吾妻鏡入門吾妻鏡脱漏

嘉祿三年丁亥(1227)三月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　いぬのこく　たいはくぼうせい　しの　 おか
嘉祿三年(1227)三月大一日庚戌。�ﾘ。戌刻。太白昴星を凌ぎ犯す。

きょう　　　おおくらみどう　ひかれ　　べ　　 こと　　かさ　 て　　さた　あ　　　　　　　ひかれ　 べからずのむねちじょう　　　　うんぬん
今日、大倉御堂曳被る可き事、重ね而沙汰有りて、曳被る不可之旨治定すと云云。

また　　くまのさん　ほうきの　こと　 ひょうじょう　へられ　　 か　　　みこし　も　　 じゅらくの　きこ　　あ　　　ば　　　けいき　　　ごけにんら　さんかい
又、熊野山蜂起之事、評定を經被、彼の神輿若し入洛之聞へ有ら者、京畿の御家人等參會し、

とちゅう　　とど　たてまつ　べ　　　のよし　　ろくはら　　おお　　つか　　され　　　　うんぬん
途中に留め奉る可し之由、六波羅へ仰せ遣は被ると云云。

しらかわいん　おんう　えいほうにねん みずのえいぬ じうがつにじうごにち　　　か　　やま　　しゅうとはじ　　　　さんじょ　　みこし　　　せお　　　じゅらく　　　すなは　ごきざたてまつられ　　　うんぬん
白河院の御宇 永保二年　壬戌　十月廿五日、　彼の山の衆徒始めて三所の神輿を荷負い入洛す。即ち御歸座奉被ると云云。

現代語嘉祿三年(1227)三月大一日庚戌。晴れです。午後八時頃、太白星金星が昴(すばる)を越えて行きました。今日、大倉御堂を移動する事について、再度検討会を行い、止めるように決めましたとさ。又、熊野神社の僧兵の蜂起について、検討を行い、熊野の神輿が京都市中へ入ろうとしたら、関西の御家人が集まって、途中で止めるように、六波羅へ伝言しましたとさ。白河院の時代の永保二年(1082)壬戌10月25日、熊野の僧兵が熊野・那智・新宮三か所のお神輿を担いで京都市内へ入りました。すぐに帰ったそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　くもり　 いぬのこくおおぢしん　　しょしょ　　もんぴ　　　ついぢら　てんとう　　　　また　　ぢ　わ　　　　　　うんぬん
嘉祿三年(1227)三月大七日丙辰。陰。 戌刻 大地震。所々の門扉、築地等顛倒す。又、地割れると云云。

さんぬ　けんりゃくさんねん　　わださえもんのじょうよしもり　ほんぎゃくのころ　　かく　　ごと　　の　だいどうあ
去る　建暦三年　和田左衛門尉義盛　叛逆之比、此の如き之大動有り。

ときに　なか　　げばばしの　ち　わ　　　　　ことあ　　　のよし　　ころう これ　　だん　　　　きんねん　をい　　は　ひるい　な　　　　うんぬん
時于中の下馬橋之地割れる事有る之由、古老之を談ず。近年に於て者比類無しと云云。

現代語嘉祿三年(1227)三月大七日丙辰。曇りです。午後八時頃大地震です。あちこちの門扉や築地塀が倒れました。又、地割れも起こりました。過ぎた建暦三年(1213)和田左衛門尉義盛の乱の時代に、このような大地震がありました。その時には、中の下馬橋の地面が割れたと古老が話しています。最近ではそれに匹敵するようなことは無いとか。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 おんみょうどうら ぢしん　 かんもん　 ささ
嘉祿三年(1227)三月大八日丁巳。�ﾘ。陰陽道等地震の勘文を捧ぐ。

しか　　　　はるゆき　 のぶかたら　 しょぞんいちどうせず　 よっ　　　そうしゅう　 てい　 をい　 そうろん　 およ　　　　うんぬん
然るに�ﾘ幸、宣賢等の所存一同不に依て、相州の亭に於て相論に及ぶと云云。

現代語嘉祿三年(1227)三月大八日丁巳。晴れです。陰陽道の連中が占い結果の上申書を出しました。しかし、晴幸と宣賢の考えは違ったので、時房さんの屋敷で言い争うになりましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 おきのいん　　さんみや　　しょう　　　かんぼう　 たく　　のやからあ　　　　ばんとう　　しごにんなり
嘉祿三年(1227)三月大九日戊午。�ﾘ。隱岐院の三宮と稱し、奸謀を巧む之輩有り。伴黨は四五人也。

まえはまへん　 みんおく　 をい　　　　はたののなかつかさじろうつねとも これ　　いけど　　しん
 前濱邊の民屋に於て、波多野中務次郎經朝 之を生虜り進ず。

かなくぼさえもんのじょう　　へいざぶろうさえもんのじょう　すいもん　おお　たてまつ　のところ　　いずぜんじ　　しょじゅう　　な　　ひゃくしょうのよし　　はくじょう　しん　　　　うんぬん
金窪左衛門尉、　平三郎左衛門尉　推問を仰せ奉る之處、 伊豆前司が所從を爲す百姓之由、白状を進ずと云云。

現代語嘉祿三年(1227)三月大九日戊午。晴れです。隠岐院後鳥羽上皇の三番目の皇子だと自称して、悪だくみを企む連中がおります。仲間は4・5人です。由比ガ浜あたりの民家で、波多野中務次郎経朝がこれを逮捕しました。金窪左衛門尉行親・平三郎左衛門尉盛綱が、尋問した所、伊豆前司(源仲綱？)の家来で帰農している者だと自白状を書いて出しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 だんじょうのちうすえうじ ぶぎょう　　な　　　　ぢしん　　おいのり　　こと　　ないがい　おお　 られ　　　うんぬん
嘉祿三年(1227)三月大十三日壬戌。�ﾘ。 彈正忠季氏 奉行を爲し、地震の御祈の事、内外に仰せ被ると云云。

現代語嘉祿三年(1227)三月大十三日壬戌。晴れです。弾正忠清原季氏が担当して、地震への祈りを、坊さんや陰陽師に命じましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 とりのこくぢしん
嘉祿三年(1227)三月大十五日甲子。酉刻地震。

現代語嘉祿三年(1227)三月大十五日甲子。午後六時頃地震です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あめふる　　さんぬ　ここのか　むほんにん　ことひょうぎあ
嘉祿三年(1227)三月大十九日戊辰。雨降。去る九日の謀反人の事評議有り。

ある　　　 これ　い　　　 たらざることなり　　ぞういのくはだ　　　　かへっ　しんよう　 あたはず　　かつう　ものぐるいのいた　ところか
或ひは是言うに足不事也。造意之企て、還て信用に不能。 且は物狂之致す所歟。

ただ　　　　かんとうごぶん　　ぐんごう　　ついほうされ　　べ　　 のよし いけんあ
只し、關東御分の郡郷�@を追放被る可し之由意見有り。

ある　　　 みんかん　 やしん こと　 もっ　　けいほう　 なだ　 られがた　　　きょうこう　ちょうしゅく　ため　　　　ざんざい　 おこな　れるべ　　のむねこれ　 もう
或いは民間の野心殊に以て刑法を宥め被難し�A。向後の懲肅の爲に、斬罪に行は被可き之旨之を申す。

つい　ざいめいらっきょのあいだ　　にいけ　　だいさんねんの おんぶつじ いご　　　　　さた　あ　　　べ　　　　　うんぬん
遂に罪名落居之間、二位家の第三年之御佛事以後に、沙汰有る可しと云云。

つい　　はたののじろうつねとも　ちゅうしょうされ　　　みまさかのくに　をい　　いっそん　たま　　　　　うんぬん　　これ　 ちゅせつ　もくしされがた　　のゆえなり
次で波多野次郎經朝 抽賞 被る。美作國に於て一村を賜はる�Bと云云。是、忠節を默止被難き之故也。

参考�@關東御分の郡郷は、関東御分国内の郡郷。
参考�A民間の野心殊に以て刑法を宥め被難しは、階級社会なので、一般人の野心は特に厳しく責めるべきとなる。
参考�B美作國に於て一村を賜はるは、中国地方への波多野余一族進出の一歩である。

現代語嘉祿三年(1227)三月大十九日戊辰。雨降りです。先日の九日の謀反について検討会がありました。「云ってることが大したことではない。その計画も信用できるほどではない。頭がおかしいので、刑にする必要がないんじゃないのか。但し、鎌倉幕府の治めている関東御分国の郡や郷からは追い出そう。」との意見がありました。又、「武士以外の民間人の野心は、特に厳しく責めるべきなので、侍の刑法を逃れるわけには行くまい。今後の粛清のために、首切りの刑にしましょう。」とも云ってます。では、判決は二位家政子様の三回忌の後に、検討しましょうだとさ。ついで、波多野中務次郎経朝が表彰され、美作国で一村を与えられましたとさ。これは、幕府への忠義を無視するわけにはいかないからです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　  さんごう　なら　　　　 ぢしん　　おいのりら　　 しぎょうされ
嘉祿三年(1227)三月大廿四日癸酉。霽。三合�@并びに地震の御祈等を始行被る。

　　ござのほくとごま　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 だいしんそうずかんき
　五座北斗護摩　　　　　　　　　　　　　　　　 　大進僧都寛基

　　はちじもんじゅほう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　 えちごのあじゃり
　八字文殊法　　　　　　　　　　　　　　　　　　 越後阿闍梨

　　いちじこんろんほう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  しなののほうげん
　一字金輪法　　　　　　　　　　　　　　　　　 　信濃法眼

　　しちようく　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 すけのほうげんちんよ
　七曜供�A 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 助法眼珍譽

　　ほくとぐ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　そちのほっきょうちんゆ
　北斗供　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 師法橋珍瑜

　　ろくまんさんぜんしんさい　〔おやまのしもつけにゅうどう　　さた　　おんし　　するがのくらんど〕　　　　はるゆき
　六万三千神祭〔小山下野入道が沙汰、御使は駿河藏人〕　�ﾘ幸

　　ぢしんさい　〔するがのにゅうどう　　さた　　おんし　　ほしざきほうがんだい〕　　　　　　　　　　　　　　 はるかた
　地震祭〔駿河入道が沙汰、御使は星崎判官代〕　　　　　�ﾘ賢

　　てんちさいへんさい　〔するがのぜんじ　　さた　　おんし　　えのひょうえのじょう〕　　　　　　　　　　　のぶかた
　天地災變祭〔駿河前司が沙汰、御使は江兵衛尉〕　　　　宣賢

参考�@三合は、三つの厄が重なる。大蔵、客気、大陰。三難悪神が一致する。
参考�A七曜供は、一週間の日月火水目金七天体信仰の護摩炊き。

現代語嘉祿三年(1227)三月大二十四日癸酉。晴れました。三つの厄が重なる三合、それに地震へのお祈りを始めました。五人の北斗星の護摩焚きは、大進僧都寛基。八字文殊(頭の髷が八つある文殊菩薩)の法は、越後阿闍梨。一字金輪法は、信濃法眼道禅。七曜の供養は、助法眼珍与。北斗星の供養は、師法橋珍瑜。

六万三千神祭〔小山下野入道朝政の負担で、代参は駿河蔵人〕　は、阿部晴幸。
地震祭　　　〔駿河入道中原季時の負担で、代参は星崎判官代〕は、阿部晴賢。
天地災変祭　〔駿河前司三浦義村の負担で、代参は大江兵衛尉〕は、阿部宣賢。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 　だいしんそうずかんき　　むつくずおかぐんこばやし　いまくまのしゃはいりょうのあいだ　　こと　　しゃむ　　こうぎょう　てへ
嘉祿三年(1227)三月大廿七日丙子。�ﾘ。大進僧都寛基、陸奥葛岡郡小林�@の新熊野社拝領�A之間、 殊に社務を興行す者り。

これ　　　ごきとう　　　 しょう　　うんぬん
是、御祈祷の賞と云云。」

きょう　　　　ばくふ　　をい　　すまい　　ごらん　　　そ　　　なか　  ほうし　 　すまい ひとり あ　　　　　じょうのたろうしん　ところなり
今日、幕府に於て相撲を御覽。其の中に法師の相撲一人有り。城太郎進ず所也。

こ　　　あいて　　すおうのぜんじ　　め　　 しん　おとこ　　あざ　　へいたなり　　しか　　　　あいかま　　　おとこをかたせし　　べ　　　のよし　しょうぐんひそか　おぼ　め　　い
此の相手は周防前司が召し進ず男、字は平太也。而りて相搆へて男於勝令む可し之由、將軍竊に思し食し入る。

よっ　 とうないさえもんのじょうさだかず　おお　　あ　　　　　　おんみょうじさんにはるたか　うたのすけはるさだ　 さんにしげむね　 さんにみつつぐらこれ　　めされ
仍て藤内左衛門尉定員に仰せ合はせ、陰陽師散位�ﾘ賢、雅樂助�ﾘ貞、散位重宗、散位道継等之を召被る。

いち　〔おとこ〕　に　　〔ほうし〕　　いず　　　　ほう　　か　　　べ　　　や　のよしおんうらあ　　　　おのおの　うまのこく　もっ　　うらな　もう　　　　いち　　もっ　　か　　　べ　　　のよし　　はるかたこれ　　もう
一〔男〕二〔法師〕何れの方が勝つ可き哉之由御占有り。　各　午刻を以て占い申す。一を以て勝つ可き之由、�ﾘ賢之を申す。

はるさだ　 いち　 か　　　べ　　　　 うんぬん　 しげむね　 じ　たるべ　　　のよし　　もう　　　　うんぬん　　みちつぐ　に　か　　　べ　　　のよしこれ　　もう
�ﾘ貞は一が勝つ可しと云云。重宗は持爲可き�B之由を申すと云云。道継は二勝つ可し之由之を申す。

ばん　 およ　　　 すまいじうしちばん　　しゆう　これ　 けっ　 られ　　　　くだん　　ほうし　　おとこにま　をはんぬ
晩に及び、相撲十七番、雌雄之を决せ被る。件の法師は男于負け訖。

参考�@陸奥葛岡郡小林は、宮城県大崎市古川小林。元は畠山重忠領→平資幹→将軍領。
参考�A新熊野社拝領は、荘園領主になった。
参考�B持爲可きは、引き分け。

現代語嘉祿三年(1227)三月大二十七日丙子。晴れです。大進僧都寛基が、陸奥国葛岡郡小林郷の新熊野神社領地の荘園領主として、特に神社の行事を盛んにするように云われました。これは、先日の御祈祷の褒美です。
今日、幕府で相撲見物をしました。その中に出家した坊さんの相撲取りが一人おります。城太郎義景が連れてきたものです。この対戦相手は、周防前司中原親実が連れてきた男で、名を平太です。よくよく力士を見て、この男が勝ちそうだと、将軍頼経様は思いました。そこで藤内左衛門尉定員に命令して、陰陽師の散位安陪晴賢・雅楽助安陪晴貞・散位安陪重宗・散位安陪道継を呼び寄せました。一の平太と二の坊主とどっちが勝つと思うか占いをさせました。それぞれ昼の12時を指定して占って云いました。「一の男が勝つ。」と晴賢が云いました。晴貞も「一が勝でしょう。」。重宗は「引き分けですね」とのこと。道継は「二が勝でしょう」と云いました。晩になって、相撲を十七番勝負させました。例の坊さんは平太に負けてしまいました。

閏三月へ

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