吾妻鏡入門第四十六巻

建長八年(1256)九月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　しょうぐんけ　ごのう　　あかもがさ　なり　　わかみやべっとうそうじょうぐうじ　　さんろう　　　　　ごきとう　　　いたさる
建長八年(1256)九月大一日戊子。霽。將軍家御惱。赤斑瘡�@也。若宮別當僧正宮寺に參籠し、御祈祷を致被る。

かく　こと　とうじ　るふ　　　　　しょにんこれ　　まぬ　　れず　　きとう　　ため　　しょどう　　をい　　ひゃくざ　　におうこう　　おこなはれ　　せいさえもんのじょうみつさだ これ　ぶぎょう
此の事當時流布す。諸人之を免か不。祈祷の爲、諸堂に於て百座�Aの仁王講を行被る。�C左衛門尉滿定　之を奉行す。

参考�@赤斑瘡は、はしか。麻疹。京都で七月末流行り、鎌倉では一月遲れできてる。
参考�A百座は、坊主百人。

現代語建長八年(1256)九月大一日戊子。晴れました。宗尊親王将軍家が病気です。麻疹です。鶴岡八幡宮筆頭僧正隆弁は、八幡宮寺に尾籠をして加持祈祷をしています。この麻疹が、現在流行っています。人は皆逃れる事が出来ません。この祈祷のために、あちこちのお堂で坊主百人の仁王経の講演を行わせました。清原左衛門尉満定が担当しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 また　　　ごのう　　　　ごきとうら　あ　　　　　まつどのほういんりょうき　さだいじんほういんげんえ　おのおの　やくしごま　　しゅう
建長八年(1256)九月大三日庚寅。�ﾘ。又、御惱の御祈祷等有り。松殿法印良基�@・左大臣法印嚴惠　各　藥師護摩を修す。

しちざ　　たいさんふくん　　のぶかた　ためちか　はるなが　ひろすけ　もちひら　 はるのり　 はるむね　　こ　　ほかしちざ　　れいしょ　ばら　　 おこなはれ
七座の泰山府君。宣賢・爲親・�ﾘ長・廣資・以平・�ﾘ憲・�ﾘ宗。此の外七座の靈所�A秡いを行被る。

てんそうちふ　　　ごとうねんじょう　　じゅそら　　　まつ
天冑地府。御當年星。咒咀等の祭り。

参考�@松殿法印良基は、松殿基房の末裔。
参考�A七座の霊所は、鎌倉外で水の流れがある所。七瀬祓い。

現代語建長八年(1256)九月大三日庚寅。晴れです。又も病気の加持祈祷がありました。松殿法印良基・左大臣法印厳恵がそれぞれ薬師如来の護摩炊きを勤めました。七人の泰山府君祭です。宣賢・為親・晴長・広資・以平・晴憲・晴宗です。この他に七人で七か所の七瀬祓いを行いました。それに天曹地府・年の星・呪詛などを祭りをしました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そうしゅう　だい　 をい　　 だいはんにゃきょう　てんどくさる　　　 うんぬん
建長八年(1256)九月大十日丁酉。相州の第に於て、大般若經を轉讀被ると云々。

現代語建長八年(1256)九月大十日丁酉。時頼さんの屋敷で、大般若経の摺り読みをさせましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　くも　　　　そうしゅう　　あかもがさ　　なや　　せし　　たま
建長八年(1256)九月大十五日壬寅。陰り。相州、赤斑瘡を惱み令め給ふ。

現代語建長八年(1256)九月大十五日壬寅。曇りです。時頼さんも麻疹にかかりました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　あさ　あいだあめふ　　　ばん　　およ　　　　そうしゅうごふれい　　こと　　さんぬ　ろくがつにじうろくにちごすいにち　　あた
建長八年(1256)九月大十六日癸夘。朝の間雨降る。晩に及び、相州御不例の事、去る六月 廿六日 御衰日�@に當り、

はじ　　　しゅっしせし　 たま　 のあいだ　 いま　　ごふれい　そ　　つつし　あ　　　べ　　　のよし　　おんみょうどうこれ　 かん　 もう　　　　よっ　　たいさんふくんさい　おこなはれ
始めて出仕令め給ふ之間、今の御不例其の愼み有る可き之由、陰陽道之を勘じ申す。仍て泰山府君祭を行被る。

また　　そうしゅう　めのこ あかもがさ　あ　　　　じゃき あいまじ　　　　　 うんぬん
又、相州の女子赤斑瘡有り。邪氣相交はると云々。

参考�@衰日は、生年衰日、生まれた日の干支の次の干支の日。

現代語建長八年(1256)九月大十六日癸卯。朝の内は雨降りです。夜になって相州時頼さんの病気について、去る六月二十六日は、運が衰える日だったのに、初出勤したからよくないので、今の病気に影響してるのでお祓いをした方がいいと、陰陽師が上申しました。そこで泰山府君祭を行いました。また、時頼さんの娘さんも麻疹にかかり、物の怪もついているそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　はなは　あめふ　　　　さるのこく　しょうぐんけおんもくよく　　おんみょうしょうじょうはるむね おんみがた　　そうら
建長八年(1256)九月大十九日丙午。甚だ雨降る。申尅、將軍家御沐浴。　陰陽少允�ﾘ宗　 御身固め�@に候う。

おんみょうくすしごんのじい　ながよ ろく　　たま　　　　　　なかみかどしょうしょうきんなかあそんこれ　　と　　　　ごいいつつ　ひとへ　　ぎょけんくがねづくりなど
陰陽醫師權侍醫�A長世 祿を賜はる�B。 中御門少將公仲朝臣 之を取る。御衣五・單・御釼 金作等。

つぎ　 おんうま　 たま　　　　　　しきのたろうさえもんのじょうみつまさこれ　　ひ　　　　ひがしべい ちゅうもんのうち　　をい　 かく　　ぎ　あ
次に御馬を給はる。式部太郎左衛門尉光政之を引く。東屏　中門�C之内に於て此の儀有り。

きょう　　　ぶしゅう　ちゃくなん　〔よんさい〕　あかもがさ　　わずら　　　うんぬん
今日、武州が嫡男〔四歳〕�D赤斑瘡を勞うと云々。

参考�@御身固は、もう一度病にならぬように周りを祈りで固めるバリヤー。
参考�A侍医は、本来天皇の医者、ここでは權がついて臨時の。
参考�B禄を賜るは、褒美を上げる。
参考�C中門は、北と南の境の門。
参考�D武州（長時）の嫡男四歳は、後の義宗。

現代語建長八年(1256)九月大十九日丙午。土砂降りです。午後4時頃、宗尊親王将軍家の病の気を洗い流す沐浴の儀式です。陰陽少允晴宗が悪鬼からのバリヤーを張ります。陰陽師や医師権侍長世が、褒美をもらいました。中御門少将公仲が手渡ししました。着物・一重の着物・黄金造りの刀など、次に馬を与えました。式部太郎左衛門尉伊賀光政が引いてきました。東塀の中門の中でこの贈呈式がありました。
今日、武州長時さんの嫡男〔四才・後の義宗〕も麻疹にかかったそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　くも　　　　そうしゅう　　ごふれい へいゆのあいだ　 はじ　　　てあし　　　あら　　せし　 たま　　　　うんぬん
建長八年(1256)九月大廿五日壬子。陰り。相州が御不例平愈之間、始めて手足を洗は令め給ふと云々。

現代語建長八年(1256)九月大二十五日壬子。曇りです。時頼さんの病気が治ったので、病の気を洗い流すため初めて手足をあらいましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　えちごのかみ　しつ　　あかもがさ　　しょろう　　うんぬん
建長八年(1256)九月大廿八日乙夘。越後守が室�@、赤斑瘡の所勞と云々。

参考�@越後守室は、実時室で、北條政村の娘。

現代語建長八年(1256)九月大二十八日乙卯。越後守実時さんの奥さんが、麻疹にかかりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　そうしゅう　おんもくよく　
建長八年(1256)九月大廿九日丙辰。相州、御沐浴。

現代語建長八年(1256)九月大二十九日丙辰。時頼さんの病の気を洗い流す全身の沐浴の儀式です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 くも　　　みんぶのたいふやすつら　 びょうあ　　よっ　　ききゅう　　もんちゅうじょ しつじ　　 じ　　　　　しそくやすむね そ　　けつ　 ぶ
建長八年(1256)九月大卅日丁巳。陰り。民部大夫康連、病痾に依て危急。 問注所 執事を辞す。子息康宗其の闕に補す。

現代語建長八年(1256)九月大三十日丁巳。曇りです。民部大夫三善康連が、病気の為危険なので、問注所の執事を辞職して、息子の三善康宗を、その欠員に任命しました。

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