吾妻鏡入門第五十二巻

文永三年(1266)三月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　くもり　こさめ　ふ　　　うまのこくらいめい　　なんぽうよ　　　きた　　わた　　　ひょうふ　　　　おお　　　　　すもも　　ごと
文永三年(1266)三月大五日戊戌。天�ﾘ、陰て小雨降る。午剋�@雷鳴。南方自り北に亘り。雹降る。大きさは李の如し。

　そ　　ご　せいてん　とりのこくまたらいめいすうこえ　　およ　　ときな　　　　せんもんのおもむき はなは　　ふかい　　うんぬん
其の後�ﾘ天。酉剋又雷鳴數聲。凡そ時无し。占文�A之 趣 甚だ不快と云々。

はるひょう　くだ　　　　　　たいへいおこ　　　　ごこくじゅくさず　　じんみん　がし　　　　　うんぬん
春雹が下れば、大兵起り、五穀熟不、人民餓死すと云々。

　　ただ　　いぬ　み　　　らいめい　　きちぶん　あ　　のよし　　ゆる　　もう　　のやからあ
但し戊己の雷鳴は吉文有る之由、宥し申す之輩有り。

参考�@午剋は、昼頃。12時を午。正に午で正午。午の前で午前。午の後で午後。
参考�A占文は、占いの結果の文書。
陰陽道は二元論で、兄と弟が干支。兄の干が子寅辰午申戌。弟の支が丑卯巳未酉亥。
陽は日、木は火を生み、火は土を生み、土は金を生み、金は水を生み、水は木を生む。の順は相正。青いライン。
陰は月、木は土から養分を取り、土は水を堰き止め、水は火を消し、火は金を溶かす、金は木を切る。の順は相剋。赤い線。

現代語文永三年(1266)三月大五日戊戌。空は晴ですが、雲って小雨が降りました。昼頃に雷が鳴って、南から北へ順に雹が降りました。大きさはスモモほどもありました。その後晴れました。午後六時頃またもや雷が何度か鳴りました。いくらも時間は有りませんでした。占い文献の内容は、相当に良くないとの事だそうな。春に雹が降ると、大きな合戰が起こり、五穀は実らず、人民は餓死するんだそうな。但し、午後八時頃と午前十一時頃の雷は良いと占い文献にあるんだと、なだめて云う人々もあるんだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　こんぎょう　もくごんのかみちかいえ　ないない　　おんし　　　な　　じょうらく
文永三年(1266)三月大六日己亥。天�ﾘ。今曉、木工權頭親家�@内々の御使と爲し上洛す。」

また　　しょにん　そろん　　こと　　ひきつけ　　　さた　　　と　　　らる　　　　もんちゅうじょなまじ　　　そちんじょう　め　　　　　　ぜひ　　　かん　　もう　　べ　　　なり
又、諸人訴論の事、引付が沙汰を止め被る。問注所憖い�Aに訴陳状�Bを召し、是非を勘じ申す可き也。

まえまえ　　もう　　ことば　　きさる　　のあいだ　　くにん　ひょうじょうしゅう　くばられ　　ため　　けちばんさる　ところなり
前々に申す詞を記被る之間、九人の評定衆�Cに賦被ん爲、結番被る所也。

ごひょうじょう　　ひび　そう　　こと　　けちばん　〔　しだい　ふどう〕
御評定の日々奏す事の結番〔次第不同〕

いちばん　〔みっか　じゅうさんにち　にじゅうさんにち〕
一番〔三日　十三日　廿三日〕

　おわりにゅうどうけんさい　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　えちぜんぜんじときひろ
　尾張入道見西(尾張入道見西(時章)番頭)　　　　越前々司時廣

　くないごんのだいゆうときひで　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いがにゅうどうどうえん
　宮内權大輔時秀(長井)　　　　　　　　　　伊賀入道々圓(小田時家)

　いずみのにゅうどうぎょうくう
　和泉入道行空(二階堂行方)

　にばん　〔むいか　じゅうろくにち　にじゅうろくにち〕
二番〔六日　十六日　廿六日〕

　えちごのかみさねとき　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　なかつかさごんのだいゆうのりとき
　越後守實時(金沢陸奥掃部助番頭)　　　　　　中務權大輔教時(名越流時章の弟)

　いずものにゅうどうどうくう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しなののほうがんにゅうどうぎょういつ
　出雲入道々空(二階堂行義)　　　　　　　　　信濃判官入道行一(二階堂行忠)

　つしｍかのぜんじともなが
　對馬前司倫長

さんばん　〔　とおか　　　はつか　　　みそか　〕
三番〔十日　廿日　晦日〕

　あいだのじょうすけやすもり　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぬいどののとうもろつら
　秋田城介泰盛(安達番頭)　　　　　　　　　　縫殿頭師連

　しょうきょうにゅうどうしんれん　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いせのにゅうどうぎょうがん
　少卿入道心蓮(太宰小弐)　　　　　　　　　　伊勢入道行願(行綱)

にっさん　　　　　ひび
日參する日々

いちばんしゅう　〔ついたち　　じゅうごにち〕　　　　　　　　　　　にばんしゅう　〔いつか　　　にじゅういちにち〕
一番衆〔一日　十五日〕　　　　　　　　二番衆〔五日　廿一日〕

さんばんしゅう　〔じゅういちにち　　にじゅうごにち〕
三番衆〔十一日　廿五日〕

　まんどころ　もんちゅうじょおよ　　しつじ　　まいにちまい　　せし　　べ　　　なり　　かつう　もんちゅうじょよ　　　　まいにち　ぶんしふたり　　　さ　　　しん　　べ　　　なり
　政所�D、問注所及び執事、毎日參り令む可き也。且は問注所自り、毎日文士二人を差し進ず可き也。

参考�@木工權頭親家は、宗尊親王(父は後嵯峨上皇)と共に京都から来た。
参考�A憖いは、しなくても良い事をわざわざすること。問注所がわざわざ直接訴陳状を受け取り、判決文を作成することになった。
参考�B訴陳状は、原告の訴えと被告の陳弁。
参考�C九人の評定衆とあるが、下段の名簿も鎌倉幕府評定衆伝では十四人になっている。五人は同席していたのか？
参考�D政所別当は北条政村。

現代語文永三年(1266)三月大六日己亥。空は晴です。今朝の夜明頃に、木工権頭中原親家の内々の使いとして京都へ上りました。」
また、御家人の訴訟問題について、受付事務の引付衆の裁断を止めさせました。裁判担当の問注所がわざわざ直接訴訟文や弁明の陳状書を受け取り、判決文を作成することになりました。
以前から将軍が云っていたことを書き置いてあるので、九人の政務担当者に配り担当させるために、順番を決めたのです。
政務会議結果を将軍に報告し計らいを受ける順番〔順不同〕
一番〔三日、十三日、二十三日〕
　尾張入道見西（時章で番かしら）　越前々司北条時広　宮内権大輔長井時秀　伊賀入道道円小田時家　和泉入道行空二階堂行方
二番〔六日、十六日、二十六日〕
　越後守金沢流北条実時　中務大輔名越流北条教時　出雲入道道空二階堂行義　信濃判官入道行一二階堂行忠　対馬前司矢野倫長
三番〔十日、二十日、晦日〕
　秋田城介安達泰盛　縫殿頭中原師連　少卿入道心太宰少弐武景頼　伊勢入道行願二階堂行綱
そのほかの出勤日
一番の人々〔一日、十五日〕　二番の人々〔五日、二十一日〕　三番の人々〔十一日、十五日〕
政務事務所筆頭、裁判所の筆頭執事は、毎日出勤する事にする。また裁判所から毎日書記二人を出勤させるようにすること。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　だんじょうしょうひつなりときあそん　　しつ　〔さけいちょうひめぎみ〕　なんし　ごへいさん　うんぬん
文永三年(1266)三月大十一日甲辰。天�ﾘ。彈正少弼業時朝臣�@が室〔左京兆姫君�A〕男子御平産と云々。

参考�@彈正少弼業時朝臣は、極楽寺流北条氏。
参考�A左京兆姫君は、北条政村の娘。

現代語文永三年(1266)三月大十一日甲辰。空は晴です。弾正少弼極楽寺流北条業時さんの奥さん〔左京兆政村の娘〕が男の子を安産しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　くれ　　あめ　ふ　　　　　きょう　　ひめみやおんごじゅうにちひゃくにち　のぎ　なり
文永三年(1266)三月大十三日丙午。天�ﾘ。暮に雨下る。今日、姫宮�@御五十日百日之儀也。」

また　　しょにん　そろん　　こと　　つ　　　　　さだ　　らる　　の　へんもくら　あ　　　いはゆる
又、諸人訴論の事に就き、定め被る之篇目等有り。所謂、

ひとつ　ごひょうじょう　　ひび　　とうさん　　そう　　　　こと
一　御評定の日々の當參を奏する事�A

　　けんじつ　みょうもくを　　かげゆほうがん　　　ふ　さる　　べ
　兼日に名目於勘解由判官�Bに付被る可き。

ひとつ　ことがき　　こと
一　事書�Cの事

　　ごひょうじょう　ののち　　しゅひつ　のじん　　そうあん　　ことがき　　すす　　せし　　ば　　　いっけん　　くは　　られ　　　りち　　　そうい　な　　　　ば　　つしまのぜんじ　　ふ　さる　　べ　　なり
　御評定之後、執筆之仁、草案の事書を進め令め者、一見を加へ被、理致に相違无くん者、對馬前司�Dに付被る可き也。

参考�@姫宮は、文永二年九月二十一日生まれ。掄子女王(りんしおおきみ)。
参考�A御評定の日々の當參を奏する事は、評定への出勤を申し出る事。
参考�B勘解由判官は、太田康有。
参考�C事書は、「事を書く」が後には法律になって行く。
参考�D對馬前司は、問注所長官の三善矢野倫長。

現代語文永三年(1266)三月大十三日丙午。空は晴です。夕暮れになって雨が降りました。今日は、姫宮の百五十日のお祝いです。」
また、御家人の訴訟問題について、決め置かれられている規則があります。それは
一　政務会議の評定への出勤を申し出ること。
　　　あらかじめ名前を題名を勘解由判官太田康有に提出しておくこと
一　事変を書く
　　　政務会議の後、書記の人は案分を書きあげたら、必ず見直して、理屈に問題が無ければ、対馬前司矢野倫長に渡して置く。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　さがみさこんのたいふしょうげんむねまさ　　　かむ　こと　　むぎょう　　うんぬん
文永三年(1266)三月大廿七日庚申。天�ﾘ。相摸左近大夫將監宗政�@、家務殊に无行�Aと云々。

参考�@宗政は、北条時宗の弟。家は浄智寺の場所と思われる。
参考�A家務殊に无行は、家の事をきちんとしていないと、うわさが飛んだ。

現代語文永三年(1266)三月大二十七日庚申。空は晴です。相模左近大夫将監宗政は、家の事をきちんとしていないんだとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ほうゆう　にし　　　おお　　　　　　たかがり　　きんあつさる　　べ　　　　のむね　　ひごろ　そ　　　さた　あ
文永三年(1266)三月大廿八日辛酉。放遊之士に仰せて、鷹狩を禁遏被る可き之旨、日來其の沙汰有り。

しょこく　しゅごにん　に　せぎょうさる　ところなり　　そ　　　じょう　い
諸國守護人于施行被る所也。其の状に云はく。

　　　　　　　たかがり　　こと
　　　鷹狩の事

　　みぎ　　　くさい　のほか　　きんせいさき　をはんぬ　よっ　　くさい　に　そな　　　　　いへど　　　　そ　　　しゃりょう　あらずん　　たと　　そ　　　しゃりょう　な　　　　いへど
　右、供祭之外、禁制先に畢。仍て供祭于備へると雖も、其の社領に非ば、縱い其の社領を爲すと雖も、

　そ　しゃかん　あらずんば　いっさいかり　　つか　　べからず　のよし　　そ　　　くにじゅう　あいふ　　　せし　　べ
其の社官に非者、一切狩に仕う不可之由、其の國中に相觸れ令む可し。

　も　　いはんのたから　あ　　ば　　　たしか　きょうみょう　ちゅう　もう　　べ　　　のじょう　　おお　　　　よっ　　しったつくだん　ごと
若し違犯之輩有れ者、慥に交名を注し申す可き之状、仰せに依て執達件の如し。

　　　　　ぶんえいさんねんさんがつにじゅはちにち　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さがみのかみ
　　文永三年三月廿八日　　　　　　　　　　　　　　　　　　相摸守

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さきょうごんのだいぶ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　左京權大夫

　　　　　　　ぼうどの　　　〔しゅごにん　　うんぬん〕
　　　某殿　〔守護人と云々〕

現代語文永三年(1266)三月大二十八日辛酉、狩を趣味している勇士に命令して、鷹狩の禁止を厳しくするようにと、従来からその命令がありました。諸国の守護人にお触れを出させたところです。その文章に云うには、
　　　鷹狩について
　右は、神様に供える獲物以外は、禁止を先に決めております。だから神様に供える獲物であっても、その神社の獲物用の領地でなければ当然禁止だが、たとえ神社の獲物用の領地であっても、その神社の神主でなければ、一切狩りに仕えさせてはいけないと、国中にお触れを出しなさい。もし、違反する連中が居たら、しっかりと名前を書き出して鎌倉へ提出しなさい。と言う書面は、将軍の命令によって書き出したのはこのとおりです。
　　文永三年三月二十八日　　　　　　　　　　　　　　　　　　相模守北条時宗
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　左京権大夫政村
　　どなたさんへも〔守護人だそうな〕

解説供祭社領は、神様に供える獲物を取る領地。獲物領地であっても神主以外は鷹狩禁止。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　こ　　あいだ　　ぎょうぶきょうむねのりあそん　けまり　　こと　　つ　　　　　いっかん　　かんじょう　つく
文永三年(1266)三月大廿九日壬戌。天�ﾘ。此の間、刑部卿宗教朝臣�@蹴鞠の事に就き、一巻の勘状を作る。

しょうぐんけみつみつ　　めしいだされこれ　　み
將軍家密々に�A召出被之を覽る。

これ　　さんぬ　ぶんおうにねんしょうがつとおかおんまりはじめのひ　　じょうしきていい　でわ　ゆきあり　　こうづけひろつな　　あしかがいえうじら　そ　　にわ　　なら
是、去る文應二年正月十日御鞠始之日、當職廷尉出羽行有・上野廣綱・足利家氏等其の庭に列ぶ。

ひろつな　いえうじしょうくくりのあいだ　こ　　あそん　とうじつしき　　　　かたぶ　もう　　のところ　　おな　　　はちがつじゅうくにちしゅん　おんまり　　ひろつなかさ　　　　これ　　あ
廣綱・家氏上括之間、此の朝臣當日頻りに傾け申す�B之處、同じき八月十九日旬の御鞠、廣綱重ねて之を上ぐ。

しか　　　　ねんじょ　　へ　　　の　をは　　　　　　そ　　さんやから　のきっきょう　　み　　　　　か　　　すうだい　のれいしょう　くら　　　ことさら　これ　　そう　　　　うんぬん
而して年序を經る之訖りに、其の三輩之吉凶を見るに彼の數代之例證を比べ、故に之を草すと云々。

じょうに　の　　　のおもむきは　　　ほうきゅうせんとうのあいだ　　りんこう　　　ぐぶ　　　　　　のおみ　　い　　　けまり　　さんこう　　　　のやから　　い　　せんれいのときしょうくくりのぎなし
状于載せる之趣者、蓬宮仙洞之間、臨幸に供奉する之臣と云ひ蹴鞠に參候する之輩と云ひ、專礼之時上括之儀无。

じゅんなてんのう　　おんうてんちょうがんねん　　はじ　　　　しちょう　　おかれ　　　いこう　　ていいたれば　　てんし　　しょうか　　ここのえのかいろくそうどう　　ごくｈさじゅんけんら　　　ひ
淳和天皇の御宇天長元年、始めて使廳を置被る以降、廷尉爲者、天子の昇霞�C、九重之廻祿�D騒動、獄舎巡見等の日、

　そこつ　のぎ　たる　　よっ　　これ　　あ　　　　　このほかのとき　しょうくくりのやから　せんきおお　　もっ　　きちじ　　あらず
楚忽之儀爲に依て之を上ぐ。此外之時、上括之輩先規多く以て吉事に非。

いはゆる　　ごしらかわほうおう　　おんときあんげんじしょう　のころ　　やすより　　のぶふさこれ　　あ　　　　　なりちかきょうのむほんに　どうい　　　　とも　　はいる　　　　しゅっけ
所謂、後白河法皇の御時安元治承之比、康頼�E・信房之を上ぐ。成親卿之謀叛�F于同意し、共に配流され出家す。

じゅえいげんりゃくのころ　　ともやす　　みつつねこれ　　あ　　　　みつつねは　　　きそがっせん　　をい　　そ　　　ば　　　いのち　うしな　　　ともやすは　　　つい　　こと　　ざ　　　しゅっけ
壽永元暦之比、知康�G・光經�H之を上ぐ。光經者、木曾合戰に於て其の塲で命を失う。知康者、遂に事に坐し出家す。

じゅんとくいん　おんときじょうきゅうのころ　やすみつ　　むななかこれ　　あ
順徳院の御時承久之比、康光・宗仲之を上ぐ。

おな　　　　にねん　　ごとばほうおう　　くまのさん　りんこう　のとき　　みつｔぽしあそん　〔ときにゆきえのすけ〕　これ　　あ
同じき二年後鳥羽法皇熊野山臨幸之時、光俊朝臣〔時于靭負佐�I〕之を上ぐ。

おな　　　　さんねんらくちゅうこうめつ　　　か　　　あそんなら　　　　やすみつ　　むねなから　はた　　　　しゅっけとんせい
同じき三年洛中洪滅し、彼の朝臣并びに康光・宗仲等果して出家遁世す。

　ごほりかわいん　　おんとき　　しげもち　　ゆきつなこれ　　あ　　　　　てんぷくがんねんそうへきもんいんおんことあ　　　　おな　　　　にねん　　こやさん　　とざ　　　　ほうぎょ
後堀河院の御時、繁茂・行綱之を上ぐ。天福元年藻壁門院�J御事有り。同じき二年姑射山を鎖して崩御す。

しじょういん　　おんう　　かていのころ　　みつなりこれ　　あ　　　　ほどな　　　しゅっけそうせい　　　　おな　　　　にんじのころ　　　ゆきちか　　ゆきもりこれ　　あ　　　　　しそん　あんが
四條院の御宇嘉禎之比、光業之を上ぐ。程无く出家早世す。同じく仁治之比、行親・行盛之を上ぐ。至尊�K晏駕�L。

　そ　　ご　　　ゆきもり　じゅんごう　　こと　　よっ　　しゅっけ　　　　とうだい　　ともちかこれ　　あ　　　　ときに　ほうじのこよみ　　かぜん　ここうさかいよりおこ　　　　うんぬん
其の後、行盛は准后�Mの事に依て出家す。當代、知親之を上ぐ。時于寳治之暦、果然�N胡寇�O境從起ると云々。

参考�@刑部卿宗教朝臣は、難波宗教。京都で一番の鞠の名人。建長四年(1252)四月蹴鞠の先生として京都から来た。
参考�A密々には、非公式に。
参考�B傾け申すは、いちゃもんをつける。
参考�C天子の昇霞は、天皇が死ぬ。
参考�D九重之廻祿は、内裏の火事。
参考�E康頼は、平康頼で後白河法皇の近臣。
参考�F成親卿之謀叛は、鹿ケ谷事件。
参考�G知康は、鼓判官平知康。後白河法皇に仕え、法住寺合戦で解官され、義経に仕えるが又も解官され、頼家の蹴鞠の師匠になるが頼家の失脚で京都へ帰る。
参考�H光經は、源光経。美濃源氏土岐氏の棟梁であった父と共に在京し、検非違使・左衛門尉を務めたとされる(尊卑分脈)が、寿永2年(1184)の法住寺合戦で父が後白河院方に加わったため光経もこれに従い、死闘の末に父と共に討ち取られ梟首された。(ウイキペディアから)
参考�I靭負佐は、弓を担ぐ役。
参考�J藻壁門院は、四代将軍頼経の姉。死産で死亡。
参考�K至尊は、この上なく尊い＝天皇。
参考�L晏駕は、遅いお出まし＝天子の死。
参考�M准后は、北条政子。
参考�N果然は、予想通りの結果。
参考�O胡寇は、宝治元年蒙古が高麗を征討した。

現代語文永三年(1266)三月大二十九日壬戌。空は晴です。近頃、刑部卿難波宗教さんが蹴鞠の作法について、一巻の上申書を作りました。宗尊親王将軍家は、非公式に呼び出されました。
これは、去る文応二年(1261)正月十日の蹴鞠始めの日に、出羽大夫判官二階堂行有、上野大夫判官結城広綱、大夫判官足利家氏等が、蹴鞠の庭に並びました。結城広綱、足利家氏は袴は膝下括り(上括り)にしていたので、刑部卿難波流宗教がいちゃもんを着けたところ、同じ八月十九日の旬の蹴鞠の際に、結城広綱はまたも袴は(飛鳥井流の)膝下括り(上括り)に裾を上げていました。
その後月日が流れてみると、その三人の運命を考えると、彼らの数代の結果を比べてみて、わざわざこれを文書にしたんだとさ。
文章に書いてある主旨は、天皇(蓬莱宮)や上皇(仙洞)のお出かけの時に、お供をする臣下と云い、蹴鞠をするときの人々と云い、礼を尽くす時は膝下括り(上括り)にする説はありません。
淳和天皇の時代の天長元年(824)に、初めて検非違使の庁を設置してから以降、検非違使であれば天皇の葬式や、内裏の火事などの騒ぎの時に、刑務所を調べる日には、急な事なので裾を上げます。これ以外の時に膝下括り(上括り)にした連中の多くの例は、良い事例ではありません。
それは、後白河法皇の時代の安元治承(1175-1180)の頃に、平康頼や藤原信房が裾を上げていました。藤原成親の鹿ケ谷事件に同意して二人とも貴賀井島(現薩摩硫黄島)へ流されて出家させられました。
寿永元暦(1182-1184)の時代に、鼓判官平知康と源光経が裾を上げていました。源光経は木曾義仲の法住寺合戦で命を取られました。平知康は望みかなわず出家をした。
順徳院の時代の承久元年(1219)の頃に。左衛門大夫源康光と宗仲が裾を上げていました。同じ承久二年(1220)後鳥羽法皇の熊野詣の際に、右少弁葉室光俊さん〔彼は弓を担ぐ役でした〕が裾を上げていました。同じ承久三年(1221)承久の乱で破滅し、光俊さんそれに康光、宗仲達はなんと出家し引退しました。
後堀川院の時代に、繁茂と行綱が裾を上げていました。天福元年(1233)藻壁門院が亡くなり、同じ天福二年(1234.8.6)院が亡くなりました。
四条院の時代の嘉禎(1235-1238)に光業が裾を上げていました。まもなく出家して早死にしました。同じ仁治(1240-1243)に、金窪兵衛尉行親、二階堂行盛が裾を上げていました。仁治(1242.2.10)に四条院が亡くなりました。それと、二階堂行盛は政子の死によって出家をしました。
最近、知親が裾を上げていました。なんと宝治の時代に予想通り蒙古の高麗への征討が起きたんだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　ごしょ　　をい　　とうざ　　　わか　　　おんえ　あ　　　　　にじょうさひょうのかみのりさだ　くないきょうにゅうどうぜんえ
文永三年(1266)三月大卅日癸亥。天�ﾘ。御所に於て當座の�@和哥の御會有り。二條左兵衛督教定・宮内卿入道禪惠・

とうとうみぜんじときなお　　えちぜんぜんじときひろ　　うまのすけきよとき　　うまのすけときのり　　すおうのほうがんただかげ　　わかみやだいそうじょうら　さんこう
遠江前司時直・越前々司時廣・右馬助�C時・右馬助時範・周防判官忠景・若宮大僧正等參候す。

そうじょうふりゅういっきゃく　〔ひゃくしゅ　ほうらい　　もっ　　じゅっかい　うた　　そ　　　　うんぬん　〕　けん　　らる
僧正風流�A一脚〔百種の蓬莱を以て述懷の哥に副へると云々〕献ぜ被る。

参考�@當座のは、臨時の。偶然に始まった。
参考�A風流は、飾りたてた風景などの作り物。これから出た物の一つ二盆栽がある。

現代語文永三年(1266)三月大三十日癸亥。空は晴です。御所で集まった人々と臨時の和歌の会がありました。二条左兵衛督教定、宮内卿入道禅恵、遠江前司北条時直、越前々司北条時広、遠江右馬助大仏流北条清時、右馬助時範、周防判官島津忠景、若宮大僧正隆弁が参加しました。僧正は飾り立てた風景などの飾り物風流一机〔百種類の蓬莱の景色を昔の和歌になぞらえました〕を献上しました。

考察若宮大僧正隆弁の風流の献上があったから和歌の会をしたのか？予め隆弁とは打ち合わせがあったのか？

四月へ

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