吾妻鏡入門第廿三巻

建保六年戊寅(1218)七月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 ちょくしただつなあそん きらく　　　　しょうぐんけよ　　　　　あんめさんびき いげ　　　せんもつ　　たま
建保六年(1218)七月大一日庚子。�ﾘ。勅使忠綱朝臣歸洛す。將軍家自り、鞍馬三疋已下の餞物を給はる。

現代語建保六年(1218)七月大一日庚子。晴れです。天皇の代理勅使の藤原忠綱さんが京都へ帰りました。将軍実朝様から馬三頭をはじめとする餞別が与えられました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 　げこう　　うんきゃく　さきのひょうえのすけためもり　かざんいんじじゅうよしうじら　きらく
建保六年(1218)七月大五日甲戌。霽。下向の雲客、 前兵衛佐爲盛、 花山院侍從能氏等 歸洛す。

現代語建保六年(1218)七月大五日甲戌。晴れです。鎌倉へ下って来ていた殿上人の前兵衛佐平為盛・花山院侍従一条能氏達が京都へ帰りました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　さだいしょうけ　　　ごのうし　はじ　 なり　　よっ　つるがおかぐう　まい　　たま　　 うまのこくいでたま
建保六年(1218)七月大八日丁丑。�ﾘ。左大將家、御直衣始め也。仍て鶴岳宮へ參り御う。午剋出御う。

さきがけなら　　 ずいへい いげ　　さんぬ　つき にじうしちにち　ぐぶにん　　もち　　られ　　　　ただ　すうやからきらく
前驅并びに随兵已下、去る月 廿七日の供奉人を用い被る。但し數輩歸洛す。

また　　うけいちょう　　 ろじ　　　 ぐぶ　されず　　　　ぐうじ　　さんかい　 たま
又、右京兆は路次を供奉被不。宮寺で參會し給ふ。

ずいへいのうち　おおすがのたろうみちのぶびょうあ　 よっ　　さわ　　　 もう　　のあいだ　　みんぶのじょうひろつな　め　　　そ　　　かえ　　な
随兵之中、大須賀太郎道信病痾に依て障りを申す之間、 民部丞廣綱 を召し其の替と爲す。

せんど　　みちのぶと　ながえのしろうあきよし ぎょうれつ　　　いずのさえもんのじょうよりさだ　と　みうらのさえもんのじょうよしむら ぎょうれつ
先度、道信与 長江四郎明義 行列し、 伊豆左衛門尉頼定 与 三浦左衛門尉義村 行列す。

このたびは　 よりさだと ひろつななり　　よっ　 よしむらひだり　そうら
今度者、頼定与廣綱也。仍て義村左に候う。

あきよし　 みぎ　　れっ　　べ　　　のよし　　さだ　　られ　 のところ　 よしむらもう　　　　い　　　　　　　あきよし　　こうねんたり　　みぎに そうら　がた　　　うんぬん
明義は右に列す可し之由、定め被る之處、義村申して云はく。明義は高年爲。右于候い難しと云々。

あきよしもう　　　　い　　　　　　　よしむら　　ゆうかんのうえ　　みうらのすけよしずみのゆいせき　つ　　　　もっと　ひだり　れっ　 べ　　 なり　　うんぬん
明義申して云はく。義村は有官之上、三浦介義澄之遺跡を継ぐ。尤も左に列す可き也と云々。

こ　 れいせつとき　 うつ　　　　すこぶ　おんいで　わずら　たるのよし　　たいふほうがんゆきむら　ごぜんに まい　 もう
此の礼節剋を移す。頗る 御出の煩い爲之由、大夫判官行村 御前于參り申す。

おお　　　　い　　　　　　おのおのおんびん　ぞん　　　もっと　かん　　た
仰せて曰はく。 各 穩便を存ず。尤も感に絶えたり。

きょう　　　おんいでの ぎ　　　こと　　と　　 おぼ　　め され　ところなり　　しか　　　 よしむらこうえあ　　　べ　　　　　あきよしは　ぜんと　　な　　　ものか
今日の御出之儀、殊に執り思し食被る所也。而るに義村後榮有る可し。明義者前途の無き者歟。

しからずんば　ひだりにそうら　せし　　　　しそんの　びもく　　そな　　べ　　てへ
 然者、 左于候は令め、子孫之眉目に備う可し者り。

ゆきむらみけしき　おもむき　あいふれ　のあいだ　　かさ　　　　しさい　　もう　　　　あたはず　　ながえひだり　な
行村御氣色の趣を相觸る之間、 重ねて子細を申すに不能、長江左と爲す。

ぎょうれつ
行列

　　　　さきがけ　　〔にぎょう〕
　　前駈〔二行〕

　　うこんのくろうどなかよし　　　　　　　 さこんのくろうどちかざね
　右近藏人仲能　　　　左近藏人親實

　　 さこんたいふすえみつ　　　　　　　 さこんたいふともちか
　左近大夫季光　　　　左近大夫朝親

　　 さきのむさしのかみよしうじ　　　　　 うまのすけのりとし
　前武藏守義氏　　　　右馬助範俊

　　さがみのかみときふさ　　　　　　　　 くろうどたいふありとし
　相摸守時房　　　　　藏人大夫有俊

　　さきのちくごのかみよりとき　　　　　　みんぶごんのしょうゆうちかひろ
　前筑後守頼時　　　　民部權少輔親廣

　　さきのするがのかみこれよしあそん　〔さいまつ　ひとり　ぐぶ　〕
　前駿河守惟義朝臣〔最末に一人供奉〕

　　　　てんじょうびと 〔いちぎょう〕
　　殿上人〔一行〕

　　しんくろうどときひろ　　　　　　　　　　もんじょうがくじなかあきら
　新藏人時廣　　　　　文章博士仲章

　　いちじょうちうじょうのぶよしあそん
　一條中將信能朝臣

おくるま　〔ごずいしん　　おんくるまぞえらさんぬ　つき　　おな　　〕
御車〔御随身　御車副等去る月に同じ〕

　　　　ずいへい〔にぎょう〕
　　随兵〔二行〕

　　ながえのしろうあきよし　　　　　　　　みうらのさえもんのじょうよしむら
　長江四郎明義　　　　三浦左衛門尉義村

　　いずのさえもんのじょうよりさだ　　　 あさぬまのみんぶのじょうひろつな
　伊豆左衛門尉頼定　　淺沼民部丞廣綱

　　しきぶのたいふやすとき　　　　　　　 ちくごのさえもんのじょうともしげ
　式部大夫泰時　　　　筑後左衛門尉朝重

　　あいだのじょうすけかげもり　　　　　　 ときのさえもんのじょうみつゆき
　秋田城介景盛　　　　土岐左衛門尉光行

現代語建保六年(1218)七月大八日丁丑。晴れです。左大将家将軍実朝様の、直衣装束を許され初めて着て参内する儀式です。内裏の代わりに鶴岡八幡宮へお参りです。昼頃に出発しました。先払いと武装儀仗兵は先月27日の参加者をそのまま使いました。但し何人かは京都へ帰りました。また、右京兆義時さんは、お供をなされず、鶴岡八幡宮で待ち合わせます。

儀仗兵のうち、大須賀太郎道信が病気のために都合が悪いと云うので、浅沼民部丞広綱を指定してその代わりにしました。前は、大須賀道信と長江四郎明義が並んで、伊豆左衛門尉頼定と三浦平六左衛門尉義村が並びました。今度は、伊豆頼定と浅沼広綱です。それで三浦義村は、左側へ並び、長江明義に右へ並ぶよう決めたところ、三浦義村が云うのには、「長江明義は高齢者なので、右へ並ぶべきではないでしょう？」との事です。長江明義は云いました。「三浦義村は、官職を持っており、三浦介義澄の後三浦一族を継いでます。やはり左に並ぶべきですよ。」だそうな。「この譲り合いが長引いていて、出発の妨げになってます。」と、大夫判官二階堂行村が将軍実朝様の前へ来て申しあげました。将軍実朝様は「それぞれ譲り合いの精神が美しい。感動した。今日の外出は特に大事に思っているのです。そこで三浦義村は若いのでまたの機会があるだろう。長江明義は高齢者で機会がないかもしれない。それなので、左に並んで子孫への名誉にするが良い。」と仰せになりました。二階堂行村が、将軍実朝様のご意思を伝えたところ、それ以上もめることなく、長江四郎明義が左側となりました。�@

行列は、
　　先払いの儀仗兵〔二行〕
　右近蔵人伊賀仲能　左近蔵人三条親実
　左近大夫毛利季光　左近大夫美作朝親
　前武蔵守足利義氏　右馬助範俊
　相模守時房　　　　蔵人大夫有俊
　前筑後守頼時　　　民部権少輔源親広
　前駿河守大内惟義さん〔一番後ろの一人です〕
　　殿上人〔一行〕
　新蔵人長井時広　　文章博士源仲章
　一条中将信能さん
将軍実朝様の牛車〔護衛と牛車係は先月と同じです〕
　　武装儀仗兵〔二行〕
　長江四郎明義　　　三浦左衛門尉義村�@
　伊豆左衛門尉頼定　浅沼民部丞広綱
　式部大夫北条泰時　筑後左衛門尉朝重
　秋田城介景盛　　　土岐左衛門尉光行

説明�@長江四郎明義と三浦左衛門尉義村の文章によって、原文は上下に書いてあるので、上が左だと分かった。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 みめい　　　　うけいちょうおおくらごう　　わた　　たま　　 みなみやま　きわ　 をい　　　　びんぎの　と　　うらな
建保六年(1218)七月大九日戊寅。�ﾘ。未明に、右京兆大倉卿に渡り御い、南山の際に於て、便宜之地を卜う。

いちどう　　こんりゅう　　　やくしぞう　　あんちされ　　べ　　　　　うんぬん
一堂を建立し、藥師像を安置被る可きと云々。

これ　　さく　しょうぐんけ つるがおか　おんいでのとき さんかいされ　　ばん　　およ　　おんれい　　かえ　　　きゅうそくせし　　たま
是、昨の將軍家 鶴岳へ御出之時 參會被、晩に及び御亭へ還り、休息令め給う。

　ごむちう　　　　　やくしじうにしんしょう　　うち　　いぬじん　　おんまくらがみにきた　　い
御夢中に、藥師十二神將の内の戌神、御枕上于來りて曰はく。

ことし　　　はいが　　 ぶじ　　 みょうねん　はいがの　ひ　　　ぐぶ　せし　　たま　　　　な　　　　　てへ
今年の神拝は無事。明年の拝賀之日、供奉令め給ふ莫かれ者り。

おんゆめさむ　ののち　　もっと　　きい　　　な　　　　　かつう　そ　　　い　　　えず　　　うんぬん
御夢覺る之後、尤も奇異を爲す。且は其の意を得不と云々。

しか　　　　ごそうねんの　とうしょよ　　　　　もっぱ　 にろく　　せいがん　 も　　　たま　　のところ　　いまれいむの　つ　　　　ところ
而るに御壯年之當初自り、專ら二六�@の誓願を持ち給ふ之處、今靈夢之告げる所、

しんこうせざ　 べからざるのあいだ 　ひなみ　　　さた　　　およ　　ず　　　ぼんう　　こんりゅうされ　べ　　　のよしおお　　られ
信仰不る可不 之間、 日次の沙汰に及ば不、梵宇を建立被る可き之由仰せ被る。

ここ　　そうしゅう　　 りぶ　ら　こ　　 こと　 かんしん　　　　たま　　ず　　　おのおの　かん　 もうされ　　い
爰に相州、李部等此の事を甘心され給は不、　各　諌じ申被て云はく。

ことし　　　ごしんぱい　　 こと　　 よっ　　　 うんきゃく いげ さんこう　　　　そ　　あいだ　　ごけにん　　 い　　　 どみんら　　　い　　　　おお　　もっ　　さんざい　ついや
今年は御神拝の事に依て、雲客以下參向す。其の間、御家人と云ひ土民等と云ひ、多く以て産財を費す。

しゅうたんいま　やす　　　のところ　 またえいさく　 あいつづ　られ　　　　　ぶみんのぎ　　 かな　 がた　 か　　　うんぬん
愁歎未だ休まず之處、亦營作を相續け被る。撫民之儀に協い難き歟と云々。

うけいちょう　 これ　 いっしん　 あんぜん　 すくがんなり　　さら　ひゃくせいのわずら　　かり　 べからず
右京兆、是は一身の安全の宿願也。更に百姓之煩いを假る不可。

ようかいぬのこく　 あては　　　　いおうぜんせい けんぞく　いぬじんのつげあ　　　　 なん　 おもいた　ところ　　もくし　　　　や　のよしおお　　られ
八日戌剋を當矧ぎ、醫王善逝�A眷屬の戌神之告有り。何ぞ思立つ所を默止せん乎之由仰せ被る。

よっ　 たくみら　　め　　　　　さしず　　くだされ　　なり
仍て匠等を召し、指圖を下被る也。

参考�@二六は、十二神将で薬師信仰のこと。
参考�A医王善逝は、薬師如来。

現代語建保六年(1218)七月大九日戊寅。晴れです。夜明け前に、右京兆義時さんは大倉の地へ行かれて、南山の麓に神聖な土地を占いました。お堂を建てて、薬師像を祀るつもりだそうな。これは、先日の将軍実朝様の鶴岡八幡宮へのお参りに立ち会われ、夜になって屋敷へ帰り休みました。夢の中で薬師如来の警護の十二神将の内の戌神将が、夢枕に立って云いました。「今年の参拝は無事だったけれども、来年のお礼参りはお供をしない方がいいよ。」でした。夢が覚めた後、とても不思議な気持ちがしました。又、その意図が分かりませんでしたとさ。それでも、大人になってから、づうっと薬師如来とその眷属十二神将信仰を誓ってこられた所、今、夢のお告げがあったので、なおさら信仰しないわけにはいかないので、お日柄なんかかまわずにお堂を建てるのだと、仰せになられました。
そしたら、相州時房さんと李部泰時さんは、このことを感心されず、それぞれ留め申しました。「今年は、将軍実朝様の大将就任のお礼参りで、殿上人をはじめ、大勢が鎌倉まで下ってきました。その間、御家人も民衆も多く財産を浪費しました。その付けがまだ収まらないのに、お堂を建てるなんて、民百姓を大事にする精神に合っていませんよ。」なんだとさ。
義時さんは、「これは私個人の身の安全のための願いである。だから余分に年貢を取ると云った百姓を煩わせるようなことはありません。八日の戌の刻(午後八時頃)を狙って医王善逝の家来の戌神将のお告げなのだ。どうして思い立ったことを黙って見て居られないのだ。」と仰せになられました。そして大工さん達を呼んで、設計図を与えました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 さむらい　しょし　ごにん　　さだ　　られ
建保六年(1218)七月大廿二日辛夘。侍の所司五人を定め被る。

いはゆる　しきぶのたいふやすときあそんべっとう　な　　　　　やましろのたいふほうがんゆきむら　　みうらのさえもんよしむらら　　　あいぐ　　　　 ごけにん　　 こと　　ぶぎょうすべ
所謂、式部大夫泰時朝臣別當と爲し、 山城大夫判官行村、 三浦左衛門義村等を相具し、御家人の事を奉行可し。

つい　　えのほうがんのりよしは　　おんいで　いげ　　　ごしょちう　　ぞうじ　　　さた　もう　　べ
次で 江判官能範者、御出已下の御所中の雜事を沙汰申す可し。

つい　　いがのじろうひょうえのじょうみつむねは　　ごけにん ぐぶ　　　しょえき いげ　　　こと　　さいそくすべ　　　うんぬん
次に 伊賀次郎兵衛尉光宗者、御家人供奉の所役以下の事を催促可しと云々。

ぶしゅうほう　　おお　　　　おのおの ふれめぐられ　　　うんぬん
武州奉じ仰せて、 各 觸廻被ると云々。

現代語建保六年(1218)七月大二十二日辛卯。晴れです。侍所の次官五人を決めました。それは、式部大夫泰時さんを筆頭にして、山城大夫二階堂行村・三浦平六左衛門尉義村を部下にして、御家人の事を扱いなさい。ついで、大江判官能範は、将軍のお出かけなど御所での雑事を指導しなさい。次に伊賀次郎兵衛尉光宗は、御家人がお供をする役などを伝え集めなさい。との事です。武州時房さんが上申して許可を取り、それぞれに伝え廻りましたとさ。

八月へ

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