吾妻鏡入門第四十七巻 　

康元二年(1257)二月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 しょうぐんけ　つるがおかはちまんぐう　　おんまい　　　ま　　　ごけい　あ　　　　　ためちかそん　〔いかん〕　　　よしきよあそんばいぜん　そうら
康元二年(1257)二月大二日戊午。將軍家、鶴岳八幡宮に御參り。先ず御禊有り。爲親朝臣〔衣冠〕・能�C朝臣陪膳に候う。

なかいええきそう　たり　すけもちおな　　　　てなが　　つと　　　　
仲家役送�@爲。資茂同じく手長�Aを勤む。

参考�@役送は、料理を運ぶ人。
参考�A手長は、料理以外を運ぶ人。

そ　　　ご　　　おくるまを しんでんなんめん　　よ　　　　　つりみかどちゅうなごん　〔あきかたきょう〕　　おんみす　そうら　にし　からもんよ　　おんいで
其の後、御車於寢殿南面に寄せ、土御門中納言〔顯方卿〕御簾を候う。西の唐門自り御出。

ぎょうれつ
行列

ま　　　さきがけろくにん　〔いかん　　げろう　　まえたり〕
先ず前駈六人〔衣冠、下臈が前爲〕

　 あかつかくらんどすけもち　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　のとのうこんくらんどなかいえ
　赤塚藏人資茂　　　　　　　　　　　能登右近藏人仲家

　 おしだてくらんどすけよし　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おうみぜんじすえざね
　押立藏人資能　　　　　　　　　　　近江前司季實

　 びっちゅううこんたいふしょうげんただよし　　　　　　　　　　　のとのうこんたいふしげのり
　備中右近大夫將監忠義　　　　　　　能登右近大夫重教

つぎ　でんじょうびとしちにん　〔そくたい　　げろうさきたり〕
次に殿上人七人〔束帶、下臈爲先〕

　 いちじょうじじゅうさだうじ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ろっかくじじゅういえもと
　一條侍從定氏　　　　　　　　　　　六角侍從家基

　 にじょうじじゅううまさあり　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　このえのしょうしょうきんあつ
　二條侍從雅有　　　　　　　　　　　近衛少將公敦

　 かみやがわひょうえのすけあきな　　　　　　　　　　　　　　　　なかみかどじじゅうむねよあそん
　紙屋河兵衛佐顯名　　　　　　　　　中御門侍從宗世朝臣

　 いちじょうしょうしょうよしきよあそん
　一條少將能�C朝臣

つい　　くげ　よにん　〔のうしそくたいあいまじ　　げろうさきたり〕
次で公卿四人〔直衣束帶相交る下臈爲先〕

　 ぎょうぶきょう　〔むねのり〕　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さきのひょうえのかみ　〔のりさだ〕
　刑部卿〔宗教〕　　　　　　　　　　前兵衛督〔教定〕

　 にんなじさんみ　　〔あきうじきょう〕　　　　　　　　　　　　　　　　　つちみかどちゅうなごん　〔あきかたきょう〕
　仁和寺三位〔顯氏卿〕　　　　　　　土御門中納言〔顯方卿〕

つぎ　おくるま
次に御車

　 かじわらこうづけさぶろうかげうじ　　　　　　　　　　　　　　　　　　おきのじろうさえもんのじょうとききよ
　梶原上野三郎景氏　　　　　　　　　隱岐次郎左衛門尉時�C

　 むとうのじろうひょうえのじょうよりやす　　　　　　　　　　　　　　　 おのでらしんさえもんのじょうゆきみち
　武藤次郎兵衛尉頼泰　　　　　　　　小野寺新左衛門尉行通

　 ひごのさえもんさぶろうためなり　　　〔だざい〕　　　　　　　　　　　すおうのさぶろうさえもんのじょうただゆき
　肥後左衛門三郎爲成〔太宰〕　　　　　周防三郎左衛門尉忠行

　 ぜんのじろうさえもんのじょうやすあり　　　　　　　　　　　　　　　　ひごのろくろううえもんのじょうときかげ
　善次郎左衛門尉康有　　　　　　　　肥後六郎右衛門尉時景

　 かまたのさぶろうさえもんのじょうよしなが　　　　　　　　　　　　　　ひらがのしんざぶろうこれとき
　鎌田三郎左衛門尉義長　　　　　　　平賀新三郎惟時

　 かまたのじろうひょうえのじょうゆきとし
　鎌田次郎兵衛尉行俊

　 　　　　　いじょうひたたれ　　たいけん　　つ　　　　おくるま　　さゆう　　そうら
　　　以上直垂に帶釼を着け、御車の左右に候う。

ぎょけんやく
御釼役

　 ぎょうぶしょうゆうのりとき
　刑部少輔教時

ごちょうど
御調度

　 いやじろうさえもんのじょうちかもり
　弥次郎左衛門尉親盛

つい　おんうしろ
次で御後

 ごい　じうにん　　〔　ほい　　げぐくり〕
五位十人〔布衣に下括〕

　 さがみしきぶのたいふときひろ　　　　　　　　　　　　　　　　　　おわりさこんたいふしょうげんきんとき
　相摸式部大夫時弘　　　　　　　　　尾張左近大夫將監公時

　 しょうゆうさこんたいふしょうげんときふさ　　　　　　　　　　　　　びんごのぜんじやすもち
　少輔左近大夫將監佐房　　　　　　　備後前司康持

　 ながとのぜんじときとも　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あいだのじょうすけやすもり
　長門前司時朝　　　　　　　　　　　秋田城介泰盛

　 いがのぜんじときいえ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぬいどののとうもろつら
　伊賀前司時家　　　　　　　　　　　縫殿頭師連

　 すおうのぜんじただつな　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だざいしょうにかげより
　周防前司忠綱　　　　　　　　　　　大宰少貳景頼

 ろくい　じうさんにん　〔　ほい　　げぐくり〕
六位十三人〔布衣に下括〕

　 むつのろくろうよしまさ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おな　　　しちろうなりとき
　陸奥六郎義政　　　　　　　　　　　同じき七郎業時

　 びぜんのさぶろうながより　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　とおとうみしちろうときもと
　備前三郎長頼　　　　　　　　　　　遠江七郎時基

　 むさしのしろうときなか　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　とおとうみのたろうきよとき
　武藏四郎時仲　　　　　　　　　　　遠江太郎�C時

　 ながいのたろうときひで　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ぜんのうえもんのじょうやすなが
　長井太郎時秀　　　　　　　　　　　善右衛門尉康長

　 おきのさぶろうさえもんのじょうゆきうじ　　　　　　　　　　　　　 きいのじろうさえもんのじょうためつね
　隱岐三郎左衛門尉行氏　　　　　　　紀伊次郎左衛門尉爲經

　 ひごのじろうさえもんのじょうためとき　　　　　　　　　　　　　　 しぶやのさえもんのじょうたけしげ
　肥後次郎左衛門尉爲時　　　　　　　澁谷左衛門尉武重

　 むとううこんしょうげんかねより
　武藤右近將監兼頼

おくるまを あかはしした　　つか　　　　たて　　　　こうもん　おんみす　そうら　　　しげのりおんしじ　　けん　　　　むねよあそんおんくつ　　そうら　〔かねよりこれ　　つた　　〕
御車於赤橋�@下に遣はし立る。黄門�A御簾に候う。重教御榻を献ず。宗世朝臣御沓に候う〔兼頼之を傳う〕。

こうもんおんすそ　　と　　　　　ま　　しもﾂみや　　ごほうへいなり　　にんなじさんみ　ごへい　　すす
黄門御裾を取る。先ず下宮の御奉幣也。仁和寺三位御幣を進む。

つい　うわつみや　おまい　　　　ごきょう　くよう　　　ごちょうもんあ　　　　　どうし　　さきがけ　　ひとびと　おんふせ　　と　　　〔まんどころ　　さた　〕
次で上宮に御參り。御經供養。御聽聞有り。導師・前駈の人々御布施を取る〔政所の沙汰〕。

まんどころ よりゅうどら　てながたるなり　　ことをは　　　かんご
 政所 寄人等手長爲也。事訖りて還御す。

参考�@赤橋は、出演四回目。参考�A黄門は、中納言の唐名。

現代語康元二年(1257)二月大二日戊午。宗尊親王将軍家は、鶴岡八幡宮にお詣りです。先ず、穢れを落とすみそぎがありました。陰陽師の為親さん〔衣冠〕、能清さんがお給仕をしました。能登仲家が料理を運び、赤塚資茂は同様に料理以外を運びました。
その後、牛車を寝殿の南側に寄せ付けて、土御門中納言顕方氏が御簾を上げました。御所西の唐破風の門からお出になりました。
行列は
まず露払いが6人〔衣冠で、下っ端が前です〕
　赤塚蔵人資茂　　　　　能登右近蔵人仲家
　押立蔵人資能　　　　　近江前司季実
　備中右近大夫将監忠義　能登右近大夫重教
次に殿上人7人〔束帯で、下っ端が前です〕
　一条侍従定氏　　　　　六角侍従家基
　二条侍従雅有　　　　　近衛少将公敦
　紙屋河兵衛佐顕名　　　中御門侍従宗世さん
　一条少将能清さん
次に公卿4人〔直衣と束帯が交ざっている、下っ端が前です〕
　難波刑部卿宗教　　　　前兵衛督教定
　仁和寺三位顕氏卿　　　土御門中納言顕方卿
次に将軍の牛車
　梶原上野三郎景氏　　　隠岐次郎左衛門尉時清
　武藤次郎兵衛尉頼泰　　小野寺新左衛門尉行通
　肥後左衛門三郎為成(太宰)周防三郎左衛門尉忠行
　善次郎左衛門尉三善康有　肥後六郎右衛門尉時景
　鎌田三郎左衛門尉義長　平賀新三郎惟時
　鎌田次郎兵衛尉行俊
　　　以上は鎧直垂を着て太刀を佩き、牛車の左右に居る
刀持ちの役
　刑部少輔教時
弓矢を担ぐ人
　弥次郎左衛門尉親盛
次に将軍の後ろ
五位10人〔布衣を着て袴の裾縛り〕
　相模式部大夫時弘　　　尾張左近大夫将監公時
　少輔左近大夫将監佐房　備後前司三善康持
　長門前司笠間時朝　　　秋田城介安達泰盛
　伊賀前司小山時家　　　縫殿頭中原師連
　周防前司島津忠綱　　　太宰少弐武藤景頼
六位13人〔布衣を着て袴の裾縛り〕
　陸奥六郎塩田北条義政　同七郎北条業時
　備前三郎名越北条長頼　遠江七郎北条時基
　武蔵四郎時仲　　　　　遠江太郎清時
　長井太郎時秀　　　　　善右衛門尉三善康長
　隠岐三郎左衛門尉二階堂行氏　紀伊次郎左衛門尉為経
　肥後次郎左衛門尉為時　渋谷左衛門尉武重
　武藤右近将監兼頼
牛車を赤橋のたもとに止める。土御門中納言顕方卿が御簾を上げる役です。能登右近大夫重教は、牛車から降りるための踏み台榻をセットしました。中御門侍従宗世さんが沓を用意しました〔武藤右近将監兼頼がこれを手渡ししたのです〕。
中納言顕方卿が、将軍の束帯の裾を持っています。まず、下宮に幣を納めました。仁和寺三位顕氏卿が御幣を渡しました。
次いで、上宮に4お詣りです。お経の奉納があり、お聞きになられました。指導僧は？露払いの人々がお布施を渡しました〔政務事務所の提供です〕。政務事務所の勤め人が運んできました。式典が終わって御帰りです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 しょうぐんけ にしょ　　ごしょうじんはじ
康元二年(1257)二月大六日壬戌。�ﾘ。將軍家二所の御精進始め。

現代語康元二年(1257)二月大六日壬戌。晴れです。宗尊親王将軍家は、二所権現参りの精進潔斎を始めました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 にしょ ほうへい　　おんし　とおとうみのかみときなおあそんしんぱつ
康元二年(1257)二月大十日丙寅。霽。二所奉幣の御使、遠江守時直朝臣　 進發す。

現代語康元二年(1257)二月大十日丙寅。二所権現への幣の奉納の代参の遠江時直さんが出発です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 とおとうみのかみにしょよ　　　きさん
康元二年(1257)二月大十四日庚午。�ﾘ。 遠江守 二所自り皈參す。

現代語康元二年(1257)二月大十四日庚午。晴れです。遠江守時直さんが二所詣でからお帰りです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　てんはれかぜしずか
康元二年(1257)二月大廿六日壬午。天�ﾘ風靜。

きょう うま　　にてん　　そうしゅうぜんしつ　わかぎみ　〔おんな　　 せいじゅ　　　しちさい〕　を　ごしょ　　　しゅふく　　くは　　らる
今日午の二點、相州禪室が若公〔御名は正壽。七歳〕於御所で首服を加へ被る。

おうしゅう なら　　　　　ごけにん　　〔おのおの　ほい　　　げぐく　　〕　　 にし　さむらい　つ　　　　にとう　ごしょ　　　をい　　そ　　　ぎ　あ
 奥州 并びに御家人〔 各 布衣に下括り〕西の侍へ着く。二棟御所に於て其の儀有り。

ひがししょうじ　そ　　　おんざ　　〔だいもんこうらいべり〕　　　し
東障子に副へ御座〔大文高麗縁〕を設く。

わかぎみ　わらべしょうぞく　〔かりぎぬ　　こしゅう　〕　　　き　　　ぶしゅう　　 ざ　　 しも　　つかる　　　　　じこく　　しょうぐんけしゅつご
若公、 童 裝束〔狩衣、袴繍〕を着て武州の座の下に着被る。時尅。將軍家出御。

つちみかどちゅうなごん　〔あきかたきょう　　のうし〕　 にとう なんめん　　つまど　　い　　　　　 ろうね　　 つまど　　 あいだ　そんきょ　　　わかぎみ　 むか　 めし のよし　　つ
土御門中納言〔顯方卿、直衣〕二棟南面の妻戸へ出で、廊根の妻戸の間に蹲居し、若公に向い召之由を告ぐ。

わかぎみごぜん　 まいらる　　　ぶしゅうこれ　　　ふち　たてまつ　らる　　　 つい　　ごしょうぞく　　おんえぼし　　　　たま　　　　　　くだ　　の
若公御前に參被る。武州之を扶持し奉つ被る。次で御裝束、御烏帽子を賜はり、下り退く。

なかごしょ　 にしのたい　わたろう　 をい　　　　びょうぶ　　た
中御所の西對の渡廊に於て、屏風を立て、

たま　　　　ところの　ごい　　〔うきせんあやがり　　ごい　　むらさきうきおりもの　おんぬばかま　　すおう　　　あこめ　　くれない　ひとえ　〕　　　　きらる
賜はる所之御衣〔浮線綾狩の御衣。紫浮織物の御奴袴�@。蘇芳�Aの二袙�B。紅の單衣〕を着被る。

参考�@奴袴は、指貫(さしぬき)に「袴奴」の字を用いたのを逆にし、 誤読したもの。指貫(さしぬき)の異称。
参考�A蘇芳は、黒味を帯びた赤色。蘇芳とは染料と なる植物の名前で、この色はこれをアルカリ性水溶液で媒染したもの。
参考�B二袙は、装束で使われる内着の一種。正式名称は袙衣(あこめぎぬ)と言い、肌着と表着の間に「相籠めて」着ることから、その名があるという。

すなは　また　れんちゅう　まいらる　　　　ぶしゅう　　ふち　さき　　ごと　　　　 そ　　　ご　ぞうぐ　　 お
 則ち又、簾中に參被る。武州が扶持先の如し。其の後雜具を置く。

ま　　あいだのじょうすけやすもり　えぼし　　〔やないばこ　　お　　　〕　　も　　　まい　　　　ごぜん　　すのこ　　すす　　　　おんみす　あ　　 これ　　すす　　い
先ず秋田城介泰盛烏帽子〔柳筥�Cに置く〕を持ち參り、御前の簀子に進み、御簾を擡げ之に進み入る。

つい　　いきぜんじやすつな うちみだりのはこ　と　　　　　　　だざいごんのしょうにかげより　ゆするつき　 〔やないばこ　　お　　　〕　　えき　　　　いじょう　　さほうさき　　ごと
次で壹岐前司泰綱 打乱筥�Dを取る。大宰權少貳景頼 泔坏�E〔柳筥�Cに置く〕を役す。已上の作法先の如し。

つい　　おうしゅう さむらいざ　　た　　　ろうにし　　えん　　へ　　　　 きりづまとびさし　 こう　　らる　　　　
次で 奥州 侍座を起ち、廊西の縁を經て、切妻戸庇に候じ被る。

ぶしゅうは　りはつ　 えき　 ため れんちゅう　こう　　らる　　　　　　そ　　ほか　ひとびと　　ろう　 せいなん　　ざ　　れつ　〔きたうえ　　 ひがし　　きり　　ひがし　　お　　　〕
武州者理髪の役の爲 簾中に候じ被る。其の外の人々、廊の西南の座に列す�F〔北上。東の切を東へ折る〕。

つい　　ぶしゅうりはつ　　さんしん　　つぎ　　しんかん　おんざ　　まえ　　こう　　たま　　　　ごかかん　　　
次で武州理髪に參進す。次に新冠、御座の前に候じ給ふ。御加冠。

つぎ　 しんかんさんぱい　　　つぎ　 もと　 えき　　ひとら さんしん　　ぞうぐ　　てっ
次に新冠三拝す。次に本の役の人等參進し雜具を撤す。

ぶしゅう れんちゅうを　い　　　ていじょうに くは　　　　　つい　　こうもん にとう なんめんよ　　 い　　　　おな　　　　さいめん おんみすさんかけん　　あ
武州 簾中於出で、庭上于加はる。次で黄門二棟南面自り出で、同じく西面の御簾三ケ間を上げる。

つい　 しんもつ　 ぎょけん　 むさしぜんじともなお　　ごちょうど　　おわりのぜんじときあき　　おんよろい ぎょうぶしょうゆうのりとき　 さこんたいふしょうげんきんとき
次に進物。御釼は武藏前司朝直。御調度は尾張前司時章。御鎧は刑部少輔教時、左近大夫將監公時。

おんのや　　しもつけぜんじやすつな　　おんむかばき　いずみのぜんじゆきかた
御野矢は下野前司泰綱。 御行騰は 和泉前司行方。

　いちのおんうま〔ぎん　　くら　　　お　　　　〕　　　　　むつのろくろうよしまさ　　　　　　はらだとうないさえもんのじょうむねつね
　一御馬〔銀の鞍を置く〕　　陸奥六郎義政　　　原田藤内左衛門尉宗經

　　にちのおんうま〔しろふくりん　　くら　〕　　　　　　むつのさぶろうときむら　　　　　 くどうさえもんのじょうたかみつ
　二御馬〔白伏輪の鞍〕　　　陸奥三郎時村�G 　　工藤左衛門尉高光

　さんのおんうま　〔おな　　　　〕　　　　　　　　　　 さがみのさぶろうときとし　　　　なんじょうしんさえもんのじょうよりかず
　三御馬〔同じき〕　　　　　相摸三郎時利　　　南條新左衛門尉頼員

つぎ　しんかん　ぎょけん　〔みずか　これ　　と　　　たま　　〕　　　たま　　　　　 たいしゅつ ぶしゅうさら　　どうじょう　 これ　　　ふち　　　　びん　さむらいざ　つかる
次に新冠�H御釼〔自ら之を取り給ふ〕を給はる。退出。武州更に堂上で之を扶持す。便に侍座に着被る。

つい　ひとびと　おな　　ざ　　かえ　　つ　　　さんこん　　ぎ　あ　　　　つい　　しんかんごぜん　　しゃく　　〔　そ　　　ざ　　　　ぶしゅう　いげ　はじ　　　　ごと〕
次で人々同じ座に歸り着く。三獻の儀有り。次で新冠御前に杓す〔其の座、武州已下初めの如し〕。

つぎ　　ごみょうじ　　〔ときむね〕　　　かきくだ　　　　あずか　こうもんこれ　　たま　　　　ぶしゅう　あず　らる
次に御名字〔時宗〕を書下しに預り黄門之を給ひ、武州に授け被る。

参考�C柳筥は、柳の細枝を編んだ箱。また、柳の木を細長く三角に 削って寄せ並べ、生糸やこよりで編んだ蓋(ふた)つきの箱。硯(すずり)・墨・筆・短冊や冠 などを納めた。
参考�D打乱筥は、夫人が手ぬぐいなどやかもじをいれておいた蓋の無い箱。
参考�E泔坏は、頭髪を洗う水を盛る器。びんだらい。
参考�F廊の西南の座に列すは、廊下の西側と南側に。北側は上席。東側は引き出物が並ぶ。
参考�G陸奥三郎時村は、北條政村の息子。
参考�H新冠は、時宗。

現代語康元二年(1257)二月大二十六日壬午。空は晴れて風は静かです。今日の11：30頃から、相州禅室北条時頼さんの若君〔名を正寿丸7才〕を御所で元服させました。奥州政村それと御家人〔布衣で袴は足首締め〕は、西の侍たまりに座りました。
二棟の御所でその儀式がありました。東の障子そばに将軍の座〔大きな丸模様の高麗縁の畳です〕を置きました。
若君は、子供用の着物〔狩衣で刺繍の入った袴〕を着て、西の侍たまりの武州長時の座の下手に座りました。
時刻になって宗尊親王将軍家のお出ましです。土御門中納言顕方卿〔直衣〕は、二棟の御所の南面の端の扉から出て、西の侍たまりの廊下の隅の扉前にしゃがんで、若君に向って、将軍のお呼びを告げました。
若君は、将軍の前に来ました。武州長時が手伝いをしています。次に大人用の衣服と烏帽子を将軍から与えられました。中御所の西の対の屋への渡り廊下で、屏風を立てて、与えられたお着物〔白線が浮いて見える綾織の狩衣のお着物。紫の線が浮いて見える織物の奴袴(裾に幅広の紐の入った指貫)。黒っぽい赤の蘇芳の下着。紅色の一重〕を着ました。
すぐにまた、将軍の座敷の御簾の中へ入りました。武州長時さんの介添えはさっきと同じです。
その後、元服用の道具類を置きました。
まず、秋田城介安達泰盛が烏帽子〔冠入れの柳の箱に入れてます〕を持って来て、将軍の御所の外廊下に進んで、御簾を上げて中へ入りました。
ついで、壱岐前司宇都宮泰綱が道具入れの箱を持ちました。太宰権少弐武藤景頼は、頭髪を洗うびんだらい〔柳の箱に置いてます〕の役です。以上の作法は以前の通りです。
ついで、奥州政村は、侍たまりから立ちあがって、廊下の西の縁側を通って、二棟御所の切妻の戸の小さな庇の下へ座りました。
武州長時は、元服の髪切りのために御簾の中に入りました。その他の人々は、廊下の西南の座〔北が上席。東の隅では東へ曲がりました(Ｌ字形)〕に並び座りました。
ついで、武州長時が髪切に進み出ました。つぎに元服者が、将軍の前に控えました。宗尊親王将軍家が烏帽子をかぶせました。次に新元服者は三度お辞儀をしました。つぎに道具類を運んできた役の人が、出てきて道具類を片付けました。
武州長時は、御簾の中から出てきて、庭に控えている連中に加わりました。
次に、土御門中納言顕方さんが二棟御所の南面から出て、同二棟御所の西面の御簾三間分を上げました。
次に、将軍への貢物。刀は武蔵前司北条朝直。弓矢は尾張前司北条時章。鎧は刑部少輔北条教時と左近大夫将監北条公時。狩猟用の矢は下野前司宇都宮泰綱。乗馬袴と乗馬沓は和泉前司二階堂行方。
　一の馬〔銀造りの鞍を置く〕は、陸奥六郎義政と原田藤内左衛門尉宗経
　二の馬〔銀の縁取りした鞍〕は、陸奥三郎時村と工藤左衛門尉高光
　三の馬〔　　　同　　　　〕は、相模三郎時利と南条新左衛門尉頼員
次に元服したばかりの北条時宗に刀を与えました〔自分で受け取りました〕。御所を退出しました。武州長時は座敷で手伝っていましたが、とりあえず侍溜まりに座りました。ついで、庭の皆さんも侍たまりの元の座に戻りました。三々九度の祝い酒がありました。
ついで、新元服の北条時宗が御酌をしました〔座ったのは武州以下最初と同じです〕。
次に実名〔時宗〕を書いて頂き、土御門中納言顕方卿に渡しましたので、武州長時に渡しました。

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吾妻鏡入門第四十七巻