吾妻鏡入門第十二巻　　　

建久三年(1192)壬子正月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　うのこく　　ばっか つるがおかぐう　ぎょさん
建久三年(1192)正月大一日甲戌。夘剋。幕下鶴岡宮へ御參す。

きょう　はじ　　　　しゅじょう　　〔 なのかよ 〕　　　　はちまんぐう　 をい　 おこな　らる　　　 うんぬん　　ごしんぱい いご　　　おうばんの ぎ　あ　　　　　うんぬん
今日始めて修正�@〔七ケ夜〕を八幡宮に於て行は被ると云々。御神拝以後。垸飯之儀有りと云々。

参考�@修正は、修正月会。毎年1月に行われる法会。前年を反省して悪を正し、新年の国家安泰、五穀豊穣などを祈願するものである。期間は基本的に7日間である。ウィキペディアより

現代語建久三年(1192)正月大一日甲戌。午前六時頃に、頼朝様は鶴岡八幡宮へお参りをしました。
今日初めてお正月にする修正月会〔七日夜〕を鶴岡八幡宮で行われたそうです。神様に拝んだ後は、ご馳走の振る舞いがありましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おんまとはじめなり
建久三年(1192)正月大五日戊寅。御的始也。

　　　いて
　射手

　　　　 しもこうべのしょうじゆきひら　　　　　　　きつじきんなり
　　下河邊庄司行平　　　　橘次公成�@

　　　　 のざのさえもんのじょうよしなり　　　　　 あいこうのさぶろうすえたか
　　野三左衛門尉義成�A 　　愛甲三郎季隆�B

　　　　 はんがやつのしろうしげとも　　　　　　　ふじさわのじろうきよちか
　　榛谷四郎重朝�C 　　　　藤澤次郎�C近�D

参考�@橘次公成は、伊予出身。出羽国小鹿島を貰い小鹿島と名乗っていく。
参考�A野三左衛門尉義成は、野が小野一族で三は三男。おそらく横山党。
参考�B愛甲三郎季隆は、神奈川県厚木市愛甲石田。
参考�C榛谷四郎重朝は、秩父一族で榛谷御厨を開く。神奈川県横浜市保土ヶ谷区旭区。
参考�D藤澤次郎�C近は、諏訪一族で�C親とも書く。長野県北佐久郡北立科町藤沢。

現代語建久三年(1192)正月大五日戊寅。今年初めての弓矢の会です。
射手は、
　下河辺庄司行平　　　　対　橘次公成
　小野三郎左衛門尉義成　対　愛甲三郎季隆
　榛谷四郎重朝　　　　　対　藤沢次二郎清親。

説明この記事にちなんで、現在八幡宮では新暦の正月五日に除魔神事として小笠原流による大的始めを実施している。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はちまんぐう　　しゅじょうけちがん　　 ばっか ぎょさん
建久三年(1192)正月大八日辛巳。八幡宮の 修正結願す。幕下御參す。

現代語建久三年(1192)正月大八日辛巳。鶴岡八幡宮の修正月会の願掛けの最終日です。頼朝様はお参りをしました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いぬのこく　わかみや　しゅじょう　〔ひとかよ〕　　これ　　と　　 おこな　らる
建久三年(1192)正月大九日壬午。戌剋。若宮の修正〔一ケ夜〕之を遂げ行は被る。

現代語建久三年(1192)正月大九日壬午。戌の刻(午後八時頃)に鶴岡八幡宮下宮の修正月会〔一晩です〕を終えることが出来ました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　わかぎみ　つるがおか　ぎょさん　　　さきざき　　おんきば　　 きょう　　　にょぼうごし　　もち　　らる
建久三年(1192)正月大十一日甲申。若公、鶴岡へ御參す。先々は�@御騎馬。今日は女房輿を用い被る。

おやまのごろうむねまさ　 ぎょけん　 も
小山五郎宗政、御劔を持つ。

参考�@先々はは、今までは。

現代語建久三年(1192)正月大十一日甲申。若君(万寿丸で後の頼家)が、鶴岡八幡宮へお参りです。
今までは馬に乗ってきていましたが、今日は女性用の神輿のような乗り物です。小山五郎宗政が太刀持ちをしました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ちょうげんしょうにん　ししゃ　　さん　 うった　い
建久三年(1192)正月大十九日壬辰。重源上人が使者、參じ訴へ云はく。

すおうのくに　 をい　　　　とうだいじ　　 はしら　ひ　　　のかん　　おおうちのすけひろなり　いささ　いらん　　な　　ところなり
周防國に於て、東大寺の柱を引く之間、 大内介弘成�@、聊か違乱を成す所也。

ただ　おこな　らる　 べ　　　か　　　てへ　　　　　　さた　　　あ
糺し行は被る可き歟と者れば、沙汰有り。

ししゃ　　　おお　 られ　 い　　　　　　ひとへ　かんとうしょかんのやから　あらず　はや　そうもんせら　 べ　　　　うんぬん
使者に仰せ被て云はく、偏に關東所勘之輩に非。早く奏聞被る可しと云々。

参考�@大内介弘成は、周防国大内郡司で、事実上の周防の介を兼務している。重源が事実上の国司職として在庁官人(在地領主)に対し権力を振るうが一筋縄ではいかない。

現代語建久三年(1192)正月大十九日壬辰。東大寺再建の重源上人の使いが、やってきて訴えて云うのには、周防国(山口県)で、東大寺再建用の材木を山から引き出していたら、大内介弘成が邪魔をしました。邪魔をしないように命令して下さいと云ったので、審議をして解答を出しました。
使いに対して言われるのには「そいつは関東の管理下の者(非御家人)ではないので、早く京都朝廷へ訴えなさい。」だとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しんぞう　　みどう　　　ち　に　とうぎょ
建久三年(1192)正月大廿一日甲午。新造の御堂の地于渡御す。

ぼんど の かん　　どせき　　はこ　 ひっぷらの　なか　　　　ひだりめめくらのおとこあ　　　　　ばっか み　　　これ　 あや
犯土之間。土石を運ぶ疋夫等之中に、左眼盲之男有り。幕下覽て之を恠しみ。

か　　 もの　　なにごくよ　　　　　だれびと　しん　　　　や の よしたず　　おお　　らる
彼の者は何國自りの誰人が進ぜる哉之由尋ね仰せ被る。

よつ　　かげときこれ　 あいたず　　　　いへど　わからず　　ごぜん　　 め　　　よ 　　　らる
仍て景時之を相尋ねると雖も不分明。御前に召し寄せ被る。

さぬきのしろうだいぶ おんめ　 うかが　　　めんばく　　　 のところ　　かいちゅう　いっしゃくよ　うちがたな　　おび　　　ほと　　　 かんぴょう　ごと
佐貫四郎大夫御目を伺い、面縛する之處、懷中に一尺餘の打刀�@を帶る。殆んど寒氷の如し。

また　　そ　　 めくら　 み　　　　　　　ぎょりん　 もつて め　　　うえ　　おお　　　いよい　がいしんあ　　ものの よし　　し　　　　　め　　　　　これ　　すいもんさる
又、其の盲を覽るに、魚鱗を以而眼の上を覆ふ。弥よ害心有る者之由と知ろし食し、之を推問被る。

　なの　　　もう　　　　い　　　　　　　かずさのごろうひょうえのじょう　なり　ばっか　はか　たてまつ　 ため　　すうじつかまくらじゅう　へめぐ　　　うんぬん
名謁り申して言はく。上総五郎兵衛尉�A也。幕下を度り奉らん爲、數日鎌倉中を經廻ると云々。

すなは　よしもりに くだ　　たま　　　　　 どうい　　 やから　め　　　たず　 らる　 べ　　　 のむね　　これ　 おお　 ふく　 らる　　　　うんぬん
即ち義盛于下し賜はる。同意の輩を召し尋ね被る可し之旨。之を仰せ含め被ると云々。

参考�@打刀は、足緒(あしお)で腰に吊(つ)る太刀に対して、刃の側を上にして腰に差す刀。抜く動作と斬る動作が一連になる利点がある。元来は下卒が用いたものであるが、戦国時代には平時の差し料として武将たちも常用するようになり、やがて、大小拵(だいしようごしらえ)を生むに至った。ウィキペディアから
参考�A上総五郎兵衛尉は、藤原忠光。治承四年五月二十日左兵衛尉に叙任。平家の都落ちに従ったので平忠光と云う。父は上総介忠清。弟が化粧坂下の景清牢で有名な悪七兵衛景清。

現代語建久三年(1192)正月大二十一日甲午。新築予定のお堂の土地へ行かれました。
土地神へのお祭をして造成工事の最中に、土砂を運ぶ人夫の中に、左目が見えない男がいます。頼朝様はこれを見て、五体満足でない者が神仏の施設建設人夫として、御家人が差し出すわけが無いので、怪しくお思いになられました。
一体あの者は何処の国から来た何と言う御家人の提供なのか質問をされました。それで梶原景時が調べて見ましたが誰だか分かりません。
そこで目の前へ呼びつけられて、佐貫四郎大夫広綱が頼朝様の目の合図を感じて、捕えて縛り上げてしまいましたら、懐の中に一尺(30cm)の刀を隠していました。これは冷や汗ものでした。又、その目を見ると魚の鱗で眼球を覆って目の不自由なふりをしていました。いよいよもって怪しい奴だとお知りになり、尋問をしました。
名を名乗るのには、上総五郎兵衛尉平忠光であり、頼朝様を暗殺しようと、数日鎌倉の中にうろついていたんだそうだ。直ぐに侍所長官の和田義盛に渡しました。仲間の連中の名をはかせるようにと、言いつけられましたとさ。

説明平景清(生年不詳 - 1196年(建久7年)?)は平家に仕えて戦い、都落ちに従ったため俗に平姓で呼ばれているが、藤原秀郷の子孫の伊勢藤原氏(伊藤)本名は藤原景清(伊藤景清)。通称、上総七郎(かずさのしちろう、上総介忠清の七男であるため)。信濃守(1180年)、兵衛尉。「悪七兵衛」の異名を持つほど勇猛であった。『平家物語』巻十一「弓流」において、源氏方の美尾屋十郎の錣を素手で引きちぎったという「錣引き」が特に有名である。ウィキペディアから

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さきのばっかそうとうさん　　ごさんけい　　しか　　　　とうざんじゅうそうら　　らっし　　　こと　　さんぬ　ぶんじよねん
建久三年(1192)正月大廿五日戊戌。前幕下走湯山へ御參詣。而して當山住僧等の臈次�@の事、去る文治四年、

そ　　　しき　　さだ　　らる　　　いへど　　　なお　ややもすれ　いえつ　　　のかん　　きょうご　　ねんかい　 まも　　べ　　　のよし　　かさ　　　　さだ　　くださる　ところなり
其の式を定め被ると雖も、猶、動ば 違越する之間、向後は年戒を守る可し之由、重ねて定め下被る所也。

参考�@臈次は、身分序列。

現代語建久三年(1192)正月大二十五日戊戌。頼朝様は、伊豆山権現走湯神社へお参りです。
そして伊豆山神社に住む僧の序列について、以前の文治四年(1180)にその規則をきめてあるのだけれど、うっかりすると序列を越えてしまうこともあるので、今後は僧侶のキャリアの順を守るように、さらにお決めになられ命じられたのです。

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