吾妻鏡入門第二巻

養和二年(1182)正月大「五月二十七日寿永元年と爲す」

読下し　　　　　　　　　 みずのえさる　　うのこく　　ぶえいつるがおかぐう　ぎょさん　　しんめ　　いっぴき　たてまつらる
養和二年(1182)正月大一日壬申。卯尅、武衛鶴岳宮に御參し、�~馬�@一疋を奉被る。

さののたろうただいえ　これ　　ひ　　　　そ　　　ご　　ほうぜん　をい　　ほっけじゅりょうぼん　　ほうがくせし　　たま　　　うんぬん
佐野太郎忠家之を引く。其の後、寳前に於て法花壽量品を法樂令め給ふと云々。

参考�@�~馬は、神様に奉納する馬。

現代語養和二年(1182)正月大一日壬申。頼朝様は八幡宮にお参りし、馬を一頭奉納しました。佐野太郎忠家が轡を取って厩へ捧げました。その後で社殿の前で坊さんに法華寿量経を音楽を鳴らしながら拝む奉納をさせましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　 きのえいぬ　　ぶえいみゆきはじめ　　とうくろうもりなが　　あまなわのいえに　とぎょ
養和二年(1182)正月大三日甲戌。武衛御行始。藤九郎盛長が甘繩之家于渡御す。

　ささきのしろうたかつな　　ごちょうど　　　か　　　おんがのかたわら　あ
佐々木四郎高綱御調度�@を懸け、御駕之傍に在り。

あしかがのかじゃ　ほうじょうどの　はたけやまのじろうしげただ　みうらのすけよしずみ　　わだのこたろうよしもり　　いげ　おんうしろ　れつ　　うんぬん
足利冠者、北條殿、　畠山次郎重忠、三浦介義澄、　和田小太郎義盛以下御後に列すと云々。

参考�@御調度は、武士の場合弓矢のセット。

現代語養和二年(1182)正月大三日甲戌。頼朝様の年明けの初めての外出式です。藤九郎盛長の甘縄の屋敷へ行かれました。佐々木四郎高綱が弓矢を肩に掛けて頼朝様の馬の脇に添っていました。足利義氏、北条四郎時政、畠山次郎重忠、三浦介義澄、和田太郎義盛を初めとして侍達が後に続きましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　 つちのとう　　つるがおかわかみや　ちょうじつ　ふどうじゅういちめんら　くようほう　　　しぎょうさる
養和二年(1182)正月大八日己卯。鶴岳若宮にて長日�@不動十一面等の供養法を始行被る。

ぐそう　ら　これ　　ほうし　　　　　ごそがん　じょうべん　ためなり 　うんぬん
供僧等之を奉仕す。御素願成辨の爲也と云々。

参考�@長日は、一日中休まずにお経を上げること。

現代語養和二年(1182)正月大八日己卯。八幡宮で一日中休まずお経を続けるお不動様や十一面観音を祀る行事を始めました。八幡宮の坊さん達が祈りを捧げました。これは頼朝様の御祈願をかなえる為の御祈りだとさ。

読下し　　　　　　　　　　 　　きのえうま　　ほうきのかみときいえ　　ぶえい　　ういざん　　　これ　　ときただきょう　　そくなり
養和二年(1182)正月大廿三日甲午。伯耆守時家、武衛に初參す。是、時忠卿�@が息也。

けいぼの　けっこう　　よっ　　　　かずさのくに　はいさる　　　　しば　これ　　しょうがんせし　　むこぎみ　　な
繼母之結搆に依て、上総國に配被る。司馬之を賞翫令め、聟君と爲す。

しか　　　ひろつね　　きょねんいらい　みけしきいささ　ふかいのかん　　そ　　　こと　　あがな　　ため　　これ　　きょ　　もう
而るに廣常、去年以來御氣色聊か不快之間。其の事を贖はん爲、之を擧し申す。

ぶえい　けいらく　きゃく　あい　　　　のかん　　こと　　れんみん　　　うんぬん
武衛京洛の客を愛する之間、殊に憐愍すと云々。

参考�@時忠卿は、清盛の後妻時子の弟で「此の一門にあらざらむ者は、皆人非人なるべし。」と云った人。

現代語養和二年(1182)正月大廿三日甲午。伯耆守平時家が頼朝様に初めて参上しました。この人は平時忠様の子供です。継母のたくらみによって上総国（千葉県）へ流罪にされていました。これを国司次官の上総広常は気に入って婿にしていました。しかし、去年６月の三浦での出来事以来、頼朝様のご機嫌を損ねていたので、その穴埋めの為に彼を推薦しました。頼朝様は京都を懐かしがって、京下りの人が大好きなので、特に可愛がりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　 　　つちのとい　　だいじんぐう　　たてまつらる　べ　　　の　しんめ　さきんら　　こと　　　ひごろ　そ　　さた　あ
養和二年(1182)正月大廿八日己亥。太�~宮に、奉被る可し之�~馬砂金等の事。日者其の沙汰有り。

きょう　　　けっさいのやからこれら　けん　　　　よっ　　えいちゅう　をい　　　これ　　み　　　　　じき　　さいようせし　たま　ところなり
今日、潔齋之輩此等を献ず。仍て營中に於て、之を覽る。直に採用令め給ふ所也。

ま　きんひゃくりょう　ちばのすけつねたね　おやまのしろうともまさら　これ　しん
先ず金百兩。千葉介常胤、小山四郎朝政等之を進ず。

つい　　しんめじっぴき　ていじょう　ひきたて　　としかねすのこ　そうら　けつけ　　ろく
次で�~馬十疋庭上に引立る。俊兼簀子に候ひ毛付を勒す。

　　いっぴきつきげ　　〔えどのたろう　　しん〕　　　　　　　　　　　　　　　いっぴきかわらけ　　〔しもこうべのしろう　　しん　〕
　一疋鴾毛�@〔江戸太郎進ず〕　　　　　　一疋河原毛�A〔下河邊四郎進ず〕

　　いっぴきくりげ　　　〔たけだのたろうしん　〕　　　　　　　　　　　　　　いっぴきくりげぶち　　〔あがつまのはちろうしん　〕
　一疋栗毛�B〔武田太郎進ず〕　　　　　　一疋栗毛駮�C〔吾妻八郎進ず〕

　　いっぴきあおぐろ　〔たかばのじろうしん　〕　　　　　　　　　　　　　　いっぴきつきげぶち　　〔とよたのたろうしん　〕
　一疋���K�D〔高塲次郎進ず〕　　　　　　一疋鴾毛駮�E〔豊田太郎進ず〕

　　いっぴき　かげ　　〔おぐりのじゅうろうしん　〕　　　　　　　　　　　　　いっぴきあしげ　　〔かさいのさぶろうしん　〕
　一疋鹿毛�F〔小栗十郎進ず〕　　　　　　一疋葦毛�G〔葛西三郎進ず〕

　　いっぴきしろくりげ　　〔かわごえのたろうしん　　ひたい　しろ〕　　　いっぴきくろかわらげ〔なかむらのしょうじしん　〕
　　一疋白栗毛�H〔河越太郎進ず、額は白〕　一疋�K瓦毛�I〔中村庄司進ず〕

いじょう　おんうま　　えら　　さだ　　　　　ののち　　なりともかんぬし　のたくに　あず　おかる　　おのおの　かいば　　あいそへ　　　うんぬん
已上の御馬、撰び定める之後、生倫�~主�J之宅于預け置被る。各、飼口を相副ると云々。

参考�@鴾毛は、葦毛でやや赤みをおびたもの。
参考�A河原毛は、淡い黄褐色か亜麻色で四肢の下部と長毛は黒い。
参考�B栗毛は、全身が褐色の毛で覆われている。たてがみや尾も同色のものが多いが、白い(金色)ものは尾花(おばな)栗毛と呼ぶ。
参考�C栗毛駮は、栗色で体に大きな白斑のあるもの。原色毛によって栗駁毛、鹿駁毛、青駁毛と表記され、白斑が体の多くを占めるとき駁栗毛、駁鹿毛、駁青毛という。
参考�D��黒は、全身真っ黒の最も黒い毛色。季節により毛先が褐色を帯び青鹿毛に近くなることがある。
参考�E鴾毛駮は、鴾毛で体に大きな白斑のあるもの。
参考�F鹿毛は、最も一般的な毛色で、鹿の毛のように茶褐色で、タテガミ･尾･足首に黒い毛が混じる。
参考�G葦毛は、体の一部や全体に白い毛が混生し、年齢とともにしだいに白くなる。はじめは栗毛や鹿毛にみえることが多い。原毛色の残り方から赤芦毛・連銭芦毛など種々ある。
参考�H白栗毛は、栗毛の白いものは尾花(おばな)栗毛と呼ぶ。
参考�I黒瓦毛は、河原毛の黒部分が多いものと思われる。
参考�J生倫�~主は、伊勢神宮の神主で度会氏の会賀四郎。兄は次郎光倫で相賀と名乗る。後に相賀が雑賀にかわる。

現代語養和二年(1182)正月大廿八日己亥。伊勢神宮に奉納する馬や砂金の事を、常々検討されていましたが、今日清めの終えた者から幕府へ献上されました。そこで、頼朝様は御所の中でこれを拝見しました。すぐに了解されこれらに決められました。まず、砂金百両を千葉介常胤と小山四郎朝政が献上しました。次に馬１０頭が御所の庭に引き出されました。俊兼が濡れ縁において、毛の種類の名簿を記録しました。
　一疋鴾毛〔江戸太郎（重長）進ず〕　　　　　　一疋河原毛〔下河邊四郎（政義）進ず〕
　一疋栗毛〔武田太郎（信義）進ず〕　　　　　　一疋栗毛駮〔吾妻八郎進ず〕
　一疋���K〔高塲次郎進ず〕　　　　　　　　　　一疋鴾毛駮〔豊田太郎（幹重）進ず〕
　一疋鹿毛〔小栗十郎（重成）進ず〕　　　　　　一疋葦毛〔葛西三郎（�C重）進ず〕
　一疋白栗毛〔河越太郎（重頼）進ず、額は白〕　一疋�K瓦毛〔中村庄司（宗平）進ず〕
以上の馬を選んで決めた後で、伊勢神宮の神主の会賀四郎生倫の屋敷へ預けました。皆、馬の飼料を一緒に渡しましたとさ。

解説網野善彦氏によると、頼朝が寄っていた伊豆山神社(走湯山)は土佐の介良荘を持っていて、走湯山は五堂灯料船を50艘管轄し、関渡津泊の沙汰人に対し頼朝が命令した治承六年(1182)正月の下文が伊豆山神社に伝わっている(『平安遺文』3974号)。文永九年(1272)十二月十二日の関東下知状にこの船が千葉為家(東胤頼子孫)に関手(関銭)を取られたのを訴え、幕府は同文の治承五年正月の年紀をもつ下文(伊豆山と同文)を有効と認めているとのこと(日本史への挑戦・網野善彦森浩一共著)。なお、頼朝は平家朝廷の年号を認めなかったので、治承六年と使っている。

二月へ

吾妻鏡入門第二巻