吾妻鏡入門第卅六巻

寛元三年乙巳(1245)三月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　とらのこく　すいせい しつへきのあいだ　あらわ　　なが　　にしゃく　 うんぬん
寛元三年(1245)三月小一日丙申。天�ﾘ。寅刻、彗星 室壁之間に 見る。長さ二尺と云々。

れんじつ　きゃくせい　すいいせい しゅつげんのれい な　　　うんぬん　　さる　　ね　　りょうとき　ぢしん　　だいあくどう　 うんぬん
連日の客星、 彗星　 出現之例 無しと云々。申、子の兩時地震。大悪動と云々。

現代語寛元三年(1245)三月小一日丙申。空は晴です。午前4時頃、彗星が東の室と壁の愛田に見えます。長さは60cmです。連日の新星の彗星が出る例は無いそうです。午後4時頃と午後12時頃に地震です。良くない揺れだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうぐんけ　ごふれい　　こと　　ひごろいささ　おんぬるけ　あ　　　 いへど　　　おどろ　　　ごさた　　およばず
寛元三年(1245)三月小五日庚子。將軍家御不例の事、日來聊か御温氣有ると雖も、驚き御沙汰に不及。

けさ おんましけのあいだ　 おいのりら　　しぎょうさる　　　　うんぬん
今朝御増氣之間、御祈等を始行被ると云々。

現代語寛元三年(1245)三月小五日庚子。将軍家頼嗣様の病気について、この頃多少微熱が出ているけど、特別に急いだ処置はしませんでした。今朝は、容態が悪化してるのでお祈りを始めましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　 しょうぐんけ　　おいのり　 こと　　かさ　　　　これ　 しゅうさる　　　うんぬん
寛元三年(1245)三月小六日辛丑。天�ﾘ。將軍家の御祈の事、重ねて之を修被ると云々。

現代語寛元三年(1245)三月小六日辛丑。空は晴です。将軍家頼嗣様の病平癒のお祈りについては、続けてこれを勤めさせましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　きょうと　　 ししゃさんちゃく　　こんげつついたち　ふつか　 りょうじつ　ぎょうてん　すいせい しゅつげん
寛元三年(1245)三月小八日癸夘。天�ﾘ。京都の使者參着す。今月一日、二日の兩日の曉天、 彗星 出現す。

はるつぐあそん さいぜん　　これ　　もう　　　　うんぬん
�ﾘ継朝臣 最前に之を申すと云々。

現代語寛元三年(1245)三月小八日癸卯。空は晴です。京都からの使いが到着しました。今月の1・2日の二日間の明け方に彗星が現れたそうです。安陪晴継さんが一番早く報告したそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　よ　　　い　　　　すいせい　 おいのり　 しぎょうさる
寛元三年(1245)三月小十一日丙午。天�ﾘ。夜に入り、彗星の御祈を始行被る。

現代語寛元三年(1245)三月小十一日丙午。空は晴です。夜になって、彗星がたたらないようお祈りを始めました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　しょうぐんけ　ごふれい　へいげんのあいだ　　きょう　ひつじのこく　おんもくよく　のぎ　あ
寛元三年(1245)三月小十四日己酉。天�ﾘ。將軍家の御不例 平減之間、今日 未刻に 御沐浴之儀有り。

くすし　　　ときなが　 よりゆき　 もちなが　 ひろなが　だいがくら ろく　　たま　　　　　　おのおの　ぎょけんひとこし　おんうまいっぴきなり　 もろかずあそん これ　 ぶぎょう
醫師の時長、頼幸、以長、廣長、大學等祿を賜はる。　各　御劔一腰に御馬一疋也。 師員朝臣 之を奉行す。

現代語寛元三年(1245)三月小十四日己酉。空は晴です。将軍家頼嗣様の病気が快復したので、今日の午後2時頃に病の気を洗い落とす沐浴の儀式がありました。医者の丹波時長・頼幸・以長・広長・大学たちが褒美を与えられました。それぞれに刀ひとふりと馬一頭です。中原師員さんが指揮担当しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　すいせい　おいのり　　ため　　ごしょ　　 をい　　てんさいげんさい　　おこなはれ　 のぶかたあそん これ　 ほうし　　　　うんぬん
寛元三年(1245)三月小十六日辛亥。天�ﾘ。彗星の御祈の爲、御所に於て天地災變祭を行被る。宣賢朝臣之を奉仕すと云々。

いぬのこく　だいなごんけ　にっこうべっとう　　いぬがけがやつ　ぼうに　い　　　たま　　　　これ　　にしょほうへい　　おんし　　たてらる　　べ　　　　 よっ　　　 ごしょうじん　　ためなり
 戌剋、大納言家日光別當が 犬懸谷�@の坊于入り御う。是、二所奉幣の御使を立被る可きに依て、御精進の爲也。

参考�@犬懸谷は、鎌倉市浄明寺1丁目の釈迦堂谷と宅間谷の間の谷。後に関東管領上杉氏の支流が住み犬懸上杉氏で、上杉禅秀の乱で滅びた。

現代語寛元三年(1245)三月小十六日辛亥。空は晴です。彗星の災いを除くためのお祈りのため、御所で天地災変祭を行いました。安陪宣賢さんが勤めましたとさ。午後8時頃、前大納言家頼経様は日光別当の犬懸谷の宿舎に入りました。これは、箱根・伊豆の二所権現に幣を納める代参をさせるための精進潔斎のためです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　にっこうべっとうぼうよ　　つるがおかはちまんぐうなら　　　かめがやつさんのうほうぜんら　ぎょさん
寛元三年(1245)三月小十九日甲寅。天�ﾘ。日光別當坊自り 鶴岡八幡宮 並びに亀谷山王�@寳前等に御參す。

そ　　　ご　ばくふに　かんご　　　うんぬん
其の後幕府于還御すと云々。

いぬのこく　すいせい　おいのり　 ため　　ごしょ　　 をい　　しちざ　　たいさんふくんさい　 おこなはれ
 戌尅、彗星の御祈の爲、御所に於て七座の泰山府君祭を行被る。

やすさだ　はるかた　すけとし　 くにつぐ　 はるひで　ひろすけ　もちひらら これ　 ほうし
泰貞、�ﾘ賢、資俊、國継、�ﾘ秀、廣資、以平等之を奉仕す。

だいなごんけ　〔 ごいかん 〕　まつり　　にわ　　いでむか　 せし　 たま
大納言家〔御衣冠〕祭の庭に出向は令め給ふ。

おんざ　　やすさだ　ざじょうにじょうばか　 そと　　 し　　　　　ごとじょう　　　　ごいしょ　　　おんじひつ　　くは　　らる　　　　うんぬん
御座を泰貞の座上二丈許り外に敷き、御都状に御位署を御自筆で加へ被ると云々。

みののぜんじちかざね これ　 ぶぎょう
美濃前司親實 之を奉行す。

参考�@亀谷山王は、鎌倉市扇ガ谷4丁目の悪七兵衛景清牢岩屋から左へ入った奥に「山王」の小字が残る。

現代語寛元三年(1245)三月小十九日甲寅。空は晴です。前大納言家頼経様は日光別当の宿所から鶴岡八幡宮それに亀ケ谷の山王様にお詣りしました。その後、幕府に戻られましたとさ。
午後8時頃彗星の災いを除くためのお祈りのため、御所で陰陽師七人による泰山府君祭を行いました。安陪泰貞・晴賢・資俊・国継・晴秀・広資・以平たちが勤めました。前大納言家頼経様〔衣冠束帯〕は、祭をしている庭にお出になられました。座席を泰貞の上座6m程祈り座から外へ離れて敷いて、陰陽道の祭用文書に位官職名をご自分でおかきになられましたとさ。美濃前司中原親実が指揮担当です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょにん　　もんちう　　こと　　ぶぎょうにん　 ささる　　 のところ　　いっぽう　　とんぴ　のよし　　まま　そ　　きこ　　あ　　　　　よっ
寛元三年(1245)三月小卅日乙丑。諸人が問注の事、奉行人を差被る之處、一方に遁避之由、間其の聞へ有るに依て、

いまよ　　　　いほ　　　ぶぎょうにん　　あいふ　　　きょうみょう　ちう　　べ
今自り以後、奉行人に相觸れ、交名を注す可し。

か　　じょう　　つ　　　　　いさ　　　　さた　あ　　　べ　　　のよしおお　　いださる　　　　かがのみんぶたいふこれ　　ぶぎょう
彼の状に就き、誡めの沙汰有る可き之由仰せ出被る。加賀民部大夫之を奉行す。

現代語寛元三年(1245)三月小三十日乙丑。御家人の訴訟について、取扱い人を指名してくるのは、片方にえこひいきをしているからだと、ちょいちょいその噂が耳に入って来るので、今後は、取扱人に命じて名前を書きだして置かせなさい。その名簿に基づいて、懲らしめるように仰せになられました。加賀民部大夫町野康持が担当です。

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