吾妻鏡入門第四十八巻 　

正嘉二年(1258)八月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぼうふうはげ　　　　ふ　　　　はなは　あめ あ　　　　　　ごし　　　　こんこく　てんがんかいせい　しょこくでんえん ことごと　もっ　　そんぼう　　　　うんぬん
正嘉二年(1258)八月大一日丁丑。暴風烈しく吹き、甚だ雨沃びるが如し。昏黒に天顏快�ﾘ。諸國田園 悉く 以て損亡すと云々。

現代語正嘉二年(1258)八月大一日丁丑。暴風が激しく吹いて、土砂降りの雨が浴びるようです。日没後に空は晴渡りました。台風のお蔭で諸国の田畑では、作物がダメになりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はなは　あめ　　ろくはら　ごしょ　　ごいし　　　こと　　ひょうぎ　あ　　　　おんみょうどう にちじ　　かんもん　　すす
正嘉二年(1258)八月大五日辛巳。甚だ雨。六波羅御所御移徙の事、評議有り。陰陽道 日時の勘文を進む。

はるもち　ためちか　はるのりら れんしょ
�ﾘ茂・爲親・�ﾘ憲等連署す。

現代語正嘉二年(1258)八月大五日辛巳。土砂降りです。六波羅の御所へ引越しの事で、会議がありました。陰陽道の連中が日の良し悪しを上申しました。安陪晴茂・為親・晴憲達が署名しております。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ひゅうがぜんじすけやす　　ほい　　 にんずう　 くわ　　　　べ　　　のむね　　おお　 くださる　 のあいだ
正嘉二年(1258)八月大六日壬午。日向前司祐泰、布衣の人數に加へる可き之旨、仰せ下被る之間、

むとうしょうけいかげより　ほうしょをえつしゅう　たっ　　　うんぬん
武藤少卿景頼 奉書於越州に達すと云々。

現代語正嘉二年(1258)八月大六日壬午。前日向守宇佐美祐泰は、狩衣の正装のお供に加えるように、将軍が云って下さったので、武藤少卿景頼は命じられて書いた命令書を越後守金沢実時に渡しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぐうじくらんどまさかずは　　　さきがけ　　な　　 さいそく　 あずか のところ　　こと　　　　しょぞん あ　　　　よっ　　か
正嘉二年(1258)八月大八日甲申。宮寺藏人政員者、前駈と爲し催促に預る之處、殊なる所存有るに依て歟、

ことを　いかん ようい　な　　　 のぎ　　　よ　　　　　これ　　じ　　　もう　　　　　 ほい　　 にんずう　　くは　　らる　　べきのよし　しきり　しょもう  
事於衣冠用意無き之儀に寄せ、之を辞し申し、布衣の人數に加へ被る可之由 頻に所望す。

よっ　　きょう　　　ぶしゅう　おんんかた　をい　　そ　　　さた　　　およ　　　　にんずうふそくたらば　　 くは　　らる　　のじょうなにごと　　あ　　　　や  
仍て今日、武州の御方に於て其の沙汰に及ぶ。人數不足爲者、加へ被る之條何事や有らん哉。

しからずんば　あなが　　めしぐ されがた　　のよし　 うんぬん　　しか　　　すす　たてまつ のやから ちじょう　 ぶん　 すで　　 ひろう　のうえは　　 ごきょうよう　　たらず　 　うんぬん  
不然者、強ちに召具被難き之由と云々。而るに進み奉る之輩 治定の分、已に披露之上者、御許容に不足と云々。

現代語正嘉二年(1258)八月大八日甲申。鶴岡八幡宮の事務員の政員は、行列の露払いとしてお供を命じられたのですが、思う所があって、理由を衣冠束帯を持ってないからと繕って、辞退を申し出て、狩衣のメンバーに入れて欲しいと盛んに希望しています。
それなので今日、武州執権長時の所で検討しました。人数が足りなければ、加えた処で問題はないであろう。そうでなければ、無理にメンバーに入れられないでしょうだとさ。しかし、通知済みの連中が決まっているので、すでに将軍に見せた後なので、許可するには無理であろうとのことだそとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あめふ　　　　つるがおかほうじょえ　しょうぐんけごさんぐう　　ぐぶにん　　ぎょうれつ
正嘉二年(1258)八月大十五日辛夘。雨降る。鶴岳放生會。將軍家御參宮。供奉人の行列。

せんじん　ずいへい  
先陣の隨兵

　　たけだのさぶろうまさつな　　　　　　　　　　　　　　　　おがさわらのあぶろうまさなお
　武田三郎政綱　　　　　　　　　小笠原三郎政直

　　ちばのすけよりたね　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そうまのまごごろうさえもんのじょうたねむら
　千葉介頼胤　　　　　　　　　　相馬孫五郎左衛門尉胤村

　　おおすみしゅりのすけひさとき　　　　　　　　　　　　　ひたちのじろうひょうえのじょうゆきかつ
　大隅修理亮久時　　　　　　　　常陸次郎兵衛尉行雄

　　むさしのごろうときただ　　　　　　　　　　　　　　　　　　びぜんのさぶろうながより
　武藏五郎時忠　　　　　　　　　備前三郎長頼

　　さがみのさぶろうときとし　　　　　　　　　　　　　　　　 しんさがみのさぶろうときむら
　相摸三郎時利　　　　　　　　　新相摸三郎時村

つぎ　　さきがけ
次に前駈〔以下之を尋ね記す可�@〕　　　　　　

　　すおうのごろうさえもんのじょうただかげ　　　　　　　　しきぶのひょうえじろうみつなが
　周防五郎左衛門尉忠景　　　　　式部兵衛次郎光長

　　かずさのさぶろうさえもんのじょうよしやす　　　　　　　じょうのろくろうあきもり
　上総三郎左衛門尉義泰　　　　　城六郎顯盛

　　かずさのさぶろうさえもんのじょうよしやす　　　　　　　じょうのろくろうあきもり
　上総三郎左衛門尉義泰　　　　　城六郎顯盛

　　ひごのろくろううえもんのじょうときかげ　　　　　　　　　といのしろうさだざね
　肥後六郎右衛門尉時景〔内藤〕　 土肥四郎定實

　　いちのみやのじろうさえもんのじょうやすあり　　　　　ひごのさぶろうさえもんのじょうためなり
　一宮次郎左衛門尉康有　　　　　肥後三郎左衛門尉爲成

　　かのうのさえもんしろうかげもち　　　　　　　　　　　　　おおいずみのくろうながうじ
　狩野左衛門四郎景茂　　　　　　大泉九郎長氏

　　ひらがのしろうやすさだ
　平賀四郎泰定

　　　　　　いじょうたいけん　ひたたれ　　おくるま　　さゆう　　そうら
　　　以上帶劔に直垂。御車の左右に候う  

ぎょけんやく　ひと
御劔役の人

　　むさしのかみともなお
　武藏守朝直�A　　　　　　　

ごちょうど
御調度

　　むとうじろうさえもんのじょうかげやす
　武藤次郎左衛門尉景泰

おんうしろ
御後

　ごい　〔　ほい　　げぐくり〕
五位〔布衣に下括〕

　　とおとうみのぜんじときなお　　　　　　　　　　　　　　　えちごのかみさだとき
　遠江前司時直　　　　　　　　　越後守實時

　　えちぜんのかみときひろ　　　　　　　　　　　　　　　　ぎょうぶしょうゆうのりとき
　越前守時廣　　　　　　　　　　刑部少輔教時

　　おわりさこんのたいふしょうげんきんとき　　　　　　むさしのさこんたいふしょうげんときなか
　尾張左近大夫將監公時　　　　　武藏左近大夫將監時仲

　　なかつかさごんのだいゆういえうじ　　　　　　　　　　しもつけぜんじやすつな
　中務權大輔家氏　　　　　　　　下野前司泰綱

　　いきのぜんじもとまさ　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぬいどののとうもろつら
　壹岐前司基政　　　　　　　　　縫殿頭師連

　　すおうのぜんじただつな　　　　　　　　　　　　　　　　かずさのぜんじながやす
　周防前司忠綱　　　　　　　　　上総前司長泰

　　しなののぜんじやすきよ　　　　　　　　　　　　　　　　ひゅうがぜんじすけやす
　信濃前司泰�C　　　　　　　　　日向前司祐泰

ろくい　　〔　ほい　　げぐくり〕
六位〔布衣に下括〕

　　むつのしちろうなりとき　　　　　　　　　　　　　　　　　さどのごろうさえもんのじょうもとたか
　陸奥七郎業時　　　　　　　　　佐渡五郎左衛門尉基隆

　　しきぶのたろうさえもんのじょうみつまさ　　　　　　　かじわらのたろうさえもんのじょうかげつな
　式部太郎左衛門尉光政　　　　　梶原太郎左衛門尉景綱

　　おのでらのしんさえもんのじょうゆきみつ　　　　　　　　いきのしんさえもんのじょうもとより
　小野寺新左衛門尉行通　　　　　壹岐新左衛門尉基頼

　　かずさのたろうさえもんのじょうながつね　　　　　　　　　じょうのしろうさえもんのじょうときもり
　上総太郎左衛門尉長經　　　　　城四郎左衛門尉時盛

　　ちょうじうえもんのじょうよしつら　　　　　　　　　　　　　　ひごのじろうさえもんのじょうためとき
　長次右衛門尉義連　　　　　　　肥後次郎左衛門尉爲時

　　かまたのさぶろうさえもんのじょうよしなが　　　　　　　　むとううこんしょうげんよりかね〔おんかさてなが〕
　鎌田三郎左衛門尉義長　　　　　武藤右近將監頼兼〔御笠手長〕

　　かまたのじろうひょうえのじょうゆきとし
　鎌田次郎兵衛尉行俊

こうじん　ずいへい
後陣の随兵

　　とおとうみのうまのすけきよとき　　　　　　　　　　　　　　みんぶごんのだいゆうときたか
　遠江右馬助�C時　　　　　　　　民部權大輔時隆

　　みうらのすけろくろうよりもり　　　　　　　　　　　　　　　　あだちのたろうさえもんのじょうなおもと
　三浦介六郎頼盛　　　　　　　　足立太郎左衛門尉直元

　　しもつけのしろうかげつな　　　　　　　　　　　　　　　　　さつまのしちろうさえもんのじょうすけよし
　下野四郎景綱　　　　　　　　　薩摩七郎左衛門尉祐能

　　こうづけのごろうひょうえのじょうしげみつ　　　　　　　　あそぬまのこじろうみつつな
　上野五郎兵衛尉重光　　　　　　阿曽沼小次郎光綱

　　おおすがのしんさえもんのじょうともうじ　　　　　　　　　いとうのはちろうさえもんのじょうすけみつ
　大須賀新左衛門尉朝氏　　　　　伊東八郎左衛門尉祐光

かいろう　れんちゅう　をい　　ぶがく　　み
廻廊の簾中に於て舞樂を覽る。

そうしゅう　ぶしゅう　むさしのぜんじともなお　おおすみぜんじちかかず　えのいわみぜんじよしゆき　こうづけぜんじむねとしら　ごぜん　そうら　　うんぬん
相州・武州・武藏前司朝直・大隅前司親員・江石見前司能行・上野前司宗俊等御前に候うと云々。 

参考�@〔以下之を尋ね記す可〕は、編集者が後で調べて書こうとのメモが残ってしまった。  
参考�A武藏守朝直は、この時点では前武蔵守。

現代語正嘉二年(1258)八月大十五日辛卯。雨降りです。鶴岡八幡宮の放生会です。宗尊親王将軍家のお詣りです。お供の行列は、
前を行く武装儀仗兵
　武田三郎政綱　　　　　　　　　小笠原三郎政直
　千葉介頼胤　　　　　　　　　　相馬孫五郎左衛門尉胤村
　大隅修理亮島津久時　　　　　　常陸次郎兵衛尉二階堂行雄
　武蔵五郎時忠　　　　　　　　　備前三郎長頼
　相模三郎時利(時輔)　　　　　　新相摸三郎時村
次に露払い〔以下はこれを聞き調べて書き込む事〕
　周防五郎左衛門尉島津忠景　　　式部兵衛次郎伊賀光長
　上総三郎左衛門尉義泰　　　　　城六郎安達顕盛
　肥後六郎右衛門尉内藤時景　　　土肥四郎定実
　一宮次郎左衛門尉康有　　　　　肥後三郎左衛門尉為成
　狩野左衛門四郎景茂　　　　　　大泉九郎長氏
　平賀四郎泰定
　　　以上は太刀を佩いて鎧直垂を着て、牛車の左右を守る
刀持ちの人　武蔵守北条朝直
弓矢を掛ける人　武藤次郎左衛門尉景泰
将軍の後ろを行く人
五位〔狩衣に袴は足首縛り〕
　遠江前司大仏時直　　　　　　　　　越後守金沢実時
　越前守佐助時広　　　　　　　　　　刑部少輔名越教時
　尾張左近大夫将監名越公時　　　　　武蔵左近太守将監大仏時仲
　中務権大輔足利家氏　　　　　　　　下野前司宇都宮泰綱
　壱岐前司後藤基政　　　　　　　　　縫殿頭中原師連
　周防前司島津忠綱　　　　　　　　　上総前司大曽祢長泰
　信濃前司佐々木泰清　　　　　　　　日向前司宇佐美祐泰
六位〔狩衣に袴は足首縛り〕
　陸奥七郎極楽寺業時　　　　　　　　佐渡五郎左衛門尉後藤基隆
　式部太郎左衛門尉伊賀光政　　　　　梶原太郎左衛門尉景綱
　小野寺新左衛門尉行通　　　　　　　壱岐新左衛門尉後藤基頼
　上総太郎左衛門尉大曾祢長経　　　　城四郎左衛門尉安達時盛
　長次右衛門尉長谷部義連　　　　　　肥後次郎左衛門尉為時
　鎌田三郎左衛門尉義長　　　　　　　武藤右近将監頼兼〔大笠の柄を持つ人〕
　鎌田次郎兵衛尉行俊
後ろを行く武装儀仗兵
　遠江右馬助北条清時　　　　　　　　民部權大輔北条時隆
　三浦介六郎頼盛　　　　　　　　　　足立太郎左衛門尉直元
　下野四郎宇都宮景綱　　　　　　　　薩摩七郎左衛門尉伊東祐能
　上野五郎兵衛尉結城重光　　　　　　阿曾沼小次郎光綱
　大須賀新左衛門尉朝氏　　　　　　　伊東八郎左衛門尉祐光
将軍は、回廊の御簾の中で舞楽を見学しました。相州政村・武州長時・武蔵前司朝直・大隅前司中原親員・大江石見前司能行・上野前司宗俊等は将軍の前に控えていたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あめふ　　　　しょうぐんけ　つるがおかぐうじ　　ぎょさん　　　ばば　　　やぶさめ　いげ　　ぎ　れい　　ごと　　　　ことおわ　　かんご
正嘉二年(1258)八月大十六日壬辰。雨降る。將軍家、鶴岳宮寺に御參。馬塲の流鏑馬以下の儀例の如し。事終り還御す。

そうしゅうぜんしつおんさじき よ　 　 かえ　 せし　 たま　　ののち　　へいしょく　のご　　およ　　　　いぐのしろうにゅうどう　 やまのうちたく　かえ　のところ　　けんちょうじまえ　をい　 いころされおはんぬ
 相州禪室　御棧敷自り還り令め給ふ之後、秉燭之期に及び、伊具四郎入道�@山内宅へ歸る之處、建長寺前に於て射殺被訖。

みのかさ　つ　　　きば　せし　　のひと　　 しもべ　ひとり　　 あいぐ　　　　　　 いぐ　　　 さほう　　 は　　　す
蓑笠を着け騎馬令む之人、下部一人を相具し、伊具の左方を馳せ過ぐ。

いなかよ　　　かまくら　　まい　　の　ひとか　のよし　　　いぐ　　しょじゅうら これ　　ぞん　　　 らくば　ののち やに　あた　　のむね　　し　　　　うんぬん
田舎自り鎌倉へ參る之人歟之由、伊具が所從等之を存ず。落馬之後矢于中る之旨を知ると云々。

どくを　そ　　やじり　　ぬ　　　うんぬん
毒於其の鏃に塗ると云々。

参考�@伊具は、陸奥国伊具郡(宮城県伊具郡)で得宗領。

現代語正嘉二年(1258)八月大十六日壬辰。雨降りです。将軍宗孝親王は鶴岡八幡宮寺へお参りです。馬場での流鏑馬以下の儀式は何時もの通りです。事が終って帰りました。相州禅室時頼さんが桟敷から帰られた後、灯りをつける時間になって、伊具四郎入道は山内の宅へ帰るところ、建長寺前において射殺されました。蓑を着て馬に乗った人が、下男を一人連れて、伊具の左側を走りすぎました。田舎から鎌倉へ来た人だろうかと、伊具の部下は思いました。伊具が落馬した後、矢が当たっていることを知りましたとさ。その矢じりに毒が塗ってあったそうな。  

解説伊具の所従が、田舎から来た人と思ったのは「右側通行」しているからであろう。武器の主体が刀ではなく弓なので、平和時には弓手ではなく、女手に相手を置く「左側通行」が一般的であったのだろう。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　いぐ　せちがいの　けんぎ　 よっ　　　　　すわぎょうぶさえもんにゅうどう　　とら　　　　つしまのぜんじうじのぶ　　めしあず　らる　ところなり
正嘉二年(1258)八月大十七日癸巳。天�ﾘ。伊具殺害之嫌疑に依て、諏方刑部左衛門入道を虜へ、對馬前司氏信に召預け被る�@所也。

また　　へいないさえもんのじょうとしもと　〔へいほうがんやすよりにゅうどう　まご〕　　まきさえもんにゅうどうら　　　 どうい　ろけんせし　　　　うんぬん
亦、平内左衛門尉俊職〔平判官康頼入道�Aが孫〕・牧左衛門入道等が同意露顯令むと云々。

これさくじつ　くだん りょうにん　にんずう　すわ に かいごう　　　しゅうじつすうはい　かたむ かんだん　こ
是昨日、件の兩人の々數諏方于會合し、終日數坏を傾け閑談を凝らす。

しか　　　　　すわ　　　いぐ　　　　きたく　のご　　　うかが　し　　　　　あからさま　とうざ　　 た　　　　　　ろじ　　　はせいで　しゃさつののち　　またもと　　ごと　　しゅえん　　およ　　　　うんぬん
而して諏方、伊具の歸宅之期を伺い知り、白地�Bに當座を起ち、路次へ馳出て射殺之後、又元の如く酒宴に及ぶと云々。

きょう　　　あいたず　 らる　 のところ　　さくじつ　　かいしゅう　さ　　　　しょうにん　　な　　　しさい　　ろん　　もう　　　　よっ　　　　また　 りょうにん　と　はる
今日、相尋ね被る之處、昨日の會衆を差し、證人と爲し子細を論じ�C申すに依て、又、兩人に問被る。

おのおの いったん しょうふく　うんぬん
 各　一旦は�D承伏すと云々。

こ　　 せちがい　 こと　　ひと　 すいさつ　およ　べからずのところ　　 すわ　きゅうりょう　もっ　　　いが　　　つけらる　のあいだ　かくしついま　やまざ　か
此の殺害の事、人の推察が覃ぶ不可之處、諏方が舊領を以て伊具に付被る之間、確執未だ止る歟。

　そ　うえ　やたば　　い　　　いさま　　 い　　　　　すで　けちえん　すこぶ　ふつう　　 しょい　　　こ　　　　　これ　　よっ　　けんぎ　　　ごさた　いできた　　　うんぬん
其の上箭束と云ひ射樣と云ひ、已に揚焉�E。頗る普通の所爲を越ゆ。之に依て嫌疑の御沙汰出來ると云々。

参考�@召し預けるは、預かり召人。
参考�A康頼は、鹿ケ谷事件で奇怪島へ流されている。
参考�B白地は、突然に。
参考�C論じは、弁解。訴える＋論じなので訴論と云う。
参考�D一旦は、直ぐに。
参考�E掲焉は、明瞭。顕か。

現代語正嘉二年(1258)八月大十七日癸巳。空は晴です。伊具四郎殺害の建議で、諏訪刑部左衛門入道を逮捕して、対馬前司佐々木氏信に預り囚人(めしうど)として預けました。また、平内左衛門尉俊職〔平判官康頼入道の孫〕と牧左衛門入道達が共犯だと分かりましたとさ。これは昨日、この二人は諏訪の家に集まって、一日中酒を飲みながら暇つぶしの談話をしていました。そこで、諏訪は、伊具の帰宅の頃を見計らって、突然に席を立って、路地へ走り出て射殺後に、また元の酒宴を続けましたとさ。
今日、諏訪に質問をした処、昨日の宴会参加者を名指して、「証人がいる」と弁解したので、そこで二人に尋ねました。それぞれすぐに認めましたとさ。
この殺人事件については、人の推理は及びませんでしたが、諏訪の以前の領地を伊具に与えたので、恨みが残っていたのでしょう。その矢の細工と云い、弓矢の打ち方と云い、顕かです。とても普通の人の腕を越えています。これによって嫌疑を固める事が出来ましたとさ。

解説 大弓は7尺5寸(約2m30cm)あるので、ここのは半弓と思われる。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　すわぎょうぶさえもんにゅうどう　これ　　めしおかれ　 すいもん　 くは　　らる　　　いへど　　　　あ　　　しょうぶくせず
正嘉二年(1258)八月大十八日甲午。天�ﾘ。諏方刑部左衛門入道之を召置被、推問を加へ被ると雖も、敢へて承伏不。

もと　　　　 しっ　　　 ところ　　　　　よっ　　しょじゅうなん 〔　こうたろう　　　ごう　　　〕　　　めしと　　これ　　すいもんさる　　　ほう　　まか　　　ところ　　　き　　　くっ　　　と　　　あたはず
本より執する�@所なり。仍て所從男〔高太郎と号す〕を召取り之を推問被る。法に任せる之處、氣を屈して言うに不能。

あげく　これ　 あいさそ　　　しゅじんすで　 はくじょう　けんぜし　をはんぬ　いかで　ろん　　もう　　べきや　のよし　　ぶぎょうんもんどう　　つく　　　いへど　　　くだん　なん　い
結句之を相誘い�A、主人已に白状�Bを献令め畢。　爭か論じ申す可哉之由、奉行人問答を盡すと雖も、件の男云はく。

しゅじんは かねてきゅうもんのちじょく　かえりみ　 よっ　　もう　　 か　　　　げろう　のみ　　 をい　　は　　　さら　　そ　　はじいたまず　　じっせい　　まか　　ろん　　もう　ところなり
主人者兼而糺問之耻辱を顧る。仍て申す歟。下臈之身に於て者、更に其の恥痛不。實正に任せ論じ申す所也。

ただ　　しゅじんはくじょうのうえ　　　かさ　　　 おんとい　 およばざるか　うんぬん
但し主人白状之上は、重ねて御問に不及歟と云々。

参考�@執するは、固執する。
参考�A相誘へは、宥めすかして。
参考�B白状は、書面。

現代語正嘉二年(1258)八月大十八日甲午。空は晴です。諏訪刑部左衛門入道を監禁して、質問を繰り返しても、全く白状しません。本から頑固に屈しません。
そこで、下働きの男〔高太郎と言います〕を捕えて質問をしました。法を楯に攻めましたが、恐れ入ったと云うことをしません。仕方が無いので、なだめすかして「主人は白状した書面を提出しているのだから、当然話すべきであろう」と裁判担当官が何度も問いただしたけれども、その下男の云うのには「主人は糾問されることを恥だと思って吐いたかも知れませんが、私ら下々の者は恥を知りませんので、実際の事を云ってるだけですよ。しかも、主人が白状しているのなら、私に聞く必要はないでしょう。」だとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 くもり　　こんげつなぬか　ごりゅうぼう　〔とうていおんおとうと　おんとしとお〕　のよし　　きょう きょうとよ　　これ　　もうさる
正嘉二年(1258)八月大十九日乙未。陰。今月七日御立坊�@〔當帝�A御弟。御年十〕之由、今日京都自り之を申被る。

参考�@御立坊は、皇太子をたてる。弟亀山１０歳大覚寺党９０代。  
参考�A當(当)帝は、後深草天皇１７歳８９代持明院統。

現代語正嘉二年(1258)八月大十九日乙未。曇りです。今月7日に皇太子〔元天皇の弟で10才〕をたてたと、今日京都から云ってきました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 むつ　でわ　りょうごく　しょぐん　　ようち ごうとう ほうき　　こと  
正嘉二年(1258)八月大廿日丙申。陸奥出羽兩國の諸郡の夜討強盜蜂起の事、

そ　　　きこ　　あ　　　　　よっ　　　めんめん　　ぢとう　　おお　　　　　　あいしず　　　べきのむね　　みぎょうしょ　　なしつか　　さる　ところなり　　そ　　ことば　　い
其の聞へ有るに依て、面々の地頭に仰せて、相鎭める可之旨、御教書を成遣は被る所也。其の詞に云はく。

　　きんじつ　　でわ　むつのくに　ようちごうとう ほうき　 あいだ　 おうかんのやからそ　 わずら　 あ　　 のよし ふうぶん　　　もっと　　ふびん
　近日、出羽陸奥國夜討強盜蜂起の間、往還之輩其の煩い有る之由風聞す。尤も不便�@。

　　これひとえ　ぐんごうぢとうら　さき　　　おんげち　　そむ　　　ぶさた　の いた　ところなり　 はなは そ　 いわ　 な
　是偏に郡郷地頭等先の御下知に背き無沙汰�A之致す所也。甚だ其の謂れ無し。

　　はや　　そ　　ぐんちぎょう　しゅくしゅく　おくしゃ　 たてお　 けちばんせし　　　こと　　けいご せし　　べきなり
　早く其の郡知行の宿々に屋舎を建置き結番�B令め、殊に警固令む可也。

　　かつう　あくとう　　こめお　　のしょしょ　　み　かく　　き　　かく　　べからず　のむね　　さたにん　ら　　きしょうもん　　めししん　　らる　　べ　　　てへ　　　　　　おお　　　　よっ　しったつくだん　ごと
　且は悪黨を籠置く之所々、見隱し聞き隱す不可之旨、沙汰人等の起請文を召進ず被る可き者れば、仰せに依て執達件の如し。

　　　　　　　　しょうかにねんはちがつはつか　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　むさしのかみ
　　　　正嘉二年八月廿日　　　　　　　　　　　　　　武藏守

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さがみのかみ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　相摸守

　　　　　　　　　　ぼうどの
　　　　　某殿

参考�@不便は、良くない。
参考�A無沙汰は、サボっている。地頭の業務の中に夜討強盗鎮圧の義務がある。
参考�B結番は、班編成を組んで、篝屋の設置カ。

現代語正嘉二年(1258)八月大二十日丙申。陸奥・出羽両国のあちこちの郡で、夜討強盗が頻発していることについて、その噂が入って来ているので、それぞれの地頭に命令して、成敗する様に、将軍からの命令書を作りました。その内容は
　最近、出羽・陸奥の国で夜討強盗が頻発しているので、往来の旅人が難儀していると聞こえているのは、良くない事である。これは皆、郡や郷の地頭達が命令をきかないで、なまけて放っておくからである。それはいけない事である。早く、その郡の管理している宿場に交番を立てて監視員の班を組んで、特に警備しなさい。
　一つは、犯罪者を匿っている所を、見ないふりをしたり聞かないふりをしないように、現地管理人の誓いの文書を取り立てなさい。これは将軍の命令を書いたのはこの通りです。
　　正嘉2年8月20日　　　武蔵守長時　相模守政村
　　どなた様へも

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　いぬのこく　けいこく　 なんと だいごせい　 おか　　　　おな　ときだいりゅうせい〔なが　　よんじょうよよんしゃく〕　　いぬいよ　　たつみ　いた
正嘉二年(1258)八月大廿八日甲辰。�ﾘ。戌尅。熒惑、南斗第五星を犯す。同じ時大流星〔長さ四丈餘四尺〕。乾自り巽に至る。」

きょう　　ひょうじょう　　　　しょうぐんけ　ごじょうらくえんいん　　　　うんぬん　　これ　 しょこくそんぼう　 よっ　　　みんかんうれ　　あ　　　のゆえなり
今日の評定で、將軍家の御上洛延引すと云々。是、諸國損亡に依て、民間愁い有る之故也。

参考熒惑星(ケイコクセイ)は、火星。
参考南斗第五星は、いて座ラムダ星。
参考損亡は、不作のため貧乏している。

現代語正嘉二年(1258)八月大二十八日甲辰。晴れです。午後8時頃、火星が射手座ラムダ星にぶつかってます。同じ時間に大きな流星〔長さ13.3ｍ〕が、西北から東南へ流れました。」
今日、政務会議で、宗尊親王将軍家の京都行を延期しました。これは、諸国で飢饉のため、民衆が貧乏状態だからです。

九月へ

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