吾妻鏡入門第卅五巻

寛元二年甲辰(1244)二月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　こさきのうけいちょうぜんしつ　まごむすめ　〔ふじひめぎみ　　　ごう　　　〕　するがのくにふじのこうり　　　げこう　　　たま
寛元二年(1244)二月小三日甲戌。霽。故前右京兆禪室が御孫女〔冨士姫公と号す〕駿河國冨士郡�@へ下向し給ふ。

参考�@冨士郡は、得宗領。

現代語寛元二年(1244)二月小三日甲戌。晴れました。故前右京兆禅室泰時の孫娘〔冨士姫君と云います〕が、駿河国冨士郡へお出でになりました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　いぬのこくらいめい
寛元二年(1244)二月小十五日丙戌。天�ﾘ。戌刻雷鳴。

現代語寛元二年(1244)二月小十五日丙戌。空は晴です。午後８時頃雷が鳴りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　きょうひょうじょう あ　　　　　 じょうじょう そ　　ほう　　さだ　　られ
寛元二年(1244)二月小十六日丁亥。今日評定有りて、條々其の法を定め被る。

　　ひとつ　　ぬひ　　　ようし　　こと
　一　奴婢�@の養子の事

　　　　　　 しんたい　もの　　ごう　　　　ばいばい　およ　　べからず
　　　進退の者と号し、賣買に及ぶ不可。

　　ひとつ　 かんぎ ききん ようじょ　　こと
　一　寛喜飢饉養助の事

　　　　　　 むえん　　ひにん　 せいぎょ　 およばず　　しんるい　 をい　　は　　 いちご　のほどしんたい　　いへど　　　 しそんそうでん　 およ　 ぶからず
　　　無縁の非人は制御に不及。親類に於て者、一期之程進退すと雖も、子孫相傳に及ぶ不可。

　　ひとつ　じんりん ばいばい じきもつ　こと
　一　人倫 賣買 直物の事

　　　　　　　ごせい いぜん　　をい　 は　　　ほんじゅ　 ただ　 かえ　　べ　　　　　いご　　　いた　　　　は　　 ただ　 かえ　 べからず
　　　御制以前に於て者、本主に糺し返す可し。以後に至りて者、糺し返す不可。

　　ひとつ　さいごく しゅご ぶぎょう　　こと
　一　西國守護奉行の事

　　　　　　 ちんぜい　 をい　 は　　 たいしょうけ　 れい　 まか　　　　　さた　いた　　べ　　　　かなら　　　　　しきもく　　よ　　　べからず
　　　鎭西に於て者、大將家の例に任せ、沙汰致す可し。必ずしも式目に依る不可。

　　　　　　 そ　　 ほか　　さいごくは　　 さだ　 おかれ　　むね　　まか　　　　　さた　いた　　べ　　　のよし　　 ろくはら　　 おお　 つか　 され　　べ
　　　其の外の西國者、定め置被る旨に任せ、沙汰致す可し之由、六波羅へ仰せ遣は被る可し。

参考�@奴婢は、女性の奴隷と男性の奴隷。日本の場合は、欧米の奴隷制度と違い奴隷同士所帯を持つ等かなり自由な面もあったらしいので奴隷的下部とした。

現代語寛元二年(1244)二月小十六日丁亥。今日、政務会議会って、数々の条文の法規則を決めました。
　一つ　奴隷的下部の養子について
　　　　　進退を左右できる支配者だからだと云っても、売り買いをしてはいけない。
　一つ　寛喜の飢饉に人身売買を認めた事について
　　　　　縁者ではない被差別民は制限の範囲ではない。親類の者は、一代においては人心売買を認めるが、子孫の代にはその権限は相続しない。
　一つ　人身売買の金を返して身柄を引取る事について
　　　　　規則発布前の事なら、元の支配者に返しなさい。以後は人身売買が犯罪なので返されません。
　一つ　墨俣川以西の六波羅探題の管轄地について
　　　　　九州は、頼朝様の時代の例(天野藤内遠景)の通りにして、必ずしも御成敗式目に従わなくて良い。その他の墨俣川以西の国は、御成敗式目のとおりに処理するように、六波羅探題へ命令しておくように。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　うしのこく　　わかぎみごぜん　いささ　ごふれい
寛元二年(1244)二月小廿三日甲午。丑尅。若君御前、聊か御不例。

現代語寛元二年(1244)二月小二十三日甲午。午前2時頃、若君(後の頼嗣)が、多少具合が悪いようです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　わかぎみ　　おいのりら　おこなはれ　　れいき　 〔やすさだ〕　　　　ききさい　ふたざ　　〔くにつぐ　　ふみもと〕
寛元二年(1244)二月小廿四日乙未。若君の御祈等を行被る。靈氣〔泰貞〕。鬼氣祭二座〔國継、文元〕。

現代語寛元二年(1244)二月小二十四日乙未。若君の病気のお祈りを行いました。霊気は、安陪泰貞。鬼気祭二人は、国継と文元。

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