吾妻鏡入門第卅六巻

寛元三年乙巳(1245)正月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ かげはげ　　　しんそう　 およ　 らいめい　　きょう　　　おうばん　　ぶしゅう　　 さた
寛元三年(1245)正月小一日丁酉。天�ﾘ 風烈し。深更に及び雷鳴。今日の垸飯、武州の沙汰。

しんもつ　 えき　 ひと　　ぎょけん　　ほうじょうさこんたいふしょうげん　ごちょうど　　のとのぜんじみつむら　　おんむかばき　　みうらのごろうさえもんのじょうすけむら
進物の役の人、御劔は北條左近大夫將監。御調度は能登前司光村。御行騰は、三浦五郎左衛門尉資村。

現代語寛元三年(1245)正月小一日丁酉。空は晴です。夜中になって雷が鳴りました。今日の将軍への御馳走のふるまいは、武州北条経時さんの負担です。贈り物を献上する役の人は、刀が左近大夫将監北条時頼。弓矢は能登前司三浦光村。乗馬袴は五郎左衛門尉三浦資村です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　おんゆみはじ　　のぎ　あ
寛元三年(1245)正月小九日乙巳。天�ﾘ。御弓始め之儀有り。

いちばん　するがのさぶろう　　　いんとうのじろう
一番　駿河三郎　　印東次郎

　にばん　くどうのはちろう　　　　よこみぞのしちろう
二番　工藤八郎　　横溝七郎

さんばん　いいのすけ　　　　　　おがわのさえもんのじょう
三番　井伊介　　　小河左衛門尉

よんばん　まいたのじろう　　　　 なつめげんた
四番　眞板次郎　　棗源太

　ごばん　おがさわらのしちろう　やまのうちのひょうえさぶろう
五番　小笠原七郎　山内兵衛三郎

きょう　ひょうじょうあ　　　　　さいごくしょしゃしんしきのやから　ことを　しんい　　　よ　　　　　じんしょ　 わずら　せし　 のよし　　れんれん そ　　きこ　　あ　　　　　よっ
今日評定有りて、西國諸社神職之輩、事於神威に寄せ、人庶を煩は令む之由、連々其の聞へ有るに依て、

あいしず　　　べ　　のおもむき　　ろくはら　　　おお　 つか　 さる　ところなり　　そ　　じょう　　い
相鎭める可き之趣、六波羅へ仰せ遣は被る所也。其の状に云はく。

　　さいごくじんにん　こかんし　ら　　　ある　　　 へいし　　 ある　　　 とこうのひと　のしょじゅう　もっ　　　　じんにん　 ぶ　せし　　　ややもすれ　よせさた　　この
　西國神人拒捍使�@等、或ひは平氏、或ひは甲乙人之所從を以て、神人に補令め、 動ば 寄沙汰�Aを好み、

　　たいりゃくりょうけぢとう　のしょむ　　かんりょうせし　　　がうがう　　　さた　　　いた　　のよし そ　　　きこ　　あ　　　　　ことじつ　　　　ば　　しょぎょうのくはだ　　はなは　らんすいなり
　太略領家地頭之所務�Bを管領令め、嗷々の沙汰を致す之由其の聞へ有り。事實なら者、所行之企て、甚だ濫吹也。

　　ほんじんにんのほか　しんじんにん　をい　　は　　 ほんじょ　 ふ　　　もう　　　　はや　　ちょうじさる　　べ　　　のよし　　たびたび おお　くだされをはんぬ
　本神人之外、新神人に於て者、本所に觸れ申し、早く停止被る可き之由、度々 仰せ下被 畢。

　　しょせん　 しょぞん　 あいたず　 られ　 ため　　そ　　　み を かんとう　　めしくだ　　べ　　　のじょう　　おお　　　よっ　　しったつ くだん　ごと
　所詮、所存を相尋ね被ん爲、其の身於關東へ召下す可き之状、仰せに依て執達 件の如し。

　　　　　 かんげんさんねんしょうがつここのか　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　むさしのかみ
　　　寛元三年正月九日　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　武藏守�C

　　きんじょう　　　　　さがみのかみ　どの
　謹上　　　相摸守�D殿

参考�@拒捍使は、取立て屋。平安時代、正税官物の納入を拒む者から強制的に徴収するために派遣された官人。検非違使が任命された。
参考�A寄沙汰は、コネをつける。
参考�B所務は、領地関係。金銭相続関係が雑務。
参考�C武藏守は、経時。
参考�D相摸守は、重時。経時は、重時の方が身分が下だが、大叔父なので気を使って謹上を使っている。

現代語寛元三年(1245)正月小九日乙巳。空は晴です。弓始めの儀式がありました。
一番が、駿河三郎三浦員村　と　印東次郎。
二番が、工藤八郎　　　　　と　横溝七郎
三番が、井伊介　　　　　　と　小川左衛門尉
四番が、真板次郎　　　　　と　棗(夏目)源太
五番が、小笠原七郎　　　　と　山内兵衛三郎

今日、政務会議があって、関西方面の神社の神職の連中が、神様の権威を利用して、庶民に難儀をかけていると、何度も噂が流れてきているので、取り締まるようにとの内容を、六波羅探題へ云い送りました。その手紙の内容は、

関西方面の神社に勤める下部や取り立て屋、又は元平家の人、又は一般人の下部を使って、神社の下部に仕立て上げて、何かと言えばコネを着けて、旨く上級荘園支配者の領家や現地管理人の地頭の領地関係を請け負って、うるさい取り立てをしていると噂を聞いている。本当ならばとんでもない企画だし、乱暴な行いである。本来の神社の下部以外の、臨時に新しくなった神社の下部は、最上級荘園権利者の本所に通知して、早く止めさせる様に、何度も将軍から命令を出しています。事を落ち着かせるためには、詳しい思惑を調べるために、逮捕して関東へ呼び出すように、将軍の命令によって、この様に通知します。
　　寛元3年1月9日　　　　　　　　　　　　武蔵守北条経時
　さしあげます　相模守北条重時殿　

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　くも　　　いぬのこく　らいめいふたこえ
寛元三年(1245)正月小十一日丁未。陰り。戌刻、雷鳴兩聲。

現代語寛元三年(1245)正月小十一日丁未。曇りです。午後8時頃、雷が二・三度鳴りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　げっしょくせいげん
寛元三年(1245)正月小十五日辛亥。月蝕正見す。

現代語寛元三年(1245)正月小十五日辛亥。月食が完全に見えました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　うのこくぢしん
寛元三年(1245)正月小十八日甲寅。天霽。卯剋地震。

現代語寛元三年(1245)正月小十八日甲寅。空は晴れました。午前6時頃地震です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　ひつじのこく ぢしん　　きょう　きょうと　　ししゃさんちゃく
寛元三年(1245)正月小廿日丙辰。天霽。 未剋 地震。今日京都の使者參着す。

さんぬ　じうさんにち　しょうぐんけ おうみのすけ　かねせし　　たま　　　　うんぬん
去る十三日、將軍家　近江介を兼令め給ふと云々。

現代語寛元三年(1245)正月小二十日丙辰。空は晴れました。午後2時頃地震です。今日、京都朝廷の使いが到着しました。先日の13日附けで将軍家頼嗣さまが、近江国の次官を兼務することになりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　みのこくらいめい
寛元三年(1245)正月小廿一日丁巳。天�ﾘ。巳剋雷鳴。

きょう　　 だいなごんけ　　ふそ　だいだい　 ほうこう　　しだい　　ちうしんすべ　　のむね　　ひろのおでいしゅう　おお　 ふく　 らる　　　　うんぬん
今日、大納言家、父祖代々の奉公の次第を注進可き之旨、廣御出居衆に仰せ含め被ると云々。

現代語寛元三年(1245)正月小二十一日丁巳。空は晴です。午前10時頃雷が鳴りました。今日、前大納言家頼経様は、父自分の代の幕府での実績を書き出すように、身の回り担当の者達に云いつけましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　 うしのこく　きゃくせい　てんしえん　たつみばか　　どに　しゅつげん　　　うんぬん
寛元三年(1245)正月小廿七日癸亥。天�ﾘ。丑刻。客星、天市垣�@の巽斗りの度于出現すと云々。

参考�@天市垣は、古代中国天文学において天球上を3区画に分けた三垣の下垣。ウィキペディアから

現代語寛元三年(1245)正月小二十七日癸亥。空は晴です。午前2時頃、彗星が空の下から3分の1東南に現れたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　とらのこく　きゃくせい なお いなみぼし　みなみ　しゅつげん　うのこく　さきのおんみょうだいじょうはるもちあそん かんもん　　しん
寛元三年(1245)正月小廿八日甲子。天霽。寅剋、客星　猶 牛宿�@の南に出現す。夘刻、 前陰陽大允�ﾘ茂朝臣 勘文を進ず。

　そ　　ご　　　ぶしゅう　いげ　　　ひとびとごしょ　　まいらる　　　てんぺん　 こと　　おどろ　もうさる　　のよしなり　　おおとの ひろのおんでい　 をい　　　 ごたいめんあ
其の後、武州以下の人々御所へ參被る。天變の事を驚き申被る之由也。大殿 廣御出居に於て、御對面有り。

かく　あいだ　　ちくごのさえもんじろうともさだ　　　 わかさのぜんじ　 ざ　　　うえに　つ　　　　　よっ　　いささ　けんか　　　　うんぬん
此の間、筑後左衛門次郎知定、若狹前司の座の上于着く。仍て聊か喧嘩すと云々。

参考�@牛宿は、二十八宿の一つで、北方玄武七宿の第二宿。距星はやぎ座β星。ウィキペディアから

現代語寛元三年(1245)正月小二十八日甲子。空は晴れました。午前4時頃、彗星がなおも山羊座の南に現れました。
午前6時頃、前陰陽大允安陪晴茂さんが、上申書を出しました。その後、武州北条経時さん以下の人々が御所へ参りました。手の異変を聞いて驚いてられるからです。前大納言家頼経様が広間にお出でになり皆とお会いになりました。その時に、筑後左衛門次郎茂木知定が、若狭前司三浦泰村の上座に座りました。それで多少いさかいになりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらくも　　　　きゃくせい あらはれざる　うんぬん
寛元三年(1245)正月小廿九日乙丑。天陰り。客星　現不と云々。

現代語寛元三年(1245)正月小二十九日乙丑。空は曇りです。当然彗星も現れませんとさ。

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