　 あ　　　　 ゆうそつみぎ　　あ
　蓄うる所者廟勝之策也。道徳は冑と爲し、仁義は劔と爲す。列ぬる所者含生之群也。虎夫左に在り。雄率右に在り。

　　しか　あいだちんばくにじゅめぐ　 ののち　 たちま　きゅうはくのめいく　 おもむ　　　じゃっかんさんじうしちさいのとき　　はじ　　そうしんの　じがん　　はい
　然る間鎭幕二十廻り之後、忽ち九陌之名區に赴く。 弱冠 三七歳 之時、始めて双親之慈顏を拝す。

　　ここ　　よっ　さいわい　しょうごし　の　じんえ　　す　　　　 はや　　だいりきょうのせいよう　　そな
　茲に因て幸に少呉氏之仁惠を過ぎ、早く大理卿之精要の備わる。

　　しき　　きんご　　かね　　しょうめいをかんじつのしま　　つた　　　くらい　ていしょう　つ　　　　　けんおうを　ぐねんのりゅう　　かえり　　　　　くきんつうさんの　　さい なり　 ちょうたん　 をい　 いや　　から
　職は金吾を兼、聲名於漢日之鳥に傳へ、位は■相に亞ぎ、献納於虞年之龍に顧みる。九禁通三之左威也。朝端に於て卑し不ず。

　　ろくぐんそういつのしょうなる　　 みんかん　　と　　　　　た　　　べ　　　　いはん　またこのみち　あらは　　 い　　　　　 まのあた　　たいこうじゅんごうの　そい　　　と　　　　　　み
　六軍惣一之上將也。民間に取りて足る可し。矧や亦子道に彰れて云はく。面りに太閤准后之素意を遂ぐるを覩る。

　　こうたくこれおも　　　 しきり　そうけつきんのうの びちう　　おこた　　 おそ　　　　よっ　 れいきょうのおしえ　な　　　　あなが　　　ゆがいのにん　　のが
　皇澤是重し。頻に双闕勤王之微忠を怠るを惶る。仍て�視ｨ之訓に慣れ、強ちに踰涯之任を遁る。

　　なん　　ただ　　じ　じげんのこうくん　　ほこ　　なり　　いんじゅを　もんむ　のはん　　と　　　　　さいせいりょのこうやく　　まも　　なり　　ろくしょうをしそつのたまわり　わか　てのみならんや
　何ぞ唯に李次元之功勳の誇り也。印綬於文武之班に解き、蔡征虜之廉約を守る也。祿賞於士率之賜に頒つ而已哉。

　　つい　 すなは　さぬ　ふゆさら　 ゆりゅうのさかい　 かえ　　 いへど　　 きょうこうなおほうおうのみや　 のぞ　　　 ご
　遂に乃ち去る冬更に楡柳之境に歸ると雖も、向後猶鳳凰之宮に臨むを期す。

　　 しか　 あいだ　 ぎょようばんちのみち　　へいこ　や　　　て　しゅんだいむな　　　　とざ　　がんうんこじゅうのろう　　ふうじんおさ　　 しゅうげついよい　す
　然る間、漁陽万里之路、鞞鞁罷み而春苔空しく鏁す。鴈雲孤戎之樓、風塵収まり秋月弥よ澄む。

　　まこと　えいき　の　がよ　　 へだ　　　　し　　　　いへど　　　 ただこれこうかのじゅんぽう　 およ　　　　よろこ
　誠に鋭氣之雅譽を隔つを知ると雖も、只是洪化之巡方に及ぶを喜ぶ。

　　ときに　ついかげいあんのみょうじ　きんしょうしゅうじょうのちゅうげつ　とうざんのほうすい　　く　　　　　なんぼの　ひせき　　こ　　　　　　こんこうみょうきょう ひゃくぶ よんひゃっかん　しょしゃ　たてまつ
　時于遂夏艾安之明時、金商蕭條之仲月に、東漸之法水を酌み、南謨之匪石を凝らし、金光明經 百部 四百巻を書寫し奉る。

　　すなは　　しい　こうい　のぜんと　　くっ　　　　こんじきこうみょうのみょうてんをさんたんせし　　ああ ろてん　　お　　 て　びもう　　 ととの　　　 かんろじょうのぼんきょう きゅう　　ごと
　便ち紫衣綱維之禪徒を屈し、金色光明之妙典於讃嘆令む。戯露點を終へ而美網を整う。甘露城之梵教 舊の如し。

　　がちりん　　れい　　てはくげん　　いた　　　えんげつえいのどうぎこれあら　　　いまのえぎょうなん　 しょうしせず　 しから すなは かく　　けいふく　　もっ　　　 ちょうてい　いわ　たてまつ
　月輪を礼し而白言を致す。偃月營之道儀是新た。今之惠業何ぞ照視不。然ば則ち此の景福を以て、朝庭を祝い奉る。

　　すいばんのけ　　かんしん　　おな　　　　　て かぎりな　　　みょういつのかがや　　 にちげつ　 とも　　　　て はるか　て　　　　　　　こいちぜんあ　　　　　　　かなら　にしん　　けん
　吹万之化、乾坤に同じうし而彊無し。明一之輝き、日月と共にし而遥に照らす。子一善有らば、必ず二親に献ず。

　　こうじょうのがいそ　　がい そ ぼ なり　　ひさ　　　　ほうそ　のかた　　ともな　　　にんげんの　さみ　　　 さ み に なり　　 とも　　こうしゃ のさん　　やく
　皇上之外祖は々々母也。久しく澎祖之方を伴う。人間之沙弥は々々尼也。共に恒沙之算を約す。

　　でししょうぐんじゅ　のはなつね　あざや　　　　 とうけいはる　 ちぎ　　　しんせんざん のつきたか　はれ　　しょうきょう ことぶき　まっと
　弟子將軍樹之花常に鮮かに、桃蹊春を契り、神仙山之月高く霽て、松喬　壽を全うす。

　　けいしかいこう　　ばくち かくそんのたのしみ　な　　　 みんしょえつよ　　こうしんれんさいのせめ　おさ　　　かさ　　　　げんねんの じんしん　 よっ　　　あまね　いんこう の くぶんあ
　繼嗣恢弘。莫穉角存之娯を成し、民庶悦豫、航探輦責之貢を納む。重ねて願念之甚深に依て、遍く因向之區分有り。

　　さんだい　りょうしょう　だいほうぐんのな　　え　　　　　さだ　　　にょらいのきょうちょく　うけたまは　　にほん　　ぜんぎ しょうぜんこんのちから　こた　　　　すみや　　　とうみょうの　かい　　　なら
　三代の良將 大法軍之名を得て、定めて如來之教勅を奉り、 二品の禪儀 小善根之力に答へて、速かに等妙之果位に並ぶ。

　　これ　　くは　　　　がんい　　いとくしの　　がた　　のゆえ　　さんぽんゆうれいのしょうかく　 たす　　　ごうぎょう　ほうきつわす　　がた　 のゆえ　 いっしつ こうきゅう のこうと　　　すく
　之に加へ、含飴の遣徳忍び難き之故、三品幽靈之正覺を資け、合業の芳契忘れ難き之故、一室 好仇之後途を濟う。

　　また　　こいんがいうけいちょう　し　　　よろ　　　　か　　　かい　　　せいさかざ　　　なら　　せし　　　むかしそこく　　こうは　　しゅうしつのだいしょうぐんなり
　又、故員外右京兆を令て宜しく彼の界の西左華座に列ば令む。昔楚國の公者、周室之大將軍也。

　　ぶっしょ　　うつ　　　　もっ　　いっさいのがんじき　　ほどこ　　　いま　ろぐ　　しは　　こうちょうのだいしょうぐんなり　　ほうえん　　の　　　　　もっ　　にせい　のしょぐ　　いの
　佛書を寫して以て一切之含識に施す。今魯愚の士者、皇朝之大將軍也。法筵を展べて以て二世之所求を祈る。

　　くぎょうのおもむき　しょうせい あいおな　ものか　　 およそ うえん むえんの　しょるい　しかしなが　さんみゃくさんぼだい　しょういん　しょう　　　　けいびゃく
　恭敬之趣、 精誠 相同じ者歟。凡厥有縁無縁之庶類、併ら 三藐三菩提の 勝因を證せよ。敬白。

　　　　　 えんのうがんねんはちばつ　にち　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 でしせいいたいしょうぐんしょうにいふじわらあそんけいびゃく
　　　延應元年八月　日　　　　　　　　　　　　　　弟子征夷大将軍正二位藤原朝臣敬白

参考遍しは、広く行き渡っている。

現代語延応元年(1239)八月小十日丁未。天文の異変を鎮めるお祈りを行いました。北斗七星の護摩炊きは大蔵卿法印良信。土星への供養は助法印珎与。土星のお祭りは維範さんだそうな。
また、将軍頼経様はずう〜っと希望していた願があるので、持仏堂「久遠寿量院」で百部の金光明最勝王経を供えました。指導僧は三位法印頼兼。お経の題目を読む僧は十人〔役付きや平の坊さんが混ざっています。〕お布施を渡す役は、諸大夫五位の人にしました。それは、伊賀仲能・三条親実・大江佐房・親光・広時です。その願の文に書かれているのは、

では聞いてください。金光明最勝王経は、二万年間国を治める正しい経で、億千劫の稀な世の優れた正しい理なのです。仏法は、仏や菩薩が衆生を救う為現れる時の知徳・断徳・恩徳に例えて、月の光は悟りの門を照らします。命は、実在の中に生きている人々の希望を承知して、花が増えて開く道理が薫るようだ。人間社会に広まっている教えなのです。機縁我国土にまんべんなく行きわたった、最勝園の森からの文である。玄感は、全ての生き物に影響する。
これをもって本当の悟りを月氏(中国で最初に仏教を取り入れた)に思うとき、すぐに金龍尊王が三世の賛嘆の言葉を伝える。良い行いの積み重ねを日本に訪ねてみると、また天武天皇は百部の轉讀(摺り読み・略読み)の実施をみことのりしました。それから以後、主君や家臣を付き添い守るとの誓いを宛てにして、街や村では祭事をちゃんと奉っている。本当にこれは多種のお経の王様です。(以下の太字は現代語に出来ず)
豈衆寳之最に非哉。伏して惟れば、仏弟子の私は未だに周南父の家に礼にもいっておりません。圖不も秦白兵權之府に入りて、圯上三略之法に、庸材之性を耻づと雖も、諸葛孔明が作った沔陽八陣の図に、猶諸葛孔明の之塵を憶ふ。蓄うる所者廟勝之策也。道徳はかぶとにして、仁義は刀であります。列ぬる所者含生之群也。虎夫左に在り。雄率右に在り。その間、幕府が誕生して20余年の後、忽ち九陌之名區に赴く。若干37歳になって初めて父母の顔を拝みました。茲に因て幸に少呉氏之仁惠を過ぎ、早く大理卿之精要の備わる。職は金吾を兼、聲名於漢日之鳥に傳へ、位は■相に亞ぎ、献納於虞年之龍に顧みる。九禁通三之左威也。朝端に於て卑し不ず。六軍惣一之上將也。民間に取りて足る可し。矧や亦子道に彰れて云はく。面りに父太閤九条道家と母方の伯母准后掄子之素意を遂ぐるを覩る。皇澤是重し。頻に双闕勤王之微忠を怠るを惶る。仍て�視ｨ之訓に慣れ、強ちに踰涯之任を遁る。何ぞ唯に李次元之功勳の誇り也。印綬於文武之班に解き、蔡征虜之廉約を守る也。祿賞於士率之賜に頒つ而已哉。遂に乃ち去る冬更に楡柳之境に歸ると雖も、向後猶鳳凰之宮に臨むを期す。然る間、漁陽万里之路、鞞鞁罷み而春苔空しく鏁す。鴈雲孤戎之樓、風塵収まり秋月弥よ澄む。誠に鋭氣之雅譽を隔つを知ると雖も、只是洪化之巡方に及ぶを喜ぶ。時于遂夏艾安之明時、金商蕭條之仲月に、東漸之法水を酌み、南謨之匪石を凝らし、金光明經 百部 四百巻を書寫し奉る。便ち紫衣綱維之禪徒を屈し、金色光明之妙典於讃嘆令む。戯露點を終へ而美網を整う。甘露城之梵教 舊の如し。月輪を礼し而白言を致す。偃月營之道儀是新た。今之惠業何ぞ照視不。然ば則ち此の景福を以て、朝庭を祝い奉る。吹万之化、乾坤に同じうし而彊無し。明一之輝き、日月と共にし而遥に照らす。子一善有らば、必ず二親に献ず。皇上之外祖は々々母也。久しく澎祖之方を伴う。人間之沙弥は々々尼也。共に恒沙之算を約す。弟子將軍樹之花常に鮮かに、桃蹊春を契り、神仙山之月高く霽て、松喬　壽を全うす。繼嗣恢弘。莫穉角存之娯を成し、民庶悦豫、航探輦責之貢を納む。重ねて願念之甚深に依て、遍く因向之區分有り。三代の良將 大法軍之名を得て、定めて如來之教勅を奉り、 二品の禪儀 小善根之力に答へて、速かに等妙之果位に並ぶ。こればかりでなく含飴の遣徳我慢できない之故、三品幽靈之正覺を資け、合業の芳契忘れ難き之故、一室 好仇之後途を濟う。又、故員外右京兆を令て宜しく彼の界の西左華座に列ば令む。昔楚國の公者、周室之大將軍也。佛書を寫して以て一切之含識に施す。今魯愚の士者、皇朝之大將軍也。法筵を展べて以て二世之所求を祈る。恭敬之趣、 精誠 相同じ者歟。凡厥有縁無縁之庶類、併らこの上ない平等な悟りの勝因を證せよ。敬白。
　　　延応元年(1239)八月小　　日　　　　　　　　　　　　　仏弟子征夷大将軍正二位藤原朝臣謹んで申し上げます

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　つるがおか　ほうじょうえ　 しょうぐんけおんはばか　よっ　　おんいでな
延應元年(1239)八月小十五日壬子。天�ﾘ。鶴岡の放生會。將軍家御憚りに依て御出無し。

しょうさく　〔しろあお　かりぎぬ　〕　　おんし　　 な　　　ほうへいせし　たま　　　　けんそく　むさしのかみともなお　しきぶのたいふときなお　　うこんたいふしょうげんときさだ　こしょうさる
匠作〔白襖�@狩衣�A〕御使と爲し奉幣令め給ふ。賢息  武藏守朝直、 式部大夫時直、 右近大夫將監時定 扈從被る。

また　　さどのぜんじもとつな　　　さきのおおくらしょうゆうかげとも　いずのかみよりさだ　でわのぜんじゆきよしら　　ぶがくのあいだ　　しもみや　　かいろう　　そうら　　　うんぬん
又、佐渡前司基綱、 前大藏少輔景朝、 伊豆守頼定、出羽前司行義等、舞樂之間、下宮の廻廊に候うと云々。

参考�@白襖は、表裏ともに白い狩衣。
参考�A狩衣は、〔もと、狩りなどのときに着たところから〕盤領(まるえり)で脇を縫い合わせず、くくり緒のある袖が後ろ身頃にわずかに付いているだけの衣服。地質は、布(ふ)を用いるので布衣(ほい)とも呼んだが、のちに絹綾(きぬあや)のものもできた。平安時代には公家の平常の略服であったが、鎌倉時代以後は公家・武家ともに正服、または礼服として用いた。現在は、神官の服装に見られる。狩襖(かりあお)。かりごろも。Goo電子辞書から

現代語延応元年(1239)八月小十五日壬子。空は晴です。鶴岡八幡宮の魚鳥を供養して生き物を放つ儀式の放生会です。頼経は神様に遠慮することがあって欠席です。匠作時房さん〔表裏ともに白い狩衣〕が代参して幣を奉納しました。息子さんの武蔵守朝直・式部大夫時直・右近大夫将監時定がお供をしました。又、佐渡前司後藤基綱・前大蔵少輔遠山景朝・伊豆守若槻頼定・出羽前司二階堂行義達は、舞楽を演奏している間、下宮の回廊におられましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　しょうぐんけ　やぶさめ　　み　　　ため　　　ばば　　　おんさじき　　い　　 たま
延應元年(1239)八月小十六日癸丑。�ﾘ。將軍家流鏑馬を覽ん爲、馬塲の御棧敷に出で御う。

さこんたいふしょうぐねんつねとき　　うまのすけみつとき　おんこしよせ　　そうら
左近大夫將監經時、 右馬助光時 御輿寄に候う。

おりべのしょうみつしげ ぎょけん　えき　　 さきのぶしゅう おっ　 さん　 せし　 たま
 織部正光重 御劔を役す。前武州 追て參じ令め給ふ。

たいふほうがんやすつな　〔いのえこふたり　　ぐ　　　〕　　でわのほうがんいえひら　 おんいで　　ぐぶせず　　いへど　　　べつ　　　 おお　　　 よっ　　　ばば　　　けいご
大夫判官泰綱〔家子二人を具す〕、出羽判官家平、御出に供奉不と雖も、別なる仰せに依て馬塲を警固す。

むつのかもんのすけさねとき おんさじき　　まえ　　そうら　　〔しょうじ　　ざ　　　〕
陸奥掃部助實時 御棧敷の前に候う〔床子に坐す〕。

現代語延応元年(1239)八月小十六日癸丑。将軍頼経様は流鏑馬を見るために、流鏑馬馬場の仮設観覧席へお出でです。左近大夫将監北条経時・右馬助北条光時は、輿を降ろす場所に控えました。織部正伊賀光重が刀持ちです。前武州泰時さんが追い駆けるように出席してきました。大夫判官佐々木泰綱〔家に仕える部下二人を連れてます〕・出羽判官中条家平はお出かけのお供ではないが、特別な命令で馬場を警備しました。陸奥掃部助北条実時は、仮設観覧席の前におります〔折畳椅子の床几に座ってます〕。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　にとうのおんかたはじ　　　おおくら　　ごさんじょ　　 わた　　たま
延應元年(1239)八月小廿二日己未。霽。二棟御方始めて大倉の御産所へ渡り御う。

現代語延応元年(1239)八月小二十二日己未。晴れました。二棟御方(将軍頼経様の妾で大宮殿)が初めて大倉に指定した出産所へ引っ越しました。

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