吾妻鏡入門第四十三巻

建長五年(1253)五月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　あいだのじょうすけよしかげ　ぜんそく　かっけ　　ふじきら　　しょろうけいかい　　　　うんぬん
建長五年(1253)五月大二月己夘。天�ﾘ。秋田城介義景�@、喘息・脚氣�A・不食等の所勞計會す�Bと云々。

しょうげん　え　　のあいだ　　きょうもくよく　　およ　　　　うんぬん
少減を得る之間、今日沐浴に及ぶと云々。

参考�@秋田城介義景は、安達氏。1210生まれ44歳。
参考�A脚気は、当時は栄養不良らしいとも云うが、時政や義時は脚気になると伊豆へ帰り、治って出て来るので、本当に脚気(白飯病)でもあるようです。
参考�B計会すは、重なる。

現代語建長五年(1253)五月大二日己卯。空は晴です。秋田城介安達義景は、喘息と脚気と物を食べられない病気が重なったそうな。多少良くなったので、今日病の気を洗い流す儀式の沐浴をしたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ことし　　たんご　　りょうしん　　じんご　に　あた
建長五年(1253)五月大四日辛巳。今年の端午は良辰・壬午于當る。

かなら　ごきんしんあ　　　べ　　　　　よっ　　　　ごかんもん　〔こしょりょうのかみ　かものときさだ　えら　　〕　いっつうなら　　　　さんしゅ　　しんぷおまもりら　　せんとうよ　　 みつみつ　 すす　 らる
必ず御謹愼有る可きに依て、御勘文〔故諸陵頭�@賀茂時定撰ぶ〕一通并びに三種の神苻御護等、仙洞自り密々に進め被る。

これすなは　こうてい　ひじゅつなり　 うんぬん　 さんぬ　よ　にょぼうちゅうにとうらい　　　けさ　ないない　 しんらん　　　うんぬん　 かんもん　　い
是 則ち黄帝の秘術也と云々。去る夜女房中于到來す。今朝内々に進覽すと云々。勘文に云はく。

参考�@諸陵頭は、「みささぎのつかさ」とも云い、陵（皇室の墓）の霊を祭り、葬儀らを掌る。参考黄帝は、最初の皇帝。

　　　　ごがついつか　ひのえうま　みずのうま　〔 に 〕　あた　　とし　　たんご　　しんぷおまもり　　　　作りて 　　　かければ　いのちひゃくねん　　保つ　　こと
　　五月五日が丙午・壬午〔ニ〕當る年に端午の神苻御護をつくりてかくれば命 百年をたもつ事

　　みぎ　 ほんぶん　 い　　　　　　　ごがついつか へいご じんご　〔　に　〕　　　　　　　とし　 あかがみ　〔　を　〕　　　　　　　しんぷ　　　　　　　　　　　　　かければ　　としひゃくさいなり
　右、本文に云はく。五月五日丙午壬午〔ニ〕あたる年、赤紙〔ヲ〕もちて神苻をつくりてかくれハ、壽百歳也。

くだん　しんぷ　　　　　　　　さんしゅなり
件の神苻といふは三種也。

ひとつ　〔には〕　へきへいふ　　こ　　　ふ　　　　かければ　　　　ほこや　　なん　　　　　　　　　　てきびと　　　滅ぼし　　　　　わがみ　〔　に　〕　　　向かう　　　者は　　　　自ずから　　　滅ぶ
一〔ニハ〕辟兵�A苻。此の苻をかくれば、鉾矢の難をのがれ、敵人をほろぼし、我身〔ニ〕むかふものハをのづからほろぶ。

ふたつ　〔には〕　　はてきふ　　 こ　　　ふ　　　　　　　　　　　　　　　てきびと　あえて　　起こらず
二〔ニハ〕破敵苻。此の苻をかけぬれば、敵人あへておこらず。

たとえ　きゅうせんとうへいわがみ　　　向かう　　　　　いえども　　がい　　　　　　　こと　　　　みな ことごと　〔く〕　　　砕け　　散る
たとひ弓箭刀兵我身にむかふといへども害をなす事なし。皆 悉〔ク〕くだけちる。

みっつ　〔には〕　さんだい ごしんふ　　 こ　　　ふ　　　　かければ　　　　さんさいくやく　 びょうなん　　除く
三〔ニハ〕三台護身苻。此の苻をかくれば。三災九厄の病難をのぞく。

さんさい　　　とうぞくしっぺいききんなり　　こ　　　さんなん　　　合え　　　　いっさいおそれ　　　みなことごと　しょうじょ
三災とは盜賊疾病飢饉也。此の三難にあへども一切恐なし。皆 悉く消除す。

くやく　　　　　　　　諸々　　　　 やくなん　　除く　　　ことなり
九厄とはもろもろの厄難をのぞく事也。

およ　　こ　　 さんしゅ　　しんぷ　　つくり　　　かければ　　 たんめい　 もの　いのち　ひゃくねん伸べ　　てきじん　　　 もの　 てきじん　　　滅ぼして　　　　　わがみ　　　恙なく
凡そ此の三種の神苻を造てかくれば、短命の者は命を百年のべ。敵人ある物は敵人をほろぼして我身はつゝがなく�B。

　　諸々　　　　　 やくなん　　　会いたらん　　　ひとはやくなん　しょうじょ　　かおう　　　除く　　　　ひゃくびょう　　除く
もろもろの厄難にあひたらん人ハ厄難を消除し禍殃�Cをのぞく。百病をのぞく。

これら　　さいなん　　　除く　　　こと　　　こ　　しんぷ　　ちから　〔に〕　は　　しかじ
是等の災難をのぞく事。此の神苻の力〔ニ〕はしかじ。

ことさら　〔に〕　せんれい　皆　このひ　　　当たる　　　事　　　　　　これら　　　ふ　　　かけて　　おん守り　　　　〔に〕　　　　用いらる
 故〔ニ〕先例みな此日にあたることに、此等の苻をかきて御まもり〔ニ〕もちゐらる。

ことし　　ごがついつか　　　　　　じんご　　〔に〕　　　当たる　　　よっ　　せんれい　　　任せ　　　　こうけ　　行はわる　　

今年五月五日すでに壬午〔ニ〕あたる。仍て先例にまかせて公家おこなはる。

　　誠に　　　もっと　　こ　　　ふ　　　　　　　　　　たまい　　ひゃくねん　　ごじゅみょう　　保たせ　たまいそうらう　　そうろう　よっ　ちゅうしん くだん　ごと
まことに尤も此の苻をかけさせ給て、百年の御壽命をたもたせ給候べく候。仍て注進 件の如し。

　　　　　　　　　しがつ　　にち
　　　　四月　日

参考�A辟兵は、安倍清明のHPに「丹後の節句も邪気除けの節目で、菖蒲や蓬は邪気祓いの植物として重用された。又、五色の絹糸を肘につけて疫病を祓う「辟兵」の呪法や、菖蒲を刻んで小さな人形(ひとがた)をつくり、それを身に付けて邪気を除ける呪法なども行われた」とある。
参考�Bつゝがなくは、平穏無事に。
参考�C禍殃は、禍も殃もともに災い。

現代語建長五年(1253)五月大四日辛巳。今年の端午の節句は、良辰の吉日と壬午に当たります。必ず行いを慎みをしなくてはいけませんので、意見書〔陵の霊を祭り、葬儀らを掌る役所の筆頭の故賀茂時定が選びました〕一通と三種類の神様の御守り札を後嵯峨院から内々に送って来ました。これは、中国の最初の皇帝の秘術だそうな。夕べ女官の所に届きましたので、今朝内緒で宗尊親王将軍家に勧めたそうです。
意見書には、
　　5月5日が丙午や壬午に当たる年の端午の節句の神様の御守り札を作って、体に掛けて置けば、命は100年ももつこと
　右は、本文に云うには、5月5日丙午・壬午に当たる年に、赤い紙で神様のお札を作って体に掛けて置けば、寿命は100才です。
その神様のお札には、三種類あります。
一は、辟兵札。この札を掛けていれば、鉾や矢の難を逃れ、敵を滅ぼし、我が身に向って来る者は、自分から滅びてしまう。
二は、破敵札。この札を掛けていれば、敵になる人があえて起きません。たとえ弓箭や刀剣の兵が我が身にむかってきても、害を与える事は有りません。すべて砕け散ってしまいます。
三は、三台護身札。この札を掛けていれば、三つの災いと九つの病気などの難儀を取り除いてくれます。三つの災いとは、盗人に合う事・病気にかかる事・飢饉に出くわす事です。この三つの災難に合っても一切恐れる事はありません。皆全て消滅し除かれます。九つの難儀とは、色々な厄や難儀を除いてくれるのです。
と、云う訳で、この三種類の神様のお札を作って体に掛けて置けば、短命の者でも百歳まで寿命が延び、敵を持っている人は、敵を滅ぼしてくれて我が身は平穏無事である。色々な厄や難儀に合っている人は、それを消しさり災いを除きます。色々の病気も除きます。
これらの災難を除く事は、この神様のお札の力は絶対である。
そういう訳で、先例は皆この日に当たったならば、これらのお札を掛けてお守りに用いるのです。今年は、5月5日が壬午に当ってます。そこで先例通りに天皇家でも行ってます。本当にしっかりとこのお札をお掛けになって、100年の寿命を保たせるようにしてください。そこで上申はこの通りです。
　　4月○日

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つるがおか　りんじさいなり　　えちごうまのすけときちか　おんし　 な　　ほうへいせし　　　うんぬん
建長五年(1253)五月大五日壬午。鶴岡の臨時祭也。越後右馬助時親御使と爲し奉幣令むと云々。」

きょう　　　　ごしょ　　をい　　　わか　の おんえあ　　　　　うんぬん
今日、御所に於て和歌之御會有りと云々。

現代語建長五年(1253)五月大五日壬午。鶴岡八幡宮の端午の節句のお祭りです。越後右馬助時親は代参として幣を奉納しましたとさ。」
今日、御所で和歌の会がありましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　よ　　　い　　　　　あいだのじょうすけよしかげ そかい　　と　　　　〔ほうみょう　　げんち　〕　　　わかみやそうじょう かいしたり　　そりて　　　えんゆう
建長五年(1253)五月大十三日庚寅。天�ﾘ。夜に入り、 秋田城介義景　素懷を遂ぐ�@〔法名は願智〕。 若宮僧正 戒師爲。剃手は圓勇。

おおそねいやしろうさえもんのじょう　　おな　　　ごろうひょうえのじょう　しそく　　と　　　　　うんぬん
 大曽祢四郎左衛門尉・ 同じき五郎兵衛尉 脂燭�Aを取ると云々。

参考�@素懷を遂ぐは、出家する。
参考�A脂燭は、小形の照明具の一種。松の木を長さ45センチメートル、太さ9ミリメートルぐらいに丸く削り、先端を焦がして油を塗り、手元を紙屋紙(こうやがみ)で巻いたもの。紙や布を細く巻いてよった上に油を染み込ませたものもある。夜間の儀式や室内照明に用いた。ししょく。

現代語建長五年(1253)五月大十三日庚寅、空は晴です。夜になって、秋田城介安達義景は、出家しました〔出家名は願智〕。鶴岡八幡宮筆頭隆弁僧正が指導です。頭を剃ったのは円勇。大曽祢四郎左衛門尉と同五郎兵衛尉が、灯りを持ってました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　ごんのしょうづさいしん　しょうちょうじゅいん　べっとうしき　　ぶ
建長五年(1253)五月大十六日癸巳。�ﾘ。權少僧都最信、 勝長壽院　別當職に補す。

現代語建長五年(1253)五月大十六日癸巳。晴れです。権少僧都最信を、勝長寿院の筆頭に任命しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　こ　　あいだ えんかんなり　　よっ　　きう　　　ため　　れいしょおんはら　　 おこなはれ　 さるのこく こさめそそ
建長五年(1253)五月大廿一日戊戌。霽。此の間　炎旱也。仍て祈雨の爲、靈所御秡へ�@を行被る。申尅 小雨潅ぐ。

参考�@霊所御祓へは、七瀬祓へ。祈雨の祈りは人形を頭の天辺から正面をあごへなでる。

現代語建長五年(1253)五月大二十一日戊戌。晴れました。先日来日照りです。それで雨乞いの為、七瀬祓へを行いました。午後4時頃小雨が降りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　つるがおかはちまんぐう はかいのあいだ　　しゅうり　　くは　　らる　　　　きょう　かりでん　 ことはじめなり　　また　じょうとうあ
建長五年(1253)五月大廿三日庚子。�ﾘ。　鶴岡八幡宮　破壞之間、修理を加へ被る。今日假殿の事 始 也。又、上棟有り。」

きょう　　しょうちょうじゅいん さきのべっとう さきのごんのそうじょうりょうしん にゅうめつ　　　うんぬん　〔としはちじゅういち〕
今日、 勝長壽院 前別當　前權僧正　 良信　入滅すと云々〔年八十一〕。

えんかん　　　きう　　　こと　　　　あじゃり　　〔　どうぜん　　じょうせい　　そんけ　　　しんげん　　　りょうき　〕　　　おお　 らる
炎旱、祈雨の事を、阿闍梨〔道禪。定�C。尊家。親源。良基〕に仰せ被る。

現代語建長五年(1253)五月大二十三日庚子。晴れです。鶴岡八幡宮が、傷んだので修理を加えます。今日、仮殿の建築始め式です。又棟上げ式もありました。」
今日、勝長寿院の前の筆頭の前権僧正良信が、亡くなったそうな〔年は81〕。
日照りの雨乞いの祈りについて、阿闍梨〔道禅・定清・尊家・親源・良基〕に命じました。

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