吾妻鏡入門第廿六巻

貞應三年甲申(1224)二月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　さるのこくぢしん
貞應三年(1224)二月大三日庚午。�ﾘ。申刻地震。

現代語貞應三年(1224)二月大三日庚午。晴れです。午後四時頃に地震です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　おんつぼ　 をい　いぬおうものあ　　　さきのおうしゅう　しょうこう うりん ら まいられ　　　　いぬじうにひき　　 いて　ろっきなり
貞應三年(1224)二月大十一日戊寅。霽。御壷に於て犬追物�@有り。前奥州、相公羽林等參被る。犬十二疋。射手六騎也。

　　みうらのするがじろうやすむら　　　　　ささきんはちろうのぶとも
　三浦駿河次郎泰村　　佐々木八郎信朝

　　ゆうきのしちろうひょうえのじょうともひら　するがのしろういえむら
　結城七郎兵衛尉朝廣　駿河四郎家村

　　たけだのろくろうのぶなが　　　　　　　よこみぞろくろう
　武田六郎信長　　　　横溝六郎

参考�@犬追物は、犬を円形の柵の中に放ち、それを柵の外から馬上弓で矢じりの無い匹目矢で当てる。

現代語貞應三年(1224)二月大十一日戊寅。晴れました。御所の坪庭で、犬を柵の中に入れ鏃のない矢で当てる「犬追物」をしました。義時さんと一条実雅も見にきました。犬は12匹で射手は6人です。
　三浦駿河次郎泰村　　と　佐々木八郎信朝
　結城七郎兵衛尉朝広　と　駿河四郎家村
　武田六郎信長　　　　と　横溝六郎義行

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　するがのくによ　　　ししゃ　 すす　　　　もう　　　　 い
貞應三年(1224)二月大廿二日己丑。�ﾘ。駿河國自り使者を進め、申して云はく。

おとおい　　〔はつか〕　うしのこく　　とうごくそうじゃなら　　　　 ふじ　しんぐう ら しょうしつ　　　　かみ　 ひ　　うんぬん
一昨日〔廿日〕丑尅、當國惣社�@并びに冨士新宮等燒失す。神の火と云々。

参考�@駿河国総社は、駿河浅間神社内の神部神社で、静岡市葵区宮ケ崎町102-1。神部神社・冨士新宮・大歳御租神社の三社を総称して浅間神社と云う。

現代語貞應三年(1224)二月大二十二日己丑。晴れです。駿河国から使いをよこして申しあげました、「一昨日〔20日〕の午前二時頃に、駿河国総社(静岡浅間神社)と冨士新宮が焼けてしまいました。神の火だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　　へいざぶろうひょうえのじょうもりつな　　びとうのさこんしょうげんかげつなら さきのおうしゅう　おんし　　な　　　　するがのくに　　げこう
貞應三年(1224)二月大廿三日戊寅。�ﾘ。　平三郎兵衛尉盛綱、　尾藤左近將監景綱等　前奥州の御使と爲し、駿河國へ下向す。

 ふじ　しんぐう ら　　　かいろく　　こと　　よっ　　なり
冨士新宮等の回祿の事に依て也。

現代語貞應三年(1224)二月大二十三日戊寅。晴れです。平三郎兵衛尉盛綱と尾藤左近将監景綱は、義時さんの使いとして駿河国へ向かいました。冨士新宮などの火事によあったからです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　きょねんふゆ　ころ　　こうらいじん　じょうせん えちごのくに てらどまりうらに なが　　よ
貞應三年(1224)二月大廿九日丙申。�ﾘ。去年冬の比、高麗人の乘船 越後國　寺泊浦 于流れ寄る。

よっ　　きょう　　　しきぶのたいふ　〔ともとき〕　　そ　　　ゆみや いげ 　　 ぐそくを　わかぎみ　 おんかた 　と　　　すす　　　すなは　これ　 み　　　　おうしゅう いげ ぐんさん
仍て今日、式部大夫〔朝時〕其の弓箭以下の具足於若君の御方に執り進む。則ち之を覽る。奥州以下群參す。

ゆみふたはり　〔けりょう　つね　　ゆみ　　ごと　　　　ただ　　すこぶ　みじか　　　　えみし　ゆみ　　に　　　　　かわ　　もっ　　つる　　 な　　　〕　　　　うつぼいち　　たちいち　　〔つね　かたな　　いささ　ほそなが　　ていなり〕
弓二張〔假令常の弓の如し。但し頗る短し。夷の弓に似る。皮を以て弦と爲す〕。羽壷一。太刀一〔常の刀。聊か細長い躰也〕。

かたないち　〔たいりゃくつね　かたな　　おな　　〕　　　おびひとすじ　〔　を　　もっ　　 これ　　 く　　　〕　　　　か　　　おび　　ちうおう　　ぎんかん　〔なが　　ななすん　　ひろ　　さんずん　　ほうなり〕　　　つ
 刀一 〔大畧 常の刀に同じ〕。帶一筋〔緒を以て之を組む〕。彼の帶の中央に銀簡〔長さ七寸。廣さ三寸の方也〕を付ける。

 そ 　　なか　　めい よじ 　　ちう　　なり　　また　　ぎんさじいち　のこぎりいち　はしいっそう　〔どうぶつ　　ほねなり〕　　　くし　〔かわ　　もっ　　これ　　つく　　くしぶくろ　　これ　　い　　　〕
其の中に銘四字を注す也。又、銀匙一。 鋸一。 箸一雙〔動物の骨也〕。櫛〔皮を以て之を造る櫛袋、之に入る〕。

 ぐそく ら は　　　わがくにのたぐい　 に　　　　みなかたち　み　　な　　 し
具足等者、吾國之類に似る。皆形を見て名を知る。

　よじ　　　めい　　をい　　は　　　ぶんしすうやからさんこうせし　　　いへど　　　 よ　　　　　のひとな　　　　　うんぬん
四字の銘に於て者、文士 數輩 參候令むと雖も、讀める之人無しと云々。

　　かんめい　かきよう
　簡銘の書樣

　　　　                                   おうこうきぞく
　　 王国貴族（續本朝通鑑に寛永十三年來朝の朝鮮進士弘績が云へりと伝ふ。）

現代語貞應三年(1224)二月大二十九日丙申。晴れです。昨年の暮れに、高麗人の船が越後国寺泊の港(新潟県長岡市寺泊片町)へ流れ着きました。それで今日、式部大夫朝時が、その弓矢を始め鎧を若君三寅に持ってきました。さっそくご覧になりました。義時さんはじめ皆集まりました。弓を二張〔殆ど普通の弓と同じです。但しとても短いのです。アイヌの弓に似ています。弓の弦は皮でできています〕。うつぼ(矢を入れる箙の一種)一。太刀一本〔普通の刀、多少細長いようだ〕。刀〔ほぼ普通の刀〕。帯一本〔緒と云う紐で編んだ組みひもです〕。この帯の中央に銀の金具〔長さ21cm広さ9cm〕を付けています。その金具の中に文字が四つ打たれています。又、銀の匙一つ。鋸一つ。箸一膳〔動物の骨製です〕。櫛〔皮で作った袋に入ってます〕。鎧は日本のと似ています。品物は、形を見て分かりました。ただし、四文字については、文官数名が来ましたが読める人は居ませんでした。

金具の文字は「王国貴族」（江戸時代に編集された歴史書に寛永13年に来た朝鮮通信使の弘績がそう読んだそうだ）

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