吾妻鏡入門第一巻

序　　　文

あんとくてんのう「いみな　ことひと」たかくらいんだいいちみこ　おんはは　けんれいもんいん「だじょうだいじんきもりこう　むすめ」（徳子）
安徳天皇「諱�@言仁」高倉院第一皇子。御母は建禮門院「太政大臣�C盛公の女」

じしょうよねんにがつにじういちにちじゅぜん　　おな　　しがつにじうににちそくい　「しゅんじゅうさんさい」（数え年)
治承四年二月廿一日受禪�A。同じく四月廿二日即位「春秋三歳」。

じゅえいにねんはちがつはつかしんてい　　せんそ　　ぶんじがんねんさんがつにじうよっかながと　くに　　もじ　　おい　　　　かいすい　ぼつにゅう　　「やっつ」
壽永二年八月廿日新帝�Bに踐祚�C。文治元年三月廿四日長門の國、門司に於て、海水に没入す「八」。

参考�@諱は、実名（名には霊が存在する）。
参考�A受禪は、位を譲り受ける。
参考�B新帝は、後鳥羽。
参考�C踐祚は、位を譲る。

せっしょうないだいじん「もとみちこう」　ろくじょうせっしょう　　いちなん　「はは　じゅさんみただたかきょう　むすめ」
攝政内大臣「基通公�@」六條攝政�Aの一男。「母は從三位藤原忠隆卿の女」

じしょうさんねんじういちがつじうろくにちないだいじん　にん　「もと　にいのちゅうじょう」　かんぱく　うじ　　ちょうじゃ　な
治承三年十一月十六日内大臣に任ず「元は二位中将」關白、氏の長者と爲す。

じうしちにち　にい　　　じょ　　　ぎっしゃ　　　ずいしん　　ちょくじゅ　　　おな　　　　ひ　さだいじん　　うえ　　　れっ　　べ　　　のよし　　せんげされ
十七日二位に敍す。牛車�Bと隨身�Cを勅授す。同じき日左大臣の上に列す可し之由、宣下被る。

しがつにじういちにちかんぱく　あら　　せっしょう　な　　　　　ちょくじゅ　　　　　へいじょうゆえのごと　のよし　　せんげ
四月廿一日關白を改ため攝政と爲すと勅授さる。兵仗故の如く之由、宣下される。

しがつにじういちにちじゅいちい　じょ　　「おんそくい　ついで」　　　じゅえいがんねんしがつにじうよっかうちのとねり　　ふたり　たわ　ずいしん　　な
四月廿一日從一位に敍す「御即位の次」。壽永元年四月廿四日内舎人�D二人を賜はり隨身と爲す。

ろくがつにじうしちにちないだいじん　じょうひょう　　ちょっきょ　　　　　　よねんはちがつはつか　さら　せっしょう　な　　「ほうおう　みことのり」
六月廿七日内大臣を上表�Eし、勅許される。四年八月廿日更に攝政と爲す「法皇の詔�F」。

じういちがつにじういちにちせっしょう　と
十一月廿一日攝政を停めらる。

参考�@基通公は、近衛。
参考�A六條攝政は、基実。
参考�B牛車は、牛車に乗ったまま大内裏に入ることを許可される。許可前は大内裏の門前で牛車を降りなければならない。  
参考�C随身は、朝廷から護衛を付けられる。ＳＰ
参考�D内舎人は、朝廷内で刀を差したまま警護の出来る人。
参考�E上表は、辞退。
参考�F法皇の詔は、法皇からの命令。

ごとばいん　　「いみなたかなり」　おな　　　だいよんみこ　　　おんはは　しちじょういん「ぞう　さだいじんしゅりのたいふのぶたかこう　むすめ」（藤原殖子）
後鳥羽院「諱尊成」同じく第四皇子。御母は七條院「贈�@左大臣修理大夫信隆公の女」

じゅえいにねんはちがつはつかせんそ　「しゅんじゅうよさい」　げんりゃくがんねんしちがつにじうはちにち　そくい「ご」
壽永二年八月廿日踐祚「春秋四歳」。元暦元年七月廿八日即位「五」。

ぶんじろくねんしょうがつみっか　ごげんぷく「じゅういち」　けんきゅうくねんしょうがつじういちにちごだっし
文治六年正月三日御元服「十一」。建久九年正月十一日御脱屣�A。

じょうきゅうさんねんしちがつ　にち　とばいん　せんぎょ　　　おな　　　ようかかざり　おと　　たま　　　　「ごほうめい」　　　　おな　　　じうさんにち　おきのくに　　せんぎょ
承久三年七月　日鳥羽院へ遷御�Bす。同じき八日餝を落し御う「御法名�C」。同じき十三日隠岐國へ遷御�Dす

えんのうがんねんにがつにじうににち ほうぎょ　「ろくじう」　　ごがつにじうくにちけんとくいん　ついごう
延応元年二月 廿二日崩御「六十」。五月廿九日顯徳院と追号す�E。

にんじさんねんしちがつようかけんとくいん　あらた　ごとばいん　　　な
仁治三年七月八日顯徳院を改め後鳥羽院と爲す。

参考�@贈は、死んでから追られる位。
参考�A御脱屣は、靴を脱ぐ、退位、譲位。
参考�B鳥羽院へ遷御は、承久の乱の結果幽閉された。
参考�C御法名は、金剛理院良然。
参考�D十三日隠岐國へ遷御は、隠岐へ流罪になり京都を出発した日。
参考�E顯徳院と追号したのは、怨霊が祟るから。それでも祟りが治まらないので、後鳥羽院と追号した。

せっしょうないだいじん 「もろいえこう　　　ぼだいいんぜんこう　　さんなん　　はは　さきのだじょうだいじんただまさこう　むすめ」
攝政 内大臣「師家公�@。菩提院禪閤�Aの三男。母は前太政大臣忠雅公の女」

じゅえいにねんじういちがつにじういちにちないだいじん　にん「もと　だいなごん」　　せっしょう　なら　　うじ　　ちょうじゃ　　な
壽永二年十一月廿一日内大臣に任ず「元は大納言」。攝政併びに氏の長者と爲す。

じうにがつついたちたいけん　ちょくじゅ　　　　　ようか　　じゅにい　　　じょ　　　　ぎっしゃ　ゆる　　　　　　へいじょう　　たま
十二月一日帯釼を勅授さる�B。八日從二位に敍す。牛車を聽され、兵仗�Cを賜はる。

げんりゃくがんねんしょうがつむいかしょうにい　じょ　　　　にじうににちせっしょうないだいじん　と　　　　　　　じょうえいがんねんくがつむいかしゅっけ
元暦元年正月六日正二位に敍さる。廿二日攝政内大臣を停めらる。貞永元年九月六日出家す。

かていよねんしがつよっか　　こう
嘉禎四年四月四日薨ず

参考�@師家公は、松殿。
参考�A菩提院禪閤は、基房。
参考�B帶劍を勅授さるは、太刀を佩いたまま大内裏へ入れる。
参考�C兵仗は、武器を持った警護人をつけてくれる。

せっしょうさきのないだいじん　「もとみちこう」　「だいにど」
攝政前内大臣「基通公」「第二度」

げんりゃくがんねんしょうがつふつかかんちゃく　　　ぶんじにねんさんがつじうにちせっしょう　　と　　　　　　　　　さんねんさんがつついたちずいしんへいじょう　たま
元暦元年正月廿二日還着�@す。文治二年三月十二日攝政を停めらる。三年三月一日隨身兵仗を給はる。

参考�@還着は、一時離れた地位官職に復職する。

せっしょううだいじん「かねざね　こう　」　　「ほっしょうじかんぱく　　さんなん　　はは　　け　　にょぼう　　かがのだいくうだいしんなかみつ　むすめ」
攝政右大臣「兼實�A公�B」「法性寺關白�Cの三男。母は家の女房�Dで加賀大宮大進仲光の女」

ぶんじがんねんじうにがつにじうようか　ないらん　　せんじ　くださ　　　　　にねんさんがつじうにちせっしょうなら　　　うじ　　ちょうじゃ　　な
文治元年十二月廿八日内覧�Eの宣旨を下被る。二年三月十二日攝政併びに氏の長者と爲す。

じうろくにちさだいじん　うえ　　　れっ　　　ずいしん　　たま　　　　　　ぎっしゃ　　ゆる　　　　　　じうがつじうしちにちうだいじん　じょうひょう
十六日左大臣の上に列す。随身を賜はり、牛車を聴さる。十月十七日右大臣を上表す。

ごねんじうにがつじうよっかだじょうだいじん　　にん　　　　けんきゅうがんねんしがつじうくにちだじょうだいじん　じょうひょう
五年十二月十四日太政大臣に任ず。建久元年四月十九日太政大臣を上表す

にねんじういちがつじうしちにちせっしょう　あらた　かんぱく　な　　　せっしょう　なぞら　　　しちねんじういちがつにじうごにちかんぱく　と
二年十一月十七日攝政を改め關白と爲す。攝政に准ふ。七年十一月廿五日關白を停める�F。

けんにんにねんしょうがつにじうはちにち　しゅっけ　「ほうみょう　えんしょう」　じょうげんがんねんしがついつか　こう　「としごじうく」
建仁二年正月廿八日出家す「法名は円證」。承元々年四月五日薨ず「年五十九」。

参考�@宣旨の前の空欄は身分の高い人に対し遠慮をして一文字空けるのを欠字と云う。
参考�A兼實は、九条家。
参考�B公は、参議以上。頼朝は公だへなく頼朝卿と呼ぶ。
参考�C法性寺關白は、忠通。
参考�D家の女房は、九条家に仕える女官。
参考�E内覧は、摂政になっていないので、天皇へ出す手紙を先に読む人と言う新職を作った。議事の奏聞前に見て握りつぶせる。
参考�F七年十一月廿五日關白を停めるは、建久の政変で土御門（源）通親に政界を追われる。

かんぱくさきのないだいじん「もとみちこう　だいさんど」　
關白前内大臣「基通公。第三度」

けんきゅうしちねんじういちがついつかさら　かんぱく　　な　　　くねんしょうがつじういちにちかんぱく　あらため　せっしょう　な
建久七年十一月廿五日更に關白と爲す。九年正月十一日關白を改め、攝政と爲す。

つちみかどいん　「いみな　ためひと」　ごとばいん　だいいちみこ　　　　おんはは　しょうめいもんいん　「ないだいじんみちちか　むすめ　　じつ　ほういんのうえん　むすめ」
土御門院「諱爲仁」後鳥羽院の第一皇子。御母は承明門院�@「内大臣通親の女、實は法印能円の女」。

げんきゅうにねんしょうがつみっか　ごげんぷく「じういち」　　じょうげんよねんじういちがついつか　ごだっし　　じょうきゅうさんねんしちがつじうさんにちあわのくに　せんぎょ
元久二年正月三日御元服「十一」。承元四年 十一月廿五日御脱屣。承久三年 七月十三日阿波國へ遷御。

じういちがつついたちとさのくに　うつ　　　　ごじつ　　あはのくに　　せんぎょ　　　うんぬん
十一月一日土佐國へ遷す。後日、阿波國へ遷御す�Aと云々。

かんぎさんねんがっぴおんらくしょく「ごほうめい　」おな　　　じうがつじういちにちほうぎょ「さんじうしち」
寛喜三年月日御落餝「御法名�B」同じき十月十一日崩御「三十七」。

参考�@承明門院は、在子。
参考�A承久三年七月十三日阿波國へ遷御は、承久の乱の結果流罪。
参考�B御法名は、阿波院行源。

せっしょうないだいじん「もとみちこう」だいよんど　　けんにんじういちがつにじうしちにちせっしょう　　と
攝政内大臣「基通公」第四度。建仁二年十一月廿七日攝政を停めらる。

けんえいがんねんさんがつじうくいちへいじょうずいしん　たま　　じょうげんにねんじういちがついつかしゅっけ　「ほうみょう　ぎょうり」
建永元年三月十九日兵仗随身を賜はる。承元二年十一月五日出家「法名は行理」。

てんぷくがんねんごがつにじうくにちこう　「とししちじうし」
天福元年五月廿九日薨ず「年七十四」。

いじょう　　とうだいしょうぐんいちだい　「じしょうよよねんよ　しょうじがんねん　いた　」　ていおう　　せっかんいっしょ　の　たてまつ　なり 
以上。當代將軍一代「治承四年自り正治元年に至る」帝王・攝關一処に載せ奉る也

せいいたいしょうぐん　しょうにい　　みなもとあそん「よりとも　」　ときにさきのうひょうえのすけ
征夷大將軍　正二位　源朝臣「頼朝」時于前右兵衛佐�@

じゅしいげぎょうさまのかみけんはりまのかみよしとも　さんなん　　はは　あつただいぐうじ　さんに　ふじわらすえのり　むすめ
從四位下行左馬頭兼播磨守義朝の三男。母は熱田大宮司散位藤原季範の女

参考�@頼朝は、久安三年（１１４７）誕生。江戸時代の書物には、四月八日と書かれている。釈迦と一緒にするか？この時、数え年三十四歳。

四月へ

吾妻鏡入門第一巻