吾妻鏡入門第四十巻

建長二年(1250)六月大

建長二年(1250)六月大三日丁酉。山内并六浦等道路事。先年輙爲令融通鎌倉。雖被直險阻。當時又土石埋其閭巷云々。仍如故可致沙汰之由。今日被仰下云々。

読下し                   やまのうちなら   むつらら   どうろ  こと  せんねん たやす かまくら  ゆづうせし   ため  けんそ  なおさる   いへど
建長二年(1250)六月大三日丁酉。山内@并びに六浦A等の道路の事、先年 輙く鎌倉へ融通令めん爲、險阻を直被ると雖も、

とうじ また どせき そ  りょこう   う       うんぬん  よっ  もと  ごと   さた いた  べ    のよし   きょう おお  くださる    うんぬん
當時又土石其の閭巷を埋めると云々。仍て故の如く沙汰致す可き之由、今日仰せ下被ると云々。

現代語建長二年(1250)六月大三日丁酉。山内の小袋坂それと六浦の朝比奈峠の道路について、以前に楽に鎌倉へ通れるように、険しい坂を直したけれど、今では崖崩れなどで、土石が通路を埋めてきているとの事です。そこで前の様に工事をするようにと、今日命令を出しましたとさ。

建長二年(1250)六月大十日甲辰。有評定。雜人訴訟事。被定法儀。所謂百姓与地頭相論之時。無其誤者。於妻子所從以下資財雜具者。可被糺返也。田地并住屋令安堵其身否事。可爲地頭進退之由云々。又懷妊之後離別。男子可付父云々。

読下し                   ひょうじょうあ   ぞうにん  そしょう  こと   ほうぎ   さだ  らる
建長二年(1250)六月大十日甲辰。評定有り@。雜人Aの訴訟の事、法儀を定め被る。

いはゆる ひゃくせう と ぢとうそうろん のとき  そ   あやま な   ば   さいししょじゅう いげ   をい    しざいぞうぐ は   ただ  かえさる  べ   なり
所謂、百姓 与 地頭相論B之時、其の誤り無く者、妻子所從以下に於ては資財雜具者、糺し返被る可き也。

でんち なら    じゅうおく そ み  あんどせし      いな    こと   ぢとう  しんたいたるべ   のよし  うんぬん
田地并びに住屋其の身を安堵令めんや否やの事、地頭の進退爲可き之由と云々。

また  かいにんののち  りべつ    なんし  ちち  ふ   べ     うんぬん
又、懷妊之後の離別は、男子は父に付す可しと云々。

参考@評定有りは、五と十の日が多い。
参考A雜人は、一般人。御家人以外。
参考B百姓と地頭の相論は、農民が勝訴しても、そのまま安堵できるかは、地頭の意思による。

現代語建長二年(1250)六月大十日甲辰。政務会議がありました。一般人の訴訟について、法や規則を決めました。それは、農民が地頭と裁判をした時、農民が勝訴したら、妻子や下働き等の財産や生活道具は、きちんと返すべきである。田畑や住居などその生活を元通りに与えるかどうかは、地頭の意思によるんだそうな。又、妊娠後の離婚は、男の子が生まれたら父親に親権は付属させるそうな。

建長二年(1250)六月大十五日己酉。將軍家令逍遥造泉殿邊給。奥州。相州并評定衆少々參候。有酒宴御連歌。白拍子參上施藝。和泉前司行方以下及猿樂云々。

読下し                     しょうぐんけ つくりいずみどのへん  しょうようせし  たま    おうしゅう そうしゅうなら  ひょうじょうしゅう しょうしょう さんこう
建長二年(1250)六月大十五日己酉。將軍家、 造泉殿邊 へ逍遥令め給ふ。奥州・相州并びに 評定衆 少々 參候す。

しゅえん ごれんが あ   しらびょうしさんじょう げい  ほどこ   いずのぜんじゆきかた いげ さるがく  およ    うんぬん
酒宴御連歌有り。白拍子參上し藝を施す。和泉前司行方以下猿樂@に及ぶと云々。

参考@猿楽は、田楽→散楽→猿楽→→→狂言となった場合と、田楽→能楽→→→→→狂言となった場合の二説ある。但し、平家物語鹿ケ谷の法皇の台詞「者ども参って猿楽つかまつれ」の解説では『散楽の仮字。中古から中世にかけて流行した滑稽な物まね中心の雑芸(後略)』とある。今回は後者を取る。

現代語建長二年(1250)六月大十五日己酉。将軍家頼嗣様は、寝殿造りの池へ貼りだした釣り殿で涼みました。奥州重時・相州時頼それと政務会議メンバーが少し付き合いました。酒宴と連歌の会があり。踊り遊女の白拍子が来て踊りを披露しました。和泉前司二階堂行方達が雑芸の猿楽を披露したそうな。

建長二年(1250)六月大十九日癸丑。相州渡御三浦介盛時家。前右馬權頭等參會云々。

読下し                     そうしゅう みうらのすけもりとき  いえ  わた  たま    さきのうまごんのかみらさんかい   うんぬん
建長二年(1250)六月大十九日癸丑。相州、三浦介盛時が家へ渡り御う。前右馬權頭等參會すと云々。

現代語建長二年(1250)六月大十九日癸丑。相州時頼さんは、三浦介盛時の家へ出かけました。前右馬権頭北条政村も付き合いましたとさ。

建長二年(1250)六月大廿四日戊午。今日居住佐介之者。俄企自害。聞者競集。圍繞此家。觀其死骸。有此人之聟。日來令同宅處。其聟白地下向田舎訖。窺其隙。有通艶言於息女事。息女殊周章。敢不能許容。而令投櫛之時取者。骨肉皆變他人之由稱之。彼父潜到于女子居所。自屏風之上投入櫛。息女不慮而取之。仍父已准他人欲遂志。于時不圖而聟自田舎歸着。入來其砌之間。忽以不堪慙。及自害云々。聟仰天悲歎之餘。即離別妻女。依不随彼命。此珎事出來。不孝之所致也。不能施芳契之由云々。剩其身遂出家修行。訪舅夢後云々。

読下し                     きょう  さすけ  きょじゅうのもの  にはか  じがい くはだ
建長二年(1250)六月大廿四日戊午。今日佐介に居住之者、俄に自害を企つ。

き   ものきそ  つど    かく  いえ  いぎょう     そ   しがい  み
聞く者競い集い、此の家を圍繞し、其の死骸を觀る。

こ   ひと の むこ あ    ひごろ どうたくせし ところ  そ  むこあからさま いなか   げこう  をはんぬ  そ  すき  うかが   つやごとを そくじょ  つう     こと あ
此の人之聟有り。日來同宅令む處、其の聟白地@に田舎へ下向し 訖。 其の隙を窺ひ、艶言於息女に通ずる事有り。

そくじょこと  しょうしょう   あへ  きょよう  あたはず  しか    くし   な  せし   のとき と   ば  こつにくみなたにん  かは  のよしこれ  しょう
息女殊に周章し、敢て許容に不能。而るに櫛を投げ令む之時取ら者、骨肉皆他人に變るA之由之を稱す。

か   ちちひそか じょし  きょしょに いた   びょうぶの うえよ  くし   な   いれ    そくじょこころならず  て これ  と
彼の父潜に女子の居所于到り、屏風之上自り櫛を投げ入る。息女不慮にし而之を取る。

よつ ちちすで  たにん  なぞら こころざし と      ほつ   ときに はからず  て むこいなか よ  きちゃく    そ  みぎり  い  きた   のかん
仍て父已に他人に准ひ 志を遂げんと欲す。時于不圖し而聟田舎自り歸着し、其の砌に入り來る之間、

たちま もつ はじ  たえず   じがい  およ    うんぬん
忽ち以て慙に不堪。自害に及ぶと云々。

むこぎょうてん ひかんのあま    すなは さいじょ  りべつ    か   めい  したが ざる  よつ    かく  ちんじ いできた    ふこうの いた ところなり
聟 仰天 悲歎之餘り、即ち妻女に離別す。彼の命に随は不に依て、此の珎事出來る。不孝之致す所也。

ほうきつ  ほどこ  あたはず の よし うんぬん  あまつさ そ   み  しゅっけ  と   しゅぎょう   しうと  むご   とぶら    うんぬん
芳契を施すに不能之由と云々。 剩へ其の身は出家を遂げ修行し、舅の夢後を訪うと云々。

参考@白地(あからさま)は、突然。
参考A
櫛を投げ令む之時取ら者、骨肉皆他人に變るは、古事記や日本書紀で「いざなぎ」が「いざなみ」に櫛を投げたので、山が出来た。櫛を投げると夫婦が他人となった。櫛を投げれば他人になる。と解釈されているらしい。

現代語建長二年(1250)六月大二十四日己午。今日、佐介谷に住んでいる人が、急に自害をしました。その事を聞きつけた人々がわれもわれもと集まって来て、その家を囲んでその死骸を見ました。この人には娘婿が居て、普段同居していました。その婿が、突然田舎へ行きました。其の留守の合間に、娘に言い寄りました。娘は戸惑い慌てて、とんでもないと断りました。そしたら櫛を投げた時に受け取れば、肉親も他人に変わると言われています。その父は、ひそかに娘のそばへ行って、屏風の上から櫛を投げ入れたので、娘は思わずこれを受け取ってしまいました。それで父は他人になったんだとして、思いを遂げようとしました。
なんとその時に限って田舎から帰ってきた婿が入って来たので、たちまち恥かしさに耐え切れず自害をしたのだそうな。婿はびっくりすると同時に悲観してすぐに妻女と別れました。父の云う事を聞かなかったので、この様な事態が起きたのは、親不孝な証拠だ。今後仲良くする気にはなれないのだそうな。そればかりか、自分は出家して修行をして、舅の菩提を弔ったのだそうな。

疑問この婿の倫理は良くわからない。

七月へ

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