吾妻鏡入門第廿六巻

貞應元年壬午(1222)八月大

貞應元年(1222)八月大二日丁丑。霽。戌刻。彗星見戌方。軸星大如半月。色白光芒赤。長一丈七尺餘。

読下し                   はれ  いぬのこく  すいせい いぬ  ほう  あらわ  じくせい  おお    はんげつ  ごと
貞應元年(1222)八月大二日丁丑。霽。戌刻、 彗星@戌の方に見る。軸星Aの大きさ半月の如し。

いろ  しろ  こうぼう  あか    なが   いちじょうななしゃくあま
色は白く光芒は赤い。長さは一丈七尺餘り。

参考@彗星は、ハレーすい星。太陽暦の1222年9月28日。
参考A軸星は、恐らく彗星の星の部分を指すのだろう。

現代語貞応元年(1222)八月大二日丁丑。晴れました。午後八時頃に、彗星が戌(西北西)に見えました。彗星本体の大きさは半月ほどもあり、色は白く尾は赤っぽく、長さは5m余もありました。

貞應元年(1222)八月大十三日戊子。リ。自二日。至去夜〔十二日〕。彗星連夜出見。仍今曉。百日泰山府君御祭被始行之。

読下し                     はれ  ふつかよ     さんぬ よ   いた   〔じうににち〕   すいせいれんやしゅつげん
貞應元年(1222)八月大十三日戊子。リ。二日自り。去る夜に至り〔十二日〕。彗星連夜出見す。

よっ  こんぎょう ひゃくにち たいさんふくんおんさい これ  はじ  おこなはれ
仍て今曉、百日の 泰山府君御祭、之を始め行被る。

現代語貞応元年(1222)八月大十三日戊子。晴れです。二日から昨夜まで〔12日間〕彗星が毎夜現れました。それなので、今朝の明け方に百日間の泰山府君祭を始めました。

貞應元年(1222)八月大十五日庚寅。霽。鶴岡八幡宮放生會。舞樂御經供養如例。」今夜。彗星光纔一尺餘。自二日毎夜出現云々。

読下し                     はれ  つるがおかはちまんぐう ほうじょうえ  ぶがく  おきょうくよう れい  ごと
貞應元年(1222)八月大十五日庚寅。霽。 鶴岡八幡宮 の放生會。舞樂、御經供養例の如し。」

こよい   すいせい こうき いっしゃくあま   ふつかよ   まいよしゅつげん   うんぬん
今夜、彗星の光纔一尺餘り。二日自り毎夜出現すと云々。

現代語貞応元年(1222)八月大十五日庚寅。晴れました。鶴岡八幡宮での生き物を放ち謝罪する儀式放生会です。舞楽やお経の奉納は何時もの通りです。今夜の彗星は光の尾が30cmほどです。二日から毎晩現れているそうな。

貞應元年(1222)八月大十六日辛夘。天快リ。馬塲儀。流鏑馬。射手十六騎。一人而無不中。次有競馬相撲等。

読下し                    そらかいせい   ばば   ぎ   やぶさめ   いて じうろっき   ひとり    て あたらず  な     つい くらべうま  すまい ら あ
貞應元年(1222)八月大十六日辛夘。天快リ。馬塲の儀。流鏑馬、射手十六騎。一人とし而中不は無し。次で競馬、相撲等有り。

現代語貞応元年(1222)八月大十六日辛卯。空は快晴です。馬場での儀式の流鏑馬は射手が16人、一人も当らない人はおりませんでした。ついで競馬や相撲を奉納しました。

貞應元年(1222)八月大廿日乙未。小兩灑。去月廿三日地震。今度彗星等御祈被加行之。三万六千神祭。國道朝臣。天地災變。親職。此外天曹地府。七座泰山府君等被行之。又鶴岡別當法印修不動護摩〔七ケ日〕。

読下し                    こさめそそ    さんぬ つきにじうさんにちぢしん  このたび すいせいら  おいのりこれ  くは  おこなはれ
貞應元年(1222)八月大廿日乙未。小兩灑ぐ。去る月廿三日地震。今度、彗星等の御祈之を加へ行被る。

さんまんろくせんじんさい   くにみちあそん   てんちさいへん    ちかもと  こ   ほか てんそうちふ  しちざたいさんふくんら これ  おこなはれ
三万六千神祭は、國道朝臣。天地災變は、親職。此の外天曹地府@、七座泰山府君等之を行被る。

また つるがおかべっとうほういん ふどうごま  しゅう  〔なぬかにち〕
又、鶴岡別當法印不動護摩を修す〔七ケ日〕

参考@天曹地府祭は、陰陽道で、冥官(みょうかん)を祭って戦死者の冥福などを祈る儀式。六道冥官祭。

現代語貞応元年(1222)八月大二十日乙未。小雨が降ってます。先月23日の地震のお祈りに、今度の彗星とのお祈りを加えて行いました。三万六千神祭は安陪國道さん。天地災変は安陪親職。この他にも天曹地府や七人の泰山府君等を行いました。又、鶴岡八幡宮の筆頭法印定雅はお不動さんの護摩を炊きました〔七日間〕。

貞應元年(1222)八月大廿三日丁酉。彗星猶見坤方。長五尺。

読下し                     すいせいなお ひつじさる ほう  み     なが  ごしゃく
貞應元年(1222)八月大廿三日丁酉。彗星猶、 坤の方に見ゆ。長さ五尺。

現代語貞応元年(1222)八月大二十三日丁酉。彗星は直も坤(南南西)に見えます。長さは1.5mです。

貞應元年(1222)八月大廿九日甲辰。リ。彗星變不見之由。司天等申之。

読下し                     はれ  すいせいへん  みえざるのよし  してんら これ  もう
貞應元年(1222)八月大廿九日甲辰。リ。彗星變じて見不之由、司天等之を申す。

現代語貞応元年(1222)八月大二十九日甲辰。晴れです。彗星はどこかへ行って見えなくなりましたと、天文方が報告しました。

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