吾妻鏡入門第四十四巻

建長六年(1254)八月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　 ひがん　　 しょにちなり　　 ごしょ　　おんじぶつどう　　をい　　　　ほっけせんぽう　　　しぎょうさる　　　　そ　　しゅう　じうにく　なり
建長六年(1254)八月小五日乙亥。�ﾘ。彼岸�@の初日也。御所の御持佛堂に於て、法花懺法�Aを始行被る。其の衆十二口也。

参考�@彼岸とあるが、旧暦なので秋の彼岸であろう。
参考�A法華懺法は、法華経を読誦して懺悔し、後生善所を願う法要。天台宗の重要な儀式。

現代語建長六年(1254)八月小五日乙亥。晴れです。お彼岸の初日です。御所の将軍の守り本尊のお堂で、法華経を読誦しながら懺悔し、後生を願う儀式を始めました。参加する坊さんは12人です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 あめふ　　　　　よ　　 い　　　はれ　 ぞく　　　 うしのこく　　とうほう　　はっこう　　み
建長六年(1254)八月小十日庚辰。雨降る。夜に入り�ﾘに属す。丑尅、東方に白虹�@見ゆ。

参考�@白虹は、戦乱の兆候。

現代語建長六年(1254)八月小十日庚辰。雨降りです。夜になって晴れました。午前2時頃、東の空に白い虹が見えました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　きょう　　　ひがんせんぽう のけちがん　　どうし　　さだいじんほういん
建長六年(1254)八月小十一日辛巳。�ﾘ。今日、彼岸懺法之結願。導師は左大臣法印。

かざんいんちゅうじょう　おわりしょうしょう　　なかみかどしょうしょう　おのおの　しょうどう　　ふせ　　　と
 花山院中將・ 尾張少將・ 中御門少將　 各　 唱導の布施を取る。

なわさこんたいふまさしげ　　　　のとうこんくらんどなかとき　ら　しょうそう　　　ふせ　　えき
那波左近大夫政茂�@・能登右近藏人仲時等請僧の布施を役す。

参考�@那波は、大江広元の子が名和を継ぎ、政茂は孫か曾孫に当たるようだ。群馬県伊勢崎市堀口町に名和小学校・名和郵便局に音が残っている。

現代語建長六年(1254)八月小十一日辛巳。晴れです。今日、お彼岸の法華経が完成です。指導僧は、左大臣法印厳恵。花山院中将師継・尾張少将清基・中御門少将公仲はそれぞれ指導僧へのお布施を運びました。那波左近大夫政茂・能登右近蔵人仲時が、お供の坊さんのお布施を渡しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　くも　　　　つるがおか ほうじょうえ　みのこく　こさめふ　　　しょうぐんけ なんめん　　はし　　ま　　　　をい　　ぎょしゅつ
建長六年(1254)八月小十五日乙酉。陰り。鶴岡 放生會。巳尅小雨降る。將軍家 南面の階の間�@に於て御出。

ためちかあそん おんはら　　　そうら　　　ばいぜん　いよちゅうじょうきんなおあそん　えきそう　　さこんたいふまさしげ　ぎょしゅつ　ぎょうれつ
爲親朝臣 御秡へに候う。陪膳は伊与中將公直朝臣。役送は左近大夫政茂。御出の行列。

せんじん　ずいへい
先陣の隨兵

　　たけだのさぶろうまさつな　　　　　　　　　　　　なんぶのじろうさねみつ
　武田三郎政綱　　　　　　　南部次郎實光

　　おおそねのじろうさえもんのじょうもりつね　　　でわのさぶろうゆきすけ
　大曾祢次郎左衛門尉盛經　　出羽三郎行資

　　えちごのうまのすけときちか　　　　　　　　　　　びぜんのさぶろうながより
　越後右馬助時親　　　　　　備前三郎長頼

　　みうらのすけもりとき　　　　　　　　　　　　　　　とおとうみのじうろうよりつら
　三浦介盛時　　　　　　　　遠江十郎頼連

　　とおとうみのろくろうのりとき　　　　　　　　　　　　むつのしちろうなりとき
　遠江六郎教時　　　　　　　陸奥七郎業時

つぎ　さきがけ
次に前駈

　　のとのうこんたいふなかとき　　　　　　　　　　　　なわのさこんたいふまさしげ
　能登右近大夫仲時　　　　　那波左近大夫政茂

つぎ　てんじょうびと
次に殿上人 

つぎ　おくるま
次に御車

　　おのでらのしんさえもんのじょうゆきみち　　　　　といのしろうさねつな
　小野寺新左衛門尉行道　　　土肥四郎實綱

　　やまのうちのとうないさえもんさぶろうみちかど　　ぜんのうえもんじろうやすあり
　山内藤内左衛門三郎通廉　　善右衛門次郎康有

　　きいのじろううえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　おおそねさえもんたろうながつね
　紀伊次郎右衛門尉　　　　　大曽祢左衛門太郎長經

　　かじわらこうづけのじろう　　　　　　　　　　　　　　 かのうのさえもんしろうかげもち
　梶原上野次郎　　　　　　　狩野左衛門四郎景茂

　　ひらがのしんさぶろうこれとき　　　　　　　　　　　 ひごのいやとうじ
　平賀新三郎惟時　　　　　　肥後弥藤次

　　　　　　いじょうひたたれ　　き　　たいけん　　　　おくるま　　さゆう　　そうら
　　　已上直垂を着て帶釼し、御車の左右に候う。

ぎょけん　　えき　　ひと
御釼の役の人

　　とおとうみのぜんじときなお
　遠江前司時直

ごちょうど
御調度 

おんうしろ　〔　ほい　〕　
御後〔布衣〕

　　さがみうこんたいふしょうげんときさだ　　　　　 おわりのさぶろうよりあき
　相摸右近大夫將監時定　　　尾張三郎頼章

　　むさしのたろうともふさ　　　　　　　　　　　　　　なかつかさのごんのだいゆういえうじ
　武藏太郎朝房　　　　　　　中務權大輔家氏

　　みかわのぜんじよりうじ　　　　　　　　　　　　　　 でわのぜんじゆきよし
　參河前司頼氏　　　　　　　出羽前司行義

　　いきのぜんじもとつな　　　　　　　　　　　　　　　いずみのぜんじゆきかた
　壹岐前司基綱　　　　　　　和泉前司行方

　　ささきいきのぜんじやすつな　　　　　　　　　　 おおすみのぜんじただとき
　佐々木壹岐前司泰綱　　　　大隅前司忠時

　　いがのぜんじときいえ　　　　　　　　　　　　　　　すおうのぜんじただつな
　伊賀前司時家　　　　　　　周防前司忠綱

　　ながとのぜんじときとも　　　　　　　　　　　　　　 かじわらこうづけのすけかげとし
　長門前司時朝　　　　　　　梶原上野介景俊

　　とおとうみのかみみつもり　　　　　　　　　　　　　じょうのくろうやすもり
　遠江守光盛　　　　　　　　城九郎泰盛

　　いずみのじろうさえもんのじょうゆきあき　　　　 かじわらこうづけのたろうかげつな
　和泉次郎左衛門尉行章　　　梶原上野太郎景綱

　　おおそねのさえもんのじょうながやす　　　　　　さどのごろうさえもんのじょうもとたか
　大曽祢左衛門尉長泰　　　　佐渡五郎左衛門尉基隆

　　いずみのごろうさえもんのじょうまさやす　　　　 ちくぜんのじろうさえもんのじょうゆきより
　和泉五郎左衛門尉政泰　　　筑前次郎左衛門尉行頼

　　おきのさぶろうさえもんのじょうゆきうじ　　　　　　おのでらのしろうさえもんのじょうみちとき
　隱岐三郎左衛門尉行氏　　　小野寺四郎左衛門尉通時

　　ひごのじろうさえもんのじょうためとき　　　　　　　じょうのじろうよりかげ
　肥後次郎左衛門尉爲時　　　城次郎頼景

　　ぜんのうえもんのじょうやすなが　　　　　　　　　さつまのしちろうさえもんのじょうすけよし
　善右衛門尉康長　　　　　　薩摩七郎左衛門尉祐能

　　いがのじろうさえもんのじょうみつふさ　　　　　　かのうのごろうさえもんのじょう
　伊賀次郎左衛門尉光房　　　狩野五郎左衛門尉

　　きいのじろうさえもんのじょうためつね　　　　　　あだちのさぶろうさえもんのじょう
　紀伊次郎左衛門尉爲經　　　足立三郎左衛門尉　　　　　　　　　　　　　

　　かぢのしちろううえもんのじょううじつな　　　　　 ひごのしろうひょうえんじょうゆきさだ 〔 おおみ　〕
　加地七郎右衛門尉氏綱　　　肥後四郎兵衛尉行定〔大見〕

　　いやぜんたうえもんのじょう　　　　　　　　　　　　かとうさえもんさぶろうかげつね
　弥善太右衛門尉　　　　　　加藤左衛門三郎景經

　　かまたのひょうえさぶろう
　鎌田兵衛三郎

こうじん　　ずいへい
後陣の隨兵

　　さがみのはちろうときたか　　　　　　　　　　　　　むとうのはちろうよりなお
　相摸八郎時隆　　　　　　　武藤八郎頼直

　　ながいのたろうときひで　　　　　　　　　　　　　　こうづけのさぶろうくにうじ
　長井太郎時秀　　　　　　　上野三郎國氏

　　かわちのさぶろうさえもんのじょうすけうじ　　　　ひごのじろうさえもんのじょうかげうじ
　河内三郎左衛門尉祐氏　　　肥後次郎左衛門尉景氏

　　おだのさえもんのじょうときかず　　　　　　　　　　たなかのうえもんのじょうともつぐ
　小田左衛門尉時知　　　　　田中右衛門尉知継

　　あわのしろうひょうえんじょうまさうじ　　　　　　　 あそぬまのこじろうみつつな
　阿波四郎兵衛尉政氏　　　　阿曽沼小次郎光綱

参考�@階間は、「はしのま」で階隠しの間(はがくしのま)とも謂われ、階段を上った上段、簀子に面する庇の間。階隠しは、社殿や寝殿造りの殿舎で、正面の階段上に、柱を2本立てて突出させた庇。社殿では向拝(こうはい)ともいう。

現代語建長六年(1254)八月小十五日乙酉。曇り。鶴岡八幡宮の放生会です。午前10時頃小雨が降って来ました。宗尊親王将軍家は、南面の階段上の間からお出ましです。為親さんがお祓いをして、お給仕は伊予中将公直さんで、運び人は那波左近大夫政茂です。お出ましの行列は、

前を行く武装儀仗兵
　武田三郎政綱　　　　　　　南部次郎実光
　大曽祢次郎左衛門尉盛経　　出羽三郎二階堂行資
　越後右馬助時親　　　　　　備前三郎名越長頼
　三浦介盛時　　　　　　　　遠江十郎佐原頼連
　遠江六郎北条教時　　　　　陸奥七郎北条業時
次に露払い
　能登右近大夫仲時　　　　　那波左近大夫政茂
次に殿上人
次に牛車
　小野寺新左衛門尉行道　　　土肥四郎実綱
　山内藤内左衛門三郎通廉　　善右衛門次郎三善康有
　紀伊次郎右衛門尉　　　　　大曽祢左衛門太郎長経
　梶原上野次郎　　　　　　　狩野左衛門四郎景茂
　平賀新三郎惟時　　　　　　肥後弥藤次
　　　以上は、鎧直垂を着て太刀を佩き、牛車の左右にいる
太刀持ちの役の人
　遠江前司北条時直
弓矢を肩に掛けている人
将軍の後ろを行く人〔狩衣の礼装〕
　相模右近大夫將監時定　　　尾張三郎頼章
　武蔵太郎朝房　　　　　　　中務権大輔足利家氏
　三河前司新田頼氏　　　　　出羽前司二階堂行義
　壱岐前司後藤基綱　　　　　和泉前司二階堂行方
　佐々木壹岐前司泰綱　　　　大隅前司島津忠時
　伊賀前司時家　　　　　　　周防前司島津忠綱
　長門前司笠間時朝　　　　　梶原上野介景俊
　遠江守佐原光盛　　　　　　城九郎安達泰盛
　和泉次郎左衛門尉二階堂行章　梶原上野太郎景綱
　大曽祢左衛門尉長泰　　　　佐渡五郎左衛門尉後藤基隆
　和泉五郎左衛門尉天野政泰　筑前次郎左衛門尉二階堂行頼
　隱岐三郎左衛門尉二階堂行氏　小野寺四郎左衛門尉通時
　肥後次郎左衛門尉狩野為時　城次郎安達頼景
　善右衛門尉三善康長　　　　薩摩七郎左衛門尉伊東祐能
　伊賀次郎左衛門尉光房　　　狩野五郎左衛門尉
　紀伊次郎左衛門尉為経　　　足立三郎左衛門尉
　加地七郎右衛門尉氏綱　　　肥後四郎兵衛尉大見行定
　弥善太右衛門尉　　　　　　加藤左衛門三郎景経
　鎌田兵衛三郎義長
後の武装儀仗兵
　相摸八郎北条時隆　　　　　武藤八郎頼直
　長井太郎時秀　　　　　　　上野三郎畠山國氏
　河内三郎左衛門尉祐氏　　　肥後次郎左衛門尉天野景氏
　小田左衛門尉時知　　　　　田中右衛門尉知継
　阿波四郎兵衛尉薬師寺政氏　阿曽沼小次郎光綱

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれくも　　　　よ　　 い　　はなは　あめ　　きょう　　ぎょしゅつ　のぎ　　さく　　おな
建長六年(1254)八月小十六日丙戌。�ﾘ陰り。夜に入り甚だ雨。今日の御出之儀、昨に同じ。

現代語建長六年(1254)八月小十六日丙戌。晴れのち曇り。夜になって大雨。今日の八幡宮へのお出ましは、昨日と同じです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かいせい　そうしゅうこ　あいだ　 おんかぜ　　け　　 よっ　 ちっきょ　　きょう　はじ　　　　しゅっし　　たま
建長六年(1254)八月小十七日丁亥。快�ﾘ。相州此の間、御風の氣に依て蟄居。今日始めて出仕し給ふ。

現代語建長六年(1254)八月小十七日丁亥。快晴。時頼さんはこのところ、風邪気味なので家に閉じこもっていました。今日、初めて出勤しました。

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