吾妻鏡入門第四十七巻 　

正嘉元年(1257)十月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　うのこく　しょうぐんけ　やすつな　　いえよ　　　かんご　　　きょう　　だいじじ　くようなり
正嘉元年(1257)十月大一日壬午。�ﾘ。夘尅、將軍家、泰綱が家自り還御。今日大慈寺供養也。

とうじ　ほんどう　 じょうろくどう　　　しんあみだどう　　　しゃかどう　　さんじゅうのとう　しょうろうら　ことごと　しゅうり　　くわ　　らる　　　　そうごん　のび　ほと　　　　こせき　　す
當寺本堂・丈六堂・新阿弥陀堂・釋迦堂・三重塔・鐘樓等　悉く修理を加へ被る。庄嚴之美殆んど古跡を軼ぐ。

　まんだらぐ　　　　　　だいあじゃりさんみそうじょうらいけん　　しきしょうさんじっく　　ごがんもん　　そう　きゅうりょうひろのり　せいしょ　さだいじんほういんげんえ
曼陀羅供は、大阿闍梨三位僧正頼兼。職衆三十口。御願文の草は給料�@廣範、�C書は左大臣法印嚴惠。

　ごふじゅもん　　〔そうしゅう　　　ごみょうじ　　　の　　　　らる　　〕　　　そう　　ひろのり　　せいしょ　いずみのぜんじゆきかた
御諷誦文�A〔相州の御名字を載せ被る〕、草は廣範、�C書は和泉前司行方。

とうじつ　　かいじょう　ぎょうじ　みかわのぜんじのりたかまひと　　〔　ほい　　　げぐく　　〕　　　ぎょうぶごんのしょうゆうまさしげ 〔そくたい〕 ら　　　 みめい　　 じもん　　まい　　これ　　ぶぎょう
當日の會塲の行事は參河前司教隆眞人〔布衣に下括り〕・刑部權少輔政茂〔束帶〕等、未明に寺門に參り之を奉行す。

ていじょう　いけ　みなみ　かわ　　しょかどうむか　　よ　　じょうろくどう　 いた　あいだ　 とうざいこう　　まく　　ひ　　　　みなみもん　うち　　あた　　まくもん　　ひら
庭上の池の南の河、釋迦堂向い自り丈六堂に至る間、東西行に幔�Bを引き、南門の内に當り幔門を開く。

またにしは　　しゃかどう　　にしかど　　　いけかわ　　いた　　　ひがしはじょうろくどう　ひがしかどよ　　　いけかわ　　いた　　おのおのなんぼくこう　まく　　ひ
又西者、釋迦堂の西角から池河に至り、東者丈六堂の 東角 自り池河に至り、 各 南北行に幔を引く。

おのおの　まく　ちゅうおう　　まくもん　　ひら　　　　きょう　 くよう　　 どうとうみなまくなか　　な
　各　幔の中央に幔門を開く。今日供養の堂塔皆幔中と爲す。

また　 ぶつぜん　ひがし　ま　　いけかわ　あた　　　　ごしょうきょう　あく　 た
又、佛前の東の間の池河に當り、御誦經の幄�Cを立つ。

まくもんなら　　　 いけ　 はし　　うえよ　　 ぶつぜん きざはし きわ　 いた　むしろ　みち　　し
幔門并びに池の橋の上自り佛前の階の際に至り筵を道に敷く。

どうちゅう　もんごと　　さいばん　　けまん　　か　　　　ぶつくとうみょう　そな
堂中の門毎に彩幡・華鬘を懸く。佛供燈明を備う。

ぶつぜん　にし　　ま　　　だいあじゃり　　　ざ　　〔 こうらいべり 〕　　　な　　　　　ひがし　ま　いとうきたおれ　　 だいあじゃり　　ひら　　さんしゅう　 ざ　　　な
佛前の西の間は大阿闍梨が座〔高麗端〕と爲す。東の間以東北折を大阿闍梨が平の讃衆の座と爲す。

きた　　ま　よ　　ひがしおれ　 じよ　　 しきしょう　　ざ　　　な
北の間以り東折を自餘の職衆の座と爲す。

また　　 みいりゅう　だいあじゃり たる のとき　　　　さんげ　　つくえ　 たてず　　どうどうじ　　　 ざ　　　しかず　　うんぬん
又、三井流大阿闍梨爲之時は、散花�Dの机を立不。堂童子の座を敷不と云々。

よっ　　きょう　そ　　　しき　　まも　　　　にし　　ろうない　　ごちょうもんじょ 〔うんげんべりたたみさんまい〕　　 もう　　　　きんじゅう　にょぼう しょうしょう かね　さんこう
仍て今日其の式を守り、西の廊内に御聽聞所〔繧繝端�E疊三枚〕を儲く。近習・女房 少々 兼て參候す。

しかして　みやすどころ　いま　　　ござ　　　　　　 のあいだ　 きちょう　かたびら　いださる　　　 およばず　ひがし ろうない　　しっけん　　ごちょうもんじょ　　かま
然而、御息所　未だ御坐せざる之間、凡帳�Fの帷を出被るに及不。東の廊内に執權の御聽聞所を搆う。

じょうろくどう　　 うとり　　 ろうない　　おん ふせとり　　　 くげ　　　てんじょうびと　ざ　　〔　くげ　こうらい　　てんじょうびとむらさき　〕　　　し
丈六堂の夘酉の廊内に御布施取の公卿・殿上人の座〔公卿高麗。殿上人 紫 〕を敷く。

おな　　　ちゅうかん　　ろう　　しょだいぶ　　ざ　〔むらさきべり〕　　 し　　　　 みのこく　　しょうぐんけ　〔おんそくたい　おんたいけん〕　おんいで
同じく中間の廊に諸大夫の座〔紫端〕を設く。巳剋、將軍家〔御束帶。御帶劔〕御出。

　ぐぶにんぎょうれつ
供奉人行列

せんじん　ずいへい　〔にぎょう〕
先陣の随兵〔二行〕

　 たけだのごろさぶろうまさつな　　　　　　　　　　　　　　　　　　おがさわらのじゅうろうゆきなが
　武田五郎三郎政綱　　　　　　　　　小笠原十郎行長

　 ながいのたろうときひで　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しもつけのしちろうつねつな
　長井太郎時秀　　　　　　　　　　　下野七郎經綱

　 とおとうみのじろうときみち　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はかえやまのこうづけさぶろうくにうじ
　遠江次郎時通　　　　　　　　　　　畠山上野三郎國氏

　 むさしのごろうときただ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 びぜんのさぶろうながより
　武藏五郎時忠　　　　　　　　　　　備前三郎長頼

　 むつのしちろうなりとき　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 しんさがみのさぶろうときむら
　陸奥七郎業時　　　　　　　　　　　新相摸三郎時村

　 とおとうみのしちろうときもと　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　むつのろくろうよしまさ
　遠江七郎時基　　　　　　　　　　　陸奥六郎義政

おくるま
御車

　 おきのじろうさえもんのじょうとききよ　　　　　　　　　　　　　　　　ぜんのじろうさえもんのじょうやすあり
　隱岐次郎左衛門尉時�C　　　　　　　善次郎左衛門尉康有

　 やまのうちのさぶろうさえもんのじょうみちかど　　　　　　　　　　ひごのろくろううえもんのじょうときかげ
　山内三郎左衛門尉通廉　　　　　　　肥後六郎右衛門尉時景

　 おおみひごのしろうひょうえのじょうゆきさだ　　　　　　　　　　　おな　　　ごろうただかげ
　大見肥後四郎兵衛尉行定　　　　　　同じき五郎忠景

　 こいずみのさえもんしろうよりゆき　　　　　　　　　　　　　　　　　こうづけのさぶろうかげうじ　〔かじわら〕
　小泉左衛門四郎頼行　　　　　　　　上野三郎景氏〔梶原〕

　 ちくぜんのごろうゆきしげ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ひらがのしんざぶろうこれとき
　筑前五郎行重　　　　　　　　　　　平賀新三郎惟時

　 ぜんのさえもんじろうもりむら　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ひごのさぶろうためなり　　〔だざい〕
　善左衛門次郎盛村　　　　　　　　　肥後三郎爲成〔太宰〕

　 　　　おのおのひたたれ　 き　　つるぎ　 お　　　　おくるま　　さゆう　　　なら　　ある
　　　各　直垂を着て釼を帶び、御車の左右に列び歩く。

ごちょうど
御調度

　　 むとうじろうさえもんのじょうよりやす
　武藤次郎左衛門尉頼泰

おんうしろ　〔　ほい　〕
御後〔布衣〕

　 むさしのぜんじともなお　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おわりのぜんじときあき　〔ぎょけんやく〕
　武藏前司朝直　　　　　　　　　　　尾張前司時章〔御釼役〕

　 なかつかさごんのだいゆういえうじ　　　　　　　　　　　　　　　　えちごのかみさねとき
　中務權大輔家氏　　　　　　　　　　越後守實時

　 ぎょうぶしょうゆうのりとき　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しもつけぜんじやすつな
　刑部少輔教時　　　　　　　　　　　下野前司泰綱

　 むさしさこんのたいふしょうげんときなか　　　　　　　　　　　　　さがみしきぶのたいふときひろ
　武藏左近大夫將監時仲　　　　　　　相摸式部大夫時廣

　 あいだのじょうすけやすもり　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 えちごうまのすけときちか
　秋田城介泰盛　　　　　　　　　　　越後右馬助時親

　 みんぶごんのだいゆうときたか　　　　　　　　　　　　　　　　　　　とおとうみうまのすけきよとき
　民部權大輔時隆　　　　　　　　　　遠江右馬助�C時

　 たんごのかみよりかげ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　でわのぜんじながむら
　丹後守頼景　　　　　　　　　　　　出羽前司長村

　 いずみのぜんじゆきかた　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だざいごんのしょうにかげより
　和泉前司行方　　　　　　　　　　　大宰權少貳景頼

　 かずさのすけながやす　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いがのぜんじときいいえ
　上総介長泰　　　　　　　　　　　　伊賀前司時家

　 いわみのぜんじよしゆき　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ひゅうがのかみすけやす
　石見前司能行　　　　　　　　　　　日向守祐泰

　 すおうのかみただつな　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おおすみぜんじちかかず
　周防守忠綱　　　　　　　　　　　　大隅前司親員

　 びんごぜんじやすもち　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いずのたろうさえもんのじょうさねやす
　備後前司康持　　　　　　　　　　　伊豆太郎左衛門尉實保

　 しきぶのたろうさえもんのじょうみつまさ　　　　　　　　　　　　　　たけいしのさぶろうさえもんのじょうともたね
　式部太郎左衛門尉光政　　　　　　　武石三郎左衛門尉朝胤

　 かまたのさぶろうさえもんのじょうよしなが　　　　　　　　　　　　　かまたのじろうひょうえのじょうゆきとし
　鎌田三郎左衛門尉義長　　　　　　　鎌田次郎兵衛尉行俊

こうじん　ずいへい
後陣の随兵

　 とおとうみのさぶろうさえもんのじょうやすもり　〔みうら　〕　　　　　ながえのはちろうかげやす
　遠江三郎左衛門尉泰盛〔三浦〕　　　長江八郎景康

　 ちばのすけたねより　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　じょうのしろうさえもんのじょうときもり
　千葉介頼胤　　　　　　　　　　　 城四郎左衛門尉時盛

　 こうづけのごろうさえもんのじょうしげみつ　　　　　　　　　　　　あそぬまのこじろうみつつな
　上野五郎左衛門尉重光　　　　　　 阿曽沼小次郎光綱

　 とおとうみのじうろうさえもんのじょうよりつら　〔みうら　〕　　　　　　ひたちのじろうひょうえのじょうゆきかつ
　遠江十郎左衛門尉頼連〔三浦〕　　　常陸次郎兵衛尉行雄

　 かわごえのじろうつねしげ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　むとううこんしょうげんかねより
　河越次郎經重　　　　　　　　　　 武藤右近將監兼頼

　 かざはやのたろうつねやす　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おだのさえもんのじょうときとも
　風早太郎常康　　　　　　　　　　 小田左衛門尉時知

　 ろじ　のぎ　　　 ようふくじ　 くよう　のとき　　　　うだいしょうけ　ほけどうまえ　　  をい　　　さんみちゅうじょうけ おんが　　とかれ　　　ぐぶにん　げば　せし　　　いへど
路次之儀、永福寺供養之時、右大將家法花堂前に於て、三位中將家 御駕を税被、供奉人下馬令むと雖も、

このたび　そ　　　れいあ　　べからず のよし　けんじつこれ　 さだ　 らる
今度は其の礼有る不可之由、兼日之を定め被る。

つぎ　　てら　みなみもん　いた　　　おくるま　　と　　　お　　　たま　　　　さこんたいふすけふさ　おんしじ　 えき
次に寺の南門に到り、御車を税き下り御う。左近大夫佐房 御榻�Gを役す。

つちみかどちゅうなごん　　かざんいんさいしょうちゅうじょう　なら　　 てんじょうびとら　　あらかじ　じもん のそと　　まい　　そうら
土御門中納言・ 　花山院宰相中將　并びに殿上人等、豫め寺門之外に參り候う。

これ　　くげ　てんじょうびと　きば　　　ぐぶ すべ　　のよし　さた　あ　　　　いへど　　　　 くげ　きば　　　 しんのう　　 ぐぶ　　　さんきぶんめい　　　ざるのあいだ　　そ　　　ぎ　　　と　　　らる
是、公卿殿上人騎馬で供奉可き之由沙汰有ると雖も、公卿騎馬で親王に供奉、先規分明なら不之間、其の儀を止め被る。

てんじょうびと　をい　 は　　 そ　　　なんあ　　べからず　いへど　　 かく　　 ぎ　　　な　　　　　　 れば　　くげ　じょうしゃ　こしょうすべ
殿上人に於て者、其の難有る不可と雖も、此の儀を爲すてへ者、公卿乘車で扈從可し。

しか　　　　かんとう　のぎ　　おくるまのほか　　これ　 ゆるされざる　 よっ　　　　みな　いぎ　　　ぐぶ　　　や　　　らる　　　　よっ　　かく　　ごと　　　　うんぬん
而るに關東之儀、御車之外、之を聽被不に依て、皆威儀の供奉を止め被る。仍て此の如しと云々。

　 〔うじょうしょう　おんはいが　　たま　　　　　れい　　ふきつ　　　よっ　　　しん　　もち　　ざるか〕
〔右承相�H御拝賀し御うの例。不吉に依て信じ用ひ不歟�I〕。

つい　 せんじん　ずいへい　もんがい　　い　　いけ　 にし　　かわ　　い　　　　ようや　にゅうぎょののち　 こうじん　ずいへいまた　おな　　　ひがし　いけ　みなみ　かわにれつ
次で先陣の随兵、門外に入り池の西の河に居る。漸く入御之後、々陣の随兵又、同じく東の池の南の河于列す。

つい　いけ　　はしなら　　むしろみちおよ　 ほんどう　 せいろう　ひがしきざはしら　へ　　　　ごれんちゅう　　い
次で池の橋并びに筵道及び本堂の西廊の 東階 等を經て、御簾中に入る。

こ　あいだこうもんさんしん　　　ぎょけんしゃく　たま
此の間黄門�J參進し、御劔笏を賜はる。

　ぐぶ　　　ごい　ろくい　ごちょうもんじょ　　なんてい　〔しょうじ　もち　　　〕　　　　しこう
供奉の五位六位御聽聞所の南庭〔床子�Kを用う〕に祗候す。

つい　　くげ　　てんじょうびと むしろみち　へ　　　　どうまえ　　ざ　　ちゃく
次で公卿・殿上人 筵道を經て、堂前の座に着す。

これ　　　　さき　　　このえのつかさ　じじゅうら　　 いかい　　みだ　　しょだいぶ　　かみ　　あ　　　べ　　　のよし　　これ　 ろん
之より前に、近衛司の侍從等、位階を乱し諸大夫の上に在る可き之由、之を論ず。

しか　　　　きょう　　　　いじ　　　にん　　べ　　　のよし　　　このえ　　しょうらじしょう　　　　これすなは　まさしげぶぎょうたるのあいだ　　ほうえ　　をい　　いらん　　な　　べからず　のゆえか
而して今日、位次�Lに任ず可き之由、近衛の將等自稱す。是則ち 政茂 奉行爲之間、法會に於て違乱を成す不可之故歟。

　 いじ　　　ごと　　　　ば　　　すけふさ　〔しょうゆうさこんのたいふ〕　　きんあつ〔ぼうじょうしょうしょう〕　　まさしげ　〔 ぎょうぶしゅうゆう　　　きょう　　　ぶぎょう　〕　　　きんつら　〔ろくじょうじじゅう〕　なり
位次の如くん者、佐房〔少輔左近大夫〕・公敦〔坊城少將〕・政茂〔刑部少輔。今日の奉行〕・公連〔六條侍從〕也。

たいふほうがんやすきよ〔　あや　〕　　こうづけほうがんひろつな　〔しらあお〕　 じもん　　けいご
大夫判官泰�C〔朱綾〕・上野判官廣綱〔白襖�M〕寺門を警固す。

参考�@給料は、料を給わり仕事をやる身分、領地がない。
参考�A諷誦文は、死者の冥福を祈るため、三宝 (さんぼう) への布施物や布施の趣旨などを記した文章。追善の法会の導師が読んだ。Goo事典から
参考�B幔は、幔幕。
参考�C幄は、小さな小屋。
参考�D散花は、散華で花瓶(けびょう)。
参考�E繧繝は、同じ色を濃から淡、淡から濃へと層を織りなすように繰り返す彩色法。宝相華の文様。赤青緑紫を用いる。
参考�F凡帳は、二本のТ字形の柱に薄絹を下げた間仕切り。
参考�G榻は、牛車から降りる時の踏み台。
参考�H右丞相は、右大臣で実朝。
参考�I関東では将軍とその妻以外は牛車を認めていない。
参考�J黄門は、中納言・中将。一条実雅。
参考�K床子は、腰掛。板に脚をつけた机の様な椅子。
参考�L位次は、位の順に。
参考�M白襖は、表裏とも白の狩衣。

現代語正嘉元年(1257)十月大一日壬午。晴れです。午前6時頃、佐々木泰綱の家からお戻りです。今日は、大慈寺修繕開眼供養の日です。大慈寺の本堂・丈六堂・新阿弥陀堂・釈迦堂・三重塔・鐘楼など全て修理の手を加えました。その荘厳な出来上がりは、殆ど当初の優雅さを引き継いでおります。両界曼荼羅供養は、大阿闍梨三位僧正頼兼で、お供の坊さんは30人です。仏に願いを書ける文章の案分は給料広範で、清書は左大臣法印厳恵です。三宝への布施の趣旨の文章〔相州時頼の名を載せています〕の案分は広範。清書は和泉前司二階堂行方です。当日の会場の運営は、三河前司教孝真人〔布衣(狩衣)で足首縛り〕・刑部権少輔那波政茂〔束帯〕達は夜明け前から寺の門に来て運営指図をしております。
庭内の池、南の川には、釈迦堂の向かいから丈六堂までの間の東西に幔幕を引いて、南門の内側に当たる場所に幔幕を釣上げて幕の門としました。また西側は、釈迦堂の西門から池川まで、東は丈六堂の東角から池川まで、それぞれ南北に幔幕を引きました。それぞれ幔幕の中央部分をたくし上げて幕の門に開きました。今日、開眼供養するお堂や塔は総て幕の中にしました。
又、仏前の東の間の池川の方向に、お経を読み上げる小さな小屋を建てました。幔幕の中央部をたくし上げた幕の門それに池の橋の上から佛前の登り階段の前まで筵を道に敷きました。お堂の中の門ごとに綺麗な幡や華鬘を掛けてます。仏へのお供えや灯明を用意してます。
仏前の西側は大阿闍梨の座席〔高麗縁の畳〕です。東側から以東と本尊の脇を北へ曲がった分を大阿闍梨の平のお供の坊さんの座席にしました。北の間から本尊の後ろを東に曲がった分を他の坊さん達の座席にしました。
また、三井寺流の大阿闍梨の時は、花瓶を机にはたてませんし、堂守りの童子の座席を敷きません。(意味不明)それで、今日その式方を守り、西の廊下内に聴聞の為の座席〔宝相華の模様の縁の畳〕を用意したので、将軍の近習と女官数人が前もって来て控えています。
しかし、将軍の奥様御息所が未だお座りになっていないので、間仕切りの凡帳に帷子を出してはいません。東の廊下の内には執権の弔問の座を用意しました。
丈六物を安置する丈六堂の東西の廊下内に布施を渡す公卿や殿上人の座席〔公卿は高麗縁で、殿上人は紫の縁の畳〕を用意しました。同様に中間の廊下に五位の人々の座席〔紫の縁の畳〕を設置しました。午前10時頃将軍家〔束帯に帯剣〕お出ましです。
お供の人達の行列は
先へ行く武装儀仗兵〔二行〕
　武田五郎三郎政綱　　　　　　　　　小笠原十郎行長
　長井太郎時秀　　　　　　　　　　　下野七郎経綱
　遠江次郎時通　　　　　　　　　　　畠山上野三郎国氏
　武藏五郎時忠　　　　　　　　　　　備前三郎長頼
　陸奥七郎業時　　　　　　　　　　　新相摸三郎時村
　遠江七郎時基　　　　　　　　　　　陸奥六郎義政
将軍の牛車
　隠岐次郎左衛門尉佐々木時�C　　　　三善次郎左衛門尉康有
　山内三郎左衛門尉通廉　　　　　　　肥後六郎右衛門尉内藤時景
　大見肥後四郎兵衛尉行定　　　　　　同じき五郎忠景
　小泉左衛門四郎頼行　　　　　　　　上野三郎景氏〔梶原〕
　筑前五郎二階堂行重　　　　　　　　平賀新三郎惟時
　三善左衛門次郎盛村　　　　　　　　肥後三郎為成〔太宰〕
　　　それぞれ鎧直垂を着て、太刀を佩き、牛車の左右に並んで歩く。
弓矢を掛ける人
　武藤次郎左衛門尉頼泰
将軍尾の後ろ礼服の布衣(狩衣)
　武蔵前司朝直　　　　　　　　　　　尾張前司時章〔御釼役〕
　中務権大輔足利家氏　　　　　　　　越後守実時
　刑部少輔教時　　　　　　　　　　　下野前司宇都宮泰綱
　武蔵左近大夫将監時仲　　　　　　　相模式部大夫時広
　秋田城介泰盛　　　　　　　　　　　越後右馬助時親
　民部権大輔北条時隆　　　　　　　　遠江右馬助清時
　丹後守安達頼景　　　　　　　　　　出羽前司長村
　和泉前司行方　　　　　　　　　　　大宰権少弐武藤景頼
　上総介大曽祢長泰　　　　　　　　　伊賀前司時家
　石見前司大江能行　　　　　　　　　日向守宇佐美祐泰
　周防守島津忠綱　　　　　　　　　　大隅前司親員
　備後前司康持　　　　　　　　　　　伊豆太郎左衛門尉実保
　式部太郎左衛門尉伊賀光政　　　　　武石三郎左衛門尉朝胤
　鎌田三郎左衛門尉義長　　　　　　　鎌田次郎兵衛尉行俊
後ろから来る武装儀仗兵
　遠江三郎左衛門尉泰盛〔三浦〕　　　長江八郎景康
　千葉介頼胤　　　　　　　　　　　　城四郎左衛門尉時盛
　上野五郎左衛門尉結城重光　　　　　阿曽沼小次郎光綱
　遠江十郎左衛門尉頼連〔三浦〕　　　常陸次郎兵衛尉行雄
　河越次郎経重　　　　　　　　　　　武藤右近将監兼頼
　風早太郎常康　　　　　　　　　　　小田左衛門尉時知
道中のやり方は、永福寺の開眼供養の時、右大将家頼朝の法華堂(墳墓堂)前で、三位中将家頼嗣様の時は馬から降りられ、お供の人達も馬を降りるのですけれど、今回はその法華堂への礼は省略するよう、兼ねて決めておりました。
次に寺の南門に着いたので、牛車からお降りになりました。少輔左近大夫将監佐房が踏み台の榻を出す役です。
土御門中納言顕方と花山院宰相中将長雅それと殿上人達は、前もって寺の門の外に来て待っていました。これは殿上人は馬に乗って行くように言われていたけれど、公卿が乗馬で親王にお供をした前例があったのか分からないので、その乗馬でのお供は止めました。殿上人については、乗り物が無いので面倒だけれども、この式典に出るには公卿は牛車でお供をするようです。しかし、関東の鎌倉幕府では、牛車は将軍の御車以外を許していませんので、威勢を鼓舞するお供は止めて、このように予め来て待っていたのです。〔右大臣実朝が拝賀した時の例が、不吉だったのを信じて将軍以外の牛車を認めていないのでしょうかね〕

次に、先を行く武装儀仗兵は、門の外に入って池の西側の川辺にいます。ようやく宗尊親王将軍家がお入りになった後、後ろを行く武装儀仗兵は同様に東の池の南の川べりに並びました。
ついで池の橋、それに筵を敷いた道、それから本堂の西の廊下の東側の階段を登って、御簾の中に入られました。この間に黄門一条実雅中将が帯剣と笏を受け取りました。
お供の五位六位の官位持ちは、お経をお聞きになる場所の南の庭〔腰掛を利用〕に揃いました。次いで公卿・殿上人は筵道を通って、本堂前の席に着きました。その寸前に、近衛府の職員で天皇などのそばに仕える侍従が、官位順を無視して五位等の上に居るのは変だと騒ぎました。それなのに今日は、位階の順に任務していると近衛府の将官は自分で云ってます。これはつまり刑部少輔政茂が担当なので、法会で順を乱してはいけないからでしょうか。
位の順ならば、少輔左近大夫佐房・坊城少将公敦・刑部少輔政茂〔今日の担当〕・六条侍従公連なのです。
大夫判官（五位で検非違使）佐々木泰清〔朱色の綾織の狩衣〕と上野判官（検非違使）結城広綱〔白の狩衣〕は寺の門を警備しています。

うま　　いってん　　だいあじゃり　さんみそうじょうらいけん みなみもん　　そと　　はしもとのきわ　　いた　　　てごし　　〔たいこう　　しちょう　ろくにんこれ　　か　　　〕　　　つか
午の一點�N、大阿闍梨 三位僧正 頼兼 南門の外の橋下之際に到り、手輿〔退紅�Oの仕丁六人之を舁く〕を遣はし、

これ　　の　　　うつ　　せし　　　まくもん　のきわ　 いた　　　　しっこう　 えっちゅうぜんじよりなり　　ながとぜんじときとも　　しつがい　 おやまのたろうさえもんのじょうら えき　 したが
之に乘り移り令め、幔門之際に到る。執綱�Pは越中前司頼業・長門前司時朝。執葢�Qは小山太郎左衛門尉等役に從う。

また　　どうちゅう　あ　　しきしょう ことご　むしろみち　ゆきむか　　にょう　　う　　 はち　　つ　　 じゅさん
又、堂中に在る職衆 悉く筵道に行向い、鐃�Rを打ち鉢を突き頌讃�Sす。

　 　　 しきしゅう
　　職衆

　 ほういんごんのだいそうづえいそん　〔てら　　さいしょう〕　　　　　ほういんごんのだいそうづぼうげん　〔てら　　くないきょう〕
　法印權大僧都�C尊　〔寺㉑宰相〕　　法印權大僧都房源  〔寺　宮内卿〕

　 ほういんごんのだいそうづそんぺん　〔てら　　だいゆう〕　　　　　ごんのしょうそうづしっしょう　〔てら　　　とさ　　〕
　法印權大僧都尊遍　〔寺　大輔〕　　權少僧都實性  〔寺　土佐〕

　 ごんのしょうそうづせいそん　〔てら　　たいふ〕　　　　　　　　　 ごんのしょうそうづちょうそん　〔てら　　きょう〕
　權少僧都聖尊 〔寺　大夫〕　　　　 權少僧都長尊　 〔寺　卿〕

　 ごんのしょうそうづしょうえん　〔やま　　いよ　〕　　　　　　　　　　ごんのしょうそうづけんい
　權少僧都性圓 〔山㉒伊豫〕　　　　 權少僧都兼伊　

　 ごんのしょうそうづちょうけん　　　　　　　　　　　　　　　　　　ごんのしょうそうづぞうけい
　權少僧都重賢　　　　　　　　　  權少僧都増慶

　 ごんのりっしきょうげん　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ごんのりっしちょうしょう
　權律師經嚴　　　　　　　　　　  權律師長性

　 ごんのりっしらいしょう　　〔てら　　　じぶきょう〕　　　　　　　　　　ごんのりっしりゅうぜん　〔てら〕
　權律師頼承〔寺　治部卿〕　　　　　權律師隆禪〔寺〕

　 ごんのりっしけいそん　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あじゃりそんえい
　權律師慶尊　　　　　　　　　　　 阿闍梨尊榮

　 だいほっしじょうさい　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だいほっしらいえん
　大法師定西　　　　　　　　　　　 大法師頼圓

　 だいほっしじょうぜん　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だいほっしじょうはん
　大法師靜禪　　　　　　　　　　　 大法師定範

　 あじゃりらいえん　　　〔てら　　　だいゆう〕　　　　　　　　　　　ないぐぶ　べんせい
　阿闍梨頼宴〔寺　大輔〕　　　　　　 内供奉㉓弁盛

　 だいほっしえんかい　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あじゃり　しんち
　大法師圓海　　　　　　　　　　　 阿闍梨眞知

　 だいあじゃりらいちん　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だいほっしらいちん
　大阿闍梨頼珎　　　　　　　　　　 大法師頼珎

　 だいほっしりょうけい　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だいほっしかいしゅん
　大法師良慶　　　　　　　　　　　 大法師快舜

　 だいほっしせいしゅん　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だいほっしじょうしょう
　大法師性舜　　　　　　　　　　　 大法師常照

　 あじゃり　けんちょう
　阿闍梨兼朝

だいあじゃり　じょうどう　　おんしょうきょう　かねなら　　　　ほうようをは　　ののち　　　おふせ　 を　 だいあじゃり　　 ひかる
大阿闍梨上堂す。御誦經・鐘并びに法用訖る之後、御布施於大阿闍梨に引被る。

にしき　かずけものなら　　　かぶせ　　ぎょけん　　　〔あきかたきょうりょうどこれ　　 と　　　〕
錦の被物并びに加布施は御釼。〔顯方卿兩度之を取る〕

 だいあじゃり　　おふせ
大阿闍梨御布施

　 ほうふく　いちぐ　〔ぞうりあ　　〕　　よこかずけいっちょう　すいしょう　ねんじゅいちれん　〔ぎん　　うちえだ　　あ　　　〕　うえわらわしょうぞくふたぐ　わらべしょうぞくよつぐ
　法服一具〔草鞋在り〕。横被一帖。水精の念珠一連〔銀の打枝に在り〕。上童㉔裝束二具。童裝束四具。

かずけものさんじゅうえ　〔にしきひとえ　おりものここのえ　あやふたじゅうえ〕　　にしき　つつみものひとつ　〔あやじゅうぐ　　おさ　　　〕　　　　せいこう　　きぬさんじっぴき　しろあやさんじっぴき　いろいろあやさんじっぴき
 被物 卅重 〔錦一重。織物九重。綾廿重〕。　錦の裹物 一〔綾十具を納める〕。精好の　絹卅疋。　白綾卅疋。　色々綾卅疋。

けんもんしゃさんじっぴき　からあやさんじったん　とばりさんじったん　おりすじさんじったん　むらさきそめものさんじったん　むらさきむらごさんじったん　こんむらごさんじったん　そめつけさんじったん
 顯文紗卅疋。 　唐綾卅段。　計帳卅段。　織筋卅段。　　紫染物卅端。　　紫村濃卅段。　　紺村濃卅段。 染付卅段。

まきぎぬさんじっぴき　ちょうけんさんじっぴき　ぢしろあやさんじったん　あさぎぞめあやさんじったん　そめものさんじったん　いろかわさんじうまい　〔いじょう　うるしばこ　　おさ　　　　　くみ　　つ　　　これ　　むす　　〕
　巻絹卅疋。　帖絹卅疋。　 地白綾卅端。　淺黄染綾卅端。　染物卅端。　 色皮卅枚　〔已上漆箱に納め。組を付け之を結ぶ〕。

しらふさんじったん　あいずりさんじったん　こんうさんじったん　いじょう　　いとさんびゃくりょう　わたさんびゃくりょう　おんうまじっぴき　　くまいじっこく
白布卅段。 藍摺卅段。　紺布卅段。 已上。　絲三百兩。 綿三百兩。 御馬十疋。供米廿石。

 おんかぶせ　　ぎん　つるぎひとこし　〔にしき　ふくろ　　い　　　〕　　　さきんひゃくりょう
御加布施、銀の釼一腰〔錦の袋に入る〕。砂金百兩。

 おんふせどり
御布施取

　 つちみかどふうなごん　　〔あきかたきょう〕　　　　　　　　　　　　かぜんいんさいしょうちゅうじょう　〔ながまさきょう〕
　土御門中納言〔顯方卿〕　　　　　　花山院宰相中將〔長雅卿〕

　 にんなじさんみ　　〔あきうじきょう〕　　　　　　　　　　　　　　　　　にじょうさんみ　〔のりさだきょう〕
　仁和寺三位〔顯氏卿〕　　　　　　　二條三位〔教定卿〕

　 ぎょうぶきょう　〔むねのりきょう〕　　　　　　　　　　　　　　　　　　いちじょうちゅうじょうよしもとあそん
　刑部卿〔宗教卿〕　　　　　　　　　一條中將能基朝臣

　 いちじょうさきのしょうしょうよしきよあそん　　　　　　　　　　　なかみかどちゅうじょうきんひろあそん
　一條出少將能�C朝臣　　　　　　　中御門中將公寛朝臣

　 なかみかどしょうしょうさねしょうあそん　　　　　　　　　　　　　なかみかどじじゅうむねよ
　中御門少將實承朝臣　　　　　　　中御門侍從宗世

　 ぼうじょうしょうしょうきんあつ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ろくじょうじじゅうきんつら
　坊城少將公敦　　　　　　　　　　六條侍從公連

　 にじょうじじゅうまさあり　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しょうゆうさこんたいふすけふさ
　二條侍從雅有　　　　　　　　　　少輔左近大夫佐房

　 ぎょうぶしょうゆうまさしげ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　するがしんたいふとしさだ
　刑部少輔政茂　　　　　　　　　　駿河新大夫俊定

　 さきのおうみのかみすえざね　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしたてくらんどたいふすけよし
　前近江守季實　　　　　　　　　　押立藏人大夫資能

　 だてさえもんのじょうくらんどちかなが　　　　　　　　　　　　　ながいほうがんだいやすもち
　伊達左衛門藏人親長　　　　　　　長井判官代泰茂

しきしゅう　おんふせ　　　くべつ　せいちょう いちまんごせんびき　　やき　じっか
職衆の御布施。口別に��鳬㉘一万五千疋。八木十果。

　 おんふうじゅぶつ　おくふひゃくたん
　御諷誦物は奥布百端。

つい　　おんふせら　　てっ　　　　つね　　れい　　　　おんうま　　ひかる　　 ののちこれ　 てっすべ　 か　 しかれども べつ　　　おお　　　 よっ　　かく　　ごと　　　　うんぬん
次で御布施等を撤す。常の例は、御馬を牽被る之後之を撤可き歟。然而 別なる仰せに依て此の如しと云々。

つい　おんうま　　ひかる　　　まくもん　　い　　 どうぜん　　ひ　　　た　　　　　 うえわらわらこれ　　う　　　 と
次で御馬を牽被、幔門に入り堂前に引き立てる。上童等之を請け取る。

おんうまじっぴき 〔くら　　お　　　〕
御馬十疋〔鞍を置く〕

いちかげ　　　 〔さきのぶしゅうすす　　　　くら　　そうしゅうぜんしつ　　ごしょすす　　〕
一鹿毛　〔前武州進む　鞍は相州禪室が御所進む〕

　 ひきて　　ひごのじろうさえもんのじょうためとき　　　　　　　　　 おな　　　　さぶろうさえもんのじょう
　引手　肥後次郎左衛門尉爲時　　　　同じき三郎左衛門尉

に　　かわらけ　〔そうしゅうぜんしつおんすす　　　　くら　　 あしかがさぶろうすす　　〕
二河原毛〔相州禪室御進む　鞍は足利三郎進む〕

　 ひきて　　さぬきのさぶろうさえもんのじょうゆきかげ　　　　　　　おな　　　　しろうゆきかね
　引手　隱岐三郎左衛門尉行景　　　　同じき四郎行兼　参考隠岐三郎左衛門尉行景は、二階堂行氏から改名らしい）

さん かげ　　　　〔 ぶしゅうすす　　　　　くら　　じょうのすけすす　　〕
三鹿毛　〔武州進む　鞍は城介進む〕

　 ひきて　　いちのみやぜんのさえもんのじょうやすなが　　　　　ぜんのごろうさえもんのじょうやすいえ
　引手　一宮善左衛門尉康長　　　　　善五郎左衛門尉康家

よん かげ　　　　〔おうしゅうぜんもんすす　　　　くら　　そうしゅうすす　　〕
四鹿毛　〔奥州禪門進む　鞍は相州進む〕

　 ひきて　　すおうのさぶろうさえもんのじょうただゆき　　　　　　 おな　　　　しろうさえもんのじょうただやす
　引手　周防三郎左衛門尉忠行　　　　同じき四郎左衛門尉忠泰

ご くろぶち　　 　〔そうしゅうすす　　　　くら　　おうしゅうぜんもんすす　　〕
五黒駮　〔相州進む　鞍は奥州禪門進む〕

　 ひきて　　さつまのしちろうさえもんのじょうすけよし　　　　　　　おな　　　　じうろうすけひろ
　引手　薩摩七郎左衛門尉祐能　　　　同じき十郎祐廣

ろく　かげ　　　〔じょうのすけすす　　　 くら　　ぶしゅうすす　　〕
六栗毛　〔城介進む　鞍は武州進む〕

　 ひきて　　おおすがさえもんのじょうともうじ　　　　　　　　　　　　おな　　　　しろう
　引手　大須賀左衛門尉朝氏　　　　　同じき四郎

しちくりげ　　　　〔あしかがさぶろうすす　　　　くら　　ちくぜんにゅうどうすす　　〕
七栗毛　〔足利三郎進む　鞍は筑前入道進む〕

　 ひきて　　ちくぜんじろうさえもんのじょうゆきより　　　　　　　　　おな　　　　ごろうゆきしげ
　引手　筑前次郎左衛門尉行頼　　　　同じき五郎行重

はち　かげ　　　〔さきのびしゅうすす　　　　くら　　さきのぶしゅうすす　　〕
八鹿毛　〔前尾州進む　鞍は前武州進む〕

　 ひきて　　おおそねかずささえもんのじょうながつね　　　　　　 おな　　　 じろうさえもんのじょうよしやす
　引手　大曽祢上総左衛門尉長經　　　同じき二郎左衛門尉義泰

く　　くろ　　　　 〔ちくぜんにゅうどうすす　　　　くら　　ながいのたろうすす　　〕
九黒　　〔筑前入道進む　鞍は長井太郎進む〕

　 ひきて　　といのじろうさえもんのじょうともひら　　　　　　　　　　おな　　　　しろうさねつな
　引手　土肥次郎左衛門尉朝平　　　　同じき四郎實綱

とおくりげ　　　　 〔ながいのたろうすす　　　　くら　　さきのびしゅうすす　　〕
十栗毛　〔長井太郎進む　鞍は前尾州進む〕

　 ひきて　　しおやすおうのしろうひょうえのじょうやすとも　　　　　おな　　　　ごろうちかとき
　引手　塩谷周防四郎兵衛尉泰朝　　　同じき五郎親時

かんご はくぼ　　およ　のあいだ　とうのつじのあたりよ　　たいまつ　　と
還御薄暮に及ぶ之間、塔辻之邊自り松明を取る。

参考�N午の一点は、11:00〜11：24。時刻の點は、2時間を5等分したのが点。午なら11時〜11：24を一点、11：24〜11：48を二点、11：48〜12：12を三点、12：12〜12：36を四点、12：36〜13：00を五点。
参考�O退紅は、紅花で染めた薄紅色。
参考�P執綱は、傘を支える紐。
参考�Q執葢は、大きな傘。
参考�R鐃は、鈴鐘。
参考�S頌讃は、言葉を尽くし、また歌などに作って褒め称える事。
参考㉑寺は、三井寺。この頃寺と謂えば三井寺を指す。
参考㉒山は、比叡山。この頃山と言えば比叡山を指す。
参考㉓内供奉は、宮中の内道場で供奉し 読師の役などをつとめる僧。
参考㉔上童は、殿上童。公卿の子で元服前に行儀見習いに殿上の間を許された少年。
参考㉕顯文紗は、紗の地に平織で文を作る、つまり 文様部分が地よりも厚く織られてくっきりと表れた紗。
参考㉖唐綾は、中国から渡来した綾織物。地組織と織目の方向を違えて模様を浮かせたもの。
参考㉗織筋は、横筋を太く織り出した絹 織物。
参考㉘��鳧は、宋銭。八十九枚で百文一匹と扱う。一文は1/4000両。一匹は1/40両。一匹は1,500円くらい。15000匹は22,500,000円くらい。

現代語午前11時過ぎに、大阿闍梨三位僧正頼兼が南門の外の橋の前に来たので、手輿〔紅花染めの雑役夫6人がこれを担ぎます〕を行かせて、これに乗り移らせて、幔幕の門に来ました。日傘を支える紐を持つのは越中前司(宇都宮)横田頼業と長門前司笠間時朝で、傘を持つのは小山太郎左衛門尉が役に付いてます。
また、堂の中に居た出仕の僧侶集団は皆筵道に出迎えて、シンバルを打ち、打楽器を突いて歌を歌って褒め称えました。
　僧侶の集団は
　法印権大僧都清尊〔三井寺、大臣の身内〕　法印権大僧都房源〔三井寺、宮内省長官の身内〕
　法印権大僧都尊遍〔三井寺、大輔の身内〕　権少僧都実性　　〔三井寺、土佐守の身内〕
　権少僧都聖尊　　〔三井寺、大夫の身内〕　権少僧都長尊　　〔三井寺、公卿の身内〕
　権少僧都性円　　〔比叡山、伊予守の身内〕権少僧都兼伊
　権少僧都重賢　　　　　　　　　　　　　　権少僧都増慶
　権律師経厳　　　　　　　　　　　　　　　権律師長性
　権律師頼承〔三井寺、治部省の公卿の身内〕権律師隆禅〔三井寺〕
　権律師慶尊　　　　　　　　　　　　　　　阿闍梨尊栄
　大法師定西　　　　　　　　　　　　　　　大法師頼円
　大法師静禅　　　　　　　　　　　　　　　大法師定範
　阿闍梨頼宴〔三井寺、大輔の身内〕　　　　内供奉弁盛
　大法師円海　　　　　　　　　　　　　　　阿闍梨真知
　大阿闍梨頼珎　　　　　　　　　　　　　　大法師頼珎（？）
　大法師良慶　　　　　　　　　　　　　　　大法師快舜
　大法師性舜　　　　　　　　　　　　　　　大法師常照
　阿闍梨兼朝
大阿闍梨頼兼がお堂に上がりました。お経と鐘を鳴らして拝み、式典が終わった後、お布施を大阿闍梨に披露しました。錦織の被り物で、おまけは刀です〔双方ともに土御門中将顕方が手に取りました〕
大阿闍梨のお布施
　坊さんの制服一揃え〔草履つき〕。横に長い被り物一帖。水晶の御数珠一連〔銀の枝に飾ってる〕。行儀見習いの少年の衣装二着。稚児装束四着。被り物30〔錦1枚、織物9枚、綾織物20枚〕。錦の風呂敷包み1〔綾織物10種を入れてある〕。緻密に織ってある絹30疋。白い綾織の絹30疋。色々の綾織りの絹30疋。模様の浮き出た紗30疋。渡来の模様を浮かせた綾織30反。部屋に垂らす布30反。横筋を太くした織物30反。紫に染めた絹織物30反。紫のグラデーションの織物30反。絵付けの織物30反。丸く真板絹30疋。貨幣代わりの帖絹30疋。白い地の綾織30反。浅黄色に染めた綾織30反。染物絹30反。色革30枚〔以上は漆塗りの箱に納めて、それぞれに組分けをして紐で結わえてあります。〕白布30反。藍摺り染め30反。紺の布30反。布は以上。絹糸300両。真綿300両。馬10頭。お供えの米20石。
おまけの布施は、銀拵えの刀１〔錦の袋入り〕。砂金100両。
お布施を運んで来た人
　土御門中納言顕方卿　　花山院宰相中将長雅卿
　仁和寺三位顕氏卿　　　二条三位教貞卿
　刑部卿宗教　　　　　　一条中将能基さん
　一条出少将能清さん　　中御門中将公寛さん
　中御門少将実承さん　　中御門侍従宗世
　坊城少将公敦　　　　　六条侍従公連
　二条侍従雅有　　　　　少輔左近大夫佐房
　刑部少輔那波政茂　　　駿河新大夫俊定
　前近江守季実　　　　　押立蔵人大夫資能
　伊達左衛門蔵人親長　　長井判官代泰茂
出仕の僧侶集団のお布施は、一人づつに宋銭15000疋。米10荷(10石)。
　仏事で追善に読みあげた文章代は、奥州絹100反。
ついで、お布施類を片付けました。通常の例は、引き出物の馬を引いて来た後で、撤収するのでしょう。しかし特別な仰せによってこのようにしました。
次に、引き出物の馬を引いてきて、幔幕の門を入り、お堂の前に並ばせました。行儀見習いの少年が手綱を受け取りました。
馬は十頭〔鞍を置いてます〕
一鹿毛　〔前武州北条朝直の提供　鞍は相州禅室時頼の命で政務事務所が提供〕
　　　引手は、弓手が肥後次郎左衛門尉藤原為時、女手が同三郎左衛門尉為成
二河原毛〔相州禅室時頼の提供　鞍は足利三郎利氏提供〕
　　　引手は、弓手が隠岐三郎左衛門尉二階堂行景、女手が同四郎二階堂行兼
三鹿毛　〔武州長時の提供　鞍は城介泰盛〕
　　　引手は、弓手が一宮三善左衛門尉康長、女手が三善五郎左衛門尉康家
四鹿毛　〔奥州禅門重時の提供　鞍は相州政村〕
　　　引手は、弓手が周防三郎左衛門尉島津忠行、女手が同四郎左衛門尉忠泰
五黒斑　〔相州政村の提供　鞍は奥州禅門重時の提供〕
　　　引手は、弓手が薩摩七郎左衛門尉伊東祐能、女手が同十郎祐広
六栗毛　〔城介安達泰盛の提供　鞍は武州長時の提供〕
　　　引手は、弓手が大須賀左衛門尉朝氏、女手が同四郎
七栗毛　〔足利三郎利氏の提供　鞍は筑前入道二階堂行義〕
　　　引手は、弓手が筑前次郎左衛門尉二階堂行頼、女手が同五郎二階堂行重
八鹿毛　〔前尾州時章の提供　鞍は前武州朝直の提供〕
　　　引手は、弓手が大曽祢上総左衛門尉長経、女手が同二郎左衛門尉義泰
九　黒　〔筑前入道二階堂行義の提供　鞍は長井太郎時秀〕
　　　引手は、弓手が土肥次郎左衛門尉朝平、女手が同四郎実綱
十栗毛　〔長井太郎時秀の提供　鞍は前尾州時章の提供〕
　　　引手は、弓手が塩谷周防四郎兵衛尉泰朝、女手が同五郎親時
お帰りは、日暮れて薄暗くなったので、塔の辻あたりから松明をかざしました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　よ　　　い　　らいめい へきれきよもすがら およ
正嘉元年(1257)十月大十三日甲午。天�ﾘ。夜に入り雷電 霹靂 終夜に及ぶ。

こんぎょう　 かいのたろうときひで　　おおそねかずさぜんじながやすら　しせつ　　な　　 じょうらく　　　　さんもん　おんじょうじ りょうもん　　かくしつ　 こと　　 よっ　　なり
今曉、甲斐太郎時秀・大曽祢上総前司長泰等使節と爲し上洛す。山門・薗城寺 兩門の確執の事に依て也。

とうとうみじうろうさえもんのじょうよりつら ないない　　おんし　　な　　 しんぱつ　　　 ほう　　ごと　　むち　　あ　　　　　　　さだ　　　りょうにんを すす　　　 か
 遠江十郎左衛門尉頼連 内々の御使と爲し進發す。法の如く鞭を揚ぐは、定めて兩人於進める歟。

現代語正嘉元年(1257)十月大十三日甲午。夜になって雷が鳴り、一晩中鳴り止みませんでした。今朝夜明けに、甲斐太郎時秀と大曽祢上総前司長泰が、幕府の派遣員として京都へ出発しました。これは比叡山と三井寺の争いの事によります。遠江十郎左衛門尉佐原頼連が、非公式な使いとして出発しました。後ろからおったてる事になるので、さぞかし二人は先へ急ぐでしょうよ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あさあめふ　　　　ゆう　　はなは　あめ らいめい　うしのこく ぢしん
正嘉元年(1257)十月大十五日丙申。朝雨降る。夕に甚だ雨 雷鳴。丑剋 地震。

きょう　　　あめ　 すきま　もっ　　　　 ごしょ　　なんてい　 をい　　すまい　　み　　　　 そうしゅう　ぶしゅう　 さきのぶしゅうら すのこ　　こう　　らる
今日、雨の隙を以て、御所の南庭に於て相撲を覽る。相州・武州・前武州等簀子に候じ被る。

けんぶつのやから　と　　ごと　　　　とき　　そうかんなり
見物 之輩 堵の如し。時に壯觀也。

　　　　 すまい
　　相撲

　　いちばん　　　いよのさぶろう　〔ひだり〕　　　　　　　　　　　ちうじ　　〔みぎ〕
　一番　　伊豫三郎〔左〕　　　　　中次〔右〕

　　　にばん　　　いよのごろう　　〔ひだり〕　　　　　　　　　　　　おののしろう　　〔みぎ〕
　二番　　伊豫五郎〔左〕　　　　　小野四郎〔右〕

　　さんばん　　　あらさくのさぶろう 〔ひだり〕　　　　　　　　　　 へいじろう　　〔みぎ〕
　三番　　荒作三郎〔左〕　　　　　平次郎〔右〕

　　よんばん　　　へいざぶろう　　〔ひだり〕　　　　　　　　　　　　あんどうのさぶろう　〔みぎ〕
　四番　　平三郎〔左〕　　　　　　安藤三郎〔右〕

　　　ごばん　　　おぎぞののいやたろう　〔ひだり〕　　　　　　　　しろたろう　　　　〔みぎ〕
　五番　　萩薗弥太郎〔左〕　　　　四郎太郎〔右〕

現代語正嘉元年(1257)十月大十五日丙申。朝雨が降りました。夕方にも大雨になり雷が鳴って、午前２時頃に地震がありました。
今日、雨の合間を縫って、御所の南庭で相撲を見物しました。相州政村・武州北条長時・前武州北条朝直達は、濡れ縁に来ております。見物の連中が大勢で垣根を作っているようです。壮観な見ものです。
　　相撲
　一番　伊予三郎〔左〕　　　中次〔右〕
　二番　伊予五郎〔左〕　　　小野四郎〔右〕
　三番　荒作三郎〔左〕　　　平次郎〔右〕
　四番　平三郎　〔左〕　　　安藤三郎〔右〕
　五番　荻園弥太郎〔左〕　　四郎太郎〔右〕

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　げっしょくせいげん　〔　しぶ　〕　　おいのり　まつどのほういんりょうき　　かく　あいだついぢしゅうり　　　　かたいみ の さた　な
正嘉元年(1257)十月大十六日丁酉。�ﾘ。月蝕正見〔四分〕。御祈は松殿法印良基。此の間 築地修理す。方忌之沙汰無し。

なによう　しだいや　のよし　 しょうぐんけじき　 おんみがためとうばんおんみょうじためちか　　たず　　おお　　らる
何樣次第哉之由、將軍家直に 御身固當番 陰陽師 爲親に尋ね仰せ被る。

しか　　　さきざき しか　　ごと　　おんさた　な　　　のむねこれ　 もう　　　　 また　　おお　　　 い　　　　　　 せんれい　よるべからず　 きょうと　　をい　　かく　　 さた　 あ
而るに先々然る如き御沙汰無き之旨之を申す。又、仰せて云はく。先例に依不可。京都に於て此の沙汰有り。

はや　ちゅうしんすべ　　じょうすうにじゅうしちじょうのうちたらば　かくない　いへど　　ごしょ　　うつ　　おは　　べ　　　　　うんぬん
早く注進可し。丈數 廿七丈 之内爲者、槨内と雖も御所は移し御す可しと云々。

よっ　 ためちか　 なんめんははばか　な　　　とうほうにじゅういちじょうのうち　　　にしのたい　うつ　　たま　　べ　　　のよし　　これ　　かん　　もう　　　　　うんぬん
仍て爲親、南面者憚り無し。東方 廿七丈 之内は、西對へ移し御う可し之由、之を勘じ申すと云々。

現代語正嘉元年(1257)十月大十六日丁酉。晴れです。月食が良く見えました〔四分〕。御祈りは松殿法印良基。此の処築地の修理中なので、方角替えは有りません。「どうしたらよいのだ。」と宗尊親王将軍家は身の回りを守っている当番の陰陽師為親にお聞きになられました。しかし、「今後ともそのような指示はありません」と応えました。又仰せになって「先例に頼る必要はない。京都ではこういう指示もあったので、早く書き出してきなさい。距離が二十七丈(81ｍ)以内ならば、敷地内であっても居所が引っ越したことになるんじゃないか」との事です。それで為親は南面は支障遠慮は有りません。東へ二十七丈内ならば西の対の屋へ移るべきでしょうと、上申しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　さきのびんごのかみ じゅごいのじょう みよしのあそんやすもち そっ　　　〔 としごじうに 〕
正嘉元年(1257)十月大廿六日丁未。�ﾘ。　前備後守　從五位上 三善朝臣康持 卒す〔年五十二〕。

現代語正嘉元年(1257)十月大二十六日丁未。晴れです。前備後守従五位上三善朝臣康持が亡くなりました〔年は五十二です〕。

十一月へ

吾妻鏡入門第四十七巻