吾妻鏡入門第卅六巻

寛元二年甲辰(1244)十二月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　うのこくぢしん

寛元二年(1244)十二月大一日丁夘。天�ﾘ。夘尅地震。

現代語寛元二年(1244)十二月大一日丁卯。空は晴です。午前6時頃地震がありました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しんしょうぐんおんどくしょはじ　 なり　うまのこく　　つね　　ごしょ　　とうめんに いでたま　　　ぶしゅうこれ　　ふち　たてま　られ
寛元二年(1244)十二月大七日癸酉。新將軍御讀書始め也。午刻、常の御所の東面于出御う。武州之を扶持奉つ被る。

ちくごのかみまさみつあそん 〔　ほい　〕　ごじどくたるなり　　　ほうじょうさしんえい　いげ　　　ひとびと　　しゅっし　　　　うんぬん
筑後守正光朝臣〔布衣〕御侍讀爲也。北條左親衛以下の人々、出仕すと云々。

現代語寛元二年(1244)十二月大七日癸酉。新将軍頼嗣の読書始めです。正午頃に普段いる御所の東側の部屋にお出ましです。武州経時が手助けをしてます。筑後守正光さん〔武士の正装狩衣〕が教授です。北条左親衛時頼を始めとする人々が、勤めに来ていましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれかぜしずか　きょう　だいなごんけ　　　おとわかぎみごぜん　ごちゃっこなら　　　　ぎょみ　　な　　　せし　　たま
寛元二年(1244)十二月大八日甲戌。天�ﾘ風靜。今日、大納言家が乙若君御前の御着袴并びに魚味を嘗め令め給ふ。

さるのこく　しんでん　　をい　　そ　　　ぎ　あ
申尅、寢殿に於て其の儀有り。

ひとびと　ほい　　き　　　〔げぐくり〕　さんしゅう　　　　ぶしゅうおうばん　 けん　　られ　　　あたか　がんさん　 ごと　　　 ぶしゅうおんこし　むす　たてま　られ
人々布衣を着て〔下括〕參集す。武州垸飯を献ぜ被る。宛も元三の如し。武州御腰を結び奉つ被る。

また　　おおとのこれ　く　　　せし　 たま　　　 かれこれ　ばいぜん　ほうじょうさしんえいこれ　 こう　　　りょうことをは　　　　　　おんひきでもの　　 しん
又、大殿之を食は令め給ふ。彼此の陪膳、北條左親衛之に候ず。兩事訖りて、御引出物を進ず。

おおとの　おんかた
大殿の御方

　　ぎょけん　　　　　　　　　　　　　　えちごのかみ
　御劔　　　　　　　越後守

いちのおんうま　〔くら　　お　　　〕　　　　おやまのしろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おなじきごろう
一御馬　〔鞍を置く〕 小山四郎　　　　　　　　　同五郎

にのおんうま　〔おなじき　　　　〕　　　　おおすみのたろうさえもんのじょう　　　　　　　　おなじきじろう
二御馬　 〔同〕　　　大隅太郎左衛門尉　　　　　同次郎

しょうぐんけ　おんかた
將軍家の御方

　　ぎょけん　　　　　　　　　　　　　　むつかもんのすけ
　御劔　　　　　　　陸奥掃部助

いちのおんうま　〔くら　　お　　　〕　　　　ひぜんのたろうさえもんのじょう　　〔 さわら 〕　　　おなじきしろうさえもんのじょう
一御馬　〔鞍を置く〕　肥前太郎左衛門尉〔佐原〕　同四郎左衛門尉

　にのおんうま　〔おなじき　　　　〕　　　　だんじょうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　おなじきじうろう
二御馬　　〔同〕　　 彈正左衛門尉　　　　　　　同十郎

わかぎみ　おんかた
若君の御方

おんうま　　　〔くら　　お　　　〕　　　　かいのたろう
御馬　〔鞍を置く〕 甲斐太郎

現代語寛元二年(1244)十二月大八日甲戌。空は晴れて風は静かです。今日、前大納言家頼経様の次男の初めて袴を着させる儀式と成長を祝う魚の味を食べさせる儀式をします。午後4時頃に寝殿でその儀式がありました。人々は、正装の狩衣を着て〔袴紐は足首で結ぶ〕集まりました。まるで正月の三が日のようです。武州経時が紐を結んでやりました。又前大納言家頼経様が魚を食べさせました。これらのお給仕は北条時頼が勤めました。両方の儀式が終えて、引き出物を献上しました。

前大納言家頼経様の分
　刀は　越後守北条光時
一の馬〔鞍置き〕　小山四郎長政　　　　　　　　小山五郎長村
二の馬〔同じ〕　　大隅太郎左衛門尉大川戸重村　同じ大隅大川戸次郎

将軍頼嗣様の分
　刀は　陸奥掃部助北条実時
一の馬〔鞍置き〕　肥前太郎左衛門尉〔佐原胤家〕　同じ四郎左衛門尉佐原光連
二の馬〔同じ〕　　弾正左衛門尉　　　　　　　　　同じ十郎

次男の若君の分
馬〔鞍置き〕　甲斐太郎

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 おんくじ　　あいだ　　かくべつ　 おお　 くだされざる　をい　 は
寛元二年(1244)十二月大十二日戊寅。御公事の間、各別に仰せ下被不に於て者、

 ふそ　　　あと　 ちぎょう　　おのおの　よ　　　あ　　　　　ぶげん　　 したが　　　　これ　 ごんじすべ
父祖の跡の知行は、 各 寄り合い、分限に隨いて之を勤仕可し。

また　　そ　　 あと　 あらず　いへど　　　くんこう　　あておこな　のしょりょう　いげ　　 べっ　　　　ごおんち　　　あいくわ　　　　ごんじすべ　　のよし　　うんぬん
又、其の跡に非と雖も、勳功に宛行う之所領以下、別して御恩地は、相加へて勤仕可き之由と云々。

現代語寛元二年(1244)十二月大十二日戊寅。幕府への奉仕については、特別に命令が出ない場合は、父親から相続したものは、お互いに協力し合って、与えられた割合によって、勤めを果たしなさい。又、父からの相続でなくても、手柄に貰った領地など、特別に与えられた領地分は、足し合わせて勤めるようにとの事だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　ねのこくつき　さいせい　　おか　　のよし　　してんら おどろ もう
寛元二年(1244)十二月大十八日甲申。天�ﾘ。子刻月、歳星を犯す之由、司天等驚き申す。

こんや　　おおとの　おんかた　おいのりら　　しぎょうさる　　　　うんぬん

今夜、大殿の御方の御祈等を始行被ると云々。

現代語寛元二年(1244)十二月大十八日甲申。空は晴です。午前0時頃、月が歳星木星の軌道を犯したと天文方が驚いて報告しました。今夜、前大納言家頼経様の分の御祈りを始めましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だいぜんだいぶもろかずあそんぶぎょう　　な　　　おおともしきぶのたいふよりやす　もう　　くろうど　　こと　　そ　　　　さた　あ
寛元二年(1244)十二月大廿日丙戌。大膳大夫師員朝臣奉行と爲し、大友式部大夫頼泰が申す藏人の事、其の沙汰有り。

しか　　　　　ごい　　　　いき　　　と　　　べ　　　のよし　　あ　　　もうさる　　のじょう　　はばか　あ　　　のあいだ　　ろくい　　しそん　　とき　　もっ　　これ　　もうさる　　べ
而るに五位の々記を止む可き之由、擧げ申被る之條、憚り有る之間、六位の子孫の時を以て之を申被る可し。

じしんは　　　 ごじょうらく　 のとき　　きょうと　　をい　 おんはか　 あ　　　　　　　さゆううまのすけ　にん　　らる　　べ　　　のよしちじょう　　　　よりやす　　おお　　ふく　　らる　　　　うんぬん
自身者、御上洛之時、京都に於て御計り有りて、左右馬助に任じ被る可き之由治定し、頼泰に仰せ含め被ると云々。

現代語寛元二年(1244)十二月大二十日丙戌。大膳大夫中原師員さんが担当して、大友式部大夫頼泰が訴えている蔵人への任官について、検討がありました。しかし、五位の授与文書はいらないと、推薦するのはおかしいので、六位の子供の時にこれを申しあげましょう。本人自身は、前大納言家頼経様が京都へ上る時、京都で工夫をして、左右の馬助に任命されるようにしようとお決めになり、大友頼泰に言い聞かせましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　 おおとの　おいのりら かさ　　　　これ　 おこなはれ　　てんぺんあ　　　　よっ　　なり
寛元二年(1244)十二月大廿四日庚寅。天�ﾘ。大殿の御祈等重ねて之を行被る。天變有るに依て也。

現代語寛元二年(1244)十二月大二十四日庚寅。空は晴です。前大納言家頼経様のお祈りをなおも行いました。天の運航に異変があるからです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　うのこく　　ぶしゅうなら　　　　ほうじょうさしんえいら　　 だい　　しっか　　よっ　わざわい　　よえん とびゆ　　　まんどころしょうぼう　　　うんぬん
寛元二年(1244)十二月大廿六日壬辰。夘尅、武州并びに北條左親衛等の第、失火に依て災す。餘焔飛行き、政所燒亡すと云々。

参考�@武州并びに北條左親衛等の第は、若見大路東面北頭の執権屋敷と得宗屋敷(現宝戒寺)と思われる。

現代語寛元二年(1244)十二月大二十六日壬辰。午前6時頃、武州経時それに北条時頼の屋敷が、失火で燃えてしまいました。火の粉が飛んで類焼し政務事務所も燃えてしまいましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　きょう　　ひょうじょう　　おおとのごじょうらく　 こと　　えんいん　おんさた　あ
寛元二年(1244)十二月大廿七日癸巳。天�ﾘ。今日の評定、大殿御上洛の事、延引の御沙汰有り。

これひごろおぼ　　め　　　た　　　　　よっ　　　みょうしゅん にがつここのか　かなら　ごしんぱつあ　　　べ　　　のよしちじょう　をはんぬ
是日來思し食し立つに依て、 明春 二月九日、必ず御進發有る可き之由治定し訖。

しか　　　まんどころ かじのあいだ　 ごしゅったつ いげ　　　ごぶつら　　ことごと　もっ　　さいかせし　　のゆえなる　　うんぬん
而るに政所火事之間、御出立以下の御物等、悉く以て災火令む之故也と云々。

現代語寛元二年(1244)十二月大二十七日癸巳。今日の政務会議で、前大納言家頼経様の京都行は延期する命令が出ました。こらは、最近思い立ったので、来春の2月9日に出発すよう決めたのです。しかしながら、政務事務所が火事になって、旅に使う道具類がすべて焼けてしまったからだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　こんぎょう　さいせい　　たいびゆうしつほうじょうしょうせい　　い　　　おか　　　〔あいさ　　　　　いっすんばか　　　　うんぬん〕
寛元二年(1244)十二月大卅日丙申。天�ﾘ。今曉、歳星、 太微右執法上將星に 入り犯す〔相去ること一寸計りと云々〕。

参考�@大微宮は北斗七星から南に約63度の幅を持って分布しています。

現代語寛元二年(1244)十二月大三十日丙申。空は晴です。今日の明け方に歳星木星が大微宮の右執法上将星に入って軌道を犯しました〔離れる距離は3cmだそうな〕。

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