吾妻鏡入門第五十二巻

文永三年(1266)四月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　しょうぐんけおんんこがさ　あ　　　　くすし　ら　さんじょう　　　おんりょうち　　ことおよ　　そ　　　　さた　　　うんぬん
文永三年(1266)四月小五日戊辰。天�ﾘ。將軍家御小瘡�@有り。醫師�A等參上し、御療治の事�B及び其の沙汰と云々。

参考�@瘡は、できもの。
参考�A醫師は、光明皇后が作った施薬院に所属。長は施薬院使(やくいんのかみ)。
参考�B療治の事は、治療方法だが、おそらく蛭噛と言って、蛭に噛ませて悪い血を抜く方法と思われる。

現代語文永三年(1266)四月小五日戊辰。宗尊親王将軍家には小さな出来物があります。医者がやって来て、治療方法についてその説明と治療をしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あさあめふ　　　　　くも　　　　なんぷうはげ
文永三年(1266)四月小七日庚午。朝雨下る。陰り。南風烈し。

しょうぐんけおんかしょくのあいだ　　ひるかみ　あ　　べ　　　のよし　　やくいんのかみただしげあそん　これ　　　もう　　おこな
將軍家御蚊觸之間、蛭吃有る可し之由、施藥院使忠茂朝臣之を申し行う。

しか　　　　　みしましゃ　　　しんじ　　　よっ　　　　はばか　　　いな　おんみょうどう　　とはる
而るに三島社の神事に依て、憚るや否や陰陽道に問被る。

　ごさんじゃ　のぎ　な　　　　　　　　　なん　　はばか　あ　　　べ　　　や　　のよし　　これ　　もう
御參社之儀无くんば、何ぞ憚り有る可き哉之由、之を申す。

またしゃじ　　　たず　　らる　　のところ　　おな　　　　はばか　な　　　　のよし　　もう　　　　よっ　　こ　　　ごりょう　あ　　　　うんぬん
又社司に尋ね被る之處、同じく憚り无き之由を申す。仍て此の御療有りと云々。

参考蚊觸は、瘡、癰（はれもの）。

現代語文永三年(1266)四月小七日庚午。朝のうち雨。曇り。南風が激しい。宗尊親王将軍家は腫れ物あるので、蛭に噛ませて悪い血を取りましょうと、お医者様の丹波忠茂さんが申しあげて実行しました。しかしながら三島神社の神事があるので、遠慮すべきかどうか陰陽師に問い合わせました。本人のお参りが無ければ、何も控える必要はありませんと、申しあげました。また神官にお尋ねになられた所、同様に遠慮する事は無いと申しました。それでこの治療がありましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　さきのさひょうえのかみしょうさんみふじわらのあそんのりさだそつ　　ひごろ　かさ　　わずら　ところなり
文永三年(1266)四月小八日辛未。天�ﾘ。前左兵衛督正三位藤原朝臣教定卒。日來瘡を煩う所也。

現代語文永三年(1266)四月小八日辛未。空は晴です。前左兵衛督正三位藤原教定さんが亡くなりました。普段から出来物を患っていたのです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ながとのくにいちのみや　じんにん　ら　　せちがい　　いた　　　よせさた　　のよし　　こと
文永三年(1266)四月小十五日戊寅。長門國一宮�@の神人�A等、殺害を致し寄沙汰�B之由の事、

しゅごにん　すけひら　しさい　　ちゅう　もう　　　　つ　　　　　そ　　　さた　あ
守護人資平�C子細を注し申すに就き、其の沙汰有り。

なら　　　　ろうぜき　　ことぶぎょうせし　　べ　　　　のよし　　すけひらこれ　　もう　　　いへど　　　　しゅご　　　さた　　　こと　　　　しきむく　　さだ　　られをはんぬ
并びに狼藉の事奉行令む可き�D之由、資平之を申すと雖も、守護の沙汰の事は、式目に定め被畢。

しか　　　　しゅご　のみ　　　な　　　　くに　　　　けびいし　　　ぶ　　　　のじょう　　しか　　べからず　　うんぬん
而るに守護之身と爲し�E、國の檢非違使に補さる之條�F、然る不可と云々。

参考�@長門國一宮は、山口県下関市一の宮住吉の住吉神社。一の宮等の神主任命を含め京都朝廷が管轄していた。地頭不入。
参考�A神人は、神社の武装従者。寺だと僧兵。
参考�B寄沙汰は、権力者の権威や名前を借りる事。
参考�C守護人資平は、守護二階堂行忠の代官の小早川資平で、土肥次郎實平の子孫。後の守護代に変化する。
参考�D狼藉の事奉行令む可きは、治安維持の警察権限を持って拡大したい。
参考�E守護之身と爲しは、鎌倉から任命されている守護が。
参考�F國の檢非違使に補さる之條は、国(京都朝廷)に任命される檢非違使の権限を持ってはいけない。
説明国(京都朝廷)からは、国司・預所・検非違使が任命され、鎌倉幕府からは守護・地頭・治安維持無しが任命される。

現代語文永三年(1266)四月小十五日戊寅。長門国一宮の住吉神社の武装従者等が、殺人をお越し、権力者の権威を借りる事について、守護人の土肥資平が文書を提出してきたので、その事について検討がありました。それと、治安維持の警察権限を持ちたい(検非違使になりたい)と、土肥資平が云って来ているけど、守護の職務範囲は貞永式目に決められています。それなのに、守護の身分で、朝廷の検非違使に任命されることは、ダメだとの事だとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　　とこうにん　ら　すうじゅうにん ひきがやつやまのふもとに ぐんしゅう　　　ひつじょのこくよ　　とりのこく　　いた
文永三年(1266)四月小廿一日甲申。霽。甲乙人�@等數十人 比企谷山之麓于 群集し、未剋自り酉剋に至り、

むか　　　つぶて　と　　　　　　　　　じご　　ぶぐ　　　お　　じょうとう　　おこ
向いて礫を飛ばす�A。爾後武具を帶び諍鬪�Bを起す。

よまわりら　　そ　　ところ　　はせむか　　　ちょうほん　いちりょうやから　　いけど　　　これ　　きんろう　さる
夜廻�C等其の所へ馳向い。張本の一兩輩を生虜り、之を禁籠�D被る。

のこ　ところことごと　もっ　　とうぼう　　　　かんとう　　いま　　　こ　　　ことあ
殘る所悉く以て逃亡す。關東で未だ此の事有らず。

きょうと　　つぶて　なおもっ　　ろうぜきのもといたり　　かた　　きんあつ　　くは　　　　べ　　　のよし　さきのぶしゅうぜんしつしっけん　のとき
京都の飛礫猶以て狼藉之基爲、固く禁遏を加へる可き之由、前武州禪室執權之時、

　そ　　　さた　　　　ろくはら　　　おお　らえをはんぬ　　いはん　かまくらじゅう　をい　　をや　　あやし　べ　　　　うんぬん
其の沙汰を六波羅へ仰せ被畢。　况や鎌倉中に於て哉。奇む可し�Eと云々。

参考�@甲乙人は、元々はとやかく言う人。権力者に文句をつける人。
参考�A向いて礫を飛ばすは、石を投げ合う。礫合戦と言って、京都では悪霊退散のために二手に分かれ石を投げ合う。発矢石だと合戦。
参考�B諍鬪は、喧嘩騒乱。
参考�C夜廻は、不明。夜警団カ？
参考�D禁篭は、牢屋に入れる(初見)。
参考�E奇む可しは、京都から鎌倉へ挑発者が入り込んでるのでは。

現代語文永三年(1266)四月小二十一日甲申。晴れました。権力者に不満を持っている連中が、比企谷山の麓に寄り集まって、午後二時頃から六時頃まで、向かい合って石(礫)を投げ合いました。その後に武器を持ち出して喧嘩騒乱を起こしました。夜警団がその場所へ走って行って、首謀者を一人・二人逮捕してこれを牢獄へ閉じ込めました。残った連中は全て逃げてしまいました。関東では今までこのような礫合戰はあった事がありません。京都での礫合戦は騒乱の元となるため、固く禁止をするように、前武州禅室泰時が執権の時に、その命令を六波羅探題に命じておりました。それなのに、鎌倉で起こるなんて。挑発者が京都から入り込んでいるのだろうか？

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　しょうぐんけ　ごのう　　こと　　よっ　　　　まつどのそうじょう　もっ　　　げしゃ　　な
文永三年(1266)四月小廿二日乙酉。天�ﾘ。將軍家御惱の事に依て、松殿僧正を以て驗者と爲し、

　ごしん　あ　　べ　　　のよし　　　ごさた　　　およ　　　　うんぬん
護身有る可し之由、御沙汰に及ぶと云々。

現代語文永三年(1266)四月小二十二日乙酉。空は晴です。宗尊親王将軍家の病気について、松殿僧正を指名して加持祈祷者として将軍の体を守るようにと、お決めになられましたとさ。

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