吾妻鏡入門第卅一巻 　

嘉禎二年丙申(1236)六月大

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はれ　　しんぞう　　ごしょ　　おんじぶつどうりっちゅう
嘉禎二年(1236)六月大五日庚寅。霽。新造の御所の御持佛堂立柱。

 よ　　　い　　　そ　　　ち　　　をい　　　　どくうさい　　おこなはれ　　 はるかたあそんこれ　 ぶぎょう
夜に入り其の地に於て、土公祭を行被る。�ﾘ賢朝臣之を奉行す。」

きょう　　　ぶしゅうほうじょう　をい　 うけいちょうじうさんねん　 ついぜん　 しゅう　たま　　　 しょうじつ　きた　 じうさんにちたり　いへど　　ことさら　これ　 ひきあげられ
今日、武州北條に於て右京兆十三年の追善を修し給ふ。正日は來る十三日爲と雖も、故に之を引上被る。

かく　あいだ　がんじょうじゅいん　きた　かたわ　　　　 とうば　　こんりゅう　　　ほんぞん　　すなは　だいにち　　しゃか　　みだ　ら　　　そんぞうなり
此の間、願成就院の北の傍らに、塔婆を建立す。本尊は則ち大日、釋迦、弥陀等の尊像也。

　まんだらぐ　　　おこな　　　くよう　　　 ぎ　　　と　　　られ
曼茶羅供を行ひ、供養の儀を遂げ被る。

だいあじゃりしょうごんぼうそうづ「ぎょうゆう　　さんしゅうじうにく　　うまのすけ　　 みんぶしょうゆうら　あじゃり　　　　ふせ　　　と
大阿闍梨庄嚴房僧都行勇、讃衆十二口。右馬助、民部少輔等阿闍梨の布施を取る。

するが　　 いず　りょうごく　いげ　　 ごけにん　ぐんさん　　さぜん　　　　ぶしゅうこと　　ていねい　　さた　　いたせし　 たま　　　 うんぬん
駿河、伊豆兩國以下の御家人群參し作善す。武州殊に丁寧の沙汰を致令め給ふと云々。

現代語嘉禎二年(1236)六月大五日庚寅。晴れました。新築の御所の將軍専用の持仏堂の立駐です。夜になってからその場所で地の神様の許可を得る土公祭を行いました。安陪晴賢が担当です。」
今日、武州泰時さんは、伊豆の北条で義時さんの十三回忌の法事を行いました。命日は今月13日ですが、これを前倒しで行いました。この準備に願成就院の北側に三重塔を建てました。本尊は大日如来・釈迦如来・阿弥陀如来のお像です。曼荼羅供養を行ってこの法要を遂げました。指導僧は荘厳房退耕行勇。お供の坊さんは12人。陸奥右馬助(実泰らしい)・民部少輔三条親実が指導僧のお布施を持ってきました。駿河・伊豆の両国の御家人が集まってお祈りします。武州泰時さんは丁寧にお礼を施したそうです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　わかみおおじ　しんごしょ　 ついぢ これ　 はじ
嘉禎二年(1236)六月大六日辛夘。若宮大路新御所の築地之を始める。

よっ　 れんじつどくうさい　　おこな　べ　　　のよし　　おお　　くださる　　　　うんぬん
仍て連日土公祭を行う可き之由、仰せ下被ると云々。

現代語嘉禎二年(1236)六月大六日辛卯。若宮大路の新築の御所の築地土盛工事を始めました。そこで連日地の神様の許可を得る土公祭を行うようにおおせになりましたそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 はれ　 いぬのこくぢしん
嘉禎二年(1236)六月大十一日丙申。霽。戌刻地震。

そ　　　のち　しょうぐんけ　〔おんひたたれ〕　もんがい　 さいとう　　ほりへん　 い　　 せし　 たま　　　　おんじょふくの　ぎ　あ
其の後、將軍家〔御直垂〕門外の西東の堀邊へ出で令め給ひ、御除服之儀有り。

はるかたあそんおんはら　　 つと　　　すけふさばいぜん　　　これ　おんいもうとひめぎみごぜん　〔おんとしじうに　　じゅこう　　ごふく〕　そっ　　たま　　　　よっ　　なり
�ﾘ賢朝臣御秡へを勤め、佐房陪膳す。是、御妹姫君御前〔御年十二。准后の御腹〕卒し給ふに依て也。

がいそだいしょうこくぜんしつ　ごゆうし たり　　うんぬん
外祖太相國禪室の御猶子爲と云々。」

 やはん　　およ　　　ぶしゅうほうじょうよ　　　かえ　 せし　 たま　　　　うんぬん
夜半に及び、武州北條自り歸ら令め給ふと云々。

現代語嘉禎二年(1236)六月大十一日丙申。晴れました。午後8時頃地震です。その後、将軍頼経様〔直垂〕は御所門外の東西の堀のあたりにお出になり、喪明けの儀式がありました。安陪晴賢がお祓いを勤めました。大江佐房がおそばにつきました。これは、妹姫〔12歳・母は准后〕がお亡くなりになった(1235.10.28卆)からです。母方の祖父西園寺公経さんの養子並だそうな。」
夜中になって、武州泰時さんが伊豆の北条から帰って来ましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いのこくぢしん
嘉禎二年(1236)六月大廿二日丁未。亥刻地震。

現代語嘉禎二年(1236)六月大二十二日丁未。午後10時頃地震です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さんぬ　よ　　　やはん　 けいこくりょうへん　あらは　のよし　　てんもうどうら　だいぜんだいぶもろかず　ぞく　　これ　 もう　　　　うんぬん
嘉禎二年(1236)六月大廿五日庚戌。去る夜の々半、熒惑兩變を現す之由、天文道等大膳大夫師員に属し之を申すと云々。

現代語嘉禎二年(1236)六月大二十五日庚戌。一昨日の夜中に熒惑星火星が二度も異常を表しましたと、天文学者の連中が大膳大夫中原師員を通して上申しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あす　　　しんごしょ　　はしらだ　　あ　　　べ　　　　　よっ　　　　しなののみんぶにゅうどうぎょうねん ぶぎょう　　な
嘉禎二年(1236)六月大廿六日辛亥。明日、新御所の柱立て有る可きに依て、 信濃民部入道行然　奉行と爲し、

もろかず　　やかたにおんかたたが　あ　　　べ　　　か　　　こと　　　ごさた　　　
師員の屋形于御方違へ有る可き歟の事、御沙汰に及ぶ。

 およ　　　　これしんごしょ　　 とうじ　　　ごしょ　　〔せいせいけ〕　　よ　　　せいほくほう　　あいあた　　のあいだ　　あす 　　たいはくかた　　ひとよ　　おんかたたが　あ　　　べ　　　のゆえなり　　
是新御所�@は當時の御所〔生西家〕自り正北方�Aに相當る之間、明日は太白方、一夜の御方違へ有る可き之故也。

また　　ほんごしょ　〔　　うつのみやずし　　〕　よ　　　とうじ　　　ごしょ　　いぬいかたか　のよしおんうたが　あ　　　　　ほうがく　　ただ　　べ　　　のむね　ぎょうねん　おお　　らる
又、本御所〔宇都宮辻子〕�B自り當時の御所は乾方歟之由御疑ひ有り。方角を糺す可き之旨、行然に仰せ被る。

よっ　 ただなお　はるかた　くにつぐあいとも　　もろかず　 いえ　 むか　　　じょうしゃく　う　　　せし

仍て忠尚、�ﾘ賢、國継相共に師員の家へ向ひ、丈尺を打た令む。

いぬいかた　あらずのよし　おのおの これ　　もう
 乾方に非之由、　各　之を申す。

いのこく　　しょうぐんけおんかたたが　　　ため　　だいぜんだいぶもろかず　　やかた　　い　　　たま
亥刻、將軍家御方違への爲、 大膳大夫師員 の屋形へ入り御う。

おんもうけのぎ　こと　ふんえい　　　おんひきでものかずあ　　　　うんぬん
御儲之儀殊に奔營す。御引出物數有りと云々。

現代語嘉禎二年(1236)六月大二十六日辛亥。明日、新築の御所の立柱式があるので、信濃民部入道行然二階堂行盛が担当して、中原師員の家に方角変えを行うかどうか検討しました。
これは、新築御所が今いる家〔生西小山朝政の家〕から真北に当たるので、明日は太白星金星の方向で外出を嫌う方角なので、一泊の方角変えをすることになります。
又、元の御所〔宇都宮辻子幕府〕から中原師員の家は西北の方ではないかと疑問をもっておられます。方角を調べるように二階堂行盛に命じました。
それで、安陪忠尚・安陪晴賢・安陪國継が一緒に中原師員の家へ行って計りました。西北ではないとそれぞれ云いました。
午後10時頃、将軍頼経様は方角変えのため、中原師員の屋敷へ入られました。お迎えの歓迎は特に立派に用意しました。お土産も沢山用意しました。

推定�@新御所を若宮大路幕府跡に指定すると、小山朝政の屋敷は小町大路沿いにあったと思われる。
推定�A正北方は、この記述から「正」の字がつかない方角は、若宮大路を南北の基準としているようだ。
推定�B本御所〔宇都宮辻子〕自り當時の御所は乾方歟の記事から察するに、中原師員の家は若宮大路西側の北側のあたりのようだ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〔しちがつせつ〕　そらはれ　かぜしずか　みのこくぢしん　　 きょう　　 わかみやおおじしんごしょ　　しんでん　いげ　　おくおく りっちゅう じょうとう
嘉禎二年(1236)六月大廿七日壬子。〔七月節�@〕天�ﾘ。風靜。巳刻地震。今日、若宮大路新御所の寢殿以下の屋々 立柱 上棟す。

いがのしきぶのたいふにゅうどうこうさい　　しなののみんぶにゅうどうぎょうねん　せいのさえもんのじょうたいふすえうじら ぶぎょうたり
伊賀式部大夫入道光西、　信濃民部入道行然、　�C左衛門尉大夫季氏等　奉行爲。

参考�@七月節は、二十四節気の第十三。立秋。

現代語嘉禎二年(1236)六月大二十七日壬子。〔七月節立秋〕空は晴れて風は静かです。午前10時頃地震です。今日、若宮大路新築幕府の寝殿いかの建前祝です。伊賀式部大夫入道光西(伊賀光宗)信濃民部入道行然(二階堂行盛)清左衛門尉大夫清原季氏などが担当です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だいなごんあじゃりりゅうべん　　　め　　　　　ごしょ　　　をい　　　にょいりんごま　　　しゅされ　　　うんぬん
嘉禎二年(1236)六月大廿八日癸丑。大納言阿闍梨隆弁�@を召し、御所に於て如意輪護摩を修被ると云々。

参考�@隆辨は、藤原隆房(四条隆房・冷泉隆房)の息子。母は葉室光雅の娘。

現代語嘉禎二年(1236)六月大二十八日癸丑。大納言阿闍梨隆弁を呼び寄せて、御所で、如意輪觀音の護摩炊きを行いましたとさ。

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