吾妻鏡入門第卅八巻

寳治元年丁未(1247)七月小

読下し　　　　　　　　　　　　　ごしょちゅう　ばんちょう　これ　あらた　らる　　　じゃくしゅういちぞくなら　　　　よとう　　すうやから　すで　　そ　　　けつあ　　　　　よっ　　なり
寳治元年(1247)七月小一日壬子。御所中の番帳�@之を改め被る。若州 一族 并びに余黨の數輩、已に其の闕有るに依て也。

むつかもんのすけさねとき　ぶぎょう　　な　　　　あたら　　　くは　　　しゅう　　せいせん　　　せいしょ　　およ　　　　うんぬん
陸奥掃部助實時�A奉行と爲し、新しく加へる衆を�C撰し�B、�C書に及ぶと云々。

参考�@御所中の番帳は、小侍所のメンバー。
参考�A實時は、小侍所別当。
参考�B�C撰しは、公平に選び。

現代語宝治元年(1247)七月小1一日壬子。御所の将軍の身の回りの世話をする小侍所の構成員を変えました。三浦泰村一族とその仲間達数人分は、すでに欠員になってるからです。陸奥掃部助北条実時が担当して、新しく加える人を厳選して、清書しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　つるがおかはちまんぐう　くがつここのか　　しんじしきじつたるべ　　　　いな　　　　こと　　そ　　　　さた　あ
寳治元年(1247)七月小二日癸丑。鶴岡八幡宮の九月九日は神事式日爲可きや否やの事、其の沙汰有り。

ほうじょうえすいこう　いご　　おこなはれ　べ　　のよしちじょう　をはんぬ　せいさえもんのじょう これ　ぶぎょう　　　　うんぬん
放生會遂行以後、行被る可き之由治定し訖。　�C左衛門尉之を奉行すと云々。

現代語宝治元年(1247)七月小二日癸丑。鶴岡八幡宮の9月9日は重陽の節句の神事の式日にするかどうか、その検討がありました。放生会を実施した後に行おうと決めました。清原左衛門尉清定が担当だそうな。

読下し　　　　　　　　　　　　　　よ　　い　　　　　だいなごんほういんりゅうべん つるがおか べっとうぼうに　いじゅう　　　　うんぬん
寳治元年(1247)七月小四日乙夘。夜に入り、 大納言法印隆辨　鶴岡　別當坊于移住すと云々。

とうしき　　ことさいにん　　じ　　　もう　　　いへど　　　 かさ　　　 おお　　くださる　 のあいだ　　かく　  ごと　　　　うんぬん
當職の事再任を辞し申すと雖も、重ねて仰せ下被る之間、此の如しと云々。

現代語宝治元年(1247)七月小四日乙卯。夜になって、大納言法印隆弁が、鶴岡八幡宮の筆頭の宿舎へ引っ越しましたとさ。この職への二度目の任命は遠慮したのですが、何度も進めらえたので、この通りになりましたとさ

読下し　　　　　　　　　　　　　さしんえい　　ひょうじょうしゅうなら　　　ぶぎょうにん　しょうせい　　　はいしゅおうばんら　　けっこうあ
寳治元年(1247)七月小七日戊午。左親衛、 評定衆 并びに奉行人を招請し、盃酒椀飯等の結搆有り。

あまつさ　ひきでもの　　およ　　　　うんぬん
剩へ引出物に及ぶと云々。

現代語宝治元年(1247)七月小七日戊午。左親衛時頼さんは、政務会議メンバーと行事実施担当官を招待して、酒宴ご馳走のふるまいを実施がありました。そればかりかお土産の引き出物付きだそうな

読下し　　　　　　　　　　　　　さがみのくに いちのみや　すぎ すうほんしょうぼう　　　しんか　か　のよしこれ　　もう　　おく
寳治元年(1247)七月小十日辛酉。相摸國　一宮�@の椙 數本燒亡す。神火歟之由之を申し送る。

こと　　おどろ　　　おんさた　あ　　　　うんぬん
殊に驚きの御沙汰有りと云々。

参考�@相摸國一宮は、神奈川県高座郡寒川町27の寒川神社。

現代語宝治元年(1247)七月小十日辛酉。相模国一の宮(寒川神社)の杉の木が数本燃えました。神の火かもと云って来ました。特に驚いて神社への処遇を命じましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　あしかがさまのかみまさよし　このたび　 かっせん　しょう　よっ　　　　かずさごんのすけひでたね　ゆいせき　はいりょう
寳治元年(1247)七月小十四日乙丑。足利左馬頭政義、今度の合戰の賞に依て、 上総權介秀胤の 遺跡を拝領す。

しか　　　　こうし　　　 きとう　　　あいか　　　　 くだん　じょうぶん　もっ　　　　だいじんぐう　　よ　　たてまつ　べ　　のよし　　さしんえい　　うかが　もうさる
而るに公私の祈祷を相兼ね、件の上分�@を以て、太神宮へ寄せ奉る可き之由、左親衛に伺い申被る。

もっと　しか　　べ　　　のむねめんきょ　　　　よっ　　きしんじょう を ほんぐう　　つか　 さる　　　　うんぬん
尤も然る可し之旨免許す。仍て寄進状於本宮へ遣は被ると云々。

参考�@上分は、得分とも云い、年貢取り分。逆に土地を「下地」と云う。

現代語宝治元年(1247)七月小十四日乙丑。足利左馬頭政義は、今回の戦での褒美として、上総権介秀胤の領地を貰いました。しかし、幕府及び一族の繁栄の祈祷料として、年貢取り分を伊勢神宮へ寄付したいと、時頼さまに伺いました。それは道理にかなっていると許可されました。そこで寄付する請願の手紙を本宮へ送りましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　だいなごんほういん　つるがおかべっとうしき　　ぶ　　　　　ののち　　きょう　はじ　　　　はいが　あ
寳治元年(1247)七月小十六日丁夘。大納言法印、 鶴岡別當職に 補する之後、今日始めて拝賀有り。

また　　ぐうじりょう　むさしのくに　やこうごう　ない　べっとうとくぶん　もっ　　　　おんどっきょうりょうしょ　な　　　　　ふだん　だいはんやきょうてんどく　 はじ　 おかれ　　　　うんぬん
又、宮寺領武藏國矢古宇郷�@内、別當得分を以て、御讀經料所と爲し、不断の大般若經轉讀を始め置被ると云々。

参考�@矢古宇郷は、埼玉県草加市松江２丁目の矢古宇橋付近。獨協大学近し。

現代語宝治元年(1247)七月小十六日丁卯。大納言法印隆弁は、鶴岡八幡宮の筆頭職に任命されてから、今日初めてお参りをしました。又、鶴岡八幡宮の領地の武蔵国矢古宇村内の年貢取り分を、お経料として与え、とぎれなくお経を続ける大般若経の摺り読みを始めさせましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　そうしゅう　　ろくはら　よ　　　さんちゃく　　〔さんぬ　みっかしゅっきょう　　〕
寳治元年(1247)七月小十七日戊辰。相州、六波羅自り參着す〔去る三日出京す〕。

こにゅうどうぶしゅうつねとき　 こまちがみ　 きゅうたく　〔ごしょ　　　ほくめん　　　わかみやおおじなり〕　　　もっ　　きょしょ　　な
故入道武州經時が小町上の舊宅〔御所の北面、若宮大路也〕を以て居所と爲す。

これ　 さきのぶしゅうぜんしつ　あとなり　　ぶしゅうつねとき そうでんさる　　のところ　　さんぬ　かんげんにねんじうにがつ しょうぼう　しかれども　もと　　ごと　　しんぞう
是、前武州禪室が 跡也。 武州經時 相傳被る之處、去る 寛元二年十二月 燒亡す。然而、元の如く新造す。

　こ　　だい　　をい　　しま　　　　とられ　　 ののち　　いまに　そ　　 ぬしな　　　　うんぬん
此の第に於て終いを取被る之後、今于其の主無しと云云。

現代語宝治元年(1247)七月小十七日戊辰。相州重時様が、六波羅探題から鎌倉へ到着しました〔先日の3日に京都を出ました〕。故入道武州経時の小町北側の屋敷〔若宮御所の北側で若宮大路に面している執権邸〕を住居としました。これは、前武州禅室泰時さんの旧跡です。それを経時さんが相続したのですが、去る寛元2年(1244)12月燃えてしまいました。それで元の通りに新築しました。この屋敷で終焉を迎えた後、今まで誰も住んでいませんでしたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　　ろくはら　　 せいばい　こと　　さがみさこんたいふしょうげんながとき　　もっ　　にん　 らる　ところなり
寳治元年(1247)七月小十八日己巳。六波羅の成敗の事、相摸左近大夫將監長時�@を以て任じ被る所也。

か　　 だいに しこうすべ　 ひとびと　 をい　　　は　　けんじつおお　 さだ　 られをはんぬ　うんぬん
彼の第于祗候可き人々�Aに於て者、兼日仰せ定め被　訖 と云々。

参考�@長時は、重時の次男。
参考�A彼の第于祗候可き人々は、六波羅探題に勤務する人。

現代語宝治元年(1247)七月小十八日己巳。六波羅探題の運営責任者について、相模左近大夫将監長時を任命しました。六波羅探題に勤務する人については、あらかじめ決めておきましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　ほんぎゃく　やから　えんじゃなら　　　しょじゅうら　　こと　　 とこうのひと　ため　　　　こと を　 そう　　　 よ
寳治元年(1247)七月小十九日庚午。叛逆の輩の縁者并びに所從等の事、甲乙人�@の爲に、事於左右に寄せ、

わずら　　　な　　のじょう　　はなは　しか　べからず　　はや　　そ　　 ぎ　あ　　べからず　 むね　　　げち　　くは　　らる　　べ
煩いを成す之條、甚だ然る不可。早く其の儀有る不可の旨、下知を加へ被る可し。

しょういんせざ　　ひち　　をい　　は　　　ちう　　もうさる　　べ　　　のよし　　きょう　ろくはら　　　おお　　らる　　　　うんぬん
承引不る人に於て者、注し申被る可き之由、今日六波羅へ仰せ被ると云々。

参考�@甲乙人は、うるさい連中。元は「とやかく言う人」からきている。

現代語宝治元年(1247)七月小十九日庚午。反逆者の親類縁者や仕えていた人について、うるさい連中のために、この期に便乗して年貢の横取りをすることは、とんでもない事である。早くそのような事を止めさせるよう命令を出しなさい。云う事を聞かない人については、名前を書きだして知らせなさいと、今日六波羅探題へ命令を出しましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　ごしょ　　　ほか　　ち　　　うつさる　　べ　　　のよし　　 そ　　　 さた　あ
寳治元年(1247)七月小廿四日乙亥。御所を他の地へ移被る可き之由、其の沙汰有り。

きた　　じうがつじよっか　　　どぼく　　いとな　　　　はじ　　　　べ　　のおもむき　　しょごけにん　　もよお　おお　　られ　　ため　　きょう　か　　　ほうしょ　　なされ　ところなり
來る十月十四日、土木の營みを始める可き之 趣、 諸御家人に催し仰せ被ん爲、今日彼の奉書を成被る所也。

ちくぜんぜんじゆきやす　　おおそねさえもんのじょうながやす ら　これ　　ぶぎょう　　な
筑前前司行泰、 大曽祢左衛門尉長泰 等 之を奉行と爲す。

現代語宝治元年(1247)七月小二十四日乙亥。御所を他の土地へ討つべきか、検討されました。来る10月14日造成工事を始めるように、諸御家人に催促をするために、今日その命令書を作った所です。筑前前司二階堂行泰・大曽根左衛門尉長泰がこれを担当します。

読下し　　　　　　　　　　　　　　　さしんえい　　　おんてい　　をい　　おいの　　　　しぎょうさる　　　　うんぬん
寳治元年(1247)七月小廿六日丁丑。左親衛の御亭に於て、御祈りを始行被ると云々。

現代語宝治元年(1247)七月小二十六日丁丑。時頼さんの屋敷で、祈祷を始めましたとさ。

読下し　　　　　　　　　　　　　　そうしゅうしげとき　　しょうぐんけべっとうれんしょ　な　　　　あいだのじょうすけよしかげおお　　を　か　　こくし　　　つた
寳治元年(1247)七月小廿七日戊寅。相州重時、將軍家別當連署と爲す。 秋田城介義景 仰せ於彼の國司に傳う。

すなは　りょうじょう　もうさる　　　うんぬん
即ち領状を申被ると云々。

現代語宝治元年(1247)七月小二十七日戊寅。相州重時が、将軍家頼嗣様の命令書に署名する筆頭連署となりました。秋田城介安達義景は、この命令を重時さんに伝えました。すぐに承知を申しましたとさ。

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