吾妻鏡入門第十七巻

建仁元年辛酉(1201)十二月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　もんじょうしょうのぶひら　しせつ　　な　　じょうらく　　　　これ　　さえもんのかみ　　じじょう　　あげらる　　なり
建仁元年(1201)十二月大二日戊寅。�ﾘ。　文章生�@宣衡 使節と爲し上洛す。是、左衛門督の辞状を上被る�A也。

これ　　よっ　　おんいしょ りゃく　　べ　　 のむね　　まんどころ　おお　 らる　　　 うんぬん
之に依て御位暑�B略す可き之旨、政所に仰せ被ると云々。

参考�@文章生は、律令制で、詩文歴史を学ぶ学生。平安時代になると擬文章生を経て、式部省の文章生試に合格した人。このうち二名が文章得業生となり、文章博士（もんじょうはくじ）となる。
参考�A辞状を上被るは、辞表を提出するであるが、頼家は、正治二年十一月七日条で左衛門督任命時に従三位を貰っているので、左衛門督は本来従四位相当なので、上位低官である。その低官を辞することは、上位の官職を要求している事になる。それなので位署を略したと思われる。
参考�B位署は、花押を書く場所に位を書く。例　署名蘭に「左衛門督（花押）」となる。

現代語建仁元年(1201)十二月大二日戊寅。晴れです。文章生試験合格者の三善宣衡が、使いとして京都へ出かけました。これは左衛門督頼家様が左衛門督の辞表を朝廷へ提出するためです。これは上位の官職を要求するためなので、署名欄に官職を書かないように、政務事務所の政所へ仰せつけになられましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　なかつさかにゅうどうきょうれん　ごしょ　　まい　　　 きんじつ きらくすべ　　のよし　  もう
建仁元年(1201)十二月大三日己夘。　中務入道經蓮　御所へ參り、近日歸洛可き之由を申す。

よしかずもう　 つぎたり　　ひがし　 こごしょ　　 まい　　　　しそく　たかしげ　　あいぐ
能員申し次爲。東の小御所に參る。子息高重を相具す。

さきんご　たいめん　 たま　　　 しゅうこうされ　ところのしょりょう　うち　　ま　　　いっしょ　 かえ　 たま　　べ　　　のよし　　きょうれん　おお　　くださる
左金吾對面し給ふ。収公被る所之所領の内、先ず一所を返し給ふ可し之由、經蓮に仰せ下被る。

そ　　ついで　もっ　じょうじょう　じくっかいとき　　うつ
其の次を以て條々の述懷尅を移す。

ある　　　　おうじ　　 わす　　がた　　　　もう　　　　ある　　　　ほうこうこれ　た　　こと　　　　　　の　　　　 ひと　 なみだ　ぬぐ　 たいしゅつ
或ひは往事を忘れ難きと申し、或ひは奉公之他に異なるを述べ、獨り涙を拭い退出す。

さえもんのじょうよしもりいか　まのあた　　　　おうじ　　 み　き　　　の ろうじんら　　　これ　　き　　 おお　　らくるい
左衛門尉義盛已下　親りに往事を視聽く之老人等、之を聞き多く落涙す。

また　　えまのたろうどの　ないない　 かくん　　もうされ　　い
又、江馬太郎殿内々に家君に申被て云はく。

きょうれんしゅうこうされ　ところのち　　くんこう　　しょう　あらず　な　　　　　ざいか　　なだ　　らる　　　　 うえは　　ことごと　これ　 かえ　 つ　　　らる　　べ　　　か
經蓮 収公被る所之地、勳功の賞に非は莫し。罪科を宥め被るの上者、悉く之を返し付け被る可き歟。

か　　もの　ふだいの　ゆうしたり　　　そ　　　うら　　　　のこ　　ば　　　こうし　　をい　　さだ　　　　あとうの　おもい　 さしはさ　べ　　　 なん　つつし　おぼ　　め　　 れんや　　うんぬん
彼の者譜代之勇士爲。其の恨みを貽さ者、公私に於て定めし阿黨之思を挿む可し。盍ぞ愼み思し食さ被哉と云々。

現代語建仁元年(1201)十二月大三日己卯。中務入道経蓮佐々木経高が、御所へ来て、近いうちに京都へ戻りますと申しあげました。比企能員が取り次ぎ、東の小御所へ来ました。息子の高重も一緒です。左衛門督頼家様がお会いになられました。「取り上げてしまった領地の内、まずは一か所を返してあげよう。」と経蓮に仰せになりました。そのついでに、数々の思い出話が出ました。ある時は昔の思い出は忘れられないと云い、又将軍に尽くしたことは他の人と比べようもありませんと話し、一人で涙をこぼしながら引き下がっていきました。

和田左衛門尉義盛を始めとする実際に昔を見知っている年寄りたちは、この話を聞いて、皆昔をしのんで涙を流しました。

又、江間太郎泰時様は、内々に主の北条義時様に云うのには、「経蓮が没収されている領地は、手柄による褒美でない所はありません。罪を許してあげるのならば、全て返してあげるべきではないでしょうか。彼は、昔っから仕えている勇士です。それに対し、全て返さなかった恨みを残しておいては、何かあった時にきっと敵に回る気持ちを持つかもしれません。なんで慎み深い思慮をしないのでしょうね。」だとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ごしょ　　 おんまり　　にんずうまえ　おな　　　 かず　　さんびゃくにじうなり
建仁元年(1201)十二月大十八日甲午。御所の御鞠。人數前に同じ。數は三百二十也。

現代語建仁元年(1201)十二月大十八日甲午。御所では蹴鞠です。人数は前と同じです。数は三百二十でした。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぜんのしんじ　きょうとよ　　　きさん　　　　　もう　　　　い
建仁元年(1201)十二月大廿八日甲辰。善�@進士�A京都自り歸參し、申して云はく。

じうごにち　おんじひょう　ささ　　　　ちょっきょな　　　　 かえ　 くださる　　　 うんぬん
十五日御辞表を捧ぐ。勅許無く、返し下被ると云々。

参考�@善は、三善。
参考�A進士は、式部省の文章生試に合格した人。文章生に同じ。

現代語建仁元年(1201)十二月大二十八日甲辰。文章生試験合格者の三善宣衡が、京都から帰ってきて報告をしました。「十五日に辞表を朝廷へ出しました。しかし朝廷のお許しがなく、返されました」だとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さ　　　くも　　　　　きょう　　　かげとき　　よとう　　 かつきのしちろうのりむねめしうど　　ごう　　のぞかれ　　ちんぜい　 かえ　 くださる
建仁元年(1201)十二月大廿九日乙巳。沍え�@陰る。今日、景時の餘黨、 勝木七郎則宗 囚人の号を除被、鎭西へ返し下被る。

参考�@沍えは、ふさがれるの意味。また、身を切る寒さの意味もあるらしい。

現代語建仁元年(1201)十二月大二十九日乙巳。空が雲で覆われています。今日、梶原平三景時の同盟者の勝木七郎則宗が囚人を解かれて、九州へ戻されました。

建仁二年(1202)正月へ

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