吾妻鏡入門第卅六巻

寛元三年乙巳(1245)二月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　きゃくせい けんぎゅう　ど　　　み　　　　　ぎょうど　ふたや  さんじょう ばか　　なり　 うんぬん
寛元三年(1245)二月大一日丙寅。天�ﾘ。客星�@牽牛�Aの度に見ゆ。行度は二夜に三丈計り也と云々。

きょう　てんぺん　 おいのり　　さた　あ　　　　　てんちさいへんさい 〔やすさだ〕 さんまんろくせんしんさい 〔はるかた〕 ぞくしょうさい 〔はるもち〕 　らなり
今日天變の御祈の沙汰有り。天地災變祭〔泰貞〕三萬六千神祭〔�ﾘ賢〕属星祭〔�ﾘ茂〕等也。

参考�@客星は、彗星。
参考�A牽牛は、牽牛星で鷲座(わしざ)のα(アルファ)星アルタイルの漢名。古来、天の川を隔てて対する織女星とともに七夕伝説で有名。晩夏に中天やや南寄りに輝く。彦星(ひこぼし)。犬飼い星。男星(おぼし)。《季 秋》Goo電子辞書から

現代語寛元三年(1245)二月大一日丙寅。空は晴です。彗星が、彦星の方に行きました。その移動速度は二晩で9m程だそうな。今日、天の異変を鎮めるお祈りをするように決定しました。天地災変祭〔安陪泰貞〕、三万六千神祭〔晴賢〕、属星祭〔晴茂〕などです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　さんぬ　よ　いぬのこくよ　　こんぎょう　いた　　　　してんのやから　 めしあつ　　　　ごしょ　　をい　　てん　 うかが　み　　　べ　　　のよし
寛元三年(1245)二月大二日丁夘。天�ﾘ。去る夜の戌刻自り今曉に至り、司天之輩を召聚め、御所に於て天を伺い觀る可し之由、

おお　くださる　　のあいだ　　やすさだ　はるもち　はるかたら　　あそん　　ひがし　さむらい　なんえん　そうら　　よもすがらこれ　 うかが　　いへど　　 きゃくせい しゅつげんせず
仰せ下被る之間、泰貞、�ﾘ茂、�ﾘ賢等の朝臣、東の 侍の 南縁に候ひ、終夜之を窺うと雖も、客星　出現不。

たつみ　かた　をい　　おこな　のあいだ　みなみ　きょく　い　　　をはん　　　かのむね　　 おのおの　これ　 もう　　　たじまのせんじさだかずこれ　　ぶぎょう
 巽の方に於て行う之間、 南の極に入り訖ぬる歟之旨、　各　之を申す。但馬前司定員之を奉行す。

現代語寛元三年(1245)二月大二日丁卯。夕べの午後8時頃から今朝の夜明けまで、天文方の連中を呼び集め、御所で天体観測をするようにおっしゃられたので、泰貞・晴茂・晴賢さん達は、東側の侍だまりに集まって、一晩中観測してましたが、彗星は現れませんでした。南西の方で観測してたけど、南の地平線の下へ入ってしまったんじゃないでしょうか、とそれぞれ言ってました。但馬阿前司藤原定員が指揮担当しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　せっしょう　きんぜいすべ　　のよし　　ひょうぎ　 およ　　　うんぬん
寛元三年(1245)二月大五日庚午。殺生を禁制可き之由、評議に及ぶと云々。

現代語寛元三年(1245)二月大五日庚午。彗星の祟りを鎮めるために、殺生禁断をさせようか、会議をしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　おおとのなら　　しょうぐんけ つるがおかぐう　おまいり　　みな おくるまなり　　　きょう　　さいへん　おいのりら これ　 おこなはる
寛元三年(1245)二月大七日壬申。天�ﾘ。大殿并びに將軍家 鶴岡宮へ御參。 皆 御車也。今日、變災の御祈等之を行被る。

おおとのごぜん　　いの
大殿御前の祈り

　　ぞくしょうさい　〔はるもち〕
　属星祭〔�ﾘ茂〕

しょうぐんけ　　おいの
將軍家の御祈り

　さんまんろくせんしんさい　〔はるかた〕
　三万六千神祭〔�ﾘ賢〕

かく　おいのりら　　　おのおの　さとだい　をい　 これ　 しゅう　　　ただ　 てんちさいへんさいは　　 おおとの　おほんため　さんぬ　いつかよ　　　　　ごしょ　　をい　　おこなはる
此の御祈等、 各 里第�@に於て之を修す。但し天地災變祭者、 大殿の奉爲、 去る五日自り、御所に於て行被る。

やすさだこれ　　ほうし　　　　こんや　　なんてい　 をい　 けちがん　　　うんぬん　　おんし　　のとのうこんたいふなかとき　　　ぶぎょう　せっつのかみもろかずあそん　うんぬん
泰貞之を奉仕す。今夜、南庭に於て結願すと云々。御使は能登右近大夫仲時。奉行は攝津守師員朝臣と云々。

参考�@里第は、ここでは司天の自宅。

現代語寛元三年(1245)二月大七日壬申。空は晴です。前大納言家頼経様それに将軍頼嗣様は、鶴岡八幡宮へお参りです。全員牛車です。彗星の天変をお祈りになりました。
前大納言家頼経様の分は、属星祭〔晴茂〕。将軍の分は、3万6千神祭〔晴賢〕
これらのお祈りは、それぞれ陰陽師の司天の自宅で勤めました。但し、天地災変祭は、前大納言家頼経様のために、先日の5日から御所で行っています。泰貞が勤めてます。今夜、御所の南庭で満了するんだそうな。代参は能登右近大夫中原仲時。指揮担当は、摂津守中原師員さんだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　つるがおかはちまんぐう　をい　　　だいはんにゃきょう　てんどくさる　　　 だいなごんほういん いげ これ　 ほうし
寛元三年(1245)二月大八日癸酉。天�ﾘ。鶴岡八幡宮に 於て、大般若經を 轉讀被る。大納言法印以下之を奉仕す。

現代語寛元三年(1245)二月大八日癸酉。空は晴です。鶴岡八幡宮で、大般若経を摺り読みさせました。大納言法印隆弁始めとする坊さん達が勤めました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　きゅうとう にじうしちはちにち　りょうじつ　きゃくせい しゅつげん　こと　これのりあそんかんもん　　すす
寛元三年(1245)二月大九日甲戌。天�ﾘ。窮冬　廿七八の　兩日に 客星　出現の事、維範朝臣勘文を進む。

たちま　はるもち　もうしじょうに　ふごう　　　　のあいだ　　じき　　ぎょかん　　おお　　　こうむ　　　うんぬん
忽ち�ﾘ茂が 申状于 苻号する之間、直に御感の仰せを蒙ると云々。

しばらくあって　だいなごんけ　きょうのそうじょう　みどう　　だんしょ　　い　　　たま　　　 これのり　 かんもん　 はこ　 めしいだ　　　そうじょうなら　　　 いんえんほういんら に みせし　 たま
 頃之、 大納言家、卿僧正の御堂の壇所へ入り御ひ、維範の勘文の函を召出し、僧正并びに院圓法印等于見令め給ふ。

これ　そ　　い　　　え　　　　おいのり　 たんせい　ぬきせし　　　ためなり
是其の意を得て、御祈の丹誠を抽令めん爲也。

現代語寛元三年(1245)二月大九日甲戌。空は晴です。昨年12月27・28日の二日間の彗星の出現について、維範さんが上申書を出しました。内容が、安部晴茂の上申書と同じことを云ってるので、直接感心のお言葉を与えられましたとさ。しばらくして、前大納言家頼経様は卿僧正快雅のお堂へお入りになり、維範の上申書を持ってこらせ、僧正快雅と院円法印とにお見せになりました。この内容を理解して、お祈りをきちんとさせるためなのです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　おおとのひごろ ごいんすい のけ あ　　　　　また　　おかげ　 わずら　せし　 たま
寛元三年(1245)二月大十日乙亥。天�ﾘ。大殿日來御飲水之氣�@有り。又、御陰�Aを煩は令め給ふ。

よっ　　いどう　ときなが　 よりゆき　　ただのり　 もちなが　 ひろながら　けちばんさる　　　おのおのいちにちいちや しこう すべ　　のよし　　おお　　ふく　 らる　ところなり
仍て醫道時長�B、頼行、忠憲、以長、廣長等を結番被る。 各　一日一夜祗候可き之由、仰せ含め被る所也。

たじまのぜんじさだかず これ　ぶぎょう　　　　うんぬん
但馬前司定員 之を奉行すと云々。

参考�@飲水之氣は、糖尿病。
参考�A御陰は、他から受けるよくない影響で疾病。
参考�B時長は、丹波。医師といえば、丹波と和気。

現代語寛元三年(1245)二月大十日乙亥。空は晴です。前大納言家頼経様は、普段水飲みの病糖尿病の疑いがあります。又、精神的な疾病も重なっています。それなので、医者の丹波時長・頼行・忠憲・以長・広長などで順番を決めました。それぞれ一昼夜そばに仕えるように、云い聞かせました。但馬前司藤原定員が指揮担当だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょこく しゅごにん　さた　　　こと　　 そ　　　さだ　　あ
寛元三年(1245)二月大十六日辛巳。諸國守護人沙汰の事、其の定め有り。

さいごくしゅごぶぎょう　　こと　　ちんぜい　 をい　　は　　おんごくたる　　よっ　　　　ろうぜき　　あいしず　　　　 ざるのあいだ
西國守護奉行の事、鎭西に於て者、遠國爲に依て、狼藉を相鎭められ不之間、

うだいしょうけ　　おんとき のれい　 まか　　　　　さた いた　　べ　　　のよし　　おお　 られをはんぬ
右大將家の御時之例に任せ、沙汰致す可き之由、仰せ被畢。

かなら　　　　　しきもく　　よ　　 べからず
必ずしも式目に依る不可。

そ　　 ほか　　さいごくは　　さだ　　お かる　　むね　 まも　　　　　さた　さる　　べ　　　のよし　　　ろくはら　　おお　　つか　　さる　　べ　　　　　うんぬん
其の外の西國者、定め置被る旨�@を守り、沙汰被る可し之由、六波羅へ仰せ遣は被る可しと云々。

参考�@定め置被る旨は、式目を指している。

現代語寛元三年(1245)二月大十六日辛巳。諸国の守護人の権限について、その決め事がありました。関西以西の守護の権限について、九州では遠い所にあるので、悪い行為を鎮めきれないので、頼朝様の時代の例の通りに処理するように、命じられました。かならずしも御成敗式目に従うことはありません。
その他の墨俣川以西の国は、決めてある式目を守り、処理するように、六波羅探題へ云い送りましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　たつのこく　わかぎみごぜんごふれい　のけ　あ　　　　 よっ　　くないきょうほういん　 おお　　　　　　やくし　ごま　　　しゅうさる　　　うんぬん
寛元三年(1245)二月大十九日甲申。天�ﾘ。辰剋、若君御前御不例之氣有り、仍て宮内卿法印に仰せて、藥師護摩を修被ると云々。

現代語寛元三年(1245)二月大十九日甲申。空は晴です。午前8時頃、次男の若君が病気になったようです。それで宮内卿法印に命じて、薬師如来の護摩炊きをさせたそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　よ　　　い　　　　 わかぎみごぜん　 おいのりら　　おこなはれ　　　れいきさい　〔はるかた〕　　　ききさい　　〔ひろすけ〕　　 　うんぬん
寛元三年(1245)二月大廿日乙酉。天�ﾘ。夜に入り、若君御前の御祈等を行被る。靈氣祭〔�ﾘ賢〕、鬼氣祭〔廣資〕と云々。

現代語寛元三年(1245)二月大二十日乙酉。空は晴です。夜になって、次男の若君のお祈りを行いました。霊気祭〔晴賢〕、鬼気祭〔広資〕だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　かさ　　　　　 おいのり　 やすさだ じゅそさい　 ほうし　　　　うんぬん
寛元三年(1245)二月大廿一日丙戌。天�ﾘ。重ねての御祈、泰貞咒咀祭を奉仕すと云々。

現代語寛元三年(1245)二月大二十一日丙戌。空は晴です。次男の若君のお祈りを続けて、泰貞が呪詛祭を勤めましたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　こんや　 わかぎみ　おいのり　 おこなはれ　　ほういんちんよ　しちようぐ　　　ほうし　　　 うんぬん
寛元三年(1245)二月大廿二日丁亥。天�ﾘ。今夜、若君の御祈を行被る。法印珎譽七曜供を奉仕すと云々。

現代語寛元三年(1245)二月大二十二日丁亥。空は晴です。今夜、次男の若君のお祈りを行いました。法印珍与が北斗七星の供養を勤めましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　 おおとの　おんわずら　　ことすこぶ　ましげ
寛元三年(1245)二月大廿四日己丑。天�ﾘ。大殿の御勞いの事頗る増氣。

くすし　　けちばんせし　　　　ごりょうち　　くは　　らる　　　いへど　　　　いま　　ごげん　　およ
醫師を結番令め、御療治を加へ被ると雖も、未だ御減に及ばず。

よっ　　きょう　おんうらな　あ　　　　 べち　 おんことあ　　べからず
仍て今日御占い有り。別の御事有る不可。

ごぞうげん　　 ご　　　 ひのえ ひのと みずのえ みずのと　のよし　　おんみょうじしちににちどう　 これ　　もう　　　　もろかずあそんぶぎょうたり　 うんぬん
御増減の期は、丙　丁　 壬　 癸　之由、陰陽師七人一同に之を申す。師員朝臣奉行爲と云々。

現代語寛元三年(1245)二月大二十四日己丑。空は晴です。前大納言家頼経様の御病気については、悪くなる一方です。医者を5人順番を組んで、治療にあたりましたが、未だに回復いたしません。それなので今日、占いがありました。ばちがあったてるわけはないでしょう。病の増減の時は、丙丁壬癸なんだと、陰陽師7人口をそろえて行ってます。中原師員が担当しましたそうな。

参考別の御事は、ばちが当たる。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　 くおんじゅりょういん　 をい　　　　はちまんよんせん　き　でいとう　　　くようさる　　　　ほういんえんい どうしたり
寛元三年(1245)二月大廿五日庚寅。天�ﾘ。久遠壽量院に於て、八万四千�@基の泥塔を供養被る。法印圓意導師爲。

しょだいぶら　　ふせ　　　と　　　　ちょうもん　　どうぞく　　ぐんさん　 かき　　ごと
諸大夫等布施を取る。聽聞の道俗、群參し垣の如し。」

きょう　　　おおとの　　ごふれい　　おんきとうら　　おこなはれ　　　　しちだん　　やくし　ごずほう　なり
今日、大殿の御不例の御祈祷等を行被る。七壇の藥師御修法也。

　　ちうだん
　中壇

　　　　　　だいそうじょうごぼう
　　　大僧正御房

　　　　いちだん　きょうのそうじょう　　　いちだん　しなののそうじょう
　　一壇　卿僧正　　　一壇　信濃僧正

　　　　いちだん　にょういじほういん　　いちだん　だいぶほういん
　　一壇　如意寺法印　一壇　大夫法印

　　　　いちだん　そちのほういん　　　　いちだん　みんぶのきょうほういん
　　一壇　師法印　　　一壇　民部卿法印

　　　　いちだん　べんのそうじょう
　　一壇　弁僧都

　　ふどう　　ごずほう
　不動御修法

　　　　　　だいそうじょうごぼう
　　　大僧正御房

　こ　　ほか　　にしょ　みしまぐう　　　ほんちぐ
此の外、二所三嶋宮の本地供。

つるがおか　をい　だいはんにゃきょう てんどく　 ことなら　　　　たいさんふくん　　じゅそ　　れいき　ら　　まつり　　みなこれ　 しぎょう　　　　うんぬん
鶴岡に於て 大般若經　轉讀の事并びに泰山府君、咒咀、靈氣等の祭、皆之を始行すと云々。

参考�@八萬四千は、釈尊のお説きになった教え「経」の数と謂われる。

現代語寛元三年(1245)二月大二十五日庚寅。前大納言家頼経様の持仏堂久遠寿量院で、8万4千の泥の塔を作って法要しました。法印円意が指導僧です。五位の人々がお布施を渡しました。お経を聞いて仏との念を求める僧侶も一般人も群れ集まって垣根を成していました。」
今日、前大納言家頼経様の病気平癒のお祈りを行いました。七人の宋による薬師如来の護摩壇です。
　中央の壇が、大僧正御房恵良。
　　一壇は、卿僧正快雅。　　一壇は、信濃僧正道禅。
　　一壇は、如意寺法印円意。一壇は、大夫法印賢長。　
　　　一壇は、師法印。　　　　一壇は、民部卿法印。
　　一壇は、弁僧都審範。
　お不動様の護摩炊きは、大僧正御房恵良。
この他に、箱根・伊豆の二所権現・三島大社の本地仏への供養。鶴岡八幡宮で、大般若経を摺り読みする事それと泰山府君祭・呪詛祭・霊気祭など皆始めましたとさ。

他の情報寛元三年(1245)二月大廿九日。頼経の命で太刀を厳島神社に奉納している。鎌倉遺文から

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