吾妻鏡入門第卅三巻

仁治元年庚子(1240)八月小

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そらはれ　　うのこく　しょうぐんけ　にしょ　ごさんけいなり　　ま　　つるがおかぐう　　ごさんけい
仁治元年(1240)八月小二日癸巳。天�ﾘ。夘刻、將軍家二所御參詣也。先ず鶴岳宮へ御參詣。

とりい　　うち　　をい　　ごようはい　　ごせんだつさんかい
鳥居の内に於て御遥拝。御先達參會す。

つぎ　　ごしんぱつ　　ぎょうれつ
次に御進發。行列

せんじん　ずいへいじうにき
先陣の隨兵十二騎

　　さはらのしろうさえもんのじょう　　　　おなじきろうろうひょうえのじょう
　佐原四郎左衛門尉　　同六郎兵衛尉

　　かさいのしろうさえもんのじょう　　　　てしまのこたろう
　葛西四郎左衛門尉　　豊嶋小太郎

　　えどのたろう　　　　　　　　　　　　　　こばやしさぶろう
　江戸太郎　　　　　　小林三郎

　　いずみのしんさえもんのじょう　　　　おなじきごろうさえもんのじょう
　和泉新左衛門尉　　　同五郎左衛門尉

　　ちばのはちろう　　　　　　　　　　　　 うなかみごろう
　千葉八郎　　　　　　海上五郎

　　しもこうべのさえもんのじょう　　　　　おおこのさえもんのじょう
　下河邊左衛門尉　　　太胡左衛門尉

　　　　つぎ　　おんひきうまごひき
　　次に御引馬五疋

　　　　つぎ　　おんゆぶくろさし
　　次に御弓袋差

　　　　つぎ　　おんよろいぎ
　　次に御甲着

　　　　つぎ　　おんかぶともち
　　次に御冑持

　　　　つぎ　　おんこぐそくもち
　　次に御小具足持

　　　　つぎ　　ごちょうがけ　〔そうじおうまる〕
　　次に御調度懸〔惣持王丸〕

　　　　つぎ　　おんあぶら
　　次に御油

　　　　つぎ　　ごせんだつ
　　次に御先達

つぎ　　おんが　〔ごじょうい〕
次に御駕〔御淨衣〕

　　かのうのごろうさえもんのじょう　　　　　たけのこじろうひょうえのじょう
　狩野五郎左衛門尉　　武小次郎兵衛尉

　　ひらがのさぶろうひょうえのじょう　　　ちょうのひょうえさぶろう
　平賀三郎兵衛尉　　　長兵衛三郎

　　しぶやのさぶろう　　　　　　　　　　　　またののいやたろう
　澁谷三郎　　　　　　俣野弥太郎

　　やましろじろうひょうえのじょう　　　　　いいとみのげんない
　山城次郎兵衛尉　　　飯富源内

　　おがわのさえもんのじょう　　　　　　　 かじのさえもんのじょう
　小河左衛門尉　　　　加治左衛門尉

　　いさのうえもんのじょう
　伊佐右衛門尉

　　　　　いじょう　おんが　　さゆ　　　かち
　　以上御駕の左右を歩行す

　ごき
後騎

　　さひょうえのかみ　〔よりうじきょう〕
　左兵衛督〔頼氏卿〕

　　はちじょうのしょうしょう　〔さねきよ〕
　八條少將〔實�C〕

　　うまごんのかみ　　　　　　　　　　　　　するがのかみ
　右馬權頭　　　　　　駿河守

　　くなおしょうゆう　　　　　　　　　　　　　とおとうみうまのすけ
　宮内少輔　　　　　　遠江右馬助

　　びぜんのかみ
　備前守

　　　　むつかもんのすけ
　　陸奥掃部助

　　かいのぜんじ　　　　　　　　　　　　　あいだのじょうすけ
　甲斐前司　　　　　　秋田城介

　　　　　せっつのぜんじ
　　攝津前司

　　さどのぜんじ　　　　　　　　　　　　　　だざいごんのしょうに
　佐渡前司　　　　　　太宰權少貳

　　かずさごんのすけ　　　　　　　　　　　ではのぜんじ
　上総權介　　　　　　出羽前司

　　くらごんのかみ　　　　　　　　　　　　　さきのだんじょうだひつ
　内藏權頭　　　　　　前彈正大弼

　　　　地うじょうさこんたいふしょうげん
　　中條右近大夫將監

　　すおうのぜんじ　　　　　　　　　　ひょうごのかみ
　　周防前司　　　　　兵庫頭

　　　　おうみたいふほうがん
　　近江大夫判官

　　かがのみんぶたいふ　　　　　　　　　しなののみんぶたいふ
　加賀民部大夫　　　　信濃民部大夫

　　やくいんのかみよしもとあそん　　　　さんにはるかたそん
　施藥院使良基朝臣　　散位�ﾘ賢朝臣

　　ごんおれきはくじさだまさあそん
　權暦博士定昌朝臣

　　　　おやまのごるさえもんのじょう
　　小山五郎左衛門尉

　　やくしじさえもんのじょう　　　　　　　　こうづけいやしろううえもんのじょう
　藥師寺左衛門尉　　　上野弥四郎右衛門尉

　　かずさのごろうさえもんのじょう　　　　さどのごろうさえもんのじょう
　上総五郎左衛門尉　　佐渡五郎左衛門尉

　　　　おきのほうがん
　　隱岐判官

　　いきのこさぶろうさえもんのじょう　　　しなののさぶろうさえもんのじょう
　壹岐小三郎左衛門尉　信濃三郎左衛門尉

　　おうみのしろうさえもんのじょう　　　　 かぢのしちろううえもんのじょう
　近江四郎左衛門尉　　加地七郎右衛門尉

　　くないさえもんのじょう　　　　　　　　　 ながおのへいないさえもんのじょう
　宮内左衛門尉　　　　長尾平内左衛門尉

　　かとうさえもんのじょう　　　　　　　　　　いとうのろくろうさえもんのじょう
　加藤左衛門尉　　　　伊東六郎左衛門尉

　　うさみのさえもんのじょう
　宇佐美左衛門尉

　　たけだのごろじろう　　　　　　　　　　　なんぶのじろう
　武田五郎次郎　　　　南部次郎

　　むとうさえもんのじょう　　　　　　　　　ないとうしちろうさえもんのじょう
　武藤左衛門尉　　　　内藤七郎左衛門尉

こうじん　　ずいへいじうにき
後陣の隨兵十二騎

　　たけだのろくろう　　　　　　　　　　　　おおいのたろう
　武田六郎　　　　　　大井太郎

　　そのだのまたじろう　　　　　　　　　　きむたいやじろう
　薗田又次郎　　　　　木村弥次郎

　　そうまのさえもんのじょう　　　　　　　　ちくごのさえもんじろう
　相馬左衛門尉　　　　筑後左衛門次郎

　　かすかべのさぶろうひょうえのじょう　しながわのこさぶろう
　春日部三郎兵衛尉　　品河小三郎

　　みむらのうえもんのじょう　　　　　　　ちょうのかもんさえもんのじょう
　三村右衛門尉　　　　長掃部左衛門尉

　　ながおのさぶろうひょうえのじょう　　 あきばのこじろう
　長尾三郎兵衛尉　　　秋葉小次郎

現代語仁治元年(1240)八月小二日癸巳。空は晴です。午前6時、将軍頼経様は、箱根・走湯の二所権現参りです。まず、鶴岡八幡宮にお詣りです。三の鳥居の内側に入って、遠くからのお参りです。先導する坊さんが立ち会います。そして出発です。その行列は、
前を行く武装儀仗兵12騎
　佐原四郎左衛門尉光連　と　同六郎兵衛尉時連
　葛西四郎左衛門尉　　　と　豊島小太郎
　江戸太郎重盛　　　　　と　小林三郎
　和泉新左衛門尉(天野？)と　同五郎左衛門尉政泰
　千葉八郎胤村　　　　　と　海上五郎胤有
　下河辺左衛門尉行光　　と　大胡左衛門尉
次に将軍の乗り換え馬引き五頭
次に将軍の弓袋持ち
次に将軍の鎧を代理で着てる者
次に将軍の兜を持っている者
次に鎧を着る時の小手や脛宛を持つ者
次に将軍の弓矢を肩に掛ける者〔総持王丸〕
次に将軍の雨合羽用の油紙を持つ者
次に先導する坊さん
次に馬に乗ってる将軍〔白い浄衣〕
　狩野五郎左衛門尉為広　と　武小次郎兵衛尉(横須賀市武)
　平賀三郎兵衛尉　　　　と　長谷部兵衛三郎
　渋谷三郎　　　　　　　と　俣野弥太郎
　山城次郎兵衛尉本間信忠　と　飯富源内長能
　小川左衛門尉　　　　　と　加治左衛門尉
　伊佐右衛門尉為家
　　以上は馬に乗った将軍の左右を歩いて警固しています
将軍の後ろに乗馬の者達
　左兵衛督〔頼氏さん〕
　八条少将〔実清〕
　右馬権頭北条政村　と　駿河守北条重時
　宮内少輔足利義氏　と　遠江右馬助北条清時
　備前守北条時長
　　陸奥掃部助北条実時(小侍所筆頭)
　甲斐前司長井泰秀　と　秋田城介安達義景
　　摂津前司中原師員(小侍所次官)
　佐渡前司後藤基綱　と　太宰権少貳狩野為佐
　上総権介境秀胤　　と　出羽前司二階堂行義
　内蔵権頭資親　と　前弾正大弼三条親実
　　中条右近大夫将監
　周防前司中原親実　と　兵庫頭藤原定員
　　近江大夫判官佐々木泰綱
　加賀民部大夫町野康持　と　信濃民部大夫二階堂行泰
　施薬院司使丹波良基様　と　散位安陪晴賢様
　権暦博士安陪定昌様
　　小山五郎左衛門尉長村
　薬師寺左衛門尉朝村　　　　と　上野弥四郎右衛門尉結城時光
　上総五郎左衛門尉千葉泰秀　と　佐渡五郎左衛門尉後藤基隆
　　隠岐判官二階堂行久
　壱岐小三郎左衛門尉時清　　と　信濃三郎左衛門尉二階堂行綱
　近江四郎左衛門尉佐々木氏信と　加治七郎右衛門尉佐々木氏綱
　伊賀次郎右衛門尉光房　　　と　和泉七郎左衛門尉天野景経
　　足立木工権助遠親
　宮内左衛門尉公景　　　　　と　長尾平内左衛門尉景茂
　加藤左衛門尉行景　　　　　と　伊東六郎左衛門尉
　宇佐美左衛門尉祐政
　武田五郎次郎信時　　　　　と　南部次郎実光
　武藤左衛門尉景頼　　　　　と　内藤七郎左衛門尉盛継
後ろに行く武装儀仗兵
　武田六郎信長　　　　　　　と　大井太郎光長
　薗田又次郎　　　　　　　　と　木村弥次郎
　相馬左衛門尉　　　　　　　と　筑後左衛門次郎茂木知定
　春日部三郎兵衛尉実季　　　と　品川小三郎実貞
　三村右衛門尉　　　　　　　と　長谷部掃部左衛門尉秀達
　長尾三郎兵衛尉光景　　　　と　秋葉小次郎

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はこね　　　ごほうへいなり　　とうさん　　しゅと　なら　　　　　ぐぶ　　ひとびとえんねん　　おのおの　げい　ほどこ
仁治元年(1240)八月小三日甲午。筥根へ御奉幣也。當山の衆徒并びに供奉の人々延年す。 各　藝を施す。

そうご　　きょう　もよおさず　なし　　うんぬん
相互に興を催不は莫と云々。

現代語仁治元年(1240)八月小三日甲午。箱根神社へ幣を納めました。神社の僧兵達と将軍のお供の人達とで、演芸会をしました。それぞれ芸を披露しました。お互いに面白がっていましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　みしま　　　つ　　　たま　　　　きょう　ごほうへい　の ぎ な　　　　　かく　 ところ　をい　 またえんねん　 およ　　　　うんぬん
仁治元年(1240)八月小四日乙未。三嶋へ着き御う。今日御奉幣之儀無し。此の所に於て又延年に及ぶと云々。

現代語仁治元年(1240)八月小四日乙未。三島へ着きました。今日は三島大社への幣の奉納はありません。この場所で又、演芸会をしましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こんぎょう みしま　　ごほうへい　　と　　　られ　　　　よ　　　い　　　　　そうとうさん　　ごほうへいなり　　 とうさん　　しゅうとえんねん
仁治元年(1240)八月小五日丙申。今曉三嶋へ御奉幣を遂げ被る。夜に入り、走湯山へ御奉幣也。當山の衆徒延年す。

現代語仁治元年(1240)八月小五日丙申。今朝早く三島大社へ幣を奉納しました、夜になって、熱海の走湯神社へ幣の奉納です。当神社の僧兵達が演芸会を催しました。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はなは　あめ　　きょう　ごかんこう　　　よ　　　い　　さかのしゅく　 つ　　　たま
仁治元年(1240)八月小六日丁酉。甚だ雨。今日御還向。夜に入り酒匂宿へ着き給ふ。

現代語仁治元年(1240)八月小六日丁酉。土砂降りです。今日はお帰りです。夜になって酒匂宿へ着きました。

参考酒匂宿は、神奈川県小田原市東町あたりと思われる。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しゅうじつ はなは　あめぼうふう　 にしょ よ　　　　ごげこう のあいだ　　　 ろじ　　わずら　なり
仁治元年(1240)八月小七日戊戌。終日 甚だ雨暴風。 二所自り御下向之間、路次の煩ひ也。

ずいへい　いげ　 ぐぶにん　みなかさ　 と　　　　 およばず　　いしょう　 ぬ　　　　　　うんぬん
随兵以下の供奉人皆笠を取るに不及。衣裝を濕らすと云々。

現代語仁治元年(1240)八月小七日戊戌。一日中雨と暴風です。頼朝様以来の箱根・走湯の二所権現参りなのに、道中の難儀でした。武装兵はじめお供の人々は皆、笠もかぶらりもしないで、衣装がずぶ濡れでしたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さんぬ　さんがつ　ふじ　　よっ　　しゅっし　 と　　 られ　 のやから　　めんきょ　 こう
仁治元年(1240)八月小十日辛丑。去る三月不事に依て出仕を止め被る之輩�@、免許を蒙むる。

むつかもんのすけ おお　　　うけたまは　　げち　　くは　　　　うんぬん
陸奥掃部助仰せを承り、下知を加うと云々。

参考�@出仕を止め被る之輩は、3月12日、宇都宮五郎左衛門尉宗朝・広沢三郎兵衛尉実能・塩谷四郎兵衛尉・上野十郎結城朝村・海老名左衛門尉忠行。

現代語仁治元年(1240)八月小十日辛丑。以前の三月に当番を理由もなく休んで出勤停止処分を受けた連中が、許されました。陸奥掃部助北条実時が将軍の命令を聴いて、その者達に伝えましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　よ　　　い　　　　　ほうじょうぶえい　ごじょふく
仁治元年(1240)八月小十四日乙巳。天�ﾘ。夜に入り、北條武衛 御除服�@。

現代語仁治元年(1240)八月小十四日乙巳。空は晴です。夜になって、北条時頼さんが喪明けをしました。

疑問�@除服は、1月の時房(大叔父)の喪だろうか？

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　つるがおか　ほうじょうえ　 しょうぐんけ ごさんぐう　　ろう　　くるまよせど　　をい　　　　れきはくじさだまさあそん　〔いかん〕　　へんばい　そうら
仁治元年(1240)八月小十五日丙午。天�ﾘ。鶴岡の放生會。將軍家御參宮。廊の車寄戸に於て、暦博士定昌朝臣〔衣冠〕反閇に候う。

さがみうしんえい　　ぎょけん　　えき　　　　さはらのしちろうさえもんのじょうまさつら　ごちょうど　　か
相摸右親衛、御劔を役す。佐原七郎左衛門尉政連、御調度を懸く。

現代語仁治元年(1240)八月小十五日丙午。空は晴です。鶴岡八幡宮の魚鳥を供養して生き物を放つ儀式の放生会です。将軍頼経様お参りです。廊下の牛車をつける部屋の扉で、暦博士定昌さん〔衣冠束帯〕でお祓いの踊りをしました。相模右親衛北条時定が刀持ちです。佐原七郎左衛門尉政連が弓矢を肩に懸けています。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 そらはれ　　きょうまた　ごさんぐう　　おうみのたいふほうがんやすつな　〔そくたい〕　　ではのほうがんいえひらら ぐぶ
仁治元年(1240)八月小十六日丁未。天�ﾘ。今日又御參宮。近江大夫判官泰綱〔束帶〕、出羽判官家平等供奉す。

現代語仁治元年(1240)八月小十六日丁未。空は晴です。今日もまたお参りです。近江大夫判官佐々木泰綱〔束帯〕と出羽判官中条家平がお供です。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ねのこくぢしん　　だいどうなり
仁治元年(1240)八月小廿一日壬子。子刻地震。大動也。

現代語仁治元年(1240)八月小二十一日壬子。午前零時頃に地震です。大きな揺れです。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つるがおかじんぐうじ　さんぬ　にがつてんとうのあいだ　ひごろしゅぞうされ　　　すで　 これ　 つく　をはんぬ
仁治元年(1240)八月小廿二日癸丑。鶴岡神宮寺、去る二月顛倒之間、日來修造被る。已に之を造り 畢。

よっ　　きょう　ほんぶつ　　い　たてまつ　　うんぬん
仍て今日本佛を入れ奉ると云々。

現代語仁治元年(1240)八月小二十二日癸丑。鶴岡八幡宮の神宮寺が、去る2月に倒れたので、以来修理をしていました。これが出来上がりました。そこで今日本尊を安置しましたとさ。

九月へ

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