吾妻鏡入門第卅四巻

仁治二年辛丑(1241)八月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 しんぞう　　 ほくとどう　　　くよう　　　あいだ　　どうし　いげ　　　こと　　ごしょ　　をい　　そ　　　　さた　あ
仁治二年(1241)八月大七日壬戌。新造の北斗堂の供養の間、導師以下の事、御所に於て其の沙汰有り。

つい　　にちじ　　こと　　　　おんみょうどう けんじつ　あ　　もう　　ところ　きた　　にじうごにちなり　　すで　　くがつせつたるべ
次で日時の事は、 陰陽道 兼日 擧げ申す所の來る廿五日也。已に九月節爲可し。

そくさい　　ごがん　　もっと　か　　　せつ　　さ　　　られ　 べ　　　か　のよし　　かたぶ　もう　 のやからあ　　　　　よっ　　　　きょう　はるかたあそんら　　めしいだ　　　　たず　　くだされ
息災の御願、尤も彼の節を除け被る可き歟之由、傾け申す之輩有るに依て、今日�ﾘ賢朝臣等を召出し、尋ね下被る。

　ご　　く　　りょうげつは いみづき たるのあいだ　おお　 もっ　　どうとう　くよう　　せんき　あ　　　 のよし ごんじょう　　　 よっ　　これ　 もち　　られ　 べ　　　　　うんぬん
五と九の兩月者齋月�@爲之間、多く以て堂塔供養の先規有る之由言上す。仍て之を用い被る可しと云々。

参考�@斉月は、心身を忌み慎むべき月。正月5月9月で三長斉月。仏語で在家の信者が精進する月。この月には諸天や鬼神が四方を巡行し、一切の善悪を四天王に報告するという。Goo電子辞典から

現代語仁治二年(1241)八月大七日壬戌。新築の北斗堂の完成祝賀式の指導僧などについて、御所でその検討会がありました。次に、縁起の良い日時については、陰陽師の連中があらかじめ推薦している25日です。すぐに重陽の節句です。元気を祈る儀式はその節を外すべきではないかと、いちゃもんをつける奴がいるので、今日、安陪晴賢を呼びつけて、お尋ねになられました。「五月と九月の両方の月は、慎むべき月ですから、逆に善行である堂塔の供養をする例は沢山あります。」と云ったので、これを採用しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　するがのしろう　〔しきぶのじょう　〕　いえむら　 さんぬ つきにじうごにち　 じもく　　 ききがき　　じさん　　ひらん
仁治二年(1241)八月大十一日丙寅。駿河四郎〔式部丞�@〕家村、去る月廿五日の除目の聞書を持參し披覽す。

　か　　ひ　じしゃくせし　　のよしこれ　　もう　　　　ろくがつにじうしちにち しきぶのじょう　にん　をはんぬ
彼の日叙爵令む之由之を申す。 六月廿七日　式部丞に任じ訖。

参考�@式部丞は、式部省の三当官(卿かみ輔すけ丞じょう録さかん)。式部省は、律令制で、太政官八省の一、文官の考課・選叙・禄賜など人事一般を扱う。但し、この時代は名誉としての官職で実を伴はない名官。

現代語仁治二年(1241)八月大十一日丙寅。駿河四郎〔式部丞〕三浦家村が、先月25日の人事異動の文書を持って来て見せました。「その日に官職を任命されました。」と推薦のお礼を云いました。六月二十七日に式部丞に任命されました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 つるがおか　ほうじょうえなり　　しょうぐんけおんいで
仁治二年(1241)八月大十五日庚午。鶴岡の放生會也。將軍家御出。

おくるま　　さして　の　ご　　　およ　　　ひょうごのかみ ぎょけん　　と　　　　　えき　 ひと かずさのしきぶのじょうときひで　　さず　　　　　　ほっ　　　　のところ
御車に差手之期に及び、 兵庫頭 御釼を取り、役の人　上総式部丞時秀�@に 授けんと欲する之處、

ぎょけん　すのこのうえ　　ぬ　　　お
御釼簀子之上に抜け落ちる。

これ　りょうにん　 しつれい　あらず　ときのかいいなり　　 よっ　　しばら　おんいでのぎ　　おさ　　られ　　かなくぼさえもんのじょうゆきちか　　め　　　　　これ　　じんもんされ
是、兩人の失礼に非。時之恠異也。仍て暫く御出之儀を抑へ被、金窪左衛門大夫行親を召し、之を尋問被る。

ゆきちかもう　　　　い　　　　　　 ひともの　 そうおうせず　　しんぽうたるべ　　のゆえ　　いまかく　　ことあ　　　　　うんぬん
行親申して云はく。人物に相應不。神寳爲可き之故、今此の事有りと云々。

ゆきちか けんとう　み　　　こと　　すで　　つう　　え　　　ごと　　　　おお　　もっ　　そ　　しょう　 あら
行親 釼刀を見る事、既に通を得る如し。多く以て其の證を顯はす。

しか　　　　こ　　　ぎょけん　　つ　　　　せんじつ ごむそう のつげあ　　　　　たちま　もっ　　ふごうせし
而して此の御釼に就き、先日御夢想之告有り。忽ち以て苻合令む。

かたがた　 ごしんじん　　 もよお　　よっ　　　　ときひで　　もっ　　くだん　ぎょけんを　そうとうさん　たてま　られ
 旁、 御信心を催すに依て、時秀を以て件の御釼於走湯山へ奉つ被る。

しんぱつののちごさんぐう　　わかさのぜんじやすむら ぎょけん　えき　　　　おうみのしろうさえもんのじょううじのぶ　ごちょうど　　か　　　　　ほうえ　ぶがく　れい　　ごと　　　とりのこくかんご
進發之後御參宮。 若狹前司泰村 御釼を役す。近江四郎左衛門尉氏信 御調度を懸く。法會舞樂例の如し。酉尅還御す。」

こんゆう そらはれ　むか　　　　はしのま　　おんみす　あ　　　られ　　　　しょうぐんけ めいげつ　もてあそ　せし　たま
今夕 天霽を迎へ、階間�Aの御簾を上げ被る。將軍家 明月を翫ば令め御う。

さきのうまごんのかみ　さがみのさぶろうにゅうどう　いがのしきぶたいふにゅうどう　さどのたいふほうがんら さんじょう　　　　 とうざ　　　わか　　　おんえ　あ
前右馬權頭、相摸三郎入道�B、伊賀式部大夫入道、佐渡大夫判官等參上し、當座の和歌の御會有り。

にょぼうかいし　すす　　られ　　　　うんぬん
女房懷紙を進め被ると云々。

参考�@上総式部丞時秀は、千葉常胤―千葉胤正―境常秀―上総秀胤―上総時秀。初出演。
参考�A階間は、「はしのま」で階隠しの間(はがくしのま)とも謂われ、階段を上った上段、簀子に面する庇の間。階隠しは、社殿や寝殿造りの殿舎で、正面の階段上に、柱を2本立てて突出させた庇。社殿では向拝(こうはい)ともいう。
参考�B相模三郎入道資時は、普恩寺流で和歌集あり。

現代語仁治二年(1241)八月大十五日庚午。鶴岡八幡宮の生き物を放ち減罪する放生会です。将軍頼経様お出まし。牛車に柄を差し込む時になって、兵庫頭藤原定員が太刀を取り、太刀持ち役の上総式部丞境時秀に渡そうとしたところ、刀が濡れ縁に鞘から抜け落ちました。これは、二人の失態ではありません。何か怪しい力が働いたからです。それでしばらく出て行くのをとめて、金窪左衛門尉大夫行親を呼びつけて、これをお尋ねになりました。
金窪行親が申しあげるのには、「人と物は答え合いませんが、刀は神の宝ですから、今こう云う事がったのでしょう。」なんだとさ。金窪行親は、刀の鑑定に通じている人で、何度もその力を発揮しています。だから、この刀についても、先日夢のお告げがあったんで、話のつじつまが合ってしまいました。将軍や周囲の皆は、信心深いので、太刀持ち係の境時秀が担当して、その刀を走湯神社へ奉納しました。
出発の後、お参りです。若狭前司三浦泰村が太刀持ちをして、近江四郎左衛門尉佐々木氏信が、弓矢を担ぎました。法要や舞楽は何時もの通りです。午後6時頃お帰りでした。」
今日の夕方、空が晴れましたので、庭から上がった階の間の御簾をあげました。将軍頼経様が十五夜の月見を楽しんだのでした。前右馬権頭北条政村・相模三郎入道資時・伊賀式部大夫入道光宗・佐渡大夫判官後藤基綱が参加して、その場で和歌の会がありました。女官が色紙を配りましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 しょうぐんんけ ごさんぐう　　たいふのじょうもとまさ　　ゆきひさら　ぐぶ　　　　　ばば　のぎ　れい　　ごと
仁治二年(1241)八月大十六日辛未。將軍家 御參宮。大夫尉基政、行久等供奉す。馬塲之儀例の如し。

現代語仁治二年(1241)八月大十六日辛未。将軍頼経様お参り。大夫尉後藤基政・二階堂行久がお供です。馬場での奉納競技が何時もの通りです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　うまのこく　　しんぞう　　ほくとどう　　さんじゃく　ほくとしちせいぞう
仁治二年(1241)八月大廿二日丁丑。午尅。新造の北斗堂に三尺の北斗七星像�@

なら　　　いっしゃく　にじうはしゅく　じうにぐう　しんぞう おのおの いったい　　さんじゃく　およ　　いちじこんろんぞう　ら　　あんちたてまつられ　うんぬん
并びに一尺の廿八宿�A十二宮�B神像　各　一躰、三尺に及ぶ一字金輪像�C等を安置奉被ると云々。

　よ　　　い　　　　 どうちんほう　おこなはれ　　 おな　　おまつら　　　うんぬん
夜に入り。堂鎭法を行被る。同じ御祭等と云々。

参考�@北斗七星像は、妙見菩薩。
参考�A廿八宿は、天を呼んで割、それぞれを七つに分けた。斗牛女虚危室壁 奎婁胃昴畢觜參 井鬼柳星張巽珍 角亢氏房心尾箕。
参考�B十二宮は、黄道を十二に割った。獅子・蟹・男女・牛・羊・魚・宝瓶・摩竭・弓・天秤・蠍・女。
参考�C一字金輪像は、大日如来の金剛印。

現代語仁治二年(1241)八月大二十二日丁丑。昼の12時頃、新築の北斗堂に三尺(90cm)の北斗七星像(妙見菩薩)それと一尺(30cm)の二十八宿十二宮神像それぞれ一体、三尺(90cm)の大きさの一字金輪像(大日如来金剛印)などを据え置きましたとさ。夜になって御堂の安定を図る護摩炊きをしました。同様に陰陽師の祭りもしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　うまのこく　　　ほくとどう　くよう　　　と　　　られ　　　　しょぐんけ　〔おんそくたい　　おくるま〕　　ごさんどう　　　　まんだらぐ　の ぎ なり
仁治二年(1241)八月大廿五日庚辰。午尅、北斗堂供養を遂げ被る。將軍家〔御束帶。御車〕御參堂。万茶羅供之儀也。

　だいあじゃり　　きょうのそうじょうかいが　　しつがい　ひぜんのたろうさえもんのじょうたねいえ　　ひょうごのかみさだかず　えのいわみぜんじよしゆき　そ　　　つな　　と　　　　　
大阿闍梨は、卿僧正快雅。執盖�@は、肥前太郎左衛門尉胤家、 兵庫頭定員、 江石見前司能行 其の綱を執る�A。

さんしゅうはちにんなり　さきのはやとのしょうみつしげ　 かいじょう　 こと　　ぶぎょう　　　　　きょう　　　ぐぶにん　　ぎょうれつ
讃衆八人也。 前隼人正光重、 會塲の事を奉行す。今日の供奉人の行列。

参考�@執盖は、傘の柄を持つ。
参考�A其の綱を執るは、傘の綱を持つ。

まえがけ　〔げろうさきたり〕
前駈〔下臈先爲〕

　　すおうのぜんじちかざね　　　　　のとのぜんじなかよし　　　　　　　　 しょうゆうさこんたいふしょうげんすけふさ
　周防前司親實　　　能登前司仲能　　　　少輔左近大夫將監佐房

　　さこんくらんどちかみつ　　　　　 しらかわほうがんためちか
　左近藏人親光　　　白河判官爲親

おんうしろ
御後

　　さきのうまごんのかみ　　　　　　　くないしょうゆう　　　　　　　　　　　　 ほうじょうさこんたいふしょうげん
　前右馬權頭　　　　宮内少輔　　　　　　北條左近大夫將監

　　むつのかもんのすけ　　　　　　　 びぜんのかみ　　　　　　　　　　　　 わかさのぜんじ
　陸奥掃部助　　　　備前守　　　　　　　若狹前司

　　えちごのかもんのすけ　　　　　　 さどのぜんじ　　　　　　　　　　　　　 あいだのじょうすけ
　越後掃部助　　　　佐渡前司　　　　　　秋田城介

　　のとのかみ　　　　　　　　　　　　　しもつけぜんじ　　　　　　　　　　　　だいざいしょうに
　能登守　　　　　　下野前司　　　　　　太宰少貳

　　おおくらごんのしょうゆう　　　　　　ささきのいきぜんじ　　　　　　　　　 とおやまのさきのおおくらしょうゆう
　大藏權少輔　　　　佐々木壹岐前司　　　遠山前大藏少輔

　　ではのぜんじ　　　　　　　　　　　いがのぜんじ　　　　　　　　　　　　　 しなののみんぶたいふ
　出羽前司　　　　　伊賀前司　　　　　　信濃民部大夫

　　おやまのごろうさえもんのじょう　　やくしじさえもんのじょう　　　　　　　せきのさえもんのじょう
　小山五郎左衛門尉　藥師寺左衛門尉　　　關左衛門尉

　　するがのごろうさえもんのじょう　　おおそねひょうえのじょう　　　　　　さわらのごろうさえもんのじょう
　駿河五郎左衛門尉　大曾祢兵衛尉　　　　佐原五郎左衛門尉

　　おおたわのしんさえもんのじょう　いがのじろうさえもんのじょう　　　　　あさかのろくろうさえもんのじょう
　大多和新左衛門尉　伊賀次郎左衛門尉　　安積六郎左衛門尉

　　うさみのさえもんのじょう　　　　　　うつのみやのごろうさえもんのじょう　おおすみたろうさえもんのじょう
　宇佐美左衛門尉　　宇都宮五郎左衛門尉　大隅太郎左衛門尉

　　かとうさえもんのじょう　　　　　　　むとうさえもんのじょう　　　　　　　　　ごとうさえもんのじょう
　加藤左衛門尉　　　武藤左衛門尉　　　　後藤左衛門尉

　　だざいのさぶろうさえもんのじょう　いやぜんたろうさえもんのじょう
　太宰三郎左衛門尉　弥善太郎左衛門尉

ていい
廷尉

　　さどのたいふほうがん　　　　　　　うつのみやのたいふほうがん　　　　おきのたいふほうがん
　佐渡大夫判官　　　宇都宮大夫判官　　　隱岐大夫判官

　　かわづのほうがん　　　　　　　　　　かさまのほうがん
　河津判官　　　　　笠間判官

　ずいへいじうにき　　〔さいまつ〕
随兵十二騎〔最末〕

　　ほうじょうごろうひょうえのじょうときより　　　　　とおとうみしきぶのたいふときあき
　北條五郎兵衛尉時頼　　　遠江式部大夫時章

　　かわごえのかもんのすけやすしげ　　　　　　するがのしきぶたいふいえむら
　河越掃部助泰重　　　　　駿河式部大夫家村

　　かずさのしゅりのすけまさひで　　　　　　　　たけだのろくろうのぶなが
　上総修理亮政秀　　　　　武田六郎信長

　　おおすがのしちろうさえもんのじょうしべのぶ　おうみのしろうさえもんのじょううじのぶ
　大須賀七郎左衛門尉重信　近江四郎左衛門尉氏信

　　いずみのじろうさえもんのじょうかげうじ　　　いがのさぶろうさえもんのじょうすけもり
　和泉次郎左衛門尉景氏　　伊賀三郎左衛門尉祐盛

　　こうづけのごろうひょうえのじょうしげみつ　　かじわらうえもんのじょうかげとし
　上野五郎兵衛尉重光　　　梶原右衛門尉景俊

現代語仁治二年(1241)八月大二十五日庚辰。昼の12時頃に、北斗堂の開眼供養をしました。将軍頼経様〔束帯で牛車〕お堂へお参りです。曼荼羅の供養です。指導の阿闍梨は卿僧正快雅。日笠持ちは肥前太郎左衛門尉佐原胤家、兵庫頭藤原定員と大江石見前司能行がその傘をささえる綱を持ってます。お供の坊さんは八人です。前隼人伊賀正光重が、会場の差配をしています。今日のお供の侍の行列は
露払い〔目下が先〕
　周防前司中原親実　　　　能登前司伊賀仲能　　　　少輔左近大夫将監大江佐房
　左近蔵人毛利親光　　　　白河判官安陪為親
将軍のすぐ後ろ
　前右馬権頭北条政村　　　宮内少輔足利泰氏　　　　北条左近大夫将監経時
　陸奥掃部助北条実時　　　備前守北条時長　　　　　若狭前司三浦泰村
　越後掃部助北条時景　　　佐渡前司後藤基綱　　　　秋田城介安達義景
　能登守三浦光村　　　　　下野前司宇都宮泰綱　　　太宰少弐狩野為佐
　大蔵権少輔結城朝広　　　佐々木壱岐前司泰綱　　　遠山前大蔵少輔加藤景朝
　出羽前司二階堂行義　　　伊賀前司小田時家　　　　信濃民部大夫二階堂行泰
　小山五郎左衛門尉長村　　薬師寺左衛門尉朝村　　　関左衛門尉政泰
　駿河五郎左衛門尉三浦資村　大曽根兵衛尉長泰　　　　佐原五郎左衛門尉盛時
　大多和新左衛門尉　　　　伊賀次郎左衛門尉光房　　安積六郎左衛門尉祐長
　宇佐美左衛門尉祐政　　　宇都宮五郎左衛門尉宗朝　大隅太郎左衛門尉大河戸重村
　加藤左衛門尉行景　　　　武藤左衛門尉景頼　　　　後藤左衛門尉説尚
　太宰三郎左衛門尉為成　　弥善太郎左衛門尉三善康義
検非違使
　佐渡大夫判官後藤基綱　　宇都宮大夫判官頼業　　　隠岐大夫判官二階堂行久
　河津判官尚景　　　　　　笠間判官時朝
武装儀仗兵12騎〔最後尾〕
　北条五郎兵衛尉時頼　　　遠江式部大夫北条名越時章
　河越掃部助泰重　　　　　駿河式部大夫三浦家村
　上総修理亮千葉政秀　　　武田六郎信長
　大須賀七郎左衛門尉重信　近江四郎左衛門尉佐々木氏信
　和泉次郎左衛門尉天野景氏　伊賀三郎左衛門尉祐盛
　上野五郎兵衛尉結城重光　梶原右衛門尉景俊

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　きょう　　ひょうぎ　　しょにんそろんたいけつのとき　　かけもんじょう　　しん　　　　こと　　そ　　　ほう　　さだ　　られ　　　　うんぬん
仁治二年(1241)八月大廿八日癸未。今日の評議。諸人訴論對决之時、懸物状�@を進じる事、其の法を定め被ると云々。

参考�@懸物状は、提訴の際に担保として領地をかける。その書状。

現代語仁治二年(1241)八月大二十八日癸未。今日の政務会議では、一般人が訴訟をして原告被告対決するときは、提訴の担保として領地を掛ける書状を出す事、それを規則で定める事にしましたとさ。

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