吾妻鏡入門第卅三巻

延應二年庚子(1240)正月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　おうばん　〔しょうさく　　　ごさた　　〕　　　 ぎょけん　うまごんのかみ　〔まさむら　ほい　〕
延應二年(1240)正月大一日丙寅。天�ﾘ。垸飯〔匠作の御沙汰〕。御劔は右馬權頭〔政村布衣〕。

おんゆみや　　むさしのかみともなお　おんむかばきくつ　さどのぜんじもとつな
御弓矢は武藏守朝直。 御行騰沓は佐渡前司基綱。

　 いちのおんうま　〔くら　　お　　〕　さがみしきぶのだいぶときなお　　　　　　　　　　さわらのろくろうひょうえのじょうときつら
　一御馬〔鞍を置く〕相摸式部大夫時直　　　　　佐原六郎兵衛尉時連

　 　にのおんうま　　　　　　　　　　さがみのしちろうときひら　　　　　　　　　　　　　ほんまのげんないさえもんのじょうただなお
　二御馬　　　　　相摸七郎時弘　　　　　　　本間源内左衛門尉忠直

　 さんのおんうま　　　　　　　　　　さわらのたろうさえもんのじょうたねいえ　　　　 どうしろうさえもんのじょうみつつら
　三御馬　　　　　佐原太郎左衛門尉胤家　　　同四郎左衛門尉光連

　 　しのおんうま　　　　　　　　　　きらのおおとねりのすけまさひら　　　　　　　　　はらのしろうさえもんのじょうやすつな
　四御馬　　　　　吉良大舎人助政衡　　　　　原四郎左衛門尉泰綱

　 　ごのおんうま　　　　　　　　　　さがみのうこんたいふしょうげんときさだ　　　　 やましろのぜんじもとただ
　五御馬　　　　　相摸右近大夫將監時定　　　山城前司元忠

きょう　きっしょ　　み　　　　　おうばん　いご　　しょうぐんけみゆきはじめ　さきのぶしゅう　おんてい　い　　　たま　　　　しゅりのりょうときゆきぎょけん　も
今日吉書を覽る。垸飯以後、將軍家御行始。 前武州の御亭へ入り御う。修理亮時幸�@御劔を持つ。

うまごんのかみまさむら　いげ　すうやから　ぐぶ　　　　うんぬん
右馬權頭政村以下の數輩供奉すと云々。

参考�@修理亮時幸は、朝時四男。

現代語延応二年(1240)正月大一日丙寅。空は晴です。将軍への御馳走のふるまい〔匠作時房さんの負担〕。刀の献上は右馬権頭〔政村で狩衣(武家社会での束帯に次ぐ礼装)〕。弓矢の献上は武蔵守朝直。乗馬袴と乗馬沓は佐渡前司後藤基綱。
　一頭目の馬〔鞍置〕は、相摸式部大夫時直と佐原六郎兵衛尉時連
　二頭目は、相模七郎時弘と本間源内左衛門尉忠直
　三頭目は、佐原太郎左衛門尉胤家と同じ佐原四郎左衛門尉光連
　四頭目は、吉良大舎人助政衡と原四郎左衛門尉泰綱
　五頭目は、相模右近大夫将監時定と山城前司本間元忠
今日、文書初め式をしました。御馳走ふるまいの後、将軍頼経様の外出始めです。前武州泰時さんの屋敷へ入られました。修理亮時幸が太刀持ちです。右馬権頭政村以下の数人がお供をしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　おうばん　〔さきのぶしゅう　ごさた　　〕　　　 ぎょけん　するがのかみありむら　おんゆみや　かいのかみやすひで
延應二年(1240)正月大二日丁夘。天�ﾘ。垸飯〔前武州の御沙汰〕。御劔は駿河守有村。御弓矢は甲斐守泰秀。

おんむかばき　あいだのじょうすけよしかげ
御行騰は秋田城介義景。

　 いちのおんうま　〔くら　　お　　〕　ほうじょうさこんたいふしょうげんつねとき　　　しなののさぶろうさえもんのじょうゆきつな
　一御馬〔鞍を置く〕北條左近大夫將監經時　　信濃三郎左衛門尉行綱

　 　にのおんうま　　　　　　　　　ほうじょうのごろうひょうえのじょうときより　　　おうみのしろうさえもんのじょううじのぶ
　二御馬　　　　　北條五郎兵衛尉時頼　　　近江四郎左衛門尉氏信

　 さんのおんうま　　　　　　　　　むつのかもんのすけさねとき　　　　　　　　 いとうのろくろうさえもんのじょうすけもり
　三御馬　　　　　陸奥掃部助實時　　　　　伊東六郎左衛門尉祐盛

　 　しのおんうま　　　　　　　　　 たいらのしんさえもんのじょうもりとき　　　　 どうしろう
　四御馬　　　　　平新左衛門尉盛時　　　　同四郎

　 　ごのおんうま　　　　　　　　　 むつのしちろうときなお　　　　　　　　　　　なんじょうはちろうひょうえのじょうただとき
　五御馬　　　　　陸奥七郎時尚　　　　　　南條八郎兵衛尉忠時

ばん　 およ　　　 わかぎみごぜん　みゆきはじめ　〔おんこし〕　　さきのぶしゅう　おんてい　うんぬん
晩に及び、若君御前の御行始〔御輿〕。前武州の御亭と云々。」

いぬのこく　すいせいさる　かた　しゅつげん　ぼうきさんじゃく　　たつみ　かた　 さ　　　 いろ　 しろあか　　さきのおんみょう ごんのすけ ちかもとあそん さいぜん　　ごしょ　　さん　　もう
戌刻、 彗星申の方に出現。芒氣三尺。巽の方を指す。色は白赤。　前陰陽　權助 親職朝臣 最前に御所へ參じ申す。

さだかずもうしつぎ　うんぬん　　ただ　　これ　　きょねん じうにがつみそか　よる しゅつげん　　ひとびとこれ　　み　　　　　うんぬん
定員申次と云々。但し此、 去年 十二月晦の夜 出現し、人々之を見ると云々。

現代語延応二年(1240)正月大二日丁卯。空は晴です。将軍への御馳走のふるまい〔前武州泰時さんの負担〕。刀の献上は駿河守三浦有村。弓矢の献上は甲斐守長井泰秀。乗馬袴と乗馬沓は秋田城介安達義景。
　一頭目の馬〔鞍置〕は、北条左近大夫将監経時と信濃三六郎左衛門尉二階堂行綱
　二頭目は、北条五郎時頼と近江四郎左衛門尉佐々木氏信
　三頭目は、陸奥掃部助北条実時と伊東六郎左衛門尉祐盛
　四頭目は、平新左衛門尉盛時と同平四郎
　五頭目は、陸奥七郎時尚と南条八郎兵衛尉忠時
夜になって、若君様の外出始め〔輿〕、前武州泰時さんの屋敷だそうな。」
午後八時頃、彗星が西南西の方角に現れました。箒の長さは三尺(90ｃｍ)で東南を指しています。色は白っぽい赤。前陰陽権助親職さんが一番に御所へ報告に来ました。藤原定員が取り次ぎました。但し、これは去年十二月三十日の夜に現れて、多くの人が見ていましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　よ　　　い　　　くも　　　　きょう　おうばん　〔えつしゅう　　ごさた　〕
延應二年(1240)正月大三日戊辰。天�ﾘ。夜に入り陰り。今日垸飯〔越州が御沙汰〕。

ぎょけん　びぜんのかみときなが　ごちょうど　　いずのかみよりさだ　　おんむかばき　でわのかみゆきよし
御劔は備前守時長。御調度は伊豆守頼定。御行騰は出羽守行義。

　 いちのおんうま　〔くら　　お　　〕　とおとうみのごろうときかね　　　　　　　　　　こいでさえもんのじょう
　一御馬〔鞍を置く〕遠江五郎時兼　　　　　小井弖左衛門尉

　 　にのおんうま　　　　　　　　　　かさまのさえもんのじょうときとも　　　　うつのみやのごろうさえもんのじょうむねとも
　二御馬　　　　　笠間左衛門尉時朝　　　宇都宮五郎左衛門尉宗朝

　 さんのおんうま　　　　　　　　　　しなののさぶろうさえもんのじょうゆきつな　　どうしろうさえもんのじょうゆきただ
　三御馬　　　　　信濃三郎左衛門尉行綱　同四郎左衛門尉行忠

　 　しのおんうま　　　　　　　　　　むつのしちろうときなお　　　　　　　　　やまとのほうがんだいじろうむねつな
　四御馬　　　　　陸奥七郎時尚　　　　　大和判官代次郎宗綱

　 　ごのおんうま　　　　　　　　　　さがみさこんしょうげん　　　　　　　　　　どうしちろう
　五御馬　　　　　相摸左近將監　　　　　同七郎

現代語延応二年(1240)正月大三日戊辰。空は晴です。夜になって曇りました。将軍への御馳走のふるまい〔越州朝時さんの負担〕。刀の献上は備前守北条時長(朝時息)。弓矢の献上は伊豆守源頼定。乗馬袴は出羽守二階堂行義。
　一頭目の馬〔鞍置〕は、遠江五郎北条時兼(朝時五男)と小井弖左衛門尉
　二頭目は、笠間左衛門尉時朝と宇都宮五郎左衛門尉宗朝
　三頭目は、信濃三郎左衛門尉二階堂行綱と同四郎左衛門尉二階堂行忠
　四頭目は、陸奥四郎時尚と大和判官代次郎宗綱
　五頭目は、相模左近将監時定と同七郎時弘

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　いぬのこく　 さる　 かた　すいせい しゅつげん　ぼうき よんしゃく　たつみ　かた　　さ　　　　　いろ　　しろあか　　あかいろすくな
延應二年(1240)正月大四日己巳。�ﾘ。戌刻。申の方に彗星 出現。芒氣 四尺。巽の方を指す。色は白赤。々色少し。

もとだい　　　　　　しんせい　　ごと　　　　うんぬん
本大なるは填星の如しと云々。

現代語延応二年(1240)正月大四日己巳。晴れです。午後8時頃、彗星が西南西の方角に現れました。箒の長さは四尺(120cm)で東南を指しています。色は白っぽい赤。赤色は少しです。本星の大きさは土星ぐらいだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 よ　　　い　　　あめふ　　　　さきのぶしゅう　おんてい　しょうさく　えんしゅう　かいのかみいげ　　きゃくじんまいられ
延應二年(1240)正月大五日庚午。夜に入り雨降る。前武州の御亭に匠作、遠州、甲斐守以下の客人參被る。

てんぺん　 こと　　よっ　　　　ごしゅえんすうこん　 およばず　ことさら　おんひきでもの あ　　　　うんぬん
天變の事に依て、御酒宴數獻に不及。故に 御引出物 有りと云々。

現代語延応二年(1240)正月大五日庚午。夜になって雨が降りました。前武州泰時さんの家に、匠作時房さん、遠州朝時さん、甲斐守長井泰秀さんなどのお客さんが来ました。天の運航の異常についてなので、酒は少しだけでしたので、格別に引き出物がありましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　よ　　　い　　 くも　　　 すいせいあらわ ず
延應二年(1240)正月大六日辛未。天�ﾘ。夜に入り陰り。彗星現れ不。」

きょう ゆみはじめなり
今日 弓始也。

　いて
射手

　　いちばん　ささきのはちろうさえもんのじょう　　　きつじうえもんのじょう
　一番　佐々木八郎左衛門尉　橘次右衛門尉

　　　にばん　　かみちのしろう　　　　　　　　　　　　こもろのさえもんのじょう
　二番　神地四郎　　　　　　小諸左衛門尉

　　さんばん　　ほんまのげんないさえもんのじょう　　ひろかわのごろう
　三番　本間源内左衛門尉　　廣河五郎

　　よんばん　　しもこうべのさえもんじろう　　　　　　あきばのこじろう
　四番　下河邊左衛門次郎　　秋庭小次郎

　　　ごばん　　よこみぞのろくろう　　　　　　　　　　　ふじさわのしろう
　五番　横溝六郎　　　　　　藤澤四郎

現代語延応二年(1240)正月大六日辛未。空は晴です。夜になって曇りましたので、彗星は現れません。」
今日は、弓始め式です。射手は
一番　佐々木八郎左衛門尉信朝　対　橘次右衛門尉
二番　神地四郎　対　小諸左衛門尉
三番　本間源内左衛門尉忠直　対　広川五郎
四番　下河辺左衛門次郎宗光　対　秋庭小次郎
五番　横溝六郎義行　対　藤沢四郎清親

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　いぬのこく　すいせい さいせい　かたわら　あらわ　〔あいさ　　　　　　　さんじゃくよ　　　ところ〕
延應二年(1240)正月大七日壬申。天�ﾘ。戌剋。 彗星 歳星の 傍に現る〔相去ること三尺餘の所〕。

ぼうき　うしとら　かた　 さ　　　　 こうぼうごしゃく　 じくせいだい　　　　　　たいはく　　ごと
芒氣艮の方を指す。光芒五尺。軸星大なるは大白の如し。

現代語延応二年(1240)正月大七日壬申。空は晴です。午後8時頃、彗星が歳星木星のそばに現れました〔離れているのは三尺(90ｃｍ)ちょいの所です〕。箒は北東を指しています。光の箒は五尺(150cm)。本星の大きさは金星ぐらいです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いぬのこく　すいせい さいせい　ちか　　　　　　〔あいさ　　　　　　　　にしゃくよ　　　　ところ〕　　きょう　　てんぺん　　おいのりごま　　しぎょうされ
延應二年(1240)正月大八日癸酉。戌刻。彗星 歳星に近づく。〔相去ること二尺餘の所〕今日、天變の御祈護摩を始行被る。

　　やくし　　　　じょうかいほういん　　　しじょうこう　　さいしょうそうじょう
　藥師　　承快法印　　熾盛光�@ 　宰相僧正

　　そんじょうおう　どうぜんほういん　　はちじもんじゅ　　りょうしんほういん
　尊星王�A 道禪法印　　八字文殊　良信法印

参考�@熾盛光は、仏身から発する光明。
参考�A尊星王は、北極星を神格化したもので、妙見菩薩ともいわれる。

現代語延応二年(1240)正月大八日癸亥。午後八時頃、彗星は歳星木星に近づきました〔離れているのは二尺(60cm)の所です〕。今日、天の運航の異常を鎮めるお祈りや護摩炊きを始めました。
　薬師如来は、承快法印。熾盛光は、宰相僧正。
　妙見菩薩は、道禅法印。八字文殊法は、良信法印。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　すいせい くもま　　すか　　　　ぼうきふめい
延應二年(1240)正月大九日甲戌。彗星雲間に透す。芒氣不明。

現代語延応二年(1240)正月大九日甲戌。彗星は雲間の透き通って見えます。箒の大きさは不明です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あめふる　たつのこくらいめい　こんやすいせい あらわ ず
延應二年(1240)正月大十日乙亥。雨降。辰刻雷鳴。今夜彗星 現れ不。

現代語延応二年(1240)正月大十日乙亥。雨降りです。午前八時頃雷です。今夜は彗星は現れません。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いぬのこく　すいせい へきいっせい　おか　　　　〔あいさ　　　　　　　　　いっしゃくよ　　ところ〕　どうじ　　　　 つき 　とういせい　　い
延應二年(1240)正月大十一日丙子。戌尅。彗星 壁一星を犯す。〔相去ること一尺餘の所〕同時に、月 東井星�@に入る。

参考�@東井星は、双子座。HP「吾妻鏡」に見える彗星と客星について・湯浅吉美から

現代語延応二年(1240)正月大十一日丙子。午後八時頃、彗星が壁宿第一星(ペガサス坐ガンマ星)を犯す〔距離は一尺(30cm)位〕。同じ時、月が東井星(双子座)に入りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　たつのこくぢしん
延應二年(1240)正月大十三日戊寅。辰刻地震。

現代語延応二年(1240)正月大十三日戊寅。午前8時頃地震です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ごしょ　　をい　　　　てんちさいへんさい　　おこなはれ　　　これのりあそんこれ　 ほうし
延應二年(1240)正月大十四日己夘。御所に於て、天地災變祭を行被る。維範朝臣之を奉仕す。

しょうぐんけまつり　 にわ　いでたま　　　すおうのぜんじちかざねおんしたり
將軍家祭の庭に出御う。周防前司親實御使爲。

現代語延応二年(1240)正月大十四日己卯。御所で、天変を祈る天地災変祭を行いました。維範さんがこれを勤めました。将軍頼経様は祭を行っている庭に出ました。周防前司中原親実が代参です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ひょうじょうはじ　なり　　さきざきしょうがついご　　これ　 おこな　　いへど　　すいせい　 こと　 よっ　　かく　　ぎ　　　およ　　　　うんぬん
延應二年(1240)正月大十五日庚辰。評定始め也。先々正月以後に之を行うと雖も、彗星の事に依て此の義に及ぶと云々。

さきのぶしゅまいられ
前武州參被る。

　　　　ひょうじょうしゅう
　　評定衆

　　うまごんのかみ　　　　　　　むさしのかみ　　　　　　せっつのぜんじ
　右馬權頭　　　武藏守　　　　攝津前司

　　さどのぜんじ　　　　　　　　でわぜんじ　　　　　　　あいだのじょうすけ
　佐渡前司　　　出羽前司　　　秋田城介

　　だざいのしょうに　　　　　　つしまのぜんじ　　　　　かがみんぶたいふ
　　大宰小貳　　　對馬前司　　　加賀民部大夫

　　おおたのみんぶたいふ　せいうえもんたいふ　　　さとうみんぶたいふ
　太田民部大夫　�C右衛門大夫　佐藤民部大夫

現代語延応二年(1240)正月大十五日庚辰。政務会議始めです。もっと早くこれを行うべきでしたが、彗星の異変があったのでこの時期になりました。前武州泰時さんが来られました。会議のメンバーは、右馬権頭北条政村・武蔵守北条朝直・摂津前司中原師員・佐渡前司後藤基綱・出羽前司二階堂行義・秋田城介安達義景・太宰少貳狩野為佐・対馬前司三善矢部倫重・加賀民部大夫町野康持・太田民部大夫康連・清原右衛門大夫季氏・佐藤民部大夫業時

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 つるがおかぐうじ　　をい　　　　ひゃっく　　そう　　し　　 におう ひゃっこう　おこなわれ　　しょうぐんけぎょさんあ
延應二年(1240)正月大十七日壬午。鶴岡宮寺に於て、百口の僧を令て仁王百講を行被る。將軍家御參有り。

これ　すいせい　しゅつげん　こと　 よっ　　なり　　こ　　　ほか　　おいのりら
是、彗星の出現の事に依て也。此の外の御祈等。

　　はこね　ほんち　ごま　〔えんしんほうしん〕　　　　　　いずさん　ほんち　ごま　〔けんちょうほういん〕
　筥根本地護摩〔圓親法印〕　　伊豆山本地護摩〔賢長法印〕

　　しちだんほくとぐ
　七壇北斗供

　　　　ちゅうだん　　　　あんじょうじそうじょう
　　中壇　　　安祥寺僧正

　　　　わきだん　　　　　ていがそうづ　　　　　　じょうえそうづ　　　じょうせいそうづ
　　脇壇　　　定雅僧都　　成惠僧都　定�C僧都

　　　　　　　　　　　　　　せいしんそうづ　　　　　りゅうべんそうづ　　しゅかいそうづ
　　　　　　　征審僧都　　隆弁僧都　守海僧都

　　あいぜんおうほう　　　ないだいじんほういん
　愛染王法　　内大臣法印

　　てんそうちふさい　　　ごんのれきはくじさだまさあそん
　天曹地府祭　權暦博士定昌朝臣

ひょうえくらんどちかすえおんしたり
兵衛藏人親季御使爲。

現代語延応二年(1240)正月大十七日壬午。鶴岡八幡宮寺で、百人の坊さんによる仁王経を百人で読み上げる仁王百講をしました。将軍頼経様もお出でです。これは彗星の出現による異変を押さえるためなのです。この他のお祈りは、
箱根神社本地？護摩炊き〔円親法印〕。伊豆山走湯山神社本地？護摩炊き〔賢長法印〕。
七人の坊さんで北斗七星を祈る・中央が安祥寺僧正良瑜。脇の人達は、定雅僧都・成恵僧都・定清僧都・征審僧都・隆弁僧都・守海僧都。
愛染明王のお経は、内大臣法印。天曹地府祭は、権暦博士安陪定昌さん。
兵衛蔵人親季が代参です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 すいせい　けい　　ちか　　　さんぬ　よ　よ　　　　　ごしょ　　 をい　 ぞくしょうさい　おこなわれ　　　はるかたあそんこれ　 ほうし
延應二年(1240)正月大十八日癸未。彗星 奎�@に近し。去る夜自り、御所に於て属星祭を行被る。�ﾘ賢朝臣之を奉仕す。

こんや　　しょうぐんけまつり　にわ　いでたま　　　　うまごんかみまさむらおんしたり
今夜、將軍家祭の庭に出御う。右馬權頭政村御使爲。

参考�@奎は、二十八宿の一。西方の星宿。奎宿。とかきぼし。アンドロメダ座のアルファ星からガンマ星に至るほぼ一直線に並んだ星の和名。アンドロメダ座と魚座にまたがる。Goo電子辞書から

現代語延応二年(1240)正月大十八日癸未。彗星がとかきぼしに近づきました。昨夜から御所で属星祭を行いました。安陪晴賢さんが勤めました。今夜は将軍頼経様が祭の庭にお出になられ。右馬権頭北条政村が代参です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 すいせい けいちゅう　い　　　　こんゆうかさ　　　　へんい　　おいのり　おこなわれ　　　しちようぐ　　ちんよほういん
延應二年(1240)正月大十九日甲申。彗星 奎中に入る。今夕重ねて變異の御祈を行被る。七曜供は珎譽法印。

ねのこく　　ごしょ　　をい　　さんまんろくせんしんさい　おこなわれ　さきのおおおくらたいふ やすさだあそん これ　ほうし
子尅、御所に於て三万六千神祭を行被る。 前大藏大夫 泰貞朝臣 之を奉仕す。

さまのかみよしうじあそん　　　　さた　なり　　おんし　　くらごんのかみすけちか　　しょうぐんけまつり　にわ　いでたま　　　うんぬん
左馬頭義氏朝臣が沙汰也。御使は内藏權頭資親。將軍家祭の庭に出御うと云々。

またしちざ　　たいさんふくんさいあ　　　　ひろつね　 すけとし　 はるしげ　くにつぐ　はるひで　すけのぶ　はるなおら ほうし
又七座の泰山府君祭有り。廣經、資俊、�ﾘ茂、國継、�ﾘ秀、資宣、�ﾘ尚等奉仕す。

くらごんのかみすけちか　あきのかみちかみつ　ひょうえくらんどちかいえ　いじょうさんにんおんし　 つと　　　 しょうぐんけいでたま
内藏權頭資親、 安藝守親光、兵衛藏人親家の以上三人御使を勤む。將軍家出御う。

にょほうたいさんふくんさい　ちかもとあそんさとていに おこな
如法泰山府君祭、親職朝臣里亭于行う。

あきのかみちかみつ おんしたるなり　さいりょう　　たま　　　　のうえ　　おんうま　〔くら　　お　　　〕　　ぎょけん　〔　くへい　〕　おんそうしばこ　〔いちごう〕　など　 つか　　さる　　　　うんぬん
安藝守親光 御使爲也。祭料を賜はる之上、御馬〔鞍を置く〕御釼〔九柄〕御双子筥〔一合〕等を遣は被ると云々。

現代語延応二年(1240)正月大十九日甲申。彗星がとかきぼしに入りました。今日夕方昨夜に続けて天変の祈りを行いました。七曜のお経は珎与法印。
夜中の0時頃御所で三万六千神祭を行いました。前大蔵大夫安陪泰貞さんがこれを勤めました。左馬頭足利義氏さんの負担です。代参は内蔵権頭資親です。
将軍頼経様は庭に出て立会いましたとさ。
又、七人での泰山府君祭もありました。広経・資俊・晴茂・国継・晴秀・資宣・晴尚さん達が勤めました。内蔵権頭資親・安芸守親光・兵衛蔵人親家の三人が代参を勤めました。将軍頼経様もそばにいました。
規則通りにやる泰山府君祭を親職さんは、自宅で行いました。安芸守親光が代参です。祭りの代金をあげたばかりか、馬〔鞍置〕と刀〔柄が九巻〕と紙箱〔一合〕などを贈らせましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 おいのりら　　ため　　かさ　　　　ごま　　　しゅうされ
延應二年(1240)正月大廿日乙酉。御祈等の爲、重ねて護摩を修被る。

　　きんりん　〔さだいじんほういん〕　　　　ふどう　〔しんちゅうほういん〕
　金輪�@〔左大臣法印〕　不動〔眞忠法印〕

　　ぶつげん　〔さいしょうそうづ〕　　　　ごだい　こくぞう　〔げんゆそうづ〕　
　佛眼�A〔宰相僧都〕　　五大虚空藏〔嚴瑜僧都〕

　　こんろんぐ　〔どうぜんほういん〕
　金輪供〔道禪法印〕

いぬのこく　すいせいしゅつげん　さんぬ　じうしちにちよ　　　こんや　　いた　　　　こうぼう　しだい　　さか　　なり
 戌刻。 彗星出現。 去る十七日自り今夜に至り、光芒次第に盛ん也。

参考�@金輪は、一字金輪。密教で大日如来が最高の境地に入った時に説いた真言（ぼろん）の一字を人格化した仏。また、一字金輪仏を本尊とする修法を一字金輪法という。一字金輪仏頂。ウィキペディアから
参考�A仏眼は、五眼の一つで一切を見通す。密教で崇められる仏の一尊。真理を見つめる眼を神格化した経典。

現代語延応二年(1240)正月大二十日乙酉。お祈りのために、続けて護摩炊きを勤めました。
一字金輪〔左大臣法印定親〕。お不動様の護摩炊き〔真忠法印〕。真理を見つめる経典〔宰相僧都〕。五大虚空蔵菩薩〔厳瑜僧都〕。一字金輪供養〔道禅法印〕
午後8時頃、彗星が現れました。先日の十七日から今夜まで、光の箒が益々明るくなってきました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 せいさえもんのじょうみつさだ　ひょうじょうしゅう　くは　　　　うんぬん
延應二年(1240)正月大廿二日丁亥。�C左衛門尉滿定、 評定衆に 加うと云々。

現代語延応二年(1240)正月大二十二日丁亥。左衛門尉清原満定を政務会議に加えましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　しょうさく　にはか　　ごいれい　 たつのこくいご こと　　しんく
延應二年(1240)正月大廿三日戊子。霽。匠作、俄に御違例。辰刻以後殊に辛苦。

にっちゅう　およ　　　さきのぶしゅう　あしかがさてんきゅうら　いた　とぶら　せし　 たま　　　　うんぬん
日中に及び、前武州、足利左典厩等 至り訪は令め給ふ�@と云々。

参考�@至り訪はせしめは、良くわからない。「至り」は極みの意味もあるので、年を見極めての意味かも知れない。訪うは見舞。

現代語延応二年(1240)正月大二十三日戊子。晴れました。匠作時房さんが急に病気になりました。午前8時以後特に苦しんでいます。昼頃になって前武州泰時さん、左典厩足利義氏達は、覚悟をして見舞に行きましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　こんぎょうしょうしいのげぎょう しゅりごんのたいふ たいらのあそんときふさ そつ　　　〔ろくじうろく〕
延應二年(1240)正月大廿四日己丑。天�ﾘ。今曉正四位下行　修理權大夫　平朝臣時房 卒す。〔六十六〕

きのうたつのこくよ　　くちごもられ　　さんぬ　よ　た　　　い　　　　　これ　　も　　　　 だいちゅうぶうか　うんぬん
昨日辰刻自り口籠被、去る夜絶へ入る。是、若しや大中風歟と云々。

きょう うまのこく そっきょ のよし　　ひろう　　およ　　　　いへど　　　しんじつ　へいがんは　こんぎょう うしのとき　うんぬん
今日午刻卒去之由、披露に及ぶと雖も、眞實の閉眼者、今曉 丑時と云々。

現代語延応二年(1240)正月大二十四日己丑。空は晴れました。今朝がた、正四位下行修理権大夫平朝臣北条時房が亡くなった〔六十六才〕。昨日の午前八時から口が回らなくなり、昨夜意識が無くなりました。これはもしかしたら重症の中風かも知れない。今日昼頃に亡くなったと発表しましたが、本当の瞑目は、今朝の午前2時頃だったそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いぬのこく すいせい しゅげん　　おうりょうだいごせい　　おか　　　　こうぼうびはく
延應二年(1240)正月大廿六日辛夘。戌刻 彗星 出現す。王良第五星�@を犯す。光芒微薄。

参考�@王良第五星は、カシオペア座ラムダ星又はアルファ星。

現代語延応二年(1240)正月大二十六日辛卯。午後八時頃、彗星が現れました。カシオペア座ラムダ星を犯しました。光の箒は薄くなりました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ことし しょうぐんけ ごじょうらくあ　　　べ　　　のよし　　おぼ　　め　　　た　　　　いへど　　 すいせいれんや しゅつげんのあいだ
延應二年(1240)正月大廿七日壬辰。今年將軍家御上洛有る可き之由、思し召し立つと雖も、彗星連夜 出現之間、

きゅうみん　なぐ　　られ　　のじょう　わざわい　はら　じょうけいたるべ　　のよし　　　ごさた　 あ　　　　　えんいん
窮民を慰め被る之條、 災を攘う上計爲可き之由、御沙汰有りて延引す。

　そ　　しさい　　　　ろくはら　　おお　　らる　　べ　　のところ　さきのぶしゅう しょうさく　きょうぶく　　よっ　　　　みぎょうしょ　　なされず
其の子細を六波羅へ仰せ被る可き之處、前武州 匠作の輕服に依て、御教書を成被不。

　ず　　もとつな　ぎょうねんら おお　　うけたまは　ほうしょ　 けん　　　 そ　　　じょう　かきよう
先ず基綱、行然等仰せを承り 奉書を献ず。其の状の書樣。

　　ことし　　　ごけいじょうごえんいん すで　をはんぬ　ひと　　　　これどみんのわずら　　　なぐさ　　 ため　 かつう　また　 てんぺん　おいのりたるなり
　今年の御京上御延引 已に畢。 偏へに是土民之煩ひを慰めん爲、且は又、天變の御祈爲也。

　　かく　　むね　　ぞん　　　きない　よ　　　はじ　　　 ちんぜいにいた　　　　　　　ごけにんら　　ふれおお　　らる　　べ　　　のじょう　　おお　　　　よっ　　しったつくだん　　ごと
　此の旨を存じ。畿内自り始め、鎭西于至るまで、御家人等に觸仰せ被る可き之状、仰せに依て執逹件の如し。

　　　　　　えんおうにねんしょうがつにじうしちにち　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しゃみ
　　　延應二年正月廿七日　　　　　　　　　　　　　　　　　沙弥

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さきのさどのかみ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　前佐渡守

　　しんじょう　　さがみのかみどの
　進上　　相摸守殿（北條重時）

現代語延応二年(1240)正月大二十七日壬辰。今年、将軍頼経様は京都へ上るのだと思いついて仕度をさせましたが、彗星が毎夜現れ良くない前兆なので、生活に困っている人々を援けるためには、災いを追い払う良い策を行うべきだとお決めになられ延期しました。その詳しい内容を六波羅探題へ連絡するのだけど、泰時さんは時房さんの喪に服しているので、穢れで命令書を発出できません。それでひとまず、後藤基綱・二階堂行然(行盛)が将軍の仰せを受けて文章にしてお見せしました。その命令書の内容は
　今年の京都へ上る事の延期は決しました。これは庶民の負担を減らすためと天の異変のお祈りのためです。その内容を承知して、関西から九州まで御家人にお知らせするようにとの、仰せはこの通りなのでお知らせします。
　　　　　延応二年正月二十七日　　　　　　　　　　　　沙弥
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　前佐渡守
　　　　お知らせします　相模守北条重時殿

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吾妻鏡入門第卅三巻