吾妻鏡入門第五十一巻

弘長三年(1263)七月小

読下し　　　　　　　　　　　　　そらはれ　しょうぐんけことしじゅう　　ごえいか　すうかんのうち　さんびゃくろくじゅっしゅ　しょうしゅつ　せいしょさる
弘長三年(1263)七月小五日癸未。天�ﾘ。將軍家 今年中に御詠歌 數巻之中、 三百六十首 を 抄出�@し�C書被る。

これ　がってん　ため にゅうどうみんぶきょう　〔ためいえきょう〕　　　つか　　さる　　べ　　　うんぬん
是、合點の爲　入道民部卿 〔爲家卿〕�Aに遣は被る可しと云云。」

きょう　　いずのぜんじゆきかたそんし　 そっきょ　 こと　　よっ　　　ぬいどののとうもろつら　ごしょじゅう　　ぞうじ　　ぶぎょうすべ　　　うんぬん
今日、和泉前司行方孫子の卒去の事に依て、縫殿頭師連、　御所中の雜事を奉行可しと云云。

参考�@抄出は、必要なところを抜き出して書くこと。また、そのもの。抜き書き。
参考�A入道民部卿爲家卿は、藤原為家(1198-1275)。歌人定家の子。

現代語弘長三年(1263)七月小五日癸未。空は晴です。宗尊親王将軍家は今年中に和歌数巻のうち、三百六十首を抜き書きして清書をされます。これは、評価をしてもらうために、入道民部卿藤原為家さんに送るようにとのことだとさ。」
今日、和泉前司二階堂行方の孫が死んだことによって服喪の為、縫殿頭中原師連が御所内の用事を指示担当するようにだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　 こさめそそ　　　　ごしょ　　もん　〔むねもん〕　　　たてらる
弘長三年(1263)七月小十日戊子。小雨洒ぐ。御所の門〔棟門�@〕を立被る。」

きょう　　まえはま　　をい　ふうはくさい　おこなはれ　　さきのだいかんもつのぶかたあそん　これ　ほうし
今日、前濱に於て風伯祭を行被る。　前大監物宣賢朝臣　　之を奉仕す。

参考�@棟門は、本柱を2本たてて棟を高く上げ、屋根を切妻造りにした平入りの門。

現代語弘長三年(1263)七月小十日戊子。小雨が降ってます。御所の棟門を立てました。」
今日、由比ガ浜で風の神を祀る風伯祭を行いました。大監物宣賢さんがこれを勤めました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　ひがしのおおんかた　こまち　　しんぞうてい　　いし　　　うんぬん
弘長三年(1263)七月小十三日辛夘。　東御方、　小町の新造亭へ移徙すと云云。」

きょう　　　ぐぶにん　じょうじょう そ　　　さた　あ　　　　　そ　　うち　えっちゅうほうがんときなり しょろうのよし　 もう　　　　これ　  さ　　　　わずら　　あらず
今日、供奉人の條々其の沙汰有り。其の中、越中判官時業　所勞之由を申す。是、指せる煩ひに非。

しかれども　せんじついとま　もう　のとき　　 そ　　じつ　　し　　　　　めさず　　おんきょあ　　　いへど　　　つね　　しこう　のうえは　　こしょうしか　べからずのよし　　そ　　　さた　あ
 然而、 先日暇を申す之時、其の實を知ろし食不、恩許有ると雖も、常の祗候之上者、故障然る不可之由、其の沙汰有り。

あいもよ　　　ざるのところ　すで　　きこく　　　　うんぬん　はや　 みぎょうしょ　 つか　　　べ　　　のよし　　うんぬん
相催おさ非之處、已に歸國すと云云。早く御教書を遣はす可き之由と云云。

　　 こ　　 ほか　ひとびと
　此の外の人々

　　　　　ほい
　　布衣

　あだちのさぶろうさえもんのじょう　〔ざいこく〕
　 足立三郎左衛門尉 〔在國〕

ずいへい
随兵

　あしかがかずさのさぶろう　〔しょろうふくやく〕　　　　　　 　　　　　　 みうらのすけ
　 足利上総三郎 〔所勞服藥〕　　　　　　三浦介

　あわのしろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　じょうのしろうさえもんのじょう
　阿波四郎左衛門尉　　　　　　　　　　城四郎左衛門尉

　おきのしろうひょうえのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ひたちしゅりのすけ
　隱岐四郎兵衛尉　　　　　　　　　　　常陸修理亮

　あわじのしろうさえもんのじょう　〔きゅう〕　　　　　　　　　　　　　　かざはやのたろうさえもんのじょう
　淡路四郎左衛門尉〔灸〕　　　　　　　風早太郎左衛門尉

　　　いじょうはちにん　しょろうのよし　もう
　　已上八人、所勞之由を申す。

　するがのごろう　〔ふく〕　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　とおとうみのじゅうろうさえもんのじょう　〔おなじ〕
　駿河五郎〔服〕　　　　　　　　　　　遠江十郎左衛門尉　　〔同〕

　　　　はちがつ じゅうごにち に いた　　　　　　ちょうぶく たるのよし　　もう
　　八月　十五日 于至るまで、重服 爲之由を申す。

　　おださえもんのじょう
　小田左衛門尉

　　　　ぞうかしましゃ そうぶぎょうなり　　ぐぶ　　 かぎ　　あ　　　　いへど　　　よしゃ　　こと　　つ　　ほんろう　　　　か　　 しんじ ゆる　　　　に　　　　いかよう　すべ　　や　のよしなり
　　造鹿嶋社 惣奉行也。供奉に限り有ると雖も、余社の事に就き奔勞は、彼の神事緩むに似る。何樣に可き哉之由也。

　　　あそぬまこじろう
　阿曽沼小次郎

　　　　らくば　いご　　しんたいいま　 ごうご　　　　　　　しそく　ごろう　　もっ　 ごんじせし　　こといかん　のよし　もう
　　落馬以後、進退未だ合期せず。子息五郎を以て勤仕令む事如何之由を申す。

　　ほうきのしろうさえもんのじょう
　伯耆四郎左衛門尉

　　　　しょろうなんちなり　　しそく　ごろうきようじ　　もっ　 ごんじせし　　　　いかん　のよし　 もう
　　所勞難治也。子息五郎�C氏を以て勤仕令む。如何之由を申す。

　　 えどのしろうたろう
　江戸七郎太郎

　　　　おい と やまい けいかい　　いま　　をい　　は　　よろい　き　　　しんたいかな　がた　　のよし　　もう
　　老 與 病 計會す。今に於て者、甲を着ての進退叶い難し�@之由を申す。

参考�@甲を着ての進退叶い難しの記事から、随兵は完全武装であることが分かる。よって塾長の「武装儀仗兵」との訳は良いと思う。

　　あだちのたろうさえもんのじょう
　足立太郎左衛門尉

　　　　ごじょうらく　　 ぐぶ　　 きょうと おおばん りょうえきのあいだ いちじ おんきょあ　　ば　　 はや　 さんすべ　　　のよし　　もう
　　御上洛の供奉、京都 大番　兩役 之間 一事 恩許有ら者、早く參勤可き之由を申す。

ひたたれぎ
直垂着

　　ささきつしまのたろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　おな　　　いきのさぶろうさえもんのじょう
　佐々木對馬太郎左衛門尉　　　　　　　同じき壹岐三郎左衛門尉

　　ひらがのさぶろうさえもんのじょう
　平賀三郎左衛門尉

　　　 いじょうさんにん　はばか　あ　　のよし　　もう
　　已上三人、憚り有る之由を申す。

　　ささきつしまのしろう　　　〔いたわり〕　　　　　　　　　　　　　　　とおとうみのごろうさえもんのじょう
　佐々木對馬四郎〔勞〕　　　　　　　　遠江五郎左衛門尉

　　　　いたわ　　よっ　　きゅう　くわ　　　　のうえ　　しかぐいのよし　もう
　　勞りに依て灸を加うる之上、鹿食之由を申す。

　　でわのしちろうさえもんのじょう　　　　　　　　　　　　　　　　　おおすがのろくろうさえもんのじょう
　出羽七郎左衛門尉　　　　　　　　　　大須賀六郎左衛門尉

　　しなののほうがんじろうさえもんのじょう　〔いわたり　しかぐい〕
　信濃判官次郎左衛門尉　 〔勞　鹿食〕

　　　 いじょうさんにん　しかぐいのよし　もう
　　以上三人、鹿食之由を申す。

　　かまたのさぶろうさえもんのじょう
　鎌田三郎左衛門尉

　　　　おおばん　ごんじ　　をは　　さうつごろ　 きさんのあいだ　なんちのよし　　もう
　　大番を勤仕し訖り、近曽　歸參之間、難治之由を申す。

かんじん
官人

　　さどのたいふほうがん
　佐渡大夫判官

　　　　とうじ　しょろう　　 も　 しょうげん　 え　　ば　　すいさんすべ　 のよし　　もう
　　當時所勞。若し少減を得ら者、推參可き之由を申す。

　　しなののほうがん　〔ふっか〕
　信濃判官　〔服暇〕

現代語弘長三年(1263)七月小十三日辛卯。将軍妻の東御方は、小町の新築の屋敷へ引っ越したそうな。」
今日、お供の人の箇条書きについて指示がありました。そのうち、越中判官時業は、病気だと云ってます。これは大した病気ではありません。だけど、先日遠慮したいと行った時に、その実態を知らなかったので、許可しましたけれど、通常の勤務をしているので、具合が悪いわけがないと指示がありました。すぐに連絡しなかったので、既に国元へ帰ってしまったそうな。早く命令書を出すようにとの事だそうな。
　このほかの都合の悪い人々
　　　布衣(正装の狩衣)
　　足立三郎左衛門尉元氏〔国元に居ます〕
武装儀仗兵
　　足利上総三郎満氏〔病気で服薬中〕　　　三浦介盛時
　　阿波四郎左衛門尉政氏　　　　　　　　　城四郎左衛門尉安達時盛
　　隠岐四郎兵衛尉二階堂行廉　　　　　　　常陸修理亮
　　淡路四郎左衛門尉〔お灸をした〕　　　　風早太郎左衛門尉康常（47巻10月1日は常康・51巻8月9日は康常になっている）
　　　以上の八人は、病気だと云っている。
　　駿河五郎北条通時〔(六郎有義の)服喪中〕遠江十郎左衛門尉頼連〔同じです〕
　　　八月十五日まで重い喪なんだと云ってます。
　　小田左衛門尉時知
　　　鹿島神宮修理工事の総責任者です。「お供をしなければならない義務はあるけれども、他の神社の事に頑張るのは、その神様への奉仕が緩むみたいですね。どうすべきでしょうか？」との事です。
　　阿曽沼小次郎光綱
　　　落馬の後、出来るかどうか未だに決まりません。息子の五郎を代理に勤めさせるのはいかがでしょうと云ってます。
　　伯耆四郎左衛門尉光清
　　　病気が治りそうもありません。息子の五郎清氏を代理に勤めさせるのはいかがでしょうと云ってます。
　　江戸七郎太郎
　　　老いと病気とが重なりました。現在の状態では、鎧を着て動くのは難しいと云ってます。
　　足立太郎左衛門尉直元
　　　将軍上洛のお供と、京都大番役と両方になるので、片方を許してもらえれば、早くも参って勤めましょうと云ってます。
鎧直垂を着たガードマン
　　佐々木対馬太郎左衛門尉棟綱　　　　同壱岐三郎左衛門尉頼綱
　　平賀三郎左衛門尉惟時
　　　以上の三人は、遠慮しなくちゃならない理由があると云ってます。
　　佐々木対馬四郎宗綱〔病気〕　　　　遠江五郎左衛門尉
　　　病気によってお灸をしたうえ、鹿の肉を食べましたと云ってます。
　　出羽七郎左衛門尉二階堂行頼　　　　大須賀六郎左衛門尉
　　信濃判官次郎左衛門尉二階堂行宗〔病気と鹿を食べた〕
　　　以上の三人は、鹿肉を食べたと云ってます。
　　鎌田三郎左衛門尉義長
　　　京都大番役を勤務し終り、近日中に帰って来ますけで、お供は難しいと云ってます。
検非違使職の人
　　佐渡大夫判官基隆
　　　現在病気です。もう少し良くなったら、出勤すると云ってます。
　　信濃判官二階堂行忠〔服喪中です〕

読下し　　　　　　　　　　　　　　　くも　　　うだいべんにゅうどうしんかん　きらく　　　　そうしゅう　いげ　しょにんせんべつ　のぎ　あ　　　うんぬん
弘長三年(1263)七月小十六日甲午。陰り。 右大辨入道眞觀　歸洛す。相州以下 諸人 餞別之儀有りと云云。

現代語弘長三年(1263)七月小十六日甲午。曇りです。右大弁入道真観(光俊)が京都へ帰ります。相州政村以下の皆さんから餞別を送る儀式がありましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　くも　　　　 にっしょく せいげんせず　してんすくようどうら　そうろんあ　　　うんぬん
弘長三年(1263)七月小十七日乙未。陰り。 日蝕　正現不。 司天宿曜道等 相論有りと云云。

現代語弘長三年(1263)七月小十七日乙未。曇りです。日食がきちんと現れません。天文担当や陰陽師達で云い合いがありましたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　しょうぐんけ　ていはん　おんよみあわ　をは
弘長三年(1263)七月小十八日丙申。天�ﾘ。將軍家、帝範の御讀合せ 訖る。

現代語弘長三年(1263)七月小十八日丙申。空は晴です。宗尊親王将軍家は、帝王学の読み合わせ勉強会が終わりました。

読下し　　　　　　　　　　　　　えっちゅうほうがん ほうじょうえ　ぐぶ　　 こと　　みぎょうしょ　 つか　 さる　　　 よっ　　　りょうじょう　うけぶみ　けん　　　うんぬん
弘長三年(1263)七月小廿日戊戌。　越中判官　放生會 供奉の事、御教書を遣は被るに依て、領状の請文を献ずと云云。

現代語弘長三年(1263)七月小二十日戊戌。越中判官時業は、放生会のお供について、命令書を出されたので、承知の手紙を提出しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　しょうぐんけ ごひゃくしゅ　　ごえいか　　さきのうひょうえのかみのりさだきょう　ふ　　　 がってん　ため
弘長三年(1263)七月小廿三日庚子。天�ﾘ。將軍家　五百首の御詠歌、　前右兵衛督教定卿�@に付し、合點の爲

にゅうどうみんぶきょうのもと　つか　　さる　　のりもとこれ　せいしょ
 入道民部卿�A之許へ遣は被る。範元之を�C書す。

参考�@前右兵衛督教定卿は、二条。
参考�A入道民部卿爲家卿は、藤原為家(1198-1275)。歌人定家の子。

現代語弘長三年(1263)七月小二十三日庚子。空は晴です。宗尊親王将軍家は、五百首の和歌を前右兵衛督二条教定に頼んで、評価してもらう為、入道民部大臣藤原為家さんの手元へ送らせました。掃部助押垂範元がこれを清書しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　ほうじょうえ　ずいへい　いまじゅうにんもよお　くわ　  べ　　　のよし　　おお　くださる　　　 うんぬん
弘長三年(1263)七月小廿七日甲辰。放生會の随兵、今　十人 催し加う可し之由、仰せ下被ると云云。

現代語弘長三年(1263)七月小二十七日甲辰。放生会の武装儀仗兵は、もう十人増やすようにと、仰せになられましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　あめふる　しょうぐんけ　おんうた　けんちょうごねんよ　　しょうかがんねん いた　ぶん しゅうせんさる　　　これ　 しょしんぐそう　　ごう　　　 うんぬん
弘長三年(1263)七月小廿九日丁未。雨降。將軍家の御歌、建長五年 自り正嘉元年に至る分 修撰 被る。之を初心愚草と号すと云云。

現代語弘長三年(1263)七月小二十九日丁未。雨降りです。宗尊親王将軍家の和歌は、建長五年(1253)から正嘉元年(1257)までに作った分を直して選びました。これを「初心愚草」と名付けましたとさ。

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