吾妻鏡入門第四十六巻

康元々年(1256)十二月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　いのこく　　うだいしょうけ　ほけどうまえ しょうぼう　　　きたかぜはげ　　　　ふ
康元々年(1256)十二月小十一日戊辰。�ﾘ。亥尅、右大將家法花堂前燒亡す。北風烈しく吹く。

しょうちょうじゅいん なら　　　　みろくどう　　ごぶつどうとう ことごと　もっ　わざわい　　 ただ　 ほんぞんおよ　いっさいきょうら　　　 けう　　　　　 て　これ　 とりいだ　たてまつ　　うんぬん
 勝長壽院 并びに弥勒堂・五佛堂塔 悉く以て災す。但し本尊 及び一切經等、希有にし而之を取出し奉ると云々。

現代語康元々年(1256)十二月小十一日戊辰。晴です。午後11時頃、右大将頼朝様の法華堂の前で火事です。北風が激しく吹きました。南御堂の勝長寿院・それと境内の弥勒堂・真言密教の五智如来堂・塔すべてが焼けました。但し御本尊や一切経などは、珍しくこれを運び出す事ができましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　みょうしゅん しょうがつ　おんまとはじめ　いて ら　 これ　　さ　　　さだ　 られ　 みぎょうしょ　 くださる　　　　えちごのかみこれ　 ぶぎょう

康元々年(1256)十二月小十三日庚午。明春　正月の御的始の射手等之を差し定め被、御教書を下被る。越後守 之を奉行す。

現代語康元々年(1256)十二月小十三日庚午。来春正月の弓矢初めの射手を指名してお決めになられ、命令書を出しました。越後守北条実時が担当です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　いぬのこく　らいめいすうこえ
康元々年(1256)十二月小十九日丙子。�ﾘ。戌剋、雷鳴 數聲。

現代語康元々年(1256)十二月小十九日丙子。晴です。午後8時頃雷が何度か鳴りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ろくはら もんちゅう　じょうじょう　 つ　　　おお　 つか　 さる　　こと　あ
康元々年(1256)十二月小廿日丁丑。六波羅問注�@の 條々に就き仰せ遣は被る事有り。

ひとつ　といじゃしる　ところ　　か　　　べ　　 こと
一　 問者�A署す所を書く可き事

ひとつ　りょうほうすす　　　ところ　しょうもんら　おのおの　つぎめ　　ふう　　べ　　　こと
一　 兩方進める所の證文等　各　 繼目を封ず可き事�B

ひとつ　おな　　　　もんじょ　　もくろく　　こさい　　ちゅうしんさる　　べ　　 こと
一　 同じく文書の目録�Cに巨細を注進被る可き事

ひとつ　しょうえんりょうけ　 こと
一　 庄園領家の事

　　ほんじしゃ　のな　　　の　　　らる　　　いえど　　　 りょうけ　 ちゅうされざるのあいだ　　いささ　ふしん　 わた
　本寺社之名を載せ被ると雖も、領家を注 被不 之間、聊か不審に渉る。

　　もんちゅうき　　はし　 これ　 かかれざる　　つく　　　 いえど　　　もう　 ことばのちゅう　　　〔なんどに〕　　 これ　　か　　　の　　 らる　　べ　　　か
　問注記の端に之を書被不に作ると雖も、申す詞之注〔ナムドニ〕之を書き載せ被る可き歟。

ひとつ　しょうぢとう　　きょうみょう　 か　　　べ　　 こと
一　 正地頭�Dの交名を書く可き事

　　ぼうしょうぢとう　　〔ぼうと〕　　 の　　　　〔て〕　　　　しょうぢとう　　か　　　ざるのあいだ　いささ　 ふしん　　かかわ　か
　某庄地頭〔某土〕載せ〔天〕、正地頭を書か不之間、聊か不審を渉る歟。

　　ぢとう　　〔ぼう〕　だいかん　〔ぼうと〕　しょういん　だいかんとも　 もっ　　これ　　か　　 れるべ　　　や
　地頭〔某〕代官〔某土〕正員�E代官共に以て之を書か被可き矣。

ひとつ　じょうじょう　おのおの　べつ　へんもく　　た　　　　　べ　　　こと
一　 條々　　各　別�Fに篇目を立てる可き事

　　いちだんない　じょうじょう あいまじは　のあいだ　おいそぎのとき みこころ　　えがた　　　　いちじ　　〔を〕　　いちだん　〔　にて　〕
　一段内�Gに　條々 相交る之間、御忩之時 御心を得難き。一事〔ヲ〕一段〔仁天〕。

　ろようほうもう　　じょう　ことば　べつべつ　〔に〕　　か　　くわ　　らる　　べ　　　なり
　兩方申す状の詞、別々〔仁〕書き加へ被る可き也。

ひとつ　もんちゅうき　　もっ　　　　　さたにんら　　　くだ　　　　　りひ　　　かんぜし　　のところ　　そ　 すうやからのうち　 えんじゃ　　をい　　は　　　そ　　 ざ　　 た　　　せし　をはんぬ
一　 問注記を以て、沙汰人等に下し、理非を勘令む之處、其の數輩之中、縁者に於て々、其の座を起た令め畢。

　　しか　　　　そ　　 ほか　　ある　　　　さき　　ろんじん　 ごう　　　　またさきざき　えんじゃ　　しょう　　　さたにん　　　もよお　　　きら　　もう　　　のこと　　ごひょうじょうのとき
　而して其の外、或ひは先の論人と号し、又前々の縁者と稱し、沙汰人の催しを嫌い申す之事、御評定之時、

　　ようしゃいかよう　 さだ　　られそうら　らん　　ふしん　 ことそうろ　のあいだ　ないない　 たず　 もう　そうろう　くわ　　　　おお　　　　こうむ　べ　そうろう
　用捨何樣に定め被候う覽。不審の事候う之間、内々に尋ね申し候。委しく仰せを蒙る可く候〔焉〕。

参考�@問注は、裁判。
参考�A問者は、原告。書面で表明して訴えろ。密告禁止。
参考�B手継文書は、譲り状が譲られるたびに紙が増えた分繋いで行くのを継ぎ目という。裏に花押を書く。原告被告の証拠書。
参考�C文書の目録には、証拠書類を沢山出した文書の目録を作る事。（証拠隠滅を防ぐ）参考庄園領家の事は、荘園の本所を書いておく問注所の記録の端に書いておくこと。
参考�D正地頭は、一荘園に分割相続などで複数の地頭がいるのが一般的になっているので分割前の地頭（○○分と書く）。
参考�E正員は、正地頭の代官名も書く。
参考�F条条各別には、箇条書きにするように。
参考�G一段内には、一段の中に複数の事を書くな、一つの事は行を分けて、原告被告の内容を別々にかけ。参考論人は、原告。エコ贔屓防止。

現代語康元々年(1256)十二月小二十日丁丑。六波羅探題の裁判の条文について、命じる事があります。

一つ、原告は、訴えを文書に書くこと

一つ、双方が提出する証拠文書の継ぎ目は花押で封をする事

一つ、同様に、文書の目録にも詳しく書いて出す事

一つ、庄園の中間上級権利者の領家について
　　　最上級荘園権利者の本所の寺社の名を書き載せていても、中間上級権利者の領家を書いていないのは、何か怪しい点がある。訴状の端にこれを書かずに作っているならば、話すことを書いている調書〔等に〕にこれを書き載せるのが良いかも。

一つ、本来の地頭の名前を書くこと
　　　ある荘園の地頭〔某と〕書き載せ〔て〕、本来の正地頭を書かないのは、何か怪しい点がある。地頭〔某〕の代官〔某と〕本来の正地頭・代官共にこれを書くこと。

一つ、二つ以上の内容がある時は、別に項目を立てる事
　　　一段内に二つ以上が交ざっている時は、お忙しいのに判断がし難いので、一事件〔を〕一段〔にて〕双方の申し立ての言葉を別々に書き足すこと。
一つ、問注所(裁判所)の記録を使って、裁判員たちにその内容の是非を判断させたところ、その数人のうち、縁故のあるものは席を外しました。しかし、その他の人で、ある人は前の原告だと云ったり、また以前の縁故の者だと云って、裁判員への指名を嫌がる事について、将軍の政務会議の時、採否の判断をする為に見た時にご不審がある時は、内々にお聞きになります。詳しく仰せを受けるようにすること

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こさむらいどころ ばんちょう　こと　そ　　さた　あ
康元々年(1256)十二月小廿五日壬午。 小侍所　番帳の 事其の沙汰有り。

ひさしら　 きんきん　 こと　 をい　　は　　　ごぜん　　をい　　　　じき　　よろ　　　　おんはか　　あ　　　　こさむらいどころは ほん　ところなり
廂等�@の近々の事に於て者、御前に於て、直に宜しく御計り有り。 小侍所者 本の所也�A。

そうにんずうたることのあいだ　 こと　　 ふそ　のけいれき　 ただ　　べ
惣人數爲事 之間、殊に父祖之經歴を糺す可き。

さんだい　そ　 にんずう　 れっ　 ざれば　　　くじ　　　きんえき　　　　たるの　ごけにん　いへど　　　たやす　ごきょよう　あ　　べからずのむね　　これ　 さだ　 らる　　　　うんぬん
三代其の人數に列さ不者、公事を勤役せる爲之御家人と雖も、輙く御許容有る不可之旨、之を定め被ると云々。

参考�@廂等は、將軍の近辺にいるもの。
参考�A本の所也は、重大な勤務だ。

現代語康元々年(1256)十二月小二十五日壬午。将軍の身の回りの世話をする小侍所の班長について、指示がありました。御側に仕えている者については、将軍の前で直接に指示があります。小侍所は重大な任務です。メンバーに採用の際は、特に先祖の経歴を調べなさい。親子三代に渡らなければ、公の仕事をするための御家人であっても、安易に許すべきではありませんと、これをお決めになりましたとさ。

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