吾妻鏡入門第卅五巻

寛元元年癸卯(1243)九月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　 しょうぐんけ　　 さどのぜんじもとつな　　おおくら　 いえ　　い　　　たま
寛元々年(1243)九月大五日戊申。天霽。將軍家、佐渡前司基綱が大倉の家へ入り御う。

ぶしゅうなら　　　　ほうじょうさんこんたいふしょうげん　さきのうまごんのかみ　とおとうみのかみ　えちごのかみ　たんごのぜんじ　びぜんのかみ　むつかもんのすけ　とおとうみしきぶのたいふ
武州并びに 北條左近大夫將監、 前右馬權頭、 遠江守、 越後守、 丹後前司、備前守、陸奥掃部助、 遠江式部大夫、

さがみしきぶのたいふ　　わかさのぜんじ　あいだのじょうすけ　　のとのぜんじ　　しもつけぜんじ　　 いきのぜんじ　　かずさごんのすけ　いげ　　ぐぶ
相摸式部大夫、若狹前司、秋田城介、能登前司、下野前司、壹岐前司、 上総權介 以下供奉す。

おきのじろうさえもんのじょう　ごちょうど　　か
隱岐次郎左衛門尉御調度を懸く。

　か　ところ　　をい　　わか　かんげんら　　 おんえ　　 のとのぜんじ　　いきのぜんじら　　びわ　　　ひ
彼の所に於て和歌管絃等の御會。能登前司、壹岐前司等琵琶を彈く。

にじょうのちうじょう　みぶのじじゅう　　さがみのさぶろうにゅうどう　かわちしきぶのたいふら　さんかい
二條中將、壬生侍從、 相摸三郎入道、河内式部大夫等參會す。

　こ　ところもと　　　　やまかげ　　ぞく　　　かんじゃくゆうろうなり
此の所素より山陰に属し、閑寂幽樓也。

これ　 くは　 こうようりょくしょう　えだ　　まじ　　　　のてい　　きぎくさいたいつゆ　　お　　　　　のよそお　　かんかいつ　 あらず
之に加へ紅葉緑松の枝を交える之躰、黄菊�@��苔露を帶びる之粧い、感荷一に非。

また　　はくぼ　　のぞ　　　　まいじょ りょうさんやから さんにゅう　　 かいせつのそで　ひるがえ　　ひとびとさるがく　およ
亦、薄暮に臨み、舞女　兩三輩　參入し、廻雪之袖を翻す。人々猿樂に及ぶ。

けいめい いご　　　かんご　　もとつな おんおくりもの　たてまつ　　うんぬん
鷄鳴以後に還御。基綱 御贈物を奉ると云々。

参考�@黄菊は、黄色い花の菊。《季 秋》 ２ 襲(ｶｻﾈ)の色目の名。表は黄、裏は青で、秋に用いる。Goo電子辞書から

現代語寛元々年(1243)九月大五日戊申。空は晴れました。将軍頼経様は佐渡前司後藤基綱の家へ入られました。武州北条経時さん、それに北条左近大夫将監時頼・前右馬権頭北条政村・遠江守北条朝直・越後守北条光時・丹後前司足利泰氏・備前守北条時長・陸奥掃部助北条実時・遠江式部大夫北条時章・相模式部大夫北条時直・若狭前司三浦泰村・秋田城介安達義景・能登前司三浦光村・下野前司宇都宮泰綱・壱岐前司佐々木泰綱・上総権介境秀胤達がお供をしました。隠岐次郎左衛門尉佐々木泰清が弓矢を担いでいます。
その屋敷で、和歌の会や音楽会があり、能登前司三浦光村が琵琶を弾きました。二条中条教定・壬生侍従・相模三郎入道北条資時・河内式部大夫源親行が参加しました。
この地は、元々山陰にあって、もの静かで趣があります。そればかりか、紅い紅葉と松の緑がまざって見え、黄色い菊と青い苔が露を受けた風景は、有難さは一つばかりではありません。(嬉しさ倍増です)
また、夕暮れになって、踊り子さんが三人入って来て、袖を翻して踊りました。人々は滑稽な芸を披露しました。
鶏が無く明け方以後に帰りました。後藤基綱は、お土産を献上しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 いのこく　 わかぎみ ほうそう　わずら　たま　 のあいだ　　やすさだあそん さとてい　 をい　　にょほうたいさんふくんさい　つと
寛元々年(1243)九月大十九日壬戌。霽。亥刻。若君 疱瘡を煩ひ御う之間、泰貞朝臣 里亭に於て如法泰山府君祭を勤む。

これ　　ぶしゅう　　おんさた　なり　　しなののたいふほうがんゆきつな おんしたり　　うんぬん
是、武州の御沙汰也。 信濃大夫判官行綱 御使爲と云々。

現代語寛元々年(1243)九月大十九日壬戌。晴れました。若君が疱瘡にかかったので、安陪泰貞さんが将軍が行ってる町中の居所で法規則通りきちんとする泰山府君祭を勤めました。これは、武州北条経時さんの負担で指示です。信濃判官二階堂行綱が使いとして行きました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いぬのこく　さんに　じゅごいのげ　きよはらまひと　すえうじ　しきょ　　　　　〔としろくじうご〕
寛元々年(1243)九月大廿日癸亥。戌刻。散位�@從五位下�C原眞人�A季氏死去す。〔年六十五〕

参考�@散位は、位階はあるが官職を持たないものの総称。または、位は持っているが官職がない人。逆に官職にありながら位を持ってない人を有官という。
参考�A真人は、大和朝廷の頃からの性(ｶﾊﾞﾈ)名。氏名(ｳｼﾞﾅ)は、蘇我・大伴などで、性(ｶﾊﾞﾈ)は伴造(ﾄﾓﾐﾔｯｺ)とか國造(ｸﾆﾉﾐﾔｯｺ)など、又源平の様に天皇家から抜けると(臣籍降下)性を与えられる。

現代語寛元々年(1243)九月大二十日癸亥。午後8時頃、散位従五位下 清原季氏死す〔年65〕

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょにん　そろん　ことひょうじょうあ　　　　ことがき　　げざん　　い　　 せぎょうすべ　　のよし　　おお　 くだされ　のところ　　ごせいばい　ちち
寛元々年(1243)九月大廿五日戊辰。諸人訴論の事評定有り。事書を見參に入れ施行可き之由、仰せ下被る之處、御成敗遲々す。

もっと　もっ　　ふびん　　いまよ　　　　いご　　　　ぶぎょうに　　つ　　　　ことがき　　まか　　　　そうそう　　　おんげち　　な　　　べ
尤も以て不便。今自り以後、奉行人に付け、事書に任せ、早々の御下知を成す可し�@。

また　　おんげち　と　ことがき　　　　もんちうじょ　　をい　 かんごうせし　 べ　　　　　ことがきそうい　な　　　　ば　　　くだ　　べ　　　のよし　　かがみんぶのたいふ　　おお　　られ
又、御下知与事書と、問注所に於て勘合令む可し。事書相違無くん者、下す可し之由、加賀民部大夫に仰せ被る。

現代語寛元々年(1243)九月大二十五日戊辰。御家人の訴訟について協議がありました。結審結果書類を将軍に見せて、実施許可を貰っているので、施行が遅れる。これはとても気の毒な事です。今から以後は、裁判担当者の判断で結審結果書類のとおりに、早い施行をするようにしよう。又、命令書と結審結果書類とを裁判担当の問注所で付け合わせるように、内容に違いが無ければ交付するように、加賀民部大夫三善町野康持に命じました。

解説�@奉行人に付け、事書に任せ、早々の御下知を成す可しは、いちいち将軍の決裁はいらないことにしたので、経時の判断だと思われる。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうろくいのじょう えちごのかみ かもんのすけ たいらのあそんかげとき そっ　　〔としさんじうはち〕
寛元々年(1243)九月大廿七日庚午。 正六位上　越後守　掃部助�@ 平朝臣時景�A 卒す。〔年三十八〕

参考�@掃部助は、掃部寮の次官。掃部寮は宮中行事の設営や清掃を行う。施設管理は主殿寮。但しここでは名誉職の名官。
参考�A時景は、時房の孫。時房┬時盛┬時景

現代語寛元々年(1243)九月大二十七日庚午。正六位越後守掃部助平朝臣北条時景死す〔年38〕

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