吾妻鏡入門第四十七巻 　

正嘉元年(1257)四月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　しもつけぜんじやすつな　　ごしょ　　をい　　おんまりえ　　もう　　おこな　べ　　　 のよし　　これ　　もう
正嘉元年(1257)四月小七日壬辰。�ﾘ。下野前司泰綱、御所に於て御鞠會を申し行う可き之由、之を申す。

現代語正嘉元年(1257)四月小七日壬辰。晴れです。下野前司宇都宮泰綱が、御所で蹴鞠の会を催したいと申し出ました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　さるのこく　　ごしょ　　おんまりなり　つゆはらい いご　　しょうぐんけ　〔　おんほい　〕　 た　　　せし　　たま
正嘉元年(1257)四月小九日甲午。�ﾘ。申尅、御所の御鞠也。露拂�@已後、將軍家〔御布衣〕立た令め御う。

しもつけぜんじやすつな　いぶしまり　を　　かえるて　　えだ　 つ　　　これ　 すす　　　ぎょうちゅうにゅうどう　これ　　つ
 下野前司泰綱、燻鞠�A於 鶏冠木�Bの枝に付け之を進む。　行忠入道　之を付ける。

ただ　ないない　 これ　　とかれ　 くらごんおかみちかいえ これ　　お　　　　
但し内々に之を解被、内藏權頭親家 之を置く。

げんちゅうなごん　〔　ほい　〕　　なんばぎょうぶきょう　〔　ほい　〕　　　　　 うわまり　　いっそく

源中納言〔布衣〕。難波刑部卿�C〔布衣〕は、上鞠�Dの一足�E。

なかつかさごんのだいゆうのりとき　〔おなじ〕　 とうとうみしちろうｔきもと 〔おなじ〕　くらごんのかみちかいえ　〔おなじ〕　　でわぜんじゆきよし　〔おなじ〕　しもつけぜんじやすつな
　中務權大輔教時　〔同〕　遠江七郎時基�G〔同〕 内藏權頭親家〔同〕 出羽前司行義〔同〕下野前司泰綱。

　　こ　　　ほか
　此の外

にじょうさんみ　　〔　ほい　　　ういざん〕　　とおとうみのたろうきよとき〔すいかん　くずばかま〕　　　かまたのじろうひょうえのじょうゆきとし〔　ほい　〕　ぎょうちゅうにゅうどう　〔ころもばかま　じゅうこう　かたびら　さしおうぎ〕
二條三位�F〔布衣。初參〕、遠江太郎�C時〔水干。葛袴〕、鎌田次郎兵衛尉行俊〔布衣〕、行忠入道〔衣袴�H・重香の帷�I。指扇〕。

かず　さんびゃく　なか　おち　　　さつまのしちろうさえもんのじょうすけよし　はか　　もう
數は三百で中に落る。薩摩七郎左衛門尉祐能 計り申す。

にんなじさんみ　　　 よしきよあそん　　のりただあそん　 のりかたら　げんしょう　そうら
仁和寺三位。能�C朝臣。範忠朝臣。範方等見證�Jに候う。

そもそ　きょう　　にじょうさんぽん　くんしろぢ　　たび　　つ　　　　　しか　　　 むねのりあそんなん　 もう　　　　　い
抑も今日、二條三品 燻白地の韈を着く。而るに宗教朝臣難じ申して云はく。

こ　　　いろ　　をい　　は　　 ひごろこれ　 もち　　ざる　　しょうげん　しき　　ごと　　は　　　　うもんくんかく　　つ　　なり　　すこぶ　かんしん　ざる　　うんぬん
此の色に於て者、日來之を用ゐ不。承元の式の如き者、有文燻革を着く也。頗る甘心せ不と云々。

参考�@露払いは、四角いグランドの丑寅に桜・辰巳に柳・坤に楓・乾に松を植えてあるので、下っ端が先に蹴鞠をして木の枝の露を払う。露払いの語源。総じて先に歩く下部を露払いと呼ぶ。
参考�A燻鞠は、松でいぶして香りを付けた燻革で製した鞠。
参考�B鶏冠木は、かえるて。かえで。楓。
参考�C難波刑部卿は、難波宗教。
参考�D上鞠は、蹴鞠の名人。
参考�E一足は、一番うまい。
参考�F二條三位は、飛鳥井教定。藤原頼経┬宗長─宗教�C（難波流）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　└雅経─教定�F（飛鳥井流）
参考�G遠江七郎時基は、時房─時直─時基。太郎清時は長兄。
参考�H衣袴は、法体装束の一種。後に衣袴がなし崩し的に法体の参内装束になる。
参考�I重香の帷は、香を入れる箱を重香筥と云うので、香を焚き締めた帷子であろう。
参考�J見證は、見張り役。

現代語正嘉元年(1257)四月小九日甲午。晴れです。午後4時頃に御所で蹴鞠の会です。下っ端が蹴鞠をする露払いの式の後、宗尊親王将軍家〔布衣〕がお立ちになりました。下野前司宇都宮泰綱は、いぶし香りの鞠を楓の枝に乗せて献上しました。二階堂行忠入道が取りつけました。但し、非公式にこれを解離して、内蔵権頭親家がこれを輪の中央に置きました。
源中納言〔布衣〕。難波刑部卿宗教〔布衣〕は、名人の中でも一番うまい方です。
中務権大輔教時〔同〕。遠江七郎時基〔同〕。内蔵権頭親家〔同〕。出羽前司二階堂行義〔同〕。下野前司宇都宮泰綱。
この他、二条三位飛鳥井教定〔布衣、初参加〕。遠江太郎清時〔水干、葛袴〕。鎌田次郎兵衛尉行俊〔布衣〕。二階堂行忠入道〔法体の衣袴に香を焚いた帷子で扇を指している〕。数は300を数えた処で地面に落ちました。薩摩七郎左衛門尉伊東祐能が数えていました。
仁和寺三位顕氏、一条少将能清、兵部大輔範忠さん達が、見張り役です。
さて、今日二条三品飛鳥井教定は、いぶした革の白い足袋を履いてます。それに対し難波宗教さんがいちゃもんを着けて云うのには「この色については普段は用いません。承元の式などには、模様をいぶした革を履くものです。とても感心できませんね。」だとさ。

解説鎌倉へ先に来ていた難波流が、後から来た飛鳥井流(従兄弟)にいちゃもんをつけてる。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　だいじじ　はかい　　　　かく　あいだしゅうり　　くは　　らる
正嘉元年(1257)四月小十四日己亥。�ﾘ。大慈寺破壞す。此の間修理を加へ被る。

よっ　　ぶぎょう　とうのひぜんぜんじなにがし　 まつばのじろうすけむねほっし　〔ほうみょうぎょうえん〕　ら　　　か　　　てら　　さんかい
仍て奉行、藤肥前々司ゝゝ・松葉次郎助宗法師〔法名行圓〕等、彼の寺に參會す。

くよう　　　にちじ　　　さた　あ　　　　　ろくがつじうよっかたるべ
供養の日時の沙汰有り。六月十四日爲可き。

ただ　　ごちょうもん　 ため ぎょしゅつ あ　　　ば　　おんかたたが　あるべ　　のよし　　おんみょうじら　これ　　かん　　もう
但し御聽聞の爲　御出 有ら者、御方違へ有可き之由、陰陽師等之を勘じ申す�@。

参考�@勘じ申すは、上申する。

現代語正嘉元年(1257)四月小十四日己亥。晴れです。大慈寺が壊れましたので、修理を加えます。そこで担当の肥前前司藤原〇〇と松葉次郎助宗法師〔出家名は行円〕達がその寺へ出掛けました。
修理完了の開眼供養の日を決めるよう命じられました。6月14日が良いでしょう。但し、お経を聞きにお立合いに外出するならば、方角替えをした方が良いと、陰陽師が上申しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そうしゅうぜんしつ　ひごろ　　すくがん　　はた　　　 ため　　しんしゃ　 こんし　きんじ　だいはんやきょういちぶ　　もっ
正嘉元年(1257)四月小十五日庚子。相州禪室、日來の宿願を果さん爲、新冩の紺帋に金字大般若經一部を以て、

こうたいじんぐう　　おく　 たてま　らる　　　　うんぬん
皇大神宮に送り奉つ被ると云々。

がんもん　　せいしょは　　ぜんしつ　ふうあ　　たす　　おう　　おわ　　せし　　たま　　　　こと　たに　こと　　　　　　よっ　 なり　 さいしゅたかみちきょう　つけらる　　　　うんぬん
願文の�C書者、禪室風痾を扶け功を終り令め給ふ。縡他于異なるに依て也。祭主隆通卿に付被ると云々。

現代語正嘉元年(1257)四月小十五日庚子。相州禅室時頼さんは、普段兼ねてからの願いを果たすため、新しく写した藍に染めた紙に金泥書きの大般若経一部を用意して、伊勢神宮の内宮へ送り納めたそうな。願いの文章の清書は、時頼さんが病気を押して書き終えました。内容が他とは違い重要だからです。伊勢神宮の神官の長官である大中臣隆通さんに頼みましたとさ。

　　けいびゃく
　敬白

　　　　こんし　　きんじ　　だいはんにゃきょう いちぶ ろっぴゃっかん　か　　 うつ　たてまつ
　　紺紙の金字の 大般若經 一部 六百巻を書き冩し奉る

　敬って申し上げます
　　藍に染めた紙に金泥書きの大般若経一部600巻を書き写して奉納します(以下は、願文につき現代語を略す)

　　それ　　いすず　かわかみ　　あた　　そうし の きしょう　　　　だいしょうのいそのみや あ　　　　はちまんほうぞう　　なか　　をい　　　きょうもんのたくりゃく ぶつみょうのはがんあ
　夫、五十鈴河上に當り宗祠之奇勝兮、代稱之礒宮�@有り。八万寳藏の中に於て兮教門之卓礫�A、佛名之波岩有り。

　わがちょう ひゃくおうのがんそ なり　　けっさい りゅうしゅう これ　せいびょうよ　はなは　　　　さんぜしょぶつの　ちも　なり　　かいこう　ごとう のじょうかんよ　　おこ
　吾朝 百王�B之元祖也。欽載 隆周 之に�C廟自り甚だし。三世諸佛之智母也。恢弘五唐之貞觀自り起る。

　　これもっ　しゅくけい　　　 これもっ　 こうたん　　　　これ　　をい　　しんし　　おうねん あこく　　おかされ　　にじ　がんねん　とうほつ
　是以て肅敬し、是以て講嘆す。是に於て弟子、往年痾黒に冒被、爾時願念を偸發す。

　　たちま　じょゆ　　 え　　　　 つい　あんぜん　　え　　 てへ　　　　はや　そくゆう そくくう じんしん のみょうり　うつ　　　いちいんいちよう ふそく の れいい　わきた　たてまつ
　忽ち除愈を得て、遂に安全を得る者り。早く即有即空甚深之妙理を冩し、一陰一陽不測之靈威を賁ち奉る。

　　すくむ　とし　　わた　　　　よき　の　かいせい　きざ　　　 いへど　　　ていろ むな　　　　　ざる　　いちねんのせんつう　　い　　　べ
　宿霧歳を渉り、餘氣之快霽に兆すと雖も、底露空しから不。一念之潜通と謂ひつ可し。

　　これもっ　　 かか せいひつのみょうじ　　しかんそうおう の かけい　 つつし　　　せいそ　　まか　　　うやまっ　けいびゃく　いた
　是以て華夏靜謐之明時、枝幹相應之佳景、虔んで誠素に任せ、敬て啓白�Cを致す。

　　ろくしきだいご　の きん　 おそれ　べ　　　　　しぶ　　　つ　　　もっ　　どうぎ　　つつし　　しょきょうだいいちのせつ　 いまず　　　しんしゅ　おどろ もっ　　しょうり　　 ご
　六色第五�D之禁を惶る可し。祠部に付け以て道儀を懃む。諸經第一之説を妄不。神咒に驚き以て勝利を期す。

　　しんし　は　　　ぎゆう　かけ　　　いへど　　　　ちりゃくうとむ　いへど　　　ちょうげい を　かいひょう　きる
　弟子者、義勇缺ると雖も、治略踈と雖も、長鯨 於 海表に剪は、欠

　　 ごび ねん　　　ところは　はらんの なが　やみ　　じんぷうを　かん　あお　　なか　 ぞうじ うらや　ところは しじょうの ならざる
　寤寐念ずる攸者波瀾之永く罷、仁風於寰に仰ぐ中、造次�E羨む所者枝條之鳴不。

　 ねんらいほうこく の ちゅう ぞん　　　 いますで　 とんせいのこころざし　と　　　　せいじょう　み　あ
　年來報國之忠を存じ、今已に遁世之 志を 遂ぐ。�C浄 身に在り。

　　 きむ　を　そうもん　ののち　　いと　　　いへど　　ひょうみょう め　　よ　　　　　ただしんじんを はくじょうのへん　は　　　　　か　　 こうしゅう　しし　のすくあ　　まと　　なり
　機務�F於桑門之後に厭うと雖も、縹眇�H眼に寄せ、只信心於栢城�G之邊に馳す。彼の杭州刺史之宿痾を纏う也。

　　 ひと　　　ぜんいんを むりょうじゅの がくほう　 れいりょう　たいしゅの ぼぜん　　ちか　 ことなり　　はるか みょうしん を　　うぐ し　 の そんびょう　 こ
　偏へに善因於無量壽之樂邦・零陵　大守之慕前に誓う事也。 遥に明信於有虞氏之尊廟に凝らす。

　　 ぐろ　　　いた　ところ　　すで　きゅうぶん　　こ　　　　いはんやみょうてん の ほうげ たるなり　　まいじみなれいすいのはしょく　しんていのしょっきん　いとな　しょなり
　愚魯の致す所、已に舊聞を越ゆ。况畢 妙典 之 寳偈爲也。毎字皆麗水之波色・眞諦之餝金を營む書也。

　　ゆいぶんごげんの ふうぎんを い　　　　　そ　　きんじろっぴゃくじく　ろっぴゃくじくそうれい あ　　 のあま　　　　これ しこんさんじうにん　さんじうにんかばいのこえ　　あ
　遺文五源之風吟於出で、其の金字六百軸。 々々 壯麗 有る之餘り。此緇襟三十人。々々 哥唄之聲を合はせ。

　　ことこれていちょう　ふくとうけんならず　あお　　ねが　　　　　　にしょ　　たいじん　 はんにゃ　 はな　 う　　　　　もっ　　ほうらく　　ま　　　　　　　ふし　　こ　　　さんぽん　　だいおう
　縡是 鄭重。福唐捐不。 仰ぎ願はくは二所の太神。般若の花を受け、以て法樂を増さん。伏て乞う三品の大王、

　　よっ　　きたく　な　　　　　もっ　 せんれい　たも　　　　　　およ　　それこっか　　ようご　　　　　 もの　　　　かみのみょうとくなり　わがねが　すなは これ　　あ
　仍て耆藥莫く、以て仙齢を保たん。凡そ厥國家を擁護する者は、神之明徳也。我願ひ廼ち之に在り。

　　みんれい　ふぎょう　　　 もの　　　　 きょうのえりきなり　　わがねが　 またこれ　　あ　　　　 かみ　　い　　　きょう　い　　　　　なん　　そねん　　のうじゅ
　民黎を冨饒する者は、經之惠力也。我願ひ又之に在り。神と云ひ經と云ひ。盍ぞ素念を納受せざらん。

　　てきな　　　ばくな　　　　かなら　すくぼう　 えんまん　　　　　しから　すなは　ひゃくねんつつがな　　　ねんねんつね　　うねんおとし　　あ　　　　　しょじ　なりあ
　適無く莫無し。必ず宿望を圓滿せん。然ば則ち 百年　恙無し。年々常に有年之年に遇ひ、庶事成有りて、

　　ことごと　　ただ　ぶじ　のこと　　き　　　　　　　とひ　かいらく　　　しそんはんじょう　 ないし　くどく の あま　　　 ゆうけんあまね　り　　　　　　けいびゃく
　事々に只無事之事を聞かん。都鄙快樂。子孫繁昌。乃至功徳之餘り、幽顯普く利せん。敬白。

　　　　　　しょうかがんねんしがつじゅうごにち　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しんし　しゃみどうすうけいびゃく
　　　正嘉元年四月十五日　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　弟子沙弥道崇敬白

参考�@礒宮は、伊勢市磯町の磯神社。
参考�A卓礫は、形容詞で高く抜きん出てる。
参考�B百王は、天皇を指し百代で終わると云う思想が南朝。百王を永遠と解釈したのが北朝。
参考�C啓百は、報告。
参考�D六色第五は、目耳鼻舌心意の五番目の心。
参考�E造次は、瞬間。
参考�F機務は、非常に重要な政務。
参考�G柏城は、前漢(劉邦)の武帝の城を柏梁台。劉邦が捕虜になり金で釈放されて以来、金を送る習慣が出来ていたが、武帝は金を送らずに攻めて行ったので、武帝の実績に思いを馳せる。
参考�H縹眇は、縹緲と書いて「ぼんやりとかすかな」。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　くも　　　　げっしょく　　せいげん　　ざる　　おいの
正嘉元年(1257)四月小十六日辛丑。陰り。月蝕、正見せ不、御祈り。

現代語正嘉元年(1257)四月小十六日辛丑。曇り。月食ですが、ちゃんと見えなかったのでお祈りを捧げました。

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