吾妻鏡入門第五十二巻

文永二年(1265)十月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ちくぜんのかみ じゅごいのじょう ふじわらのあそんゆきやす ほっし　　〔ほうみょうぎょうぜん〕　そつ　〔としごじゅうご〕
文永二年(1265)十月小二日丁夘。 筑前守 從五位上 藤原朝臣行泰 法師〔 法名行善 〕卒す〔年五十五〕。

現代語文永二年(1265)十月小二日丁卯。筑前守従五位上藤原朝臣二階堂行泰 法師〔 出家名行善 〕が亡くなりました〔年は五十五です〕。

解説二階堂行泰の没年記事。解説吾妻鏡に記述はないが、同日に北条時輔が官職を剥奪され、位階だけが残り散位となっている。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　ごしょ　　をい　　れんが　　おんえ　あ　　　　　みかわのあじゃりえんゆう　しゅひつ　　えき　　そうら　　　うんぬん
文永二年(1265)十月小七日壬申。天�ﾘ。御所に於て連歌の御會有り。三河阿闍梨圓勇 執筆�@の役に候うと云々。

参考�@執筆は、連歌・俳諧の会席で、宗匠の指図に従い、連衆の出す句を懐紙に記載する役。進行係の役目もする。

現代語文永二年(1265)十月小七日壬申。空は晴です。御所で連歌の会がありました。三河阿闍梨円勇が、進行係を勤めました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　また　　ごれんが　あ
文永二年(1265)十月小十四日己夘。又、御連歌有り。

現代語文永二年(1265)十月小十四日己卯。またも、連歌の会がありました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　うだいべんゆうどう　〔しんかん〕　きょうと　よ　　さんこう　　　ひょうぶだいゆうのりただあそん　またげちゃく
文永二年(1265)十月小十八日癸未。天�ﾘ。右大弁入道〔眞觀〕京都自り參向す。兵部大輔範忠朝臣又下着す。

おさん　　ぶい　　　こと　　よっ　　なり　　ただ　　ないない　ちょくせんしゅう　こと　　よっ　　　　うんぬん
御産无爲の事に依て也。但し内々に勅撰集�@の事に依て�Aと云々。

参考�@勅撰集は、続古今集(ぞくこきんしゅう)。続の字を続日本記を「しょくにほんぎ」と読む事に決めたのは江戸時代。
参考�A内々に勅撰集の事に依ては、誰のが選ばれるのかを気にしている。

現代語文永二年(1265)十月小十八日癸未。空は晴です。右大弁入道光政〔真観〕が京都からやって来ました。兵部大輔範忠さんもまた鎌倉へ着きました。これは、九月二十一日の無事な出産を祝うための使者です。但し、それは名目で、実は内密に勅撰集に載せる歌を教える為なんだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ごしょ　　をい　　ごれんが　　おんえ　あ　　　　わかみやべっとうそうじょうひゃくせん　かけもの　　あいぐ　　さんじょう
文永二年(1265)十月小十九日甲申。御所に於て御連歌の御會有り。若宮別當僧正百種�@の懸物�Aを相具し參上す。

およ　　ひごろれんれん　　め　　　　　おう　　　　うんぬん
凡そ日來連々の召しに應ず�Bと云々。

参考�@百種は、不明。
参考�A懸物は、景品を賭ける。
参考�B連々の召しに應ずは、何度も呼ばれたので出て来た。

現代語文永二年(1265)十月小十九日甲申。御所で連歌の会がありました。鶴岡八幡宮筆頭僧正隆弁が、百種類の景品を持ってきました。普段から何度も連歌の会に来るように呼ばれたので出てきたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あさあめ　うまのこくはれ　　ぞく
文永二年(1265)十月小廿五日庚寅。朝雨、午剋�ﾘに属す。

きょう　　　さいみょうじぜんしつだいさんねん　おんぶつじ　　やまのうち　をい　　これ　　しゅうさる　　　どうし　　どうりゅうｚねんじ　〔しょうじつ　じゅういちがつにじゅうににちなり〕
今日、最明寺禪室第三年�@の御佛事。山内に於て之を修被る。導師は道隆禪師�A〔正日は十一月廿二日也〕。

参考�@第三年の御佛事は、三回忌。
参考�A道隆禪師は、建長寺開山の蘭渓道隆。渡来僧。

現代語文永二年(1265)十月小二十五日庚寅。朝の内は雨だが、昼頃には晴れました。今日は、最明寺禅室時頼の三回忌の法事です。山内で式を行いました。指導僧は蘭渓道隆禅師〔本当の命日は十一月二十二日です〕。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　くめ　ごらん　　　さけいちょう　そうしゅう　いげ　〔すいかん　　き　　　くずばかま〕　ていじょう　れつざ
文永二年(1265)十月小廿六日辛夘。天�ﾘ。貢馬御覽�@。左京兆・相州以下〔水干を着て葛袴〕庭上に列座す。

いち　　おんうま　　　さけいちょう　　すす　　　　あがりうまなり　　ごうだのしろうこれ　　の
一の御馬は、左京兆の進める騰馬�A也。合田四郎�B之に騎る。

しか　　　　ひきてら　　とこう　な　　これ　　はな　　　　うまあげ　　　　　たびたび　　およ
而して引手等左右無く之を放つ。馬騰ること度々に及ぶ。

しか　　　　ごうだ　おち　　　いへど　　かさ　　これ　　の　　　　ごぜん　　う　　　めぐ　　のあいだ　　こうとうにじゅうよど　　きんねんかく　　ごと　りゅうてい　な　　　　うんぬん
而るに合田落ると雖も重ねて之に乘り、御前を打ち廻る之間、高騰廿余度。近年此の如き龍蹄无しと云々。

参考�@貢馬御覽は、税としての馬を将軍が見る。又は見た後京都朝廷へ送る。だんだん儀式化していき、室町時代へ引き継がれる。
参考�A騰馬は、前足をあげて立ち上がる癖のある暴れ馬。
参考�B合田四郎は、政村の家来。

現代語文永二年(1265)十月小二十六日辛卯。空は晴です。京都朝廷へ届ける馬を将軍が御覧になる儀式です。左京兆政村・相州北条時宗以下〔水干に葛袴〕が庭に並んで座りました。一番の馬は、左京兆政村が進上する暴れ馬です。合田四郎がこれに乗りました。そしたら手綱持ちはすぐに手を放してしまいました。馬が立ち上がる事何度にも及びました。それなのに合田は落ちましたが、何度もこれに乗って、将軍の見ている前をぐるぐる回っている間に、高立ちは二十数度です。近頃、これほどの素晴らしい強い馬はいないんだそうな。

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