吾妻鏡入門第卅四巻

仁治二年辛丑(1241)四月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ごしょ　　ひがし　わたろう　　をい　　　 せんど　　おはらい　 おこなはれ　　　しょうぐんけ　　こごしょ　　れんちう　　　おは
仁治二年(1241)四月小二日庚申。御所の東の渡廊に於て、千度の御秡を行被る。將軍家、小御所の簾中に御坐す。

やすさだ　はるかた　のぶかた　くにつぐ　すけのぶ　ひろすけ　やすふさ　はるひら　はるなお　はたかねら これ　 ほうし
泰貞、�ﾘ賢、宣賢、國継、資宣、廣資、泰房、�ﾘ平、�ﾘ尚、泰兼等之を奉仕す。

くらごんのかみすけちか れんか　そうら　　　おんあがもの　 すす　 せし　　　　しょやく　　しょだいぶごにん　　　てなが　　こさむららなり
内藏權頭資親簾下に候ひ、御贖物�@を進ま令む。所役は諸大夫五人。手長は小侍等也。

ろく　おのおの　きぬいっぴき　まんどころ　さたしん　　　　うんぬん
祿は各、絹一匹。政所 沙汰進ずと云々。

参考�@御贖物は、撫物の人形（ひとがた）。体の穢れを撫でて水の流れに流す。

現代語仁治二年(1241)四月小二日庚申。御所の東の渡り廊下で、千回のお祓いを行いました。将軍頼経様は、小御所の御簾の中におられます。安陪泰貞・晴賢・宣賢・国継・資宣・泰房・晴平・晴尚・泰兼などがこれを勤めました。内蔵権頭資親が御簾の下に行って撫物の人形を献上しました。用意する役は五位の人5人。運ぶ人は小侍所属の人達です。褒美は、絹一匹。政務事務所が用意しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　いぬのこく おおぢしん　みなみかぜ　ゆいのうら　 おおとりいない　はいでん　　しお　ひかれりゅうしつ
仁治二年(1241)四月小三日辛酉。霽。戌尅 大地震。南風。由比浦の大鳥居内の拝殿�@、潮に引被流失す。

ちゃくがん　ふねじうよそう　はそん
着岸の船十餘艘破損す。

参考�@大鳥居内の拝殿は、大鳥居は鎌倉市由比ガ浜２丁目3地先の発掘された大鳥居跡と思われ、鳥居の下に拝殿があった事が分かる。又、この辺りまで浦が入っていたものと思われる。

現代語仁治二年(1241)四月小三日辛酉、晴れました。午後八時頃大地震です。南風が吹いて、由比浦の大鳥居内の拝殿が、津波に流されてなくなりました。又、着岸していた船が十数艘も壊れました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　むつらみち　　はじ　　　 つくられ
仁治二年(1241)四月小五日癸亥。霽。六浦道を始めて造被る。

これ　きゅうそく　　　さた　あ　　　べ　　　のよし　　きょねん　 ふゆひょうぎ　 へ られ　　　いへど　　　しんみち　 はじ　 られ　 だいぼんどたるのあいだ
是、急速の沙汰有る可き之由、去年の冬評議を經被ると雖も、新路を始め被、大犯土爲之間、

みょうしゅん さんがつ　いご つくられ　 べ　　 のむね　　かさ　　　　ちじょう　　　　うんぬん
 明春 三月 以後造被る可き之旨、重ねて治定すと云々。

よっ　　きょう　　　さきのぶしゅう　そ　ところ　かんりんせし　 たま　 のあいだ　　しょにんぐんしゅう　 おのおの　どせき　 はこ　　　　うんぬん
仍て今日、前武州 其の所に監臨令め給ふ之間、諸人群集し、 各　土石を運ぶと云々。

現代語仁治二年(1241)四月小五日癸亥。晴れました。六浦道の工事に着工しました。これは、急ぐように去年の十二月に会議をしましたが、新しい道を開くことになり、大工事になるので、来春3月以後にしようと改めて決めたんだそうな。それで今日、泰時さんはその現場を視察したので、人々は集まって土や石を運びましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　たけだのいずにゅうどうこうれん　さんぬ　つき　　ごさたの　おもむき　もれき　　　　　こと　　これ　 しゃ　 もう
仁治二年(1241)四月小十六日甲戌。武田伊豆入道光蓮、去る月の御沙汰之趣を漏聞き、殊に之を謝し申す。

もとよ　　　いしん　　ぞんぜずのところ　ちまた　せつ あ　　　 よっ　　　　いまさら　　　ごさた　　　 およ　　か　　 かつう　おどろ　ぞん　　　かつう　きょうふ　　　　うんぬん
本自り異心を不存之處、巷の説有るに依て、今更に御沙汰に及ぶ歟。且は驚き存じ、且は恐怖すと云々。

あまつさ　　ししそんそん　　いへど　　　あ　　　　　あくじ　　くわだ　あ　　　べからずのむね　　きしょうもん　　か　　　　　へいさえもんのじょうもりつな　ふ　　　　さきのぶしゅう　けん
剩さへ子々孫々と雖も、敢へて惡事の企て有る不可之旨、起請文を書き、平左衛門尉盛綱に付し、前武州に献ず。

すなは　これ　めしおかれ　　きょう　ひょうじょうのついで　 もっ　　　せいさえもんのじょうみつさだ　し　　しゅうちう　　かいらん　　　 きしょう　　ししゅ　しか　　べ
即ち之を召置被、今日の評定之次を以て、�C左衛門尉滿定を令て衆中に廻覽す。起請の旨趣然る可し。

しょにんおな　　　かく　　ことあ　　　べ　　　 のよし　　 ぐんぎ　　こらされ　　　　とうさん　　しゅうよ　　 はじ　　　　　 いちりゅう　 かとく　　ごと　　  ふ　　　おお　 られ　　　　うんぬん
諸人同じく此の事有る可し之由、群議を凝被る。當參の衆自り始めて、一流の家督の如きに觸れ仰せ被ると云々。

現代語仁治二年(1241)四月小十六日甲戌。武田伊豆入道光連(五郎信光)は、先月の二十五日の処分の際の様子を耳にして、特にお詫びを云いました。元々、泰時さんに敵対する気持ちを持ってなかったので、世間での噂を聞いたので、今になってこの詫びをしたのでしょうか。驚き恐れたからだそうな。そればかりか、子孫の代まで、敵対するような計画はしませんと誓約書を書いて、平三郎左衛門尉盛綱を通して泰時さんに出しました。すぐにこれを受け取られて、今日の政務会議のついでに、清原左衛門尉満定に命じてメンバーに回覧しました。誓約の内容は納得いく。誰にでもある事だろうと、話し合いました。今参加している人から初めて、一族の跡継ぎなどに伝える事にしましたとさ。(現代語訳に若干疑問が残る。乞教示)

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 でんち　　 もっ　　ばくえき  かけもの な　　こと　　くだん　ところ　をい　　は　　 めしはなたれ　べ　　　のよしさだ　　られ
仁治二年(1241)四月小廿五日癸未。田地を以て博奕の賭と爲す事、件の所に於て者、召放被る可き之由定め被る。

これ　　おおみやのさぶろうもりかず　と　てしまのまたたろうときみつ　　むさしのくに てしまのしょう いぬくいみょう　そうろん
是、　大宮三郎盛員　与　豊嶋又太郎時光、武藏國 豊嶋庄　犬食名�@を相論す。

おおみやありただ　う　　　しいちはん　　こと　　おこ　 なり
大宮有忠の打つ四一半が事の起り也。

おのおの　そうご　　うった　 もう　　　 いへど　　　つい　 か　　 しょりょう　 しゅうこうされ　　　うんぬん　　つしまのさえもんのじょうなかやす ぶぎょうたり
 各　相互に訴へ申すと雖も、遂に彼の所領を収公被ると云々。　對馬左衛門尉仲康 奉行爲。

また　　わかさのしろうただきよ　おんげち いはい のとが　 よっ　　　　あ ぐ い　 おおみや　 かがりや なら　　　おものや　 　 つく　　しん　　べ　　　のむね
又、若狹四郎忠�C�A御下知違背之科に依て、安居院大宮�Bの篝屋 并びに膳所屋�Cを造り進ず可し之旨、

きょう おな　　　　おお　 つ　　 られ
今日同じく仰せ付け被る。

これ　 ただきよ　しょりょう　　わかさのくに うりゅうのしょう　ざっしょう なりやす　うった　もう　　のゆえなり
是、忠�Cの所領、若狹國 瓜生庄�Dの雜掌 成安、訴へ申す�E之故也。

参考�@犬食名は、埼玉県川口市末広、弥平の辺りとする説と東京都足立区竹ノ塚付近とする説とが有る。
参考�A若狹四郎忠�Cは、島津忠久の弟。
参考�B安居院大宮は、京都市上京区の大宮通寺之内下る花開院町・樋ノ口町あたりらしい。安居院は、元延暦寺竹林院の里坊。
参考�C膳所屋は、膳所は天智天皇の大津京遷都のとき、膳所の地が御厨の地と定められ、天武天皇の代に大膳職の御厨神として大和国からを移して祀ったのが膳所神社の始まりとされています。
参考�D瓜生庄は、福井県三方上中郡若狭町瓜生。
参考�E雑掌の訴えは、恐らく本所への滞納。

現代語仁治二年(1241)四月小二十五日癸未。田圃を博打の賭けにすることについて、その土地は取り上げるように決めました。これは、大宮三郎盛員と豊島又太郎時光とが、武蔵国豊島庄犬食名を訴訟したからです。大宮有忠の打つ四半一博打が事の原因です。それぞれお互いに訴え出ましたが、とうとうその領地を取り上げられてしまいましたとさ。対馬左衛門尉仲康が担当です。
又、若狭四郎島津忠清は、命令違反の罰金として、安居院大宮のかがり火番屋それに朝廷の厨を建築することを、今日同様に命令しましたとさ。
この忠清の領地、若狭国瓜生庄の上級荘園管理者本所の現地支配人代官成安が訴えて来たからです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 てんぺんちよう　　おいの　　　　ため　　ごしょ　　たつみ　かど　 をい　　　てんちさいへんさいのまつり　おこなはれ
仁治二年(1241)四月小廿七日乙酉。天變地妖の御祈りの爲、御所の巽の角に於て、天地災變之祭を行被る。

やすさだあそんこれ　 ほうし　　　　　しょうぐんけ　　そ　　にわ　　いでたま　　　　うんぬん
泰貞朝臣之を奉仕す。將軍家、其の庭に出御うと云々。

現代語仁治二年(1241)四月小二十七日乙酉。天の異変や地の怪しを鎮めるお祈りのため、御所の東南の角で天地災変祭を行いました。安陪泰貞さんが勤めました。将軍頼経様も、その庭にお出になられましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 めしうどちくてん　 こと　あずかりにん　ざいか かろからず　かたいりょう　　め
仁治二年(1241)四月小廿九日丁亥。囚人逐電の事、預人の 罪科 經不。過怠料を召し、

　　　　しんだいぶつでん ぞうえい　　きしんされ　　　べ　　　のよし　　せいさえもんのじょうみつさだ ぶぎょう　　な　　　　 きょう　ぎじょうあ
新大佛殿　造營に寄進被る可し之由、 �C左衛門尉滿定 奉行と爲し、今日議定有り。

にったのたろうまさよし　　ぶん　　さんぜんびき　　もろのごろうにゅうどうれんこう　〔めしうど　きいのくに みかいのしょう ろうぜきにん まんどころじろうたかうじ　　あず　　　　〕　　ぶんごせんびき
新田太郎政義の分は三千疋。 毛呂五郎入道蓮光 〔召人紀伊國三上庄�@狼藉人政所二郎高氏を預かる〕の分五千疋。

おのおの　きた　　はちがつちう　　べんしょうせし　べ　　　　　うんぬん
 各、 來る八月中に、弁償令む可しと云々。

これ　　まご　ふかりのごろうためつね　　とが　 ため のよし　 れんこううった　もう　　　　いへど　　　これ　 たず　 くだされ　 れんこう なおこれ　　のが　　ざる　　うんぬん
是、孫子深利五郎爲經が咎の爲之由、蓮光訴へ申すと雖も、之を尋ね下被、蓮光 猶之を遁れ不と云々。

参考�@紀伊國三上庄は、和歌山市南半分。

現代語仁治二年(1241)四月小廿九日丁亥。御家人の預かっている犯罪者の「預かり囚人（あずかりめしうど）」が逃げ出してしまう事は、預かり人の失態なので罪は軽くはありません。その怠慢の罰として罰金を取り、新大仏殿建設に寄付するように、清原左衛門尉満定が担当して、今日会議で決まりした。新田太郎政義の分は絹三千疋。毛呂五郎入道蓮光〔預かり人として、紀州三上庄を横取りした人で、代々家政担当の二郎高氏を預かっていました〕の分は絹五千疋です。それぞれ来る八月中に弁償するようにだそうです。これは、孫の深利五郎為經がやった事だと、蓮光は申し出ましたが、調べたところ蓮光は関係ないとは云えませんでしたとさ。

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