歴散加藤塾　第二十四回　鎌倉史跡廻り

　　　　鎌倉へ新緑を見に行く

常楽寺と六国見山

平成十六年五月十六日

目次

一　鎌倉中の道　　　二　離山地蔵　　　　三　常楽寺　　　　　四　姫宮　　　　　　五　木曽塚　　　　　六　鎌倉古道

七　六国見山　　　　八　稚児塚　　　　　九　明月院　　　　　十　鉢ノ木　　　　　十一　�ﾘ明碑　　　　　十二　亀谷坂切通し

十三　岩船地蔵　　　十四　相馬次郎師常墓　　　　十五　浄光明寺　　　　　十六　泉ノ井

　鎌倉は、歴史の町です。色々と歩いてみると其処此処に皆歴史を持っています。

　何処の町でも、歴史の無い町は有りませんが、今から八百年も前に日本で初めての武家政権の町だけに、関東武士の歴史が詰っています。

　今回は、大船駅から今も多少面影の残っている鎌倉「中の道」を歩いて離山地蔵、泰時の墓のある常楽寺、大姫の許婚、伝木曽清水冠者義高の墓、本大船村から切通しを通って六国見山で遥かな国々を望見し、北條時頼の墓のある明月院、浄光明寺を訪ねて鎌倉駅に出ましょう。

　大船駅の橋上駅舎の改札口を出たら、東へ階段を降り、駅前の信号を渡りそのまま真っすぐに歩いて行くと左手に大きなパラボラアンテナが屋上に見える予備校の処で、左右に車一台が通れる程度の道が有ります。

これが鎌倉「中の道」です。

一　鎌倉「中の道」

鎌倉時代には、上の道、中の道、下の道の三本が鎌倉から關東武士達の本拠とを結んでおりました。

中の道は、鎌倉幕府から八幡宮前、子袋谷切通又は 亀坂谷切通 を通り抜け、円覚寺前から水堰橋で上の道と別れ北行して離山地蔵からこの場所に来ます。

この後は、一部道が消えてはいますが、ほぼ旧戸塚区と港南区の境の峰を進み、上永谷の日限地蔵から秋葉、 名瀬、川上団地、戸塚カントリー内、二俣川の大池公園、左近山団地際、鶴ケ峰旭区役所裏を通り、今宿東町、白根不動、緑区中山、川崎市宮前平、溝ノ口、多摩川を渡り世田谷に行きます。

文治五年の奥州征闘の際、頼朝が本隊を率ゐて奥州へ向ったのが、この道です。

又、北條時政が 畠山重忠 を謀叛人に仕立てあげ、討ち取るため北條義時が大軍を率ゐて二俣川へ向ったのも、畠山次郎重忠の首を持って鎌倉へ凱旋したのもこの道です。

　中の道を右へ南行しますと、左側の家並みが若干高くなっています。

二　離山地蔵

此処は、長山と呼ばれる田圃の中の小山があり右側は田圃があった処なのです。先へ進うと一旦信号で途切れ左の家が尚一段と高くなってるのが地蔵山と云い、後長山の北松竹撮影所の処に腰山が有り、三つを総称して離山と云われました。

大きな道路へ出た処で、左側に小さなお堂があり、中には、風化の為顔も分からなくなっている凝灰砂岩の地蔵菩薩座像がおられます。唯一この地蔵に離山地蔵と名付けられ僅かに地名が残っています。このお地蔵様には、次のような伝説があります。

南の地蔵山にはかつて頂上に地蔵があり、或る日通りかかった百姓に山の上から声がして「我はこの山の地蔵尊也、余りに高く急ゆえ里人の詣でがたきによって、我を山裾に祀るべし、されば村人に幸いをもたらすであろう。」とお告げがあったそうな。その話を他の村人に言うと、他の村人も「蜂に目を刺されたカラスが、痛がって泣いてるのを地蔵が経を唱えて助けたので、それを見ていた狐が「離山の地蔵は目のお医者」と云いふれたと聞いている。」と云うので、これはお告げどおりにしたほうが良いということになり、村人達がお参りしやすいように良い日を選んで下に降ろしたと云います。（鎌倉こども風土記より）

地蔵の前の道を反対側に渡ると、北東へ旧道が別れているので進むと三菱電気工場の前の広い道へ出ます。右へ広い道を歩いて行くと、左前方に松の木が見えます。煙草屋の交差点で左のマンションの前へ信号を渡ると、常楽寺バス停が有り、先へ進むと松の木が門様に並び、常楽寺の石碑があります。

三　常楽寺

臨済宗建長寺派粟船山常楽寺、開基は北條泰時、開山は退耕莊嚴房僧都行勇。

吾妻鏡によると、嘉禎三年(1237)十二月十三日、北條泰時が妻の母の為にその墓のそばに粟船御堂を建立し、菩提を弔ったのが始まりらしい。

その後、仁治三年(1242)に泰時が死ぬと此処に葬り、その法名を常楽寺と名付けた。寛元々年(1243)北條經時、北條時頼等が泰時の一周忌の供養をしています。

常楽寺略記によると頼朝政子の大姫の死後、姫と木曽義高の二人の為に阿弥陀三尊を安置し仏堂を建立したのが始めとも云う。又、大覚禅師蘭渓道隆も建長寺が建つまで一時住した。

参道を進むと可愛い山門が有り、通用門を入ると正面左に古い枯れた大株とそれを二世の若木達が囲むようにしている銀杏の木があり、退耕行勇のお手植えとも又泰時のお手植えとも云われます。正面には仏殿に阿弥陀三尊、左の文殊堂には鎌倉時代末期の木造の優品ですが、一月二十五日の文殊祭以外は開扉しません。

裏へ回ると、生垣の中に二人の僧と共に泰時の墓があります。

北條泰時は、御成敗式目（貞永式目）を作ったことで有名です。

仏殿の東側の池は、色天無熱池と云い、蘭渓道隆が滞在中に江ノ島弁天が大覚禅師の身の回りの世話をするために乙護童子を派遣した。童子が洗濯物を宙に投げると空中に止まって乾かされたと云う。又、弁財天は池に掛かる松の木の上で、禅師を慰めるため琵琶を弾いたので、妙音松と呼ばれたとも云われます。

先程の山門前へ戻り、右へ生垣に添って行くと裏山への道があるので登って行きましょう。

四　姫宮

途中、小さな石の祠と墓石があり姫宮の墓とあります。

泰時の娘で三浦泰村夫人が25才で女子を生むが、すぐ死んでしまい、自分も後を追うように死んでしまった云う悲劇の女性の墓と云われます。

なお登ると頂上に石碑と土盛りの塚があります。

五　木曽塚

この塚は、木曽塚と呼ばれ、頼朝と政子の間に最初にできた子大姫の許婚木曽義高の墓と云われます。

壽永元年に木曽で旗揚げをした義仲が父の旧跡を思い上州に進出してきたので、頼朝は大群を率い対峙し裏切り者の新宮行家の引渡しを要求します。

むざむざ、叔父を殺されるのを分かっていて引渡すことも出来ず、不利を悟り、息子の義高を大姫の婿として人質に､差出しました。

大人ばかりの中で話のあう相手と出会い、大姫はすっかり馴染んでその気になっていました。

しかし、義仲が後白河上皇の不興をかって、義經に打たれた際に頼朝は将来の恨みを心配して義高を殺させてしまいます。

愛する人を父に殺され、大姫はすっかり人が信じられなくなり鬱病になってしまい、十四・五の時に母の政子から従兄との結婚を迫られると義高を思う心を知りながらそんなことを云うと、深い淵に身を投げて死んでしまうと脅迫したりし、十九か二十歳の頃に失意のまま悲恋にかけた生涯を閉じます。

実は、頼朝と義仲は従兄に当り、大姫と義高は又従兄弟に当るわけです。

そして義仲の父義賢は、秩父に於て、秩父一族と三浦一族の覇権争いに巻込まれ頼朝の兄義平（母は三浦大介義明の娘）、三浦次郎義澄に秩父重隆と共に殺されているのです。

義平は叔父殺しの武勲から鎌倉悪源太義平と呼ばれるのです。

なお、元々は離山地蔵の近くに木曽塚とか木曽免と呼ばれる塚があったそうで、江戸時代に塚を堀った処、青磁の瓶が出てきたので、これを常楽寺の裏山に治めたとのことです。 　　　　　　　　　　　　　　　　　┌義朝ー頼朝ー大姫

　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 └義賢ー義仲ー義高

木曽塚の前から住宅の庭先の境にある山道風の路次伝いに左へ緩く曲って行き、墓の手前で左の住宅街の広い道へ出ましょう。広い道を右へ坂を下ると左右に通じる新道へ出たら左へすぐの信号を右へ渡り、旧道を前へと道添いに進みます

。暫らく歩くと左手に大きな広場のある三菱の社宅があるので、その手前に幅一間程の道が左へ入っていますので、こちらへ行きましょう。

六　鎌倉古道

歩くと左側に大きな庭のある家があり、古い道であることが分かります。道はやがて泥岩の敷き詰められた土壇造作から考えると鎌倉時代の造道と見え、明治二十二年の地図では粟船村から今泉の白山神社や不動滝の称名寺への道と思われます。

やがて道は、突き当り左へ学校添いに登って行くと住宅地のバス転回用ロータリーに出ます。

七　六国見山

ロータリーから右へ道の左側を歩き、次の左への住宅道を上ると、正面に真っすぐ山へ登る階段があるので登って行きましょう。やがて山道に変り道伝いに進めば頂上にもう一つ鉢を伏せたような富士塚の山頂があり、ベンチが配されています。

頂上からは、自分が相模国に居て、安房、上総、下総、武蔵、伊豆、そして富士山が見えれば駿河の六ヶ国が見えるというので六国見山と名付けられます。

八　稚児塚

頂上から東に向って歩き出すと、少し行った処の右側の平場の中央の柘の木の下に小さな宝篋印塔の残欠があります。稚児塚と呼ばれ、一説には由比の長者染谷太郎太夫時忠の墓と云われると鎌倉子供風土記にあります。

そのまま山道を道也に歩いて行くとやがて、今泉の分譲住宅に出ます。

ここから、明月院への道は文章では説明がし憎いのですが、取り敢えず草蒸した石畳様の下り階段を見付けて降りてみてください。谷底の車道に出たら右へ暫らく歩いて明月院の前まで参りましょう。

九　明月院　臨済宗建長寺派

康元元年(1256)北條時頼が、最明寺を建立し、ここで出家し、亡くなりその後廃寺となり、子の時宗が禅興寺を建立し、後にこの塔頭として上杉憲方が明月院を建てました。禅興寺が衰え逆に明月院に付属する形となって明治には廃絶となりました。

拝観料を支払って直ぐにん左へ曲ると北條時頼の廟所の小さなお堂がり、その左に時頼の墓と云われる宝篋印塔の乗った塚があります。

北條時頼には、謡曲「鉢ノ木」で諸国回国伝説があります。

時頼は、康元元年(1256)三十才の時に最明寺で出家し、法名を「覚了房道崇」と号し、人々からは最明寺入道と呼ばれています。

十　鉢ノ木

北條九代記には、文応元年(1260)時頼は、二階堂信濃入道行実と二人で死んだことにして、政治視察の為、諸国回遊に出て、攝津国難波（今の大阪の当り）で、世話になった難波三郎の後家の所領を小舅から取り返してあげた話が乗っています。鉢ノ木はこれをアレンジしたものか、それとも逆なのか分りません。

ある大雪の夜に上野の佐野源左衛門尉常世という貧しい武士の家に泊めてもらった時に、薪が足りず、大事にしている梅、桜、松の鉢ノ木を火にくべて遇したのを、似合わぬ武具をみて錢に替えぬ事を問ふと、鎌倉にもしものことがあれば真先に飛んで行き戦う覚悟を話しました。

後日、時頼が「鎌倉集合」の命を出した時に真先駆付けてきた常世に、元の領地を返し、更に梅田、桜井、松井田の領地を加えて与えたと云う話です。これ以来「いざ鎌倉」と「おっとり刀」の言葉が流行った様です。参道へ戻り奥へ歩くと両側は紫陽花で一杯です。季節には紫陽花見物が駅まで繋がります。「佐野の馬戸塚の坂で二度転び」鎌倉質問箱参照

宗猷堂があり、その左にやぐら、中には釈迦如來と多宝如來、十六羅漢像が彫り残されています。又、境内には鎌倉十井の一つ、瓶の井があり、近年石庭が整備されたり、紗羅の木等があります。

明月院の前へ戻り、道を左へ辿ります。川淵の道添いには、観光客向けの和風の食物屋が続きます。暫らく先で横須賀線に当ります。

右は円覚寺、今回は左へ歩き、バス通りへ出たら踏み切りで道の向こう側の歩道へ行きますと、目の前に「建長汁」の店があり、その脇の小さな石碑が�ﾘ明碑です。

十一　清明碑

吾妻鏡よりますと、治承四年十月九日条に鎌倉入りした頼朝の屋敷を大庭平太景義を奉行として頼朝の家を造る行事を始めた。但し、直ぐの間に合わないので、当分知家事の兼道の山内の屋敷を指定して是を移転建築させた。この建物は正暦（９９０〜９９５）の頃に立てられて未だに火災にあっていないのは清明のお札を貼ってあるからである。

また、清明は、陰陽師で有名な安倍清明（９２１〜１００５）です。

この辺り一帯は東管領屋敷と呼ばれ、室町時代鎌倉公方の管領山内上杉氏の屋敷があったと謂れます。やがて、長寿寺の先、角屋を右へ曲がるとゆるい坂が上っています。

この先が、鎌倉七切通でも古い「亀ケ谷坂切通」です。

十二　亀谷坂切通し

外鎌倉側からはゆるい坂を登ってきますが、内鎌倉側からは相当に急な坂となっています。亀谷坂の謂れは亀が鎌倉側からこの坂を登ってきましたが、余りの急坂のため後にひっくり返ってしまったと云います。亀は何故、坂を登って来たかって、そりゃ鶴さんにあいたくてって。お後がよろしいようで、テケテン♪テケテン♪

その坂を下って道が突き当たる右側に真新しい八角のお堂があります。

十三　岩船地蔵

つい最近まで今にも倒れそうな破れ堂でしたが、近年建替えられて、伝説通りに床下から大姫の持仏と謂われた船形光背の石地蔵が発掘されたそうです。

寿永元年（1182)に、木曽で旗揚げした木曾冠者義仲が越後の豪族城氏をやぶって、父義賢の遺跡であり、自分の出生した所である秩父へ進出してくるのですが、これに危険を感じた頼朝は、裏切り者の叔父十郎蔵人行家を追って、十數萬騎の大群で義仲三千騎を追い立て、寿永二年（118３)三月上旬善光寺平で対峙するわけです。この時、義仲はむざむざ殺されると解っている叔父を差し出すわけにもいかず。手をこまねいている義仲に、頼朝は嫡子の義高生年十一歳を娘の婿として差し出すよう投げかけます。不利を察した義仲は、止むを得ず海野小太郎幸氏等をつけて義高を人質として差し出します。

それからというもの、大人ばかりの中で話し相手のいなかった大姫は、すっかり馴染んでその気になっていました。そして、義仲は平家軍を破って京入りします。しかし、寄せ集めの義仲軍は、平家を京から追い出した後、折からの飢饉も重なり略奪の限りを尽くし、すっかり御白河法皇は嫌い、密かに頼朝宛に義仲討伐の院宣が発出します。

これを受けた頼朝は、弟範頼、義経をして数十万の東国軍勢を京へ向かわせます。義仲軍は敗れ、近江の粟津で義経の軍勢の石田次郎為久（領地は小田急線「愛甲石田駅」三浦氏出身）に殺されます。娘婿として人質に預かっている義高が将来自分を敵と憎むではないだろうかと、頼朝は心配し、近臣に密かに義高を暗殺するよう言いつけます。

是を知った姫に侍従が、大姫に告げ口をします。吾妻鏡の現代語を載せます。

●元暦元年（１１８４）４月２１日、大姫（数え年7歳）の許婚の清水冠者義高は頼朝の婿になっていますが、父の木曽義仲はすでに勅勘を蒙り殺されました。その子の無念を考えると、将来の意思を計り難いので、頼朝は殺してしまおうと内々に思い立ち、この意趣を近しい武士等に仰せ含めました。女房等がこの事を聞いてしまい、密々に姫公に告げました。そこで清水冠者と共に計略を考え、今朝夜明け前に逃がしました。その時、女房姿に扮装させて、姫君（数え年7歳）の女房達が義高を囲んで、屋敷から出しました。馬を他の所に隠しておいてこれに乗せました。馬の蹄には真綿を巻いて蹄の音が聞こえないようにしました。そして、海野小太郎幸氏（諏訪一族）は義高と同い年で、常に一緒にいます。日夜傍にいて片時も立ち去ることがありません。だから今入れ替わって、寝床に寝てかむり物の下に髻（もとどり）を出してました。昼間のあいだじゅう清水の常の居所に出て、普段の形を装って独りで双六を打っていました。清水は双六勝負（今の双六とは違ってバカラが似ているそうです。）が好きで年中遊んでいました。幸氏は必ず相手をしていました。それなので殿中の人たちは、いつもどおり座っているものと思っていました。夜になって事がばれました。頼朝は大変怒って、すぐに幸氏を捕らえて、堀親家ほかの軍兵を方々の道路に遣わし、清水を見つけ討ち取るように命令しました。姫君（数え年7歳）はあわてて魂を消すほど打ちしおれてしまいました。

参考：勅勘は、後白河法皇の勘気＝お怒り。女房は女官。密々に姫公に告げは、わざと秘密を洩れるようにして逃げ出した処を殺すためかも知れません。

そして、とうとう清水冠者義高は捕らえられ殺されてしまいます。

●同年４月２６日、堀藤次親家の部下の藤内光澄が帰ってきました。入間河原（所沢）で清水義高を殺した事を報告しました。このことは内緒にしていましたが、姫君（数え年7歳）に洩れてしまい、嘆き悲しみの余り、水さえも喉を通らなくなりました。

参考：こうして、彼女は一種のうつ病になってしまい、鬱々とした月日を重ねます。

そして、建久五年（１１９４）京の従兄弟の一条高能が鎌倉へ訪問して来ました。

●建久五年８月１８日姫君（数え年１７歳）の病気が治りましたので、沐浴をしました。しかし、具合が完全に良くなった訳ではないので、人は皆心配をしていました。このことは心配悩みが積み重なって行くばかりです。そこで一条高能（いちじょうたかよし）との結婚を政子が内緒で進めていましたが、承知をせず、「なお無理に話を進めるなら、この身を深い水の淵に沈めてしまう。」と云うのでした。これは今だに昔の思い出を忘れられないでいるからでしょうかとの事でした。この話を高能は聞くと「この話はもう進めるのはよしましょう。」と女官をとおして謝りましたとの事です。

参考：翌建久六年東大寺大仏殿完成法会に頼朝は大旦那として出席のため上洛します。是についていった大姫を政子は入内の画策を計ります。

そして愚管抄によると、この後、入内のため上京するのですが、途中で病のため倒れ死んでしまったそうです。とすると、京都の鳥辺野当りで荼毘に付され、遺骨は鎌倉に持ち帰り、菩提寺である勝長寿院（南御堂）に葬られたものと考えられます。

一人の人を愛して、その愛する人を父に殺され、不遇のうちにあたら青春を費やして、その青春と共に人生を終えてしまった、はかない恋に生涯をかけた悲しいお話です。その心根を痛んで思わず両手を合わせずには居られません。

前の道を武蔵大路と云います。堀伝いの道を暫く歩くと、左側に敷石つくりの道があります。

十四　相馬次郎師常墓

この突き当りが、相馬次郎師常（千葉介常胤の次男）が將門伝説で名高い相馬の御厨を貰いうけ、その子孫が福島へ出向き野馬追いで有名な相馬です。この人は吾妻鏡によると熱心な念仏者で、きちんと座って手を合わせて弥陀名号を唱えながら往生したので、皆、これを拝みに来たとあります。

●元久二年（１２０５）十一月大十五日丁酉相馬次郎師常卒〈年六十七〉端坐合掌令め、更に動揺不。決定徃生敢へて其の疑い無し。是念佛行者也。結縁と稱して緇素舉り集りて之を拜す。

道がお店やの処で左へ曲がっていますがこちらが古道で、線路脇の道は横須賀線がつけた道です。一旦左へ曲がり、すぐに鎌倉駅方面へは右へ曲がっていますが、今回は曲がらず真っ直ぐ進むと左に寺があります。

十五　浄光明寺

古儀真言宗泉涌寺派。号を泉谷山浄光明寺。開山は真聖国師真阿。開基は六代執権北条長時。初め文覚上人が庵を結んだとの伝説もある。建長三年に時頼と長時との発願で創建され、始めは浄土教系のようであったが、旧仏教系の長老が続き、真言・天台・禪・律の四宗兼学の道場となりました。建武の中興の際に後醍醐天皇からの寺領寄進もあり、この頃から足利氏との関係も生まれたらしく、中先代の乱で鎌倉を追われた弟の足利直義を救援しに。勅許を得ずに鎌倉入りした足利尊氏が乱平定後、後醍醐天皇に恭順の意を表すべく、蟄居したのがこの寺と謂われております。

門を入って左手が庫裏、右手に不動堂、正面階段の上に本堂があります。

本堂の阿弥陀三尊は、本堂左手の収蔵庫に納められております。宋様式の特徴の濃い美しい三尊像ですが、本尊の着物の模様に鎌倉独特の土紋模様がつけられております。又、両脇侍の観音菩薩・勢至菩薩の指の先を見てください。なんと爪が長いのです。マニュキュアでも塗ってみたくなりそうなほど美しい指先なのが特徴的です。

又、収蔵庫左側に、直義が戰で矢が無くなると小さな小僧が矢を拾い集めてきては渡して救ってくれたと言う伝説のある矢拾地蔵です。

寺の前へ戻ったら少し奥へ行くと左側に小さな泉があります。

十六　泉ノ井

これが、この谷の名前の由来となった鎌倉十井のひとつ「泉ノ井」です。

では、先ほどの浄光明寺の先の左へ曲がる鎌倉古道を通って鎌倉駅へと参りましょう。