吾妻鏡入門第五十一巻

弘長三年(1263)九月大

読下し　　　　　　　　　　　　　そらはれ　うまのこく　じゅごいじょう ぎょう ぎょうぶごんのしょうゆう おおえのあそん まさしげ そつ　〔とし〕
弘長三年(1263)九月大三日庚辰。天�ﾘ。午尅、從五位上 行�@　刑部權少輔　大江朝臣　政茂 卒〔年〕。

参考�@従五位上行の行は官位が職を超えているとき（高位低官）、逆（低位高官）は守をつける。

現代語弘長三年(1263)九月大三日庚辰。空は晴です。お昼頃に、従五位上行刑部権少輔大江政茂さんが亡くなりました〔年？〕。

読下し　　　　　　　　　　　　　 きりぜに　こと そ　　　さた　あ　　　　きんねんおお　 もっ　 いできた　のよし そ　　きこ　　あ
弘長三年(1263)九月大十日丁亥。切錢�@の事其の沙汰有り。近年多く以て出來る之由其の聞へ有り。

いまよ　　　いご　　　をい　 は　　 きりぜに　もち　　　 ことこれ　 ちょうじすべ　　　かく　　むね　ぞん　 あまね　げち　せし　 べ　　　のよし　さてんきゅうら　　おお　　らる　　 　うんぬん
今自り以後に於て者、切錢を用いる事之を停止可し。此の旨を存じ普く下知令む可し之由、左典廐等に仰せ被ると云云。

 そ　　じょう　　い
其の状に云はく。

　　　　　　きりぜに　 こと
　　　切錢の事

　 みぎ　 きんねんおお　　いできた　のよし　そ　　きこ　　あ　　　いまよ　　　いご　　　をい　　は　　　きりぜに　もち　　　ことこれ　　ちょうじすべ
　右、近年 多く出來る之由其の聞へ有り。今自り以後に於て者、切錢を用いる事之を停止可し。

かく　 むね　 ぞん　あまね　 げち せし　 べ　　　のじょう　おお　　　よっ　しったつくだん ごと
此の旨を存じ普く下知令む可き之状、仰せに依て執達件の如し。

　　　　　　こうちょうさんねんくがつにとおか　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 むさしのかみ
　　　　弘長三年九月十日　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　武藏守

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 さがみのかみ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　相摸守

　　　　　　　　かがぜんじどの
　　　　加賀前司殿

参考�@切錢は、宋銭を縦に割り剥がして増やす事。

現代語弘長三年(1263)九月大十日丁亥。宋銭を縦に割る切り銭について、その検討がありました。近頃、数多く出回っているとの噂があります。今から以後については、切り銭を使う事を禁止する。この内容をもれなく命令するように、左典厩北条時宗等に命じられたそうな。その命令書に書いてあるのは
　　　切り銭ついて
　右の事は、近頃、数多く出回っているとの噂があります。今から以後については、切り銭を使う事を禁止する。この内容を承知してもれなく命令するようにとの文章は、将軍の命令によってこのとおりである。
　　　　　弘長三年九月十日　　　　　　　　　　　　　　武蔵守長時
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　相模守政村
　　　　加賀前司二階堂行頼殿

読下し　　　　　　　　　　　　　　しゅうやはなは　あめ　いぬのこくらいめい　むさしおおじ　　へきれき　　 そとうば　　け　　　さ
弘長三年(1263)九月大十二日己丑。終夜 甚だ雨。 戌刻 雷鳴。武藏大路に霹靂。卒都婆を蹴り裂く。

　そ　うえさんじゃくよ　らいか　　ため や　　　　しゅうれつのこえ じんおく　 ひび　　　 き　　もの はなは　おお　　　うんぬん
其の上三尺余 雷火の爲燒ける。蹴裂之聲 人屋に響く。聞く者 甚だ多しと云云。」

きょう　　とおとうみのじゅうろうさえもんのじょう　きょうとよ　　　きさん
今日、　遠江十郎左衛門尉　　京都自り歸參す。

現代語弘長三年(1263)九月大十二日己丑。一晩中豪雨です。午後八時頃、雷が鳴りました。武蔵大路に落雷です。五輪塔に落ちました。上の法三尺(90cm)が雷のネ熱で焼けました。落雷時の音が人家に響き、聞いた人がとても多かったそうな。」
今日、遠江十郎左衛門尉頼連が京都から帰って来ました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　とらのこく　いご　　しょうぐんけ ごのう
弘長三年(1263)九月大十三日庚寅。天�ﾘ。寅刻　以後、將軍家御惱。」

　けさ　しょにんこぞり　やま　　のぼ　 て　　さんぬ　よ　　 らいか　　や　　ところの　そとうば　　 み
今朝、諸人擧て山に登り而、去る夜の雷火が燒く所之卒都婆を見る。

ときならぬ らいめい　そ　つつし　かろからずのよし　おんみょうどうら かんもん　しん
 時非 雷鳴 其の愼み　輕不 之由、陰陽道等 勘文�@を進ず。

参考�@勘文は、陰陽師の占い結果などの上申書。

現代語弘長三年(1263)九月大十三日庚寅。午前四時頃以後、宗尊親王将軍家が御病気です。」
今朝、一般人が我先にと山へ登って、昨夜の雷が焼いた五輪塔を見ました。突然の雷は、その政務担当の慎みは軽くはありませんと、陰陽道の連中が上申書を提出しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　ごのう　　よっ　　　はるむねごしょ　　をい　たいさんふくんさい　〔　しょど　　ごんじなり　〕　　　ごんじ
弘長三年(1263)九月大十四日辛卯。天�ﾘ。御惱に依て、�ﾘ宗御所に於て泰山府君祭�@〔初度の勤仕也〕を勤仕す。

ほしこうりん　　 こうげん けちえんなり
星降臨す。効驗 揚焉也。

参考�@泰山府君祭は、安倍晴明が創始した祭事で月ごと季節ごとに行う定期のものと、命に関わる出産、病気の安癒を願う臨時のものがあるという。「泰山府君」とは、中国の名山である五岳のひとつ東嶽泰山から名前をとった道教の神である。陰陽道では、冥府の神、人間の生死を司る神として崇拝されていた。延命長寿や消災、死んだ人間を生き帰らすこともできたという。

現代語弘長三年(1263)九月大十四日辛卯。空は晴です。将軍の病気によって、阿部晴宗が泰山府君祭〔初めて勤めます〕を勤めました。星が流れました。天へ貢献が

読下し　　　　　　　　　　　　　　　はれ　にゅうどうむつのごろうたいらのさねやす　〔ほうみょうじょうせん〕　そつ　〔ごじゅうろく〕
弘長三年(1263)九月大廿六日癸夘。�ﾘ。 入道 陸奥五郎 平　實泰�@〔 法名淨仙 〕卒〔五十六〕。

参考�@實泰は、義時の五男で金沢流北条氏の祖。

現代語弘長三年(1263)九月大二十六日癸卯。晴れです。出家して入道陸奥五郎平実泰〔出家名浄仙〕が亡くなりました〔年は五十六歳〕。

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