吾妻鏡入門第四十九巻 　

文應元年(1260)八月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 しきぶのたろうさえもんのじょう きょうとよ　　　きさん　　　　うんぬん
文應元年(1260)八月大二日丁酉。�ﾘ。式部太郎左衛門尉京都自り歸參すと云々。

現代語文応元年(1260)八月大二日丁酉。晴です。式部太郎左衛門尉伊賀光政が京都から帰って来ましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 はなは　あめ　さるのこく おおかぜ　じんおく おお　もっ　　はそん　　　　いぬのこく かぜやす　　　 ぢしん
文應元年(1260)八月大五日庚子。�ﾘ。甚だ雨�@。申剋 大風。人屋 多く以て破損す。戌剋 風休む。地震。

現代語文応元年(1260)八月大五日庚子。晴れです。ものすごい雨です。午後4時頃大風が吹いて、家屋が沢山壊されました。午後8時頃風はやみましたが、地震です。

考察�@�ﾘ。甚だ雨は、一帯どうなっているのか？新暦だと9月半ばなので台風かも知れない。だとすると目の中は晴。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さがみのさぶろう　がいそふ　そっきょのあいだ　きょうぶく　うんぬん
文應元年(1260)八月大六日辛丑。相摸三郎�@が外祖父卒去之間、輕服と云々。

参考�@相摸三郎は、時利。後の時輔。母は、讃岐局で三処氏。

現代語文応元年(1260)八月大六日辛丑。相模三郎時利(後の時輔)の母方のおじいさん三処氏が亡くなったので、軽い喪に服すんだとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 しょうぐんけ せきり　やまい　わずら　たま　　　　よっ　 さがみのたろうどの　　　さた　　　な　　　　　にょほうたいさんふくんさい　おこなはれ
文應元年(1260)八月大七日壬寅。�ﾘ。將軍家赤痢の病を煩ひ御う。仍て相摸太郎殿が沙汰と爲し、如法泰山府君祭を行被る。

ためちかあそんこれ　ほうし　　　　　おんし　　かのうのしろうさえもんのじょう
爲親朝臣之を奉仕す。御使は狩野四郎左衛門尉。

現代語文応元年(1260)八月大七日壬寅。晴れです。宗尊親王将軍家が赤痢の病気にかかりました。それで相模太郎北条時宗の提供で、法通りに祈る泰山府君祭を行いました。安倍為親さんが勤めました。代参は狩野四郎左衛門尉景茂です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 　ごのう　　 よっ　　　　 しちく　　 せきとく　　もっ　　　　 しちざ　　ほう　　しゅうさる
文應元年(1260)八月大八日癸夘。�ﾘ。御惱に依て、七口の碩徳を以て、七座の法を修被る。

あんじょうじそうじょう　まつどのほういん　しょうちゅうじゅいんほういん　さだいじんほういん　いげ　なり
安祥寺僧正・松殿法印・　勝長壽院法印・ 左大臣法印已下也。

現代語文応元年(1260)八月大八日癸卯。晴れです。宗尊親王将軍家が病気なので、七人の高徳の坊さんに命じて、七人で一緒に祈る祈祷をさせました。安祥寺僧正良瑜・松殿法印良基・勝長壽院法印最信・左大臣法印厳恵以下です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 　ごのう　　こと　　よっ　　　　さがみたろうどの　　　　ごさた　　　　な
文應元年(1260)八月大十二日丁未。�ﾘ。御惱の事に依て、相摸太郎殿が御沙汰と爲し、

いちにち　 うち　 やくしぞう　　〔しょうぐんけ　ごとうしん　〕　　　　ぞうりゅうさる　　　 くよう　　　どうし　　　そんけほういん　　また　　やくしほう　　　しぎょうさる
一日の中に藥師像〔將軍家御等身〕を造立被る。供養の導師は尊家法印。又、藥師法を始行被る。」

きょう　　　　ろくはら　に　おお　 つか　　さる　　ことあ　　　　そ　　みぎょうしょ　　い
今日、六波羅于仰せ遣は被る事有り。其の御教書に云はく。

　　もんちゅう　いご　ついしんじょう　こと　　しょうもんのほか　すすめず　そちん　　をい　　は　　　　さた　　およばず のよし　　さだ　　られをはんぬ
　問注以後の追進状の事、證文之外を不進。訴陳に於て者、沙汰に不及之由、定め被畢。

　　しか　　　　もんちゅうき　　　ぐしょ　　しんらん　　　　のとき　　まいどついしんじょう　そえすす　らる　　のじょう　かたがたれい　たが　　　　　さた　のわずら　な　　　　あらず
　而るに問注記の具書を進覽する之時、毎度追進状を副進め被る之條、 傍 例に違ひ、沙汰之煩ひ無きに非。

　　いまよ　　　　いご　　　をい　　は　　しょうもんおほか　　そちんのじょう　 そえすす　べからず
　今自り以後に於て者、證文之外、訴陳之状を副進む不可。

　　も　　　かんよう　しょうもん　　そな　 すす　 せし　　ば　　ふくもん　　と　　　　　か　　しょうもん　　そえすす　 せし　　べ　　のじょう　　おお　　　 よっ　　しったうくだん　ごと
　若し簡要の證文を備へ進め令め者、覆問を遂げ、彼の證文を副進め令む可き之状、仰せに依て執達件の如し。

　　　　　　　　　ぶんおうがんねんはちがつじゅうににち　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　むさしのかみ
　　　　　文應元年八月十二日　　　　　　　　　　　　　　　　武藏守

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さがみのかみ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　相摸守

　　　　　　　　むつさこんのたいふしょうげんどの
　　　　陸奥左近大夫將監殿

現代語文応元年(1260)八月大十二日丁未。晴れです。宗尊親王将軍家の病気なので、相模太郎北条時宗の提供で、一日で薬師如来像〔宗尊親王将軍家と等身大〕を作らせました。開眼供養の指導僧は日光別当法印尊家です。又薬師如来のお経を始めました。」
今日、六波羅探題へ命令する事がありました。その命令書には

　裁判結審後の控訴書類については、證文以外を認めない。原告被告の訴状については取り上げる必要がないと決められております。それなのに裁判記録を結審者(裁判長)にお目に掛ける時に、毎回訴状を添えている事は、過去の例と違っているので、結審の判断の妨げになっていないとは言えない。今後については、證文以外の訴状を添える必要はありません。もし、簡便な證文を用意しておけば、再調査をしてその證文を添えるようにとの命令は、将軍の命によってこの通りです。
　　文応元年 八月十二日　　　　　　　　　　　　　武蔵守長時
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　相模守政村
　　陸奥左近大夫将監塩田義政殿

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 つるがおか　ほうじょうえ　　しょうぐんけ　ごさんぐう　な　　　せきり　　やまい　ごのう　かろ　ならずのゆえなり
文應元年(1260)八月大十五日庚戌。�ﾘ。鶴岳の放生會。將軍家御參宮無し。赤痢の病の御惱輕か不之故也。

ぶしゅうおんし　　な　　 しんぱいさる　　　しゃてい さこんのたいふしょうげんよしまさ　なら　　　 さがみのしろう　　いずみのぜんゆきかた　だざいごんのしょうにかげより
武州�@御使と爲し神拝被る。舎弟　左近大夫將監義政�A并びに相摸四郎・和泉前司行方・大宰權少貳景頼・

　いきぜんじもとまさ　　 ぬいどののとうもろつら　かずさのぜんじながやす ら　かいろう　さん
壹岐前司基政・ 縫殿頭師連・ 上総前司長泰 等廻廊に參ず。

参考�@武州は、極楽寺流北条長時(重時子)。
参考�A左近大夫將監義政は、塩田流北条義政(塩田は長野県の別所温泉)。

現代語文応元年(1260)八月大十五日庚戌。晴れです。鶴岡八幡宮の放生会です。宗尊親王将軍家のお参りは無しです。赤痢の病気による苦しみが軽くないからでしょうか。重時さんが代理として参拝をしました。弟の塩田流義政それに相模四宗政、和泉前司二階堂行方、太宰権少弐武藤景頼、壱岐前司後藤基政、縫殿頭中原師連、上総前司大曽祢長泰たちが、回廊に参りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 くも　　　　　ぶしゅう　 さんぐうさく　　おな　　　 しょうぐんけ　　ぎょしゅつ な　　 いへど　　　　ばば　のぎ　 さじきら れい　 ごと
文應元年(1260)八月大十六日辛亥。陰り。武州の參宮昨に同じ。將軍家の御出無しと雖も、馬塲之儀棧敷等例の如し。

たいふほうがんゆきあり　だいふほうがんひろつな　たいふほうがんゆきうじ ら　 ばば　　　けいご
大夫判官行有・大夫判官廣綱・大夫判官行氏 等馬塲を警固す。

現代語文応元年(1260)八月大十六日辛亥。曇りです。長時さんの参拝は昨日と同じです。宗尊親王将軍家のお出ましは無くても、馬場での奉納も、見物用の桟敷もいつも通りです。大夫判官二階堂行有、大夫判官結城広綱、大夫判官二階堂行氏などが、馬場を警備しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 しょうぐんけ　　　ごのう　　よっ　　　　まり　　おんつぼ　 をい　　　てんもんはくじためちかあそん にょほうたいさんふくんさい　つと
文應元年(1260)八月大十七日壬子。�ﾘ。將軍家の御惱に依て、鞠の御壷に於て、天文博士爲親朝臣 如法�@泰山府君祭を勤む。

くらおきうまいっぴき　よろいきゅせんら　　さがみたろうどの　　　ごさた　　　な　　　これ　たてまつらる　　　ごそうしばこ　　〔にしき　　ふくろ　　い　　〕　　ごしょ よ　　　これ　　いださる
鞍置馬一疋・鎧弓箭等、相摸太郎�A殿が御沙汰と爲し之を奉被る。御雙紙箱�B〔錦の袋に入る〕御所自り之を出被る。

参考�@如法は、作法通りに。
参考�A相摸太郎は、北条時宗で小侍所所司(次席)。
参考�B雙紙箱は、双紙(書物等)を入れる箱だが、推測では病の気を拭った紙の人形(ひとがた)をいれたのではなかろうか？

現代語文応元年(1260)八月大十七日壬子。晴れです。宗尊親王将軍家が病気なので、蹴鞠用の坪庭で、天文博士安陪為親さんが、左方通りの泰山府君祭を勤めました。鞍を載せた馬一頭、鎧・弓矢などを、北条時宗の名義でこれを神に捧げました。双紙(書物等)を入れる箱〔錦の袋に入れてる〕は、御所から出しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 しょうぐんけ　　ごのういささ　げん　　ぞくせし　　たま
文應元年(1260)八月大廿日乙夘。�ﾘ。將軍家の御惱聊か減に属令め御う。

現代語文応元年(1260)八月大二十日乙卯。晴れです。宗尊親王将軍家の病気が少し良くなってきました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  にしょ　ごさんけい　あ　　べ　　　　　よっ　　　　　ぐぶにんら　　こと　そ　　　さた　あ
文應元年(1260)八月大廿五日庚申。二所�@御參詣有る可きに依て、供奉人等の事其の沙汰有り。

かつう　せんじつ　ごてんにんずう　　かきいだ　　すす　　せし　　べ　　　のよし　こさむどころ　おお　　らる　　　　ゆきかたこれ　　でんたつ　　　うんぬん
且は先日の御點人數を書出し進め令む可き之由、小侍所へ仰せ被る。行方之を傳達す�Aと云々。

むなかたろくろう　　ぢどく　　どうぎょう　〔にょいまる　　　ごう　　〕　 てん　　　　ごちょうどがけ　　　ぐぶ　すべ　　のよしさだ　　らる　　　うんぬん
宗像六郎が子息の童形〔如意丸と号す〕點じ�B、御調度懸に供奉可き之由定め被ると云々。

参考�@二所は、伊豆山権現・箱根権現お参り、三島神社も必ず行く。
参考�A行方之を傳達すは、将軍から御所奉行を通して命令する。
参考�B點じは、比定して。点定。

現代語文応元年(1260)八月大二十五日庚申。二所（箱根・伊豆山）詣でをする予定なので、そのお供について、指示がありました。先日チェックした人数を書き出してくるように、小侍所へ命じました。二階堂行方が取り次いだそうな。宗像六郎の息子未成年〔如意丸と云います〕を指名して、弓矢持ちとしてお供するようにお決めになられましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 あめふる　　しょうぐんけ ごじょふく　 ためちかあそん　〔いのこく〕　おんはらへ　つと　　　ばいぜん　さぬきのぜんじただときあそん　〔　ほい　〕
文應元年(1260)八月大廿六日辛酉。雨降。將軍家御除服。爲親朝臣〔亥刻〕御秡を勤む。陪膳は讃岐前司忠時朝臣〔布衣〕。

えきそう　　おうみぜんじすえざね
役送は近江前司季實。

参考除服は、喪が明ける。

現代語文応元年(1260)八月大二十六日辛酉、雨降りです。宗尊親王将軍家は喪明けです。安陪為親さん〔午後十一時頃〕お祓いを勤めました。お給仕は讃岐前司島津忠時さんです〔狩衣の正装〕。配膳係は近江前司季実です。

参考この翌日の八月27日に日蓮上人は松葉谷の法難にあう。

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