吾妻鏡入門第廿七巻

寛喜二年庚寅(1230)八月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　 とりのこく　　ぶしゅう　　ごそくじょ　〔　するがじろう　　　　さいしつ　〕　せいきょ　　〔 としにじうご 〕
寛喜二年(1230)八月小四日癸亥。�ﾘ。酉刻。武州の御息女〔駿河次郎が妻室〕逝去す〔年廿五〕。

さんぜんごすうじっかにちのうらん　　　　つい　 もっ　　かく　　ごと
産前後數十ケ日惱乱し、遂に以て斯の如し。

現代語寛喜二年(1230)八月小四日癸亥。晴れです。午後六時頃、泰時さんの娘〔駿河次郎三浦泰村の妻〕が亡くなりました〔年は25歳です〕。出産前後から十日間悩み苦しんで、ついにこのような次第となりました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 あさくも　　　 うまのこく はなは　あめ　 ばん　 およ　 こうずい　　かわへん　みんきょ りゅうしつ　　　ひとお　　できし
寛喜二年(1230)八月小六日乙丑。朝陰り。午尅 甚だ雨。晩に及び洪水。河邊の民居 流失し、人多く溺死す。

ころう　　ものい　　　　　　　いま　　かく　　れい　　み　　　うんぬん
古老の者云はく。末だ此の例を見ず云々。

現代語寛喜二年(1230)八月小六日乙丑。朝の内は曇りで昼頃には大雨となり、夜になって洪水です。川べりの民家は流され、多くの人が溺れ死にました。老人が言うには、「今までこんなにひどい例を見た事もない。」そうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さるのこく　はなは　あめ おおかぜ　　やはん　　およ　　きゅうし　　　　くさき　　　は　　 か　　　　 ひとへ　ふゆのけ　ごと　　　　かこく みなそんもう
寛喜二年(1230)八月小八日丁夘。申尅。甚だ雨 大風。 夜半に及び休止す。草木の葉は枯れ、偏に冬氣の如し。稼殻皆損亡す。

現代語寛喜二年(1230)八月小八日丁卯。午後四時頃に大雨と大風です。夜中になって止みましたが、草木の葉は枯れて、まるで冬の様な気候です。穀類は全然実りません。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　つるがおか　ほうじょうえ えんいん
寛喜二年(1230)八月小十五日甲戌。�ﾘ。鶴岳の放生會 延引す。

かく　あいだ　 しょにん ぶしゅう　 とぶら　もう　　　　 よっ　　　　しょくえばんぽう　 およ　　　　よっ　　　さた　あ
此の間、諸人 武州を訪い申すに依て、觸穢万方に及ぶ。仍て沙汰有り。

げんにん　　かろく ら の れい　 まか　　　　これ　 えんいんされ
元仁、嘉祿等之例に任せ、之を延引被る。

現代語寛喜二年(1230)八月小十五日甲戌。晴れです。鶴岡八幡宮の生き物を放す儀式放生会を延期しました。最近、皆さんが泰時さんを娘の死への見舞いに来るので、死の穢れが広がっているので、検討して元仁(義時死)嘉禄(政子死)の時の例を参考にして、延期した訳です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　  　くも　　　　　ろくはら　　　ひきゃくとうちゃく　　　もう　　　　い
寛喜二年(1230)八月小廿一日庚辰。陰り。六波羅の飛脚到着し、申して云はく。

さんぬ　じうににち うのこく　 おんじょうじ ちういん　みなみいん　しゅうとら　　ぼう　　あらそ　　　よっ　　きたいん　　ぼうしゃ　しょうしつ　をはんぬ
去る十二日卯尅、園城寺 中院、南院の衆徒等、坊の爭いに依て北院の坊舎を燒失し畢。

どうじつ いぬのこく　きたいん　 しゅうとら　たぜい　 いんそつ　　　ちうなん　りょういん　や　　　　　すで　　いちにちのうち　　さんかいんかいじん　　な
同日 戌尅、北院の衆徒等多勢を引率し、中南の兩院を燒く。既に一日之中に三ケ院灰燼と爲す。

がくりょ みなもっ　ぶんさん　　　ちとく　おのおの　さんりん　 かく　 のが　　　　くじょうだんぜつの もと　　　　もっぱ　ちょうけ　ちょうじたり　　うんぬん
學侶皆以て分散し、智徳は各、山林に隱れ遁る。公請断絶之基い、專ら朝家の重事爲と云々。

現代語寛喜二年(1230)八月小二十一日庚辰。曇りです。六波羅からの伝令が到着して報告しました。先日の12日午前六時頃に、園城寺の中院・南院の武者僧達が、武者僧同士喧嘩して、北院の宿舎を焼いてしまいました。同じ日の午後八時頃、北院の武者僧は大勢を引き連れて、中院・南院の両方を焼いてしまいました。なんと一日の間に三つの院が灰になってしまいました。勉学中の学僧は仕方がないのでどこかへ散ってしまい、高僧は皆山林に隠れてしまいました。朝廷からの法会への招待が途絶える基になりますので、朝廷にとっとも一大事です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 あめふ　　　 たつのこく　 たいふほうがんのぶつな　 しせつ　　な　　　じょうらく
寛喜二年(1230)八月小廿八日丁亥。雨降る。辰刻、 大夫判官信綱、使節と爲し上洛す。

みいでら　　しゅうとぶんさん　　こと　　たず　　さた　あ　　　べ　　のゆえなり
三井寺の衆徒分散の事を尋ね沙汰有る可き之故也。

現代語寛喜二年(1230)八月小二十八日丁亥。雨降りです。午前八時頃、佐々木大夫判官信綱が京都へ上ります。三井寺の武者僧の分裂を調べて対処するためです。

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