吾妻鏡入門第廿一巻

建暦三年癸酉(1213)六月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 えんかんしゅん　わた
建暦三年(1213)六月大二日辛未。�ﾘ。炎旱旬に渉る。

きょう　　　じゅふくじちょうろう　〔ようさい〕　 きょうとよ　　　さんちゃく　　　 ひごろ だいしごう　　しょもう
今日、壽福寺長老〔榮西〕京都自り參着す�@。日來大師号を所望す。

さんぬ　つきみっかぎじょうあ
去る月三日議定有り。

ぞんじょう　 だいしごう　　 こと　　ほんちょう　せんしょう　な　　　よっ　　　　おな　　　 よっか ごんのそうじょう　〔もとごんのりっし〕　　にん　　らる　　　　うんぬん
存生�Aの大師号の事、本朝に先蹤�B無きに依て、同じき四日權�C僧正〔元權律師〕に任ぜ被ると云々。

参考�@京都自り參着は、京都の建仁寺から。
参考�A存生は、生きている内には。
参考�B先蹤は、先例。
参考�C權は、権官（ごんかん）と云って定員外の官職。

現代語建暦三年(1213)六月大二日辛未。晴れです。日照りが十日以上続いています。今日、寿福寺の長官〔葉上坊律師栄西〕が京都から到着しました。この人は、大師の位を望んでいます。先月三日に議会があったが、生きているうちに大師号を与える事は、日本には先例がありませんので、同四日に定員外の僧正〔元は定員外の律師〕に任命したそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　 とらのこく ぢしん　おいのり　 おこな　らる　　　　ふどうごま　　 りゅうせんほっきょう　　こんごうどうじほう　　ごうしんほうげん
建暦三年(1213)六月大三日壬申。天霽。寅刻地震の御祈を行は被る。不動護摩は隆宣法橋。金剛童子法�@は豪信法眼。

また　 やすさだてんちさいへんさい　ほうし　　　　　〔 するがのかみこれよしこれ　　　さた 〕
又、泰貞天地災變祭�Aを奉仕す。〔駿河守惟義之を沙汰す。〕

参考�@金剛童子法は、無量寿仏あるいは金剛薩捶の化身とされ、調伏や息災を祈る密教の修法。
参考�A天地災変祭は、宿曜道に九種152例あり、星宿信仰に関しての天変地異の祈願。

現代語建暦三年(1213)六月大三日壬申。空は晴れています。寅の刻(午前四時頃)地震災害を防ぐお祈りを行いました。お不動さんの護摩焚き法要は隆宣法橋。金剛童子法要は豪信法眼。陰陽道では、安陪泰貞が天地災変祭を行いました〔駿河守大内惟義が負担しました〕。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 ぞくしょうさい　おこなは　　〔　ちばのすけもりたね　　さた　〕　　　　たいふのぶかたこれ　　ほうし
建暦三年(1213)六月大八日丁丑。霽。属星祭を行被る〔千葉介盛胤が沙汰〕。大夫宣賢之を奉仕す。

こちかよしにゅうどう　 かめがやつどうに いは　 こめせし　　 みまさかくらんどともかた　おんし　 な　　　　　これさんぬ　つきふつか かっせんの とき　　ごりゅうがんのずいいつなり
故親能入道が 龜谷堂 于齋ひ籠令む。美作藏人朝賢�@御使と爲す。是去る月二日合戰之時、御立願之随一�A也。

参考�@朝賢は、清原氏らしい。
参考�A御立願之随一は、合戦に勝ったお礼参り。

現代語建暦三年(1213)六月大八日丁丑。晴れました。北斗七星を祀るお祈りです〔千葉介盛胤が負担〕大夫安陪宣賢が勤めました。故中原親能入道の亀谷のお堂に潔斎しお籠りをしました。美作蔵人朝賢が代参です。先達ての二日の合戦に勝ったお礼参りです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 とらのこく　にはか　もっ　 そうどう　　　　　ごけにんら　かっちゅう　 つ　　　　　ごしょ　〔ときにひろもとてい〕　　　　は　　　さん
建暦三年(1213)六月大十二日辛巳。�ﾘ。寅尅。俄に以て騒動す。御家人等甲冑を着け、御所〔時于廣元亭〕�@に馳せ參ず。

 そ　　じつな　　　よっ　　　　すなは　せいひつ　　　　これ　　ただなること　あらず
其の實無きに依て、即ち靜謐す。是、直也事に非。

参考�@御所〔時于廣元亭〕は、和田合戦で燃えてしまったので、大江広元の屋敷に将軍が仮住まい。筋替橋東南。

現代語建暦三年(1213)六月大十二日辛巳。晴れです。寅の刻(午前四時頃)騒ぎがありましたので、御家人達は鎧兜に身を固め、御所〔今は大江広元亭です〕に駆けて集まってきました。しかし、謀反などは実際にはないので、すぐに静まり返りました。これは単なる出来事ではなさそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ひろさわのさえもんのじょうさねたか　びんごのくによ　　 きさん
建暦三年(1213)六月大廿五日甲午。 廣澤左衛門尉實高�@、備後國自り歸參す。

これ　　かいりく　 ぞくと　ほうきせし　　のあいだ　　これ　 あいしず　　　　おととし　 しせつ　　 な　　　　　か　　　くに　　げこう
是、海陸の賊徒蜂起令む之間、之を相鎭めに去々年使節と爲し、彼の國へ下向す。

しか　　　　こころざしをよしもり　　つう　　　　そ や じり　ひゃくこし　 よういせし　　　　おく　　つか　　　　のよし　　 ざんそいできた
而るに 志 於義盛に通じ、征箭尻�A百腰を用意令め、送り遣はす之由、讒訴出來る。

ざいきょうの　し　 おお　 られ　　そ　　　み　　 ちう　　べ　　のおもむき　　ごさた　　 　およ　　　 さねたかこれ　 しらず　　きょうすで　　さんちゃくせし　ところなり
在京之士�Bに仰せ被、其の身を誅す可し之趣、御沙汰に及ぶ。實高之を知不。今日已に參着令む所也。

か　　　ほうゆうら みっこく　　　　すなは　　はたののなかつかさのじろうつねとも　いげ　　 いちぞく　　あいとも　　ごしょ　　 れつ　 まい
彼の朋友等密告す。則ち　波多野中務次郎經朝　以下の一族、相共に御所へ列し參り、

ひろもとあそん　　ぞく　　　　ちん　　もう　　　　い
廣元朝臣に属し、陳じ申して云はく。

そ や 　　こと　　をい　　は　　　まった　か　まかない　そなへず
征箭の事に於て者、全く彼の賄に備不。

よしもり さむらい　べっとう　な　　　　 べつ　　　 おお　　　　しょう　　　あいもよお　のあいだ　べつ　　　ちうのよし　　ぞん　　　　これ　　つか　　をはんぬ
義盛 侍の別當を爲し�C、別なる仰せと稱し、相催す之間、別なる忠之由�Dを存じ、之を遣はし訖。

かつう　よしもり　　じょう　 ぶんめい　　　　 はや　 ざんにん　 めしけっ　　られ　　こ　　 ほか も　　　どうい　　しょうこ あ　　　ば　　さねたかけい　　めん　　られがた　　か
且は義盛が状�Eに分明なり。早く讒人を召决せ被、此の外若し同意の證據有ら者、實高刑を免ぜ被難き歟。

しか　　ざれば　　ざんしゃのとが いかで　　もくし　　られ　　や　　うんぬん
然ら不者、讒者之過 爭か默止せ被ん哉と云々。

よしもり　　しょじょう　　ごらん　　およ　　　　おお　　　　じ　　　の　　　　　のうえ　　　　　 そう　　　あたはず
義盛が書状を御覽に及び、仰せの字を載せる之上は、左右に不能。

さねたか たねんじっこん　 ほうこう　　　のあいだ　 かね　ふたごころ　な　　　のよし　　し　　　　　め　をはんぬ　いままた　 ちんしゃの おもむき　そ　　ことは　　あ
實高多年昵近に奉公する之間、兼て　貳　無き之由を知ろし食し訖。今又、陳謝之 趣、其の理り有り。

もと　　ごと　　きかぢか　　こう　　べ　　　のむね　　じき　 おお　 ふく　　らる　　　　うんぬん
元の如く近々に候ず可き之旨、直に仰せ含め被ると云々。

参考�@廣澤左衛門尉實高は、伊勢神宮の広沢御厨で兵庫県相生市。伊勢波多野氏。
参考�A征箭尻は、戦用の鏃で野矢に比べ鏃が長い。
参考�B在京之士は、在京御家人と云い、京都駐在の御家人。他に在鎌倉御家人と在国御家人がある。
参考�C侍の別當を爲しは、侍所長官としての権限で。
参考�D別なる忠は、特別に指名された忠義の仕事。
参考�E義盛が状は、別当からの命令書。

現代語建暦三年(1213)六月大二十五日甲午。広沢三郎左衛門尉実高が、備後(広島県東部)から帰ってきました。これは、海賊や山賊が出没するので、これを退治するために一昨年から幕府からの派遣員としてその国へ行ったのです。しかしながら、和田義盛と親しいので、戦闘用の鏃百腰(2400本)を準備して送ったと事実を曲げて言いつけて来た者が居ます。京都駐在の武士たちに命令して処刑しようと決定していました。広沢実高はそれを知らずに、今日到着したわけなのです。彼の友達がこれを密かに伝えました。すぐさま、波多野中務次郎経朝を始めとする一族が一緒に御所へ並んで来て、大江広元さんの指令に従って弁解をしました。「戦闘用の矢については、彼への贈り物ではありません。和田義盛は、軍事警察権の侍所の長官をしているので、将軍の特別な命令だと云って催促してきたので、私も将軍への特別に忠義を尽くすべきだと思って、これを送りました。それは和田義盛からの手紙で明らかです。早く嘘を言いつけた奴をお呼びになり対決させてください。その他に証拠が出て来たならば、実高は処刑を許されることは無いでしょうね。そうでなければ、嘘を言いつけた者の罪は放っておくわけにもいきますまい。」だとさ。和田義盛の手紙をご覧になって、命じたことが書かれている以上は、どうこうの余地はありません。実高は長年おそばに仕えてきた者なので、裏切りの心がないことをよく理解されました。今また、弁解の話も理屈が通っています。元のようにおそばに仕えるように、直接云い聞かせましたとさ。

参考伊勢波多野氏　遠義┬義通┬義常─有常　　　又は　遠義─義通┬義經─有経（相模）
　　　　　　　　　　　│　　　└忠通─経朝□□□□□□□□□□□├忠綱─経朝
　　　　　　　　　　　└實方─實高□□□□□□□□□□□□□□└實方─實高（伊勢）

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　 そうしゅう　ぶしゅう　　だいかんれいらさんかい　　　ごしょ　　　しんぞう　 こと ぐんぎ　　およ
建暦三年(1213)六月大廿六日乙未。天霽。相州。武州。大官令等參會し、御所の新造の事群議に及ぶ。

おんみょうだいじょうちかもと　 たいふやすさだ　せんけんれんしょ　かんもん　 すす　　　 これ　　さぬ　　ごがつ　 かっせんのとき　 しょうしつ　よっ　　なり
　陰陽大允親職、 大夫泰貞、宣賢連署の勘文を進む。是、去る五月の合戰之時の燒失に依て也。

現代語建暦三年(1213)六月大二十六日乙未。空は晴れました。相州義時・武州時房・大官令大江広元が集まって、御所の新築の日程について話し合いました。陰陽師の大允安陪親職・大夫安陪泰貞・安陪宣賢が連名でお日柄に関する上申書を出しました。それは五月の合戦で燃えてしまったからです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　いぬのこく　ひかりものあ　　　しばら　ほくてん　 て　　　　 なんぽう　　い　　　ち　　　したが
建暦三年(1213)六月大廿九日戊戌。天�ﾘ。戌刻。光物有り。暫く北天を照らし南方に行き地に随う。

てん　 おか　 ごと　　しょしょ　　かがや　　　しょにんこれ　　み　　　　ある　　　 ひとだま　　い　　　　　 ある　　ながれぼし　しょう
天、岡の如く所々に曜く。諸人之を見て、或ひは人魂と謂い、或ひは流星と稱す。

現代語建暦三年(1213)六月大二十九日戊戌。空は晴れです。戌の刻(午後八時頃)光る物があります。しばらく北の空に光って、南の方角へ行って地面に消えました。空に岡があるように所々が耀いています、人々はこれを見て、人魂だとか、流れ星だとか云ってます。

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