吾妻鏡入門第廿六巻

貞應三年甲申(1224)八月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　にっしょくせいげんせず　　たしゅう　　　 しょく　　 うんぬん
貞應三年(1224)八月小一日乙未。天�ﾘ。日蝕 正現不。 他州では蝕すと云々。

へいしょくのほど　そうしゅう　〔ときふさ〕　はじ　　　まんどころ　しゅっし
秉燭之程、相州〔時房〕始めて政所に出仕す。

かく　　こくし なら　　　　ぶしゅう　　しっけん　　こと　　ほう　　られ　　ののち　　いまに かく　　ぎ　な
此の國司并びに武州、執權の事を奉じ被る之後、今于此の儀無し。

しか　　　さきのうしゅうぜんしつごじゅん　　うちは　　はばか　ところ　もう　　　　まこと　ことはり　　い　　　　　べ
而るに 前奥州禪室 五旬の中者、憚る所を申す。誠に 理 と謂ひつ可し。

さんぬ　つき またうるうなり　いま　 をい　 は ひなみ　　たく　　　 およばず　　はや　　さん　　せし　　べ
去る月 又閏也。今に於て者日次を擇すに不及、早く參じ令む可き。

かく　あいだ　せじょう しずか ならず　　ひとのおも　　ところ　そ　　うたが　おお　か
此の間、世上 靜か不。人之思う所、其の疑い多き歟。

しか　　ごと　　　　しき　 おこな　れ　　　ば　　 らっきょ　もといたるべ　　　のよし　　にほん しき　　　かん　　おお　　られ　　　 うんぬん
然る如きの式を行は被れ者、落居の基爲可き之由、二品頻りに勸じ仰せ被ると云々。

現代語貞應三年(1224)八月小一日乙未。空は晴れです。日食は現れませんでした。よその土地ではあったようです。灯り時になって、相州時房さんが初めて政務事務所に顔を出しました。この人と泰時さんは、執権の仕事をすることになったのですが、未だに手を付けていません。義時さんの四十九日までは遠慮すると云われています。喪なので本当に理にかなっております。先月は又閏月でした。「今となっては日和を気にしていられないので、早く出勤するように。政務が空白の間は、世の中が静まりません。世間の人は何事かと疑いを持つでしょう。きちんと就任式を行えば、世の中の落ち着く基ともなるでしょう。」と二位家政子様が何度も忠告されたんだそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こさめふる　　おおくらきょうそうづりょうしん　しょうちょうじゅんべっとうしき　 ぶ
貞應三年(1224)八月小八日壬寅。小雨下。大藏卿僧都良信、勝長壽院別當職に補す。」

きょう　　　こおうしゅうぜんしつふんぼどう　　〔　しんほけどう　　　ごう　　〕　　くようなり　　　 どうし　　そうとうさんじょうれんぼう　　　〔かとうさえもんのじょうさねなが　　　おじなり〕
今日、故奥州禪室墳墓堂〔新法花堂と号す〕供養也。導師は走湯山淨蓮房。〔加藤左衛門尉實長が叔也〕

現代語貞應三年(1224)八月小八日壬寅。小雨が降ってます。大蔵卿僧都良信を勝長寿院筆頭に任命しました。

今日、義時さんのお墓での法事です〔新法華堂と云います〕。指導僧は走湯山浄蓮坊です〔加藤左衛門尉実長の叔父さんです〕。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つるがおか　ほうじょうえ えんいん　　　おうしゅうぜんしつ　こと　 よっ　 なり
貞應三年(1224)八月小十五日己酉。鶴岳の放生會 延引す。奥州禪室の事に依て也。

現代語貞應三年(1224)八月小十五日己酉。鶴岡八幡宮の生き物を放して贖罪する放生会は延期です。義時さんの穢れによってです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　きょうと　　ししゃ まい
貞應三年(1224)八月小十九日癸丑。�ﾘ。京都の使者參る。

さんぬ　じういちにち　　さふ　　〔 いえみち　　このえでんか　ごちゃくし 〕　　こう　　 たま　　　〔としにじういち〕　のよしこれ　　もう　　　　こんげつむいかよ　　ごびょうき　　うんぬん
去る十一日、左府〔家通。近衛殿下御嫡子〕薨じ給ふ〔年廿一〕之由之を申す。今月六日自り御病氣と云々。

さんぬ　なぬか　　けいわくせい　さいせい　おか　　のへんは　　おおおみ　つつし　なり
去る七日、熒惑星、歳星を犯す之變者、大臣の愼み也。

しゅんない　　ふごうのむね　　してんら これ　 もう　　　うんぬん
旬内に符合之旨、司天等之を申すと云々。

現代語貞應三年(1224)八月小十九日癸丑。晴れです。京都の使いが来て、先日の11日に左大臣〔近衛家通で、猪熊関白近衛家実の嫡子〕が亡くなりました〔年21〕と伝えました。今月六日から病気だったそうな。先日の七日に、熒惑星火星が歳星木星の軌道に割り込んだ天変は、大臣の不幸だったんだ。十日以内なのであっていると、天文方が云っております。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こおうしゅうぜんしつ　ひゃっかにち　おんぶつじ　　きょう これ　　しゅうされ　　　どうし　　べんのそうじょう　うんぬん
貞應三年(1224)八月小廿二日丙辰。故奥州禪室が百ケ日の御佛事。今日之を修被る。導師は弁僧正と云々。」

こんゆう　　　ろくはら　　　ししゃとうらい　　　　さんぬ　じうよっか　　　しょうこううりん　じゅらくのよし これ　 もう
今夕、六波羅の使者到來し、去る十四日、相公羽林�@入洛之由之を申す。

参考�@相公羽林は、宰相中將實雅が先月二十三日上洛。

現代語貞應三年(1224)八月小二十二日丙辰。亡き義時さんの百か日の法事。今日それを実施しました。指導僧は弁僧正だそうな。

夕方に六波羅からの使いが到着して、先日の16日に一条実雅が京都へ着いたと報告しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　よ　　　い　　　　　かまくらちうぶっそう　　いがのしきぶのじょうみつむね ちうされ　　べ　　　のよしちまた　せつあ
貞應三年(1224)八月小廿七日辛酉。夜に入り、鎌倉中物忩。　伊賀式部丞光宗　誅被る可き之由巷の説有り。

 そ 　　じつな　　　　 よっ　 せいひつ　　　 うんぬん
其の實無きに依て靜謐すと云々。

現代語貞應三年(1224)八月小二十七日辛酉。夜に入って鎌倉中が騒がしい。伊賀式部丞光宗が、処刑されるだろうと噂が流れております。その事実はないので、静まりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぶしゅう　〔やすとき〕　　ことさら　まんどころ　きっしょ　　はじ　　　　うんぬん
貞應三年(1224)八月小廿八日壬戌。武州〔泰時〕 故 に政所の吉書を始むと云々。

また　　　け　　つと　　　じょうじょうそ　　しき　　さだ　　られ　　　さこんしょうげんかげつな　　へいざぶろうひょうえのじょうもりつなら ぶぎょう　　な　　　　　うんぬん
又、家の務めの條々其の式を定め被る。左近將監景綱、　平三郎兵衛尉盛綱　等奉行を爲すと云々。

現代語貞應三年(1224)八月小二十八日壬戌。武州泰時さんが、特別に政務事務所開きをしたそうな。又、本家内の決め事(家令)を箇条書きにしました。左近将監景綱・平三郎兵衛尉盛綱が、担当しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　くも　　　　さきのうしゅうこうしつぜんに　　　にいけ　　　おお　　　　よっ
貞應三年(1224)八月小廿九日癸亥。陰り。前奥州後室禪尼、二位家の仰せに依て、

いずのくにほうじょうぐん　　げこう　　　　か　　ところ　ろうきょすべ　　　　うんぬん　　そ 　　とが あ　　のゆえなり
伊豆國北條郡に下向し、彼の所に籠居可しと云々。其の科有る之故也。 

 いがのしきぶのじょうみつむね しなののくに　　はいる
伊賀式部丞光宗 信濃國へ配流。

しゃてい　しろうさえもんのじょうともゆき　　おな　　　　ろくろううえもんのじょうみつしげら　　　　さがみかもんのすけ　むさしのたろう あずか　　　な
舎弟の四郎左衛門尉朝行、同じき六郎右衛門尉光重等は、相摸掃部助、武藏太郎預りと爲し、

きょうとよ　　　じき　　ちんぜい　 はいるすべ　　のむね　　おお　 つか　 され
京都自り直に鎭西へ配流可し之旨、仰せ遣は被る。

かく　 りょうにん　　しょうこううりん　　じょうらく　 こしょう　　　　ののち　　いま　　きさん　　　　うんぬん
此の兩人、相公羽林の上洛に扈從する之後、未だ歸參せずと云々。

現代語貞應三年(1224)八月小二十九日癸亥。曇りです。義時さんの未亡人(伊賀局)は、二位家政子様の命令で伊豆国北条郷へ行かされ、その地で閉じ込めらたそうな。その罪があるからです。伊賀式部丞光宗は、信濃国へ流罪です。弟の四郎左衛門尉朝行と六郎右衛門尉光重は、相模掃部助時盛と武蔵太郎時氏のあずかり囚人(めしうど)として、京都から直接九州へ流罪に処すように、伝えさせました。この二人は、相公羽林一条実雅の京都行について行ったきり戻ってこないからだそうな。

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