吾妻鏡入門第五十二巻

文永三年(1266)六月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　きすくよう たる　　よっ　　　ごしゅほう　けちがん　 うんぬん　 ごのう いささ　ごへいゆ　　うんぬん
文永三年(1266)六月小一日壬戌。天晴。鬼宿曜�@爲に依て、御修法結願と云云。御悩聊か御平驗と云云。

　あじゃり　けんじつ　もうしじょう　ふごう　　　　　のよし　　くちずさみ　およ　　　　うんぬん
阿闍梨兼日の申状、符合する之由、口遊�Aに及ぶと云云。

参考�@鬼宿は、南方を守る霊獣朱雀の目にあたる。
参考�A口遊は、くちずさみ。詩や歌なのを、心に思い浮かぶままに軽く声に出す事。

現代語文永三年(1266)六月小一日壬戌。空は晴です。南方を守る霊獣朱雀の目にあたる鬼宿曜なので、五大明王の加持祈祷の修業の最終日に当たるんだとさ。病気はいくらか快方に向かっているんだとさ。大阿闍梨松殿僧正が予言にぴったり合っていると、思い浮かぶままに声に出て来たんだとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　もくごんのかみちかいえ　　きょうと よ　　　きさん　　　　せんとう　よ　　　　ないない　　ごふうかんら　あ　　　　　うんぬん
文永三年(1266)六月小五日丙寅。天晴。木工權頭親家、京都自り歸參す。仙洞自り、内々に御諷諫等有り�@と云云。

なかごしょ　　おんこと　　うんぬん
中御所�Aの御事と云云。

参考�@御諷諫等有りは、「新抄(外記日記)」に関東將軍御休憩所　日來□□□殿僧正良基露顕とある。
参考�A中御所は、宰子。

現代語文永三年(1266)六月小五日丙寅。空は晴です。木工権頭中原親家が、京都から帰って来ました。後嵯峨院から内々に注意などがありましたとさ。中御所宰子に注意するようにとの事だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　こんぎょう　すわのさぶろうさえもんにゅうどう　ひきゃく　　　　　 じょうらく　　　　うんぬん
文永三年(1266)六月小十九日庚辰。天晴。今暁、諏訪三郎左衛門入道飛脚として上洛すと云々。

現代語文永三年(1266)六月小十九日庚辰。空は晴です。今朝の夜明に諏訪三郎左衛門入道盛経が伝令として京都へ上りましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　そうしゅう　おんてい　　をい　　しんぴ　　　おんさた　　あ
文永三年(1266)六月小廿日辛巳。天晴。相州�@の御亭に於て深秘の御沙汰有り。

そうしゅう　さけいちょう　えちごのかみさねとき　　あいだのじょうすけやすもり かいごう　　　　こ　　ほか　　ひとびと　　さんか　　　およばず　　うんぬん
相州・左京兆�A・越後守實時・　秋田城介泰盛　會合す。此の外の人々、參加に及不と云云。

きょう　　　まつどのそうじょうりょうき　　ごしょちゅう　 たいしゅつ ちくでん　　　　しさい　あ　　　　　うんぬん
　今日、松殿僧正良基、御所中を退出し逐電す。子細有りと云云。

参考�@相州は、時宗。
参考�A左京兆は、北條政村。北条時宗・政村・実時・泰盛が寄合衆となる。

現代語文永三年(1266)六月小二十日辛巳。空は晴です。相州北条時宗の屋敷(明月院or小町)で内緒の会議がありました。北条時宗、左京兆政村、越後守金沢実時、秋田城介安達泰盛が話し合いました。この他の人々は誰も参加させませんでしたとさ。
今日、松殿僧正良基が、御所から出て行って姿をくらましました。何かわけがあるんだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　とりのこく　みやすんどころなら　　　ひめみや　にわか　もっ　　やまうちどの　　にゅうぎょ　　　わかみや　　そうしゅう　てい　　にゅうぎょ
文永三年(1266)六月小廿三日甲申。酉尅、御息所 并びに姫宮�@、俄に以て山内殿�Aに入御す。若宮�Bは相州の亭�Cに入御す。

よっ　ひとびとおお　　もっ　　か　　ところ　　は　　 さん　　　およ　かまくらじゅうそうどう　　　そ　　　ゆえ　　しらざる　　うんぬん
仍て人々多く以て彼の所へ馳せ參ず。凡そ鎌倉中騒動す。其の故を不知と云云。

参考�@姫宮は、倫子。
参考�A山内殿は、時頼の最明寺跡地で明月院の近所と思われる。
参考�B若宮は、惟康。
参考�C相州の亭は、得宗家の小町亭。もしくは執権邸。但し七月に執権邸の単語が出て来るので、小町亭と思われる。

現代語文永三年(1266)六月小二十三日甲申。午後六時頃、将軍の奥さんと娘の姫宮倫子が突然に北条時宗の山内屋敷(現明月院近所)にお入りになりました。息子の若宮惟康王は相州北条時宗の小町邸(現宝戒寺)にお入りになりました。それを聞きつけて大勢が小町邸へ駆けつけましたので、鎌倉中が大騒動です。但し理由は分からないのだとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 ねのこくおおじしん　　 きょう　さだいじんほういんげんえ　　とんせい　　　あと　　くら　　　　　　うんぬん
文永三年(1266)六月小廿四日乙酉。霽。子剋大地震。今日左大臣法印嚴慧�@、遁世して跡を晦うすと云云。

参考�@左大臣法印嚴慧は、兼実の曾孫。

現代語文永三年(1266)六月小二十四日乙酉。晴れました。夜中の零時頃に大地震です。今日、左大臣法印厳恵が、家出をして行方不明になりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　 きんごく　　　ごけにん　　はち　　ごと　 きそ　 あつ　　　　　　おく　　あま　　ちまた　み　　　　　うんぬん
文永三年(1266)六月小廿六日丁亥。天晴。近國の御家人、蜂の如く競ひ集まり、屋に余り巷に滿つと云云。

現代語文永三年(1266)六月小二十六日丁亥。空は晴です。関東近辺の御家人達が、蜂が群れるように我先にと集まって来たので、家屋に入り切れず路上にあふれているんだとさ。

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